次世代シーケンサ(NGS)はがんの背景にあるドライバーの同定に役立つなど、がんの臨床研究においてますます強力なツールとなってきています。フィールドにおける病気の理解がいかに進んだかという点とクリニックへのNGSの導入という話題が、ボストンで開催されたサーモフィッシャーサイエンティフィック主催のsecond annual Global Strategic Partner Summitでのパネルディスカッションとエキスパートによるプレゼンテーションで取り上げられました。
検体のプロファイリングへのNGSベースアッセイの活用がサミットの主要なテーマでした。Philip Jermann博士(director, contract R&D and strategic partnerships at University Hospital Basel)は、サーモフィッシャーのOncomineソリューションが彼のラボでどのようにして組織・細胞診や血液サンプルなどのさまざまなサンプルの評価に使用されているかを紹介しました。利用可能な組織量が限られている場合でも、95%以上の検体が解析可能であり、ターンアラウンドライムは6就業日以内であるとのことです。
Jermann博士は彼のチームがJournal of Pathologyに発表した論文にも言及しました。この論文では、非小細胞肺がんにおける免疫チェックポイント阻害剤の効果を、NGSを用いたtumor mutational burden (TMB)の測定により予測可能かどうかを評価しています。この研究で最も薬剤に対して良好な応答を示すのは、PD-L1陽性でかつtumor mutation loadの高いサンプルでした。このことから、複数のバイオマーカーを組み合わせることでより正確な予測が可能になり、治療方針決定の助けとなりうることが示唆されました。
Bekim Sadikovic博士(division head, Molecular Diagnostics, Pathology and Laboratory Medicine at London Health Sciences Center)は、悪性血液疾患の疑いのある患者に対する網羅的な“genotype-first”のアプローチの一部として、どのようにNGSを取り入れているかを紹介しました。この技術により、遺伝子の変異、欠失、融合といった、治療方針の決定に役立つ多くの遺伝的異常をとらえることができると博士は言います。彼のラボではおよそ2,000サンプルをこの技術で評価し、46%で変異ありという結果を取得、半分の患者検体で複数遺伝子の変異が確認されました。旧来のスクリーニング方法ではこれらを見分けることが難しい点にも言及しています。
これらのデータはともに、精密腫瘍学におけるNGSの有用性を強調するものであり、特に時間がかかり、治療の遅れを招いたり、得られる情報が少ない既存のテストにとって代わるかもしれないと、Sadikovic博士は述べました。
リキッドバイオプシー
リキッドバイオプシーとは血液や他の体液の生化学的な特徴を検査することです。組織の生検に代わりうる新たな選択肢として研究と医学の両分野で注目されています。Liya Xu博士(University of Southern California Michelson Center for Convergent Biosciences)は、高解像度シングルセル解析プラットフォームに関する研究を紹介してくれました。リキッドバイオプシーから得たcell-free DNA(cfDNA)を解析するために、Oncomine アッセイが使用されていました。チームはあるがん患者の病気を、治療に対するレスポンスやがんの進化を含め、可能な限り網羅的に再現するところから始めました。この目的を達成するために、ER陽性HER2陰性の転移性乳がん患者からのサンプルを解析しました。サンプルは11の治療ラインを含む、治療の全工程から複数点採取し解析しています。
注目すべき点は、Xu博士たちは治療が奏効しないことを予測できたかもしれない、いくつかの変異を同定できたことです。また、複数の治療ラインを通して、持続するがんの進化のイベントも検出しています。このリキッドバイオプシーベースのアプローチは、これらの方法ががんの早期発見だけではなく、治療に対する耐性変異の出現も含む、がんの進化をリアルタイムにトラッキングしうることを示してくれました。
Kelli Bramlett博士(director of research and development, Thermo Fisher Scientific)もまたリキッドバイオプシーベースのテストに関する研究をハイライトしました。この重要な分野をけん引しているグループの一つはBloodPAC Consortiumです。公共機関や産業界、大学、規制当局など35以上の関係者からなるグループで、がんの転帰を改善するために、リキッドバイオプシーアッセイの開発と検証をミッションとしています。このコンソーシアムは証拠の産生と関係者のエンゲージメントに深くフォーカスしていて、データの保存やシェア方法の標準化や、技術応用、サンプル収集方法などに関するニーズに取り組んでいるワーキンググループもあります。
T細胞応答のトラッキング
サミットではまた、がん免疫分野に関するディスカッションも行われました。増加しているがん免疫療法の治験、特に免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測するバイオマーカーとしてのTMBの利用や、TMBを超えるバイオマーカーのニーズなどが議論に含まれていました。
Luca Quagliata博士(global head of medical affairs, Thermo Fisher Scientific)は、がん細胞と免疫システムとの関係性はとても複雑で、がん細胞、T細胞、抗原提示細胞が主要な3プレイヤーだと言います。このため、自身を含めて研究者はがん微小環境内でのT細胞レパトアをNGSで解析している、とPatrick Hurban,博士(senior director and global head of translational genomics, Q2 Solutions)は続けました。
このようなアッセイの中に、T細胞受容体(T-Cell receptors: TCR)にフォーカスしたIon Torrent™ Oncomine™ TCR assaysが含まれています。このアッセイはTCR beta鎖の多様性と、それらの相対的な存在量比を調べることができます。
Hurban博士らは、T細胞に由来する培養細胞や、健康なドナーの全血および末梢血単核細胞(PBMCs)、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルなど、さまざまなサンプルタイプを用いてこのアッセイをテストしてきました。他社製品と比較して、少量のサンプルから多くのデータを得ることができ、ワークフローやサイクルタイムという観点からも優れているともコメントしていました。
今回のサミットの参加者は70名ほどで、アメリカ、ラテンアメリカ、ヨーロッパや中国、アジアなど世界中から、開発業務受託機関やリファレンスラボ、製薬会社や患者支援団体などさまざまな組織に属する方々にご参加いただきました。全体として、ご参加いただいた皆様にはNGSによるがん研究や患者のケアの将来像に対して、大きな期待を持っていただけたようです。
Patrice Hugo博士(chief scientific officer ,Q2 Solutions)は以下のようにコメントしています。
数年前まではごく一部の人しか免疫チェックポイント阻害剤を使うことができませんでしたが、今や40パーセントまで増えており、奏効率も2倍になっています。
“5年後には、今全く予想できないような領域にたどりついているでしょう”
The Global Strategic Partnership Summitではかつてテレビの総合司会やレポーターとして活躍し、肺がん患者として網羅的ゲノム検査を受けたことがあるGreta Kreuz氏にもご講演いただいています。
次世代シーケンサ(NGS)入門
次世代シーケンスの原理や何ができるかがよくわからない、または自分の研究領域にどのように活用できるかわからないという方向けに、次世代シーケンスの基本や各研究領域に特化したアプリケーションをまとめました。リンク先から、それぞれの領域に応じたページをご覧いただけます。
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