10月5日に、2022年のノーベル化学賞が発表されました。受賞したのはK. Barry Sharpless、Morten Meldal、Carolyn R. Bertozziの3氏で、受賞理由は”for the development of click chemistry and bioorthogonal chemistry”です。当社は、受賞理由となったclick chemistryを原理とするInvitrogen™ Click-iT™製品群を展開しており、多くの細胞解析用アッセイキットを取りそろえています。代表的なアプリケーションは、DNA合成期の細胞が取り込んだEdU(5-ethynyl-2’-deoxyuridine)を検出することによって細胞増殖を解析する製品群です。その他にも、アポトーシス、RNA合成、タンパク質合成、脂質の過酸化を検出するキットもあります。本記事ではClick-iTシリーズの細胞解析アプリケーションと、click chemistryの概要をご案内します。また続編のその2では、EdU関連製品の知名度に押されがちなものの、ユニークで有用なClick-iT細胞解析アプリケーションをご紹介します。
▼こんな方におすすめです!
・細胞解析・組織解析を行っている方
・Click-iT製品に興味のある方
細胞・組織解析用のClick-iTアプリケーション
細胞や組織の解析に用いられるClick-iTアプリケーションは、以下の4種類に大別できます。
・固定細胞・組織の顕微鏡イメージング用
・フローサイトメトリー(FCM)用
・ライブセルイメージング(LCI)用
・ハイコンテントスクリーニング(HCS)用
これらのアプリケーションがどれだけ使用されているのかの指標として、Google Scholarで”Click-iT”と”製品番号”を検索ワードとして論文のヒット数を調査しました(2022年10月時点)。各論文の本文までは精査していないため、あくまで使用論文数の目安としてご理解いただけばと思います。その結果をFigure 1のグラフにまとめました。
検索対象となった製品の全ヒット数5012件中、3676件(約73%)が顕微鏡イメージング関連の製品でした。続いて、919件がFCM用、58件がLCI用、359件がHCS用でした。
顕微鏡イメージング用のキットには、以下の5種類のアプリケーションがあります。
・DNA合成(EdU)
・アポトーシス(TUNEL)
・RNA合成(EU)
・タンパク質合成(HPG・OPP)
・脂質過酸化
イメージングキットのヒット数3676件の中で、アプリケーションごとの内訳をカウントしてFigure 2のグラフにまとめました。その結果、2966件(約81%)がDNA合成(EdU)のイメージングキットでした。続いて、TUNELが187件、RNA合成が223件、タンパク質合成が278件、脂質過酸化が22件でした。これらの結果から、細胞解析用のClick-iTアプリケーションが使われた論文5012件中2966件(約59%)がEdUのImaging Kitを用いた研究成果であることがわかりました。なお、EdUのキットはイメージングだけでなくFCM用やHCS用もあります。これらのEdUキットも合わせると、全5012件中4011件(約80%)がEdU関連のアプリケーションです。EdUアプリケーションがClick-iT製品の代名詞となっているのもうなずけます。
EdU関連製品がもっとも使用されているClick-iT製品となった要因はいくつか挙げられます。まず、生命現象の中でもっとも基本的な現象の一つである細胞増殖を解析対象としている点。また、プロトコルが確立されていたBrdU(5-bromo-2′-deoxyuridine)を用いた細胞増殖の解析方法の直接的な代替法として適用できた点(Figure 3)。そして、BrdU法よりも操作が簡便で作業時間が短く、検出感度も高いことから、ほぼ完全な上位互換アプリケーションとしてユーザーに受け入れられた点などが考えられます。EdUのイメージングキットは、免疫染色法などと組み合わせた蛍光マルチプレックス解析が可能です。さらに、培養細胞だけでなく実験動物による個体・臓器レベルの実験にも適用できることから、応用範囲が非常に広いアプリケーションです。
click chemistryとは
click chemistryは、2001年に米国スクリプス研究所のK. Barry Sharplessらによって提案された化学反応の概念です(参考文献1)。ベルトのバックルを”click”してつなぎ合わせるように、二つの分子を結合させるような合成化学を示しています。Sharplessらによれば、その反応は以下の特徴を有しています(参考文献2)。
・実験操作が非常に簡便
・目的生成物のみを高収率に与える(副生成物は生じない・またはごく少量)
・水中を含むどのような条件下でも効率よく進行する
・どのようなタイプの分子でも互いに結合させることができる
その後まもなく、SharplessらとMeldalらは、それぞれ独立にclick chemistryに当てはまる化学反応(the copper catalyzed azide-alkyne cycloaddition; CuAAC)を発見しました。azideとalkyneは化学的に極めて安定な物質であるとともに、ほぼ無極性のため水素結合を形成しにくいとされています。これらの性質から、azideやalkyneは生体分子の構造特性にほぼ影響を及ぼさないため、生命科学実験との相性が良いのです。
[参考文献1]
Kolb et al. (2001) “Click Chemistry: Diverse Chemical Function from a Few Good Reactions.” Angew. Chem., Int. Ed. 40(11), 2004-2021 (PMID: 11433435)
[参考文献2]
Finn et al. (訳:北山), (2007) “クリックケミストリーの概念と応用 提唱者の立場から” 化学と工業 60, 976-980
当社のClick-iT製品はこのazide(アジド基を付加したAlexa Fluor™蛍光色素)とalkyne(EdUなど)の付加環化反応を応用しています(Figure 4)。
なお、合成有機化学の分野では、付加開環反応以外にも、環状化合物を対象とする求核付加-開環反応やカルボニル化合物の穏やかな縮合反応に分類される多くのclick chemistryが発見されています。その中にあって、azideとalkyneの反応はclick chemistryの最高傑作であると評価されています。
まとめ
・当社は、ノーベル化学賞を受賞したclick chemistryを原理とするClick-iTアプリケーションを展開しています。
・DNA合成、アポトーシス、RNA合成、タンパク質合成、脂質過酸化など、多くの生命現象を検出できる細胞解析アプリケーションを提供しています。
<Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション>
EdUだけじゃない!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その1)
こんなこともできる!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その2)
遺伝子発現を見える化する!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その3)
タンパク質合成をとらえる!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その4)
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