当記事の前編(その1)でご案内したように、当社はclick chemistryの原理を応用した細胞解析アプリケーションを提供しています。その代表例がEdUを用いた細胞増殖解析アプリケーションです。Invitrogen™ Click-iT™細胞解析製品が使用された論文の8割が、EdU関連のアプリケーションによる研究成果であることをその1で確認しました。当記事では、EdU以外のClick-iTアプリケーションも知っていただくべく、以下の製品を扱います。全ヒット論文数5012件中58件のライブイメージング用の製品、同22件の脂質過酸化を検出する製品、最後に従来のClick-iTシリーズがもつ、いくつかの弱点を克服したClick-iT Plusシリーズをご紹介します。
▼こんな方におすすめです!
・細胞解析・組織解析を行っている方
・Click-iT製品に興味のある方
▼もくじ
ライブイメージング用のClick-iTアプリケーション
EdUなどのClick-iT細胞解析アプリケーションをご使用の方の中には、ライブイメージング用のアプリケーションと聞いて首をかしげる方もいらっしゃるかもしれません。それもそのはずで、通常のClick-iT製品のプロトコルは細胞の固定・透過処理が必須のため、ライブイメージングは不可能です。その原因は、azideとalkyneの反応の触媒としての高濃度の銅イオンに細胞毒性があることと、検出反応に必要な化合物が生細胞の細胞膜を通過できないことにあります。
2022年のノーベル化学賞を受賞したCarolyn R. Bertozziらのグループは、上記の問題点を回避する手法を開発し、生細胞にclick chemistryを適用できることを2007年に報告しました。Bertozziらは、click chemistryのalkyneとしてDifluorinated Cyclooctyne(DIFO)を採用することで銅イオンフリーの反応を実現しました。さらに、azide化したマンノース(peracetylated N-azidoacetylmannosamine; Ac4ManNAz)を細胞に与えて、細胞膜表面の糖鎖に組み込ませました。そして、糖鎖のazideと蛍光標識したDIFOのclick chemistryにより、生細胞膜表面の糖鎖をライブで検出できることを示しました。論文によると、Ac4ManNAzを3日間取り込ませたCHO細胞の膜表面の糖鎖を、Alexa fluor 488標識DIFOの添加から1分後に検出できています。詳細は参考文献1をご確認ください。
[参考文献1]
Baskin et al. (2007) “Copper-free click chemistry for dynamic in vivo imaging.” Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 104(43), 16793-7 (PMID: 17942682)
当社は上述の手法をもとに開発されたライブイメージング用のClick-iT製品を提供しています。糖鎖に組み込ませるazide製品は、下の3種類の糖に対応しています。
■Invitrogen™ Click-IT™ GalNAz Metabolic Glycoprotein Labeling Reagent(製品番号C33365)
■Invitrogen™ Click-IT™ ManNAz Metabolic Glycoprotein Labeling Reagent(製品番号C33366)
■Invitrogen™ Click-IT™ GlcNAz Metabolic Glycoprotein Labeling Reagent(製品番号C33367)
また、銅イオンフリー用のalkyneも各種の標識をされた製品があります。
■Invitrogen™ Click-iT™ sDIBO Alkynes for copper-free click chemistry(製品ページ)
なお、当社は銅イオンフリー用のalkyneとしてsDIBOを採用しています。sDIBOはDIBO(dibenzocyclooctyne、Figure 1)の改変体で、DIBOと比較して水溶性が向上し、非特異的結合のしやすさが低減されています。Click-iTのライブイメージング用のアプリケーションは、細胞表面の糖鎖や糖タンパク質を解析されている研究者の方に、一度ご検討いただきたい製品群です。
脂質過酸化検出用のClick-iTアプリケーション
Invitrogen™ Click-iT™ Lipid Peroxidation Detection with Linoleamide Alkyne (LAA)(製品番号C10446)は、固定細胞において、脂質の過酸化によるタンパク質修飾をAlexa Fluor™ 488で検出するキットです。細胞内の酸化ストレスにより脂質が過酸化されると、反応性の高いカルボニル化合物(アルデヒド類やケトン類など)を生成してタンパク質に結合します。リノール酸(Linoleic acid)は、この現象に関与する主要な多価不飽和脂肪酸であることが知られています。alkyne化したLinoleic acid(LAA)を細胞に取り込ませて、azide化したAlexa Fluor 488で検出するのがこのキットです(Figure 2)。
補足:Click-iT以外の脂質過酸化検出用のアプリケーション
Click-iT製品ではありませんが、脂質の過酸化を検出するキットとして、Invitrogen™ Image-iT™ Lipid Peroxidation Kit, for live cell analysis(製品番号C10445)も販売しています。この製品は、脂質過酸化センサー蛍光試薬であるBODIPY 581/591 C11を用います。この試薬は、過酸化前の最大蛍光波長は590 nm(赤)ですが、過酸化すると510 nm(緑)に変化します。生細胞に取り込ませ蛍光を観察することにより、細胞内脂質の過酸化を追跡することができます。一方、固定細胞には適用できないため、例えば抗体による蛍光染色と組み合わせたい場合には、上述のClick-iT製品をお選びください。
このように、実験デザインに応じてアプリケーションの選択が可能です。
Click-iT Plusシリーズ
最後に、Click-iT Plusシリーズをご紹介します。現在Plusシリーズは、イメージング用のキットとFCM用のキットにラインアップされています。2018年以降の論文を調査すると、同梱されている蛍光色素の種類によってばらつきがありますが、おおむね15~30%の論文でPlusシリーズが採用されています(論文調査については「その1」を参照)。
OriginalのClick-iTアプリケーションは、検出反応の触媒の高濃度銅イオンが原因の弱点があります。代表的な事例を以下に記載します。
(1) GFP、RFP、mCherryなどの蛍光タンパク質を消光する
(2) R-phycoerythrin (R-PE)やR-PEタンデム色素のAlexa Fluor 680を消光する
(3) Phalloidinの結合を阻害する
Originalのキットを使用する場合は、GFPの検出やPhalloidin染色は抗体染色(抗GFP抗体や、抗tubulin抗体を使用)に置き換え、R-PE系色素は避ける必要がありました。Click-iT Plusシリーズは、検出反応系を改良することによって、(1)と(2)の弱点を克服した製品です。検出反応以外のプロトコルは従来製品と同一のため、Originalのキットからスムーズに置き換えいただくことが可能です。蛍光タンパク質の抗体染色がわずらわしいと考えている方や、蛍光色素の選択にお困りの方の解決策となるかもしれません。
まとめ
・細胞膜表面の糖鎖を検出してライブイメージングできるClick-iTアプリケーションがあります。
・細胞内の脂質の過酸化を検出するClick-iTアプリケーションがあります。
・Click-iT Plusシリーズは、従来製品の弱点を改良したアプリケーションです。
<Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション>
EdUだけじゃない!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その1)
こんなこともできる!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その2)
遺伝子発現を見える化する!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その3)
タンパク質合成をとらえる!Click-iTシリーズの細胞解析アプリケーション(その4)
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