染色体異常は多くのがんにおいて発生し、遺伝的活動に大きな変化をもたらします。これらの異常にはいくつかの種類があり、それぞれをどのように検出するかが課題となっています。染色体異常は従来の遺伝学的手法では正確に特定できないことも多く、染色体異常を適切に理解するには使用しているツールの継続的な改良が必要です。
染色体異常の中で注目を集めている現象がクロモスリプシスであり、サーモフィッシャーサイエンティフィックのアプリケーションはこの課題に対応しています。
ギリシャ語で「粉々になる」という意味のthripsisに由来するクロモスリプシスは、単一のイベントによって染色体が多数の断片に破砕されるプロセスを指します。その後、修復メカニズムが染色体の再構築を試みますが、損傷の程度が大きく、何百もの異なる突然変異が「修復された」染色体に一度に組み込まれることになります。これらの突然変異は、重複、欠失、逆位などあらゆる現象に及び、コピー数多型(CNV)やその他の変化が混在しているため、ゲノム解析が特に困難となります。PJ Stephensと彼のチームは2011年に初めてクロモスリプシスを発見しました1。その明らかな特徴は、すべてのがんで最大3%、骨腫瘍では最大25%に見られると報告しています。PJ Stephensによる発見以来、クロモスリプシスについて何千もの科学出版物によって文書化、定義され、そしてがん研究におけるこの新しいフロンティアの研究が進められてきました2。クロモスリプシスは神経芽腫3、髄芽腫4,5、 多発性骨髄腫6、肺癌、腎臓癌および甲状腺癌7などで発見されており、この現象が特定のがんのみで発生するのではなく、広く発生することが示唆されています。
クロモスリプシスを見つけることがその現象を理解することと同義ではなく、修復メカニズムが失敗した結果のすべてががん化に関連するわけではありません。多くのがんは悪性化に寄与しない「パッセンジャー」変異を蓄積していますが、それらの変異はがんの検出や特徴づけに役立ちます。正常な細胞に悪性化を誘発する可能性があるクロモスリプシス現象は、腫瘍内でのその他の修復メカニズムの失敗による発生、染色体の復元がより困難になる につれて発生、あるいはその両方によることもあり、腫瘍によってクロモスリプシス発生のメカニズムが異なる 可能性があります。また、がん細胞の成長を不安定にし、アポトーシスの機能を損傷させるためのツールである可能性さえあります。クロモスリプシスがいつ、どのようにしてがんを誘発するのか、がんと結びつくのか、あるいはがんと闘うかは、最新のツールを用いて現在も研究が続けられています。
従来用いられてきた核型分析は、このような複雑な現象の一部を検出することはできても、その現象を完全に検出するための解像度を備えていません。
クロモスリプシスは、染色体の付加、欠失、逆位、一塩基多型(SNP)およびCNVを組み合わせたもので、さまざまなアプリケーションによって検出することができます。次世代シーケンス(NGS)は、高解像度で完全なゲノムリードを生成できますが、費用が掛かるため、予算によっては実施が困難な場合があります。蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)は、染色体構造異常や染色体数異常等を認識するのに役立ちますが、クロモスリプシスを研究するには、FISHでは複数のプローブを組み合わせて確認する必要があり、蛍光顕微鏡での観察や結果の解釈の複雑さが劇的に増加します。マイクロアレイによる染色体の解析は、NGSと比較するとカバレッジは制限されますが、NGSによる全ゲノムの広範な解析性能とその高額なコストの間の妥協点を提供するために理想的です。
サーモフィッシャーが提供する全ゲノムマイクロアレイは、SNPとCNVを認識するマーカーによる高解像度の解析性能を有し、クロモスリプシス現象の全体像を把握できます。AppliedBiosystems™ OncoScan™ CNV Assayおよび AppliedBiosystems™ OncoScan™ CNV Plus Assayは、クロモスリプシス、染色体切断点の決定、倍数性、ゲノムのモザイク現象および固形腫瘍におけるコピー数の増減を効率的に検出できるマイクロアレイです。また、造血器腫瘍においてはAppliedBiosystems™ CytoScan™ HD Suiteが同等の解析性能を提供します。
まとめ
OncoScan CNV AssayおよびOncoScan CNV Plus Assay、CytoScan HD Suiteの詳細についてはマイクロアレイを用いた細胞遺伝学/コピー数解析のページをご参照ください。
<参考文献>
1.Stephens, PJ., et al. (2011) “Massive genomic rearrangement acquired in a single catastrophic event during cancer development,” Cell, 144, pp. 27–40.
2.Rode, A., et al. (2016) “Chromothripsis in cancer cells: An update,” Int J Cancer, 138, pp. 2322–2333.
3.Molenaar, J.J., et al. (2012) “Sequencing of neuroblastoma identifies chromothripsis and defects in neuritogenesis genes,” Nature, 483, pp. 589–593.
4.Northcott, P.A., et al. (2012) “The clinical implications of medulloblastoma subgroups,” Nat Rev Neurol, 8, pp. 340–351.
5.Rausch, T., et al. (2012) “Genome sequencing of pediatric medulloblastoma links catastrophic DNA rearrangements with TP53 mutations,” Cell, 148, pp. 59–71.
6.Magrangeas, F., et al. (2011) “Chromothripsis identifies a rare and aggressive entity among newly diagnosed multiple myeloma patients,” Blood, 118, pp. 675–678.
7.Forment, J.V., et al. (2012) “Chromothripsis and cancer: Causes and consequences of chromosome shattering,” Nat Rev Cancer, 12, pp. 663–670.
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