GC (ガスクロマトグラフィー)とは?
GCはガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography)の略です。日本ではガスクロとも呼ばれ、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)と並びもっともポピュラーな定性・定量分析手法のひとつとして広く知られています。GCはHPLCよりも早く世界に普及した分析手法で、開発当初の1950年代には石油産業を中心に多用されていました。現在では食品や環境、化学、製薬、法医学などGCの活躍の場は非常に幅広く、HPLCとともに今日の科学者を支える重要な技術としてその地位を確立しています。
GCは主に気体、液体の試料の測定に適しており、多成分を迅速かつ同時に定性・定量が可能で、また分析値の再現性にも優れていることが特長です。液体試料の場合は試料量が1 μL程度でも分析できることから、希少な試料の分析にも対応できます。GCもHPLCと同じく、分析者の目的に応じてその装置の構成やパラメーターを選定することで、幅広い試料適用性と高い分析精度が得られます。検出器についてはHPLCで用いられているものと原理や分析種に対する感度や検出の選択性が異なるものが多いため、分析の目的や対象試料の性状に応じてGCとHPLCのどちらで分析を行うかを決定する必要があります。
今回はGCに関する基礎をご説明いたします。クロマトグラフィーについての簡単な説明は「初心者必見!知っておきたいHPLCの基礎」で触れていますので、参考にしてください。
▼こんな方におすすめです!
・GC初心者で、基本から学びたい方。
・GCをこれから初めて使う方
・GCの基本事項をおさらいしたい方
GCの特長
GCはHPLCと同じく汎用性の高い分析手法として様々な科学分野で多用されていますが、GCとHPLCの使い分けにおいて重要となるのが、分析種(測定対象成分)の「沸点」や「分子量」です。GCはその原理上、分析種および試料溶媒が安定して気化しなければなりません。そのため、タンパク質のように分子量が大きい化合物や、食塩のように分子量が小さくても高沸点の化合物については気化が困難なため、GCへの適用は一般的に不向きとされます。他方、炭素数の低い炭化水素、例えばヘキサンのような分析種の場合、HPLCを用いる分析では検出感度が問題となるため、GCを活用することが多いです。
GCの一般的なポテンシャルとして、下記のような特徴があります。
・1回の分析で複数の分析種(溶質やガス成分)を同時に定性・定量が可能
・分析の感度は装置の構成や分析条件の設定により、%からpptオーダーまで幅が広い
・対象となる分析種は低分子(目安として分子量1000以下、沸点500℃以下)で、かつ熱安定性の高いもの
・HPLCでは分離、定性、定量が困難な分析種(無機ガスなど)やガス試料について、定性・定量が可能な事例も多い
・分析種の分離・分析の可否は「試料注入口の条件」、「GC固定相(カラム)の種類」、「カラム温度のプログラム」により決定する(実際の試料測定では試料中に分析種以外の夾雑成分が存在するケースが多く、分析者はその試料の測定に最適な分析条件の検討が必要となる。この検討のなかで、試料注入口条件やカラムの種類などの諸条件の“組み合わせ”は分析の可否を大きく左右する。)
・キャピラリーカラムを使用することにより、非常に優れた分離能・感度を得られやすくなる
・分析結果は再現性に優れるが、試料注入にオートサンプラーなどを使用することでより高い再現性を確保でき、さらに生産性を向上させることが可能
・検出器に質量分析計を用いることで、未知試料中の化学種をより精密に同定することが可能
GCで測定できる成分
GCでは上述の通り、試料が気化する必要があるため対象となる分析種も同じく揮発性成分が基本となります。また、低分子であってもイオン性の成分であれば、HPLCの一種であるイオンクロマトグラフィー(IC)が多用されます。
分野ごとの一般的な対象化合物群の一例を下記に示します。
<製薬・医薬・メタボロミクス>
低分子医薬品、原薬、中間体、医薬品中残留溶媒、糖鎖、アミノ酸、薬物代謝物、バイオマーカー、シアル酸、オリゴ糖、脂質、脂肪酸、脂肪酸メチルエステル(FAME)、エラストマー
<食品・飲料>
糖類、ビタミン、抗生物質、かび臭(2,4,6-トリクロロアニソール、ジェオスミンなど)、香料、香気成分、異臭、残留農薬、フタル酸エステル、動物用医薬品、残留農薬、POPs、カビ毒(マイコトキシン)、食品添加物(着色料、染料、人工甘味料、保存料など)、香辛料、脂肪酸、非意図的添加物、食品包装
<環境>
ゴルフ場農薬、除草剤、POPs、無機イオン、無機酸、有機酸、医薬品およびパーソナルケア製品(PPCP)、有機フッ素化合物(PFCs)、植物代謝物、天然物、高揮発性有機化合物(VVOCs)、揮発性化合物(VOCs)、半揮発性化合物(SVOCs)、残留性有機汚染物質(POPs)、フラン、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)、ダイオキシン、有機リン系農薬、有機塩素系農薬
<法医・毒物>
薬物、デザイナードラッグ、ドーピング関連(禁止物質、禁止薬物、ステロイドなど)、代謝物、カンナビノイド、アンフェタミン
<化学、工業、石油化学>
モノマー、ポリマー、添加剤、不純物、溶剤、BTEX、精油、シリコン、化粧品、化成品、原料、反応中間体、反応生成物、合成物、副生成物、可塑剤、インク、エンジンオイル、石油、ナフサ、天然ガス、工業用水、冷却水、洗浄水、炭化水素、多環芳香族炭化水素(PAHs)、バイオディーゼル
それぞれのアプリケーションデータは下記のAppsLab Libraryを参照してください。
GCの構成
GCはその流路の上流から、下記の五つのセクションにより構成されます。
<①キャリアーガス流量制御部とは>
移動相の役割となる「キャリアーガス」の導入量を制御する部分です。分析の再現性を確保するため、このキャリアーガスは後述のカラム(固定相)と呼ばれる分離部に「流量」もしくは「圧力」が一定となるように導入されます。キャリアーガスのガス源はガスボンベが通例です。
<②試料導入部(インジェクター・注入口)とは>
試料(分析種)をカラムに導入するための部分です。ここはキャリアーガスの流路の中に存在しており、上述の制御部と後述のGCカラムの間に位置しています。
GCにおいて、分析種が分離されるためには必ず気体の状態となっていなければなりません。そのため、現在主流となっているGCの装置には液体試料などを精度よく気化させるための「試料気化室」が存在しています。この気化室は気化効率を高めるために高温となっており、さらに試料が接触する気化室内のガラス製、金属製部分も試料の吸着・分解を防ぐために不活性処理が施されています。
試料の注入方法やカラムへの導入方法、さらに連続分析時の再現性を向上させるバックフラッシュなどについては別の記事で掲載いたします。
<③分離部(カラム)とは>
試料導入部で注入された試料を分離する部分です。GC(ガスクロマトグラフィー)カラムの種類は「パックドカラム(充填カラム)」と「キャピラリーカラム」の2つに大別されますが、現在では高い分離能や分析の迅速性からキャピラリーカラムが主流となっています。キャピラリーカラムは固定相の役割を担う「液相」の種類やその膜厚、またカラムの長さや内径などにより膨大な種類が存在しており、分析者の目的に応じて選定を行います。
カラムは通常、カラムオーブンと呼ばれる筐体に収納されています。GCでは分析中にオーブンの温度を経時的に変化させるための「昇温プログラム」を設定することが通例です。カラムの温度を段階的に上昇させることにより、低~高沸点の幅広い分析種を短時間で同時に分離・分析することが可能となります。
<④検出器とは>
カラムで分離されたのちの分析種を検出します。検出器は得られたシグナルをPCなどのデータ処理部へ電気信号として送信します。検出器にはいくつかの種類が存在しますが、検出の原理や応答性が異なるため分析種に応じて選定する必要があります。一般的な検出器にはFID、TCD、NPD、FPDがあり、特にFIDは汎用性が高いため最も普及しています。また、分析種の質量に基づいて分離、定性、定量が可能な質量分析計(mass spectrometry : :MS)も多用されており、その内部機構によってシングル四重極、トリプル四重極、二重収束型、アナライザー などに分類されます。
<⑤データ処理部とは>
PCとデータ解析用のソフトウェアを利用し、検出器から受信したシグナルを解析・出力する部分です。分析者はGCにより得られた分離の結果を「クロマトグラム」やスペクトルとして確認できます。
GCの定性・定量
GCでは、得られたクロマトグラム中に現れたピークの溶出時間とその面積値により、分析種の定性と定量を行います。
・定性:「分析種のピークの溶出時間」
・定量:「分析種のピークの大きさ(面積値、積分値)」
ここでは、分析種固有の性質を利用して分離を達成します。したがって、GCの分析条件(試料導入部、カラム、昇温プログラム、装置条件、試料など)が一定であれば、クロマトグラムには特定の分析種が常に同じ溶出時間にピークとして現れます。これを利用し、未知試料中の分析種の定性が可能になりますが、試料によっては目的の分析種と類似の化学的特性を有する化学種が混在していることもあり、クロマトグラム上で十分な分離が得られないこともしばしばあります。そのような場合は定性・定量が困難になりますので、適宜GCの分析条件を変更、あるいは質量分析計などの選択性が高い検出器を使用するなどの最適化が必要になります。
GCのカラム分離と検出までのイメージをつかむため、アニメーションをご紹介します。
GCの測定濃度範囲
GCにおける測定濃度の範囲は検出器に大きく依存します。検出器はその測定原理により、分析種に対する応答の特異性やダイナミックレンジが異なります。試料の性状や分析種の存在量、狙いとする検出範囲に応じて選定が必要となります。また、検出器での応答性を増大させるために、試料注入前に分析種の誘導体化や濃縮・希釈、夾雑成分の除去などを行う「試料前処理」とよばれる操作も一般的によく用いられます。
測定可能な濃度範囲はカラムによっても決定されます。キャピラリーカラムの内径や長さ、液相の膜厚などにより分離挙動は大きく変化します。目的の分析結果を得るためにはカラムも十分に検討し選択をしましょう。
GCで測定できる試料
GCでは、揮発性があり、熱に安定な分析種が測定に適しています。上述の通り、GCでは試料を気化させる必要がありますので、分子量1000以下、沸点500℃以下の物性を有する化合物を目安としてください。また、GCを構成する試料注入口やカラム、検出器などは高温に設定されているため、分析種がこれらの熱により分解、重合してしまう場合には定性・定量が困難となります。GCでの分析の前には分析種の沸点や分子量だけでなく、熱に対する安定性についても確認したほうが良いでしょう。
GCで分析する試料の状態は気体と液体の二つが一般的で、固体試料の場合には抽出や溶解、分解などの試料前処理操作で試料の溶液化を行う必要があります。ここで用いる溶媒は揮発性が高く、試料の溶解力にも優れたアセトンなどが好適です。気体試料の場合、捕集した一定量のガスサンプルをGCに注入して分析を行いるため、試料注入には気密性に優れたガスタイトシリンジを用います。昨今では液体や固体の試料を容器に入れて密閉・加温し、そこから発生したガスを採取する「ヘッドスペース法」も多用されています。
GCを用いて高極性・難揮発性の分析種を測定したいときには、試料の誘導体化を実施することを推奨します。誘導体化とは、分析種の分子構造を変化させる化学修飾反応を指します。GC分析における誘導体化の多くが気化効率の改善を目的としていますが、古典的な誘導体化手法ではハンドリングが複雑で、誘導体化効率も問題となることあります。ビギナーの方々にはThermo Scientific™ GC 試薬がお薦めです。この試薬はラインナップが豊富なため、様々な分析種に対し試薬が最適化されています。また、試薬ごとに操作のプロトコールが詳細に記載されておりますので、ハンドリングも容易に行えます。GC分析の前には誘導体化も視野に入れて検討していくことが重要です。
GCの測定時間
分析時間については一般的に数分~1時間程度が通例ですが、分析者の目的や必要とする分析感度、精度、分析種の数などにより大きく変化します。HPLCよりも比較的分析時間が長い事例も多いのですが、Thermo Scientific™ TraceGOLD™GCカラムシリーズには分析対象に応じて最適な液相が数多くラインナップされておりますので、これらのカラムを活用することにより、効率的な分析が行え、結果的に時間の大幅な短縮が可能です。
まとめ
GCは分析値の精度や検出感度、汎用性、スループットなど数多くのアドバンテージを有する分析手法で、特に揮発性成分の定性・定量に適しています。
GCを上手に使うためには、GCの装置やカラム、誘導体化に用いる試薬などの最適化が非常に重要になります。特に誘導体化や試料注入口条件、カラムの種類の設定は分析の可否を決定するため、分析の目的に応じて最適化が必要になります。次回以降ではカラムや分析条件の最適化についても説明をしていきたいと思います。
今回の記事はいかがでしょうか。PDF版は下記のリンクよりダウンロードいただけます。
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