がん免疫領域は、免疫チェックポイント阻害剤などとも関連して非常に注目されています。がんは多様な臓器や組織によって多様な特徴を持っており、さまざまな角度からがんを理解することは人類にとって重要な課題の一つです。
そこで今回は、異なる解析プラットホームを用いたがん免疫研究へのアプローチについて、ご紹介します。
▼こんな方におすすめです!
・がん免疫研究者
・異なる手法でデータを取得したい方
がんと免疫
一般的にがんとは環境や遺伝的な要因によって遺伝子変異が生じ、その結果、異常な増殖や周辺組織へ浸潤、転移を起こす腫瘍のことを指します。このようながんに対して、体内では防御システムが機能しています。まず、アポトーシスなどを起こしたがん細胞から、がん特異的なペプチドが放出されます。放出されたペプチドは、樹状細胞に貪食されます。その後、リンパ節にて、取り込んだペプチドをT細胞へ抗原として提示すると、未成熟なT細胞が活性化し、ゲノム上の遺伝子配列を組み換えて、抗原特異的な受容体(TCR)を発現するようになります。その後、腫瘍組織へと遊走、浸潤し、活性化したT細胞は提示された抗原を持つがん細胞を攻撃します。このようなサイクルによって、普段私たちの身体の中では、日々発生したがん細胞が取り除かれています。
しかし、本来非自己として認識されるはずのがん細胞が、PD-1/PD-L1やCTLA-4といったいくつかの細胞膜表面分子を介して、このような防御システムに自己として認識させる免疫逃避システムを持つことが報告されています。そこで、近年このような免疫逃避システムを担うリガンドやレセプターに対して、抗体(免疫チェックポイント阻害薬)を使用することによって、本来の免疫システムを再活性化させる手法が盛んに開発されています。
このような免疫チェックポイント阻害剤を使用するにあたって、現在どのようながんが適しているのかを判断するための信頼性の高い新たなバイオマーカーの発見が期待されています。
がん抗原を認識するTCR・BCRとゲノムアプローチ
前述の通り、T細胞は抗原提示細胞から提示された抗原を元に受容体の可変領域(V、D、J、C)を組み換え、膨大な種類の抗原に対応できる多様性を獲得しています。体内にとって異物であるがん細胞にも同様の機構が働き、がん細胞由来のペプチドをがん抗原(ネオアンチゲン)として認識します。CDR1、2は、MHC複合体(ヒトにおけるHLA)と相互作用することにより、自己非自己の認識を行う領域、CDR3は抗原に対する相補性決定領域となっており、この領域を解析することはがん免疫研究に対して非常に有用です。
組織や血中に侵入したタンパク質、多糖、脂質、核酸、低分子化合物などの抗原は、液性免疫を担うB細胞が認識します。B細胞は活性化すると形質細胞へと分化し、エフェクターである免疫グロブリン(Ig)を産生します。Igの産生ではTCRと同様に、ゲノムの配列から対応する抗原特異的な配列へと組み換え反応によるB細胞受容体(BCR)のVDJ領域の再編成が起こります。これにより、多様な抗原へ対応することができます。これらの領域は、抗原に対する相補性決定領域、抗体の構造、エフェクター分子と相互作用し、抗体のクラスを決定するために必要な領域となっているため、この領域を解析することは、ウイルス研究やがん免疫研究に非常に有用です。
このようなアプローチに対して、 Ion Torrent™ 次世代シーケンサでは、TCR・BCR解析のためのOncomine™ TCRまたはOncomine™ BCRアッセイがあります。TCR・BCRのCDR1、2、3(TCR-β LRアッセイ、BCR IGHアッセイ)、またはCDR3の領域のみ(TCR-β SRアッセイ)を対象として設計されたプライマーからTCR・BCRレパートリーを解析し、末梢血や腫瘍組織などのサンプルに含まれるT細胞・B細胞のクローンの数や割合、受容体のアミノ酸配列や免疫グロブリンのファミリーなどを詳細に解析できます。
さらに近年、いくつかの報告から、体細胞変異を多く持つがん細胞は、非自己として認識されるがん抗原を多く産生する可能性が高いため、免疫チェックポイント阻害剤の効果も高いと考えられています。そのような解析には、がん抗原を生み出す体細胞変異量を定量するためのOncomine™ Tumor Mutation Loadアッセイや腫瘍周辺環境の遺伝子発現解析のためのOncomine™ Immune Response Research アッセイがあります。このようなOncomineシリーズを活用して、がん免疫を詳細に解析することができます。
これらの解析はIon Torrent™ Genexus™ SystemやIon GeneStudio™ S5で解析できます。Ion Torrent Genexus Systemは、検体からレポートまでのワークフローを自動化し、わずか2回の操作で、データ解析の結果まで1日。また、非常にフレキシブルなこのシステムにより、1サンプルだけを処理する場合でも、高い費用効率が維持されます。NGSの専門知識レベルに依存することなく、アッセイを進めることができます。
Ion GeneStudio S5 シリーズは、業界をリードするスピードとスケールで幅広いターゲットNGSアプリケーションを遂行するために柔軟にデザインされています。また、使用する半導体チップは1ランあたり2 Mから130 Mリードのシーケンシングが可能な、スループットの異なる5種類のチップを選択できます。さらにクリーニングも自動化され、機器のメンテナンスで悩まされることもありません。
Ion Torrent次世代シーケンサの基本を知りたい方はこちら
細胞膜分子からみるがん免疫
がん細胞の認識、排除に機能する免疫細胞にはT細胞、B細胞をはじめ、多様な細胞が関与しており、腫瘍微小環境や末梢血に存在する免疫細胞の分類は、次世代シーケンサでは難しい場合があります。そこで必要となる手法がフローサイトメトリーです。フローサイトメトリーでは、細胞の大きさや形状、細胞の同定や細胞群を構成する種々の細胞の存在比を解析することが可能です。また、技術の進歩とともに、1プラットホームに複数のレーザーを搭載することが可能となり、サンプルに含まれる細胞群を解像度高く解析できるようになっています。一方で、さまざまな細胞種が含まれるサンプルを流路に流して解析する検出系であることから、流路の目詰まりなどが課題となっていました。
Invitrogen™ Attune™ NxT Flow Cytometerは、革新的なアコースティック技術によって、サンプルを濃縮することなく、迅速な解析を実現します。貴重なサンプルのロスを最小限に抑え、従来のハイドロダイナミックフォーカシングシステムの最大10 倍の測定スピードで解析が可能です。また、最大4レーザーを搭載可能で、最大14カラーにカスタマイズすることができ、全細胞の1%未満の細胞集団でも高い精度で検出できます。さらに、ユーザーにとって深刻な流路の詰まりを気にすることなく、瞬時に解析を行なえます。
実際にAttune NxT Flow Cytometerを使用した研究には、機能的フローサイトメトリーによるPD-L1の立体構造変化の予測およびがん免疫療法の改善を探る研究や多発性骨髄腫におけるがん免疫療法を目的とした潜在的なスクリーニングアプローチとしてのミエロイド由来サプレッサー細胞における PD-L1 発現を解析した研究などがあります。
このように複数の解析プラットホームを用いることにより、より詳細ながん免疫研究を実現することができます。詳細はこちらのブログからご確認ください。
フローサイトメーターを使用したがん免疫研究の詳細はこちら
まとめ
・Ion Torrent Genexus、Ion GeneStudio S5ではOncomineシリーズを活用して迅速にゲノム研究の観点から、がん免疫を解析できます。
・Attune NxT Flowcytometerによる細胞集団の解析は多くのオプション、高い柔軟性により優れた性能と信頼性、堅牢性を実現しています。
・ゲノム解析と細胞集団の解析により、より詳細ながんと免疫の関係を明らかにできます。
Attune実績 / ユーザーボイス
・自己免疫疾患に関連するC型レクチン受容体の機能理解を目指して(東北医科薬科大学医学部免疫学 中村晃 氏/海部知則 氏)
・間葉系細胞による免疫細胞の「末梢教育」に着目し、アレルギーや慢性疾患の機序解明へ(千葉大学イノベーション医学領域 倉島洋介 氏)
・疾患特異的マクロファージの機能的多様性(大阪大学微生物病研究所 佐藤荘 氏)
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このガイドブックでは、免疫チェックポイント阻害、CAR T 細胞療法、がんワクチン研究など、さまざまな癌免疫研究のアプローチとソリューションをご紹介しています。
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