がん患者自身の免疫システムを活用したがんの治療を目指している免疫腫瘍学の分野では、潜在的な診断バイオマーカー、潜在的な治療標的、および患者が反応するかどうかを予測できるバイオマーカーを特定する必要があります。
近年、ハイスループットな遺伝子解析ツールの開発により、ゲノミクス、トランスクリプトミクス、遺伝子発現プロファイリングの研究が加速しています。潜在的なバイオマーカーに関連するパスウェイの解析を促進するこれらのツールは、免疫腫瘍学研究に大きな影響を与えています。がんはその種類によって異なる特徴を有しているため、効果的で毒性が低く、汎用性の高い免疫療法の開発を可能にする新しい遺伝的特徴は明らかになっていません1。免疫応答と腫瘍生物学との関連は非常に複雑なため、研究者は複数の遺伝子解析技術を利用してバイオマーカーの発見と検証を行っています。
そこで今回は、がん免疫研究に活用できるさまざまな遺伝子解析ツールついて、ご紹介いたします。
▼こんな方におすすめです!
・がん研究者
・がん免疫研究者
免疫腫瘍学における網羅的な遺伝子解析技術
マイクロアレイと次世代シーケンシング(NGS)は、RNAやDNAから新しいバイオマーカーを網羅的に探索できる有用なツールです。
NGSは革新的なテクノロジーであり、数十年前には誰も想像できなかったような研究を実施することが可能となりました。NGSでは全ゲノムリシーケンスとターゲットリシーケンスという2つの手法が用途に応じて用いられています。全ゲノムリシーケンスは文字通り全てのゲノム領域を解析するため、多くの発見をもたらしていますが、ゲノムの一部の領域はこのアプローチでは解析することが困難であり、シーケンスバイアスが発生します。一方ターゲットリシーケンスでは、分子生物学的手法を利用して特定の遺伝子配列を濃縮し、個々の遺伝子またはゲノム領域のみに集中してデータを取得することが可能です。この手法を用いれば、分解度の進んだDNAまたはRNAサンプルや、血液からのcell-free NA(cfNA)などの難しいサンプルタイプでもデータを取得できるようになりました。必要なものだけをシーケンスすることで、コストも下げることが可能です。また、特定のターゲット領域に焦点を当てることで、非常に高いカバレッジ深度のデータが得られるため、希少な遺伝子変異を発見できます。さらに多くのサンプルを1回のシーケンスで同時に処理することもできるため、データ取得の時間を短縮することが可能です。
Ion Torrent™ 次世代シーケンサを用いたIon Torrent™ Oncomine™ TCR Beta-SR Assayは、FFPEおよび末梢血サンプル由来のRNAまたはDNAのいずれかを使用して、T細胞受容体(TCR)β鎖の相補鎖決定領域に含まれるCDR3領域を研究するために設計されたターゲットNGSソリューションです。CDR3領域は各T細胞クローンに固有であり、抗原認識に関与するTCRβ鎖をコードします。Oncomine TCR Beta-SR Assay とIon Reporter™ ソフトウェアによる包括的なデータ解析ソリューションは、各クローンの割合を正確に識別・測定し、患者の免疫状態を特徴付けることができます。
Oncomine TCR Beta-LR Assayでは、TCRβ鎖の3つの相補性決定領域すべて(CDR1、CDR2、CDR3)を高精度で効率的に解析し、がん発生の予測や治療の予後に関するバイオマーカーの発見、T細胞の特性評価、およびCDR1、2領域の遺伝子多型の識別を可能にします。これにより、全血、新鮮凍結組織、またはFACSで分類された細胞からの希少かつ豊富なクローンを同定することができます。また、TCRクローンの収束は、がんによる慢性的な抗原刺激が原因で発生する可能性が報告されており、免疫療法の新たな非侵襲性バイオマーカーとして期待されています。Ion Torrent™ Oncomine™ BCR-IGH LR, SR Assayは、TCRの解析と同様のターゲットシーケンシングアプローチを利用して、B細胞受容体(BCR)免疫グロブリン重鎖(IgH)を解析することができます。特に、LRアッセイは、体細胞超変異の定量化を可能にし、クローンの進化を研究するために抗体のアイソタイプを評価することができます。
また、マイクロアレイでも腫瘍組織と健康な組織の違いを明らかにしたり、変異が蓄積するにつれて腫瘍が経時的に変化することを明らかにすることができます。NGSよりも成熟した技術であるマイクロアレイにより、RNA発現バイオマーカーを迅速かつ比較的安価に発見することができます。
Applied Biosystems™ Clariom™ SおよびD Pico Assayは、コーディングおよびノンコーディングRNAの遺伝子レベルの解析(Clariom S)、またはディープトランスクリプトームレベルの解析(Clariom D)を提供し、何千もの転写物の解析を可能にします。例として、Fred Hutchinson Cancer Research CenterのDr. Kristin G. Andersonは、Clariom D Assayと1細胞からのRNAシーケンスを使用して、卵巣がんのT細胞機能障害を引き起こす分子メカニズムを解明し、養子T細胞療法をテストするマウスモデルを開発しました2。
免疫腫瘍学における対象遺伝子を絞った遺伝子解析技術
がん免疫研究において、よりスモールスケールの遺伝子セットを解析するには、Applied Biosystems™ TaqMan® Gene Expression Assayが有用です。このアッセイは、免疫腫瘍学研究に関連する400以上のバイオマーカーを含み、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節因子、アポトーシスマーカーなどのターゲットの詳細な解析を可能にします。一般的にTaqMan® Assayは、NGS発現プロファイルを確認するためにも使用されています。実際に、NGSにより腫瘍周辺の微小環境における免疫関連の遺伝子を解析するIon Torrent™ Oncomine™ Immune Response Research AssayとTaqMan® Gene Expression Assayを用いて、22遺伝子(CD2、CD28、CD52、CDKN3、CTLA4、CXCL9、DDX58、FOXP3、GUSB、GZMA、ID2、IFNG、IL6、IL7R、KLRG1、 LCN2、MLANA、PMEL、TBP、TFRC、TNF、およびTNFRSF14)を解析し、両者の結果が一致していることが示されました。以下のURLからホワイトペーパーがダウンロードできます。
http://assets.thermofisher.com/TFS-Assets/LSG/brochures/oncomine-immune-response-white-paper.pdf
また、より多くの免疫に関連する遺伝子をターゲットにする場合、Applied Biosystems™ TaqMan® Array Human Immune Panelを使用して定量的な遺伝子発現解析を行うことも可能です。TaqMan® Arrayはマイクロ流体技術により、サンプル、研究、ラボ全体で一貫した再現の高い結果が得られ、高い費用対効果を示します。
また、サンガーシーケンスを用いることにより、免疫細胞がより効果的にがんを排除するためにがんを認識するさまざまな機構を理解することができます。たとえば、TCRをシーケンスすることによってT細胞レパートリーの多様性を評価し、最大700 bpのシーケンスを解析することができます。NGS手法で特定された腫瘍由来のネオアンチゲンを認識するTCRの配列は、FFPE組織などの困難なサンプルにおける低レベルの体細胞変異を検出できるため、サンガーシーケンスでも検証することができます。
新しい免疫腫瘍学バイオマーカーを発見して検証する場合でも、重要な免疫腫瘍学経路の基礎となる遺伝的要素について理解する場合でも、サーモフィッシャーサイエンティフィックはお客さまのニーズを満たす幅広い遺伝子分析ソリューションのポートフォリオを提供しています。科学的専門知識と適切なサービスとサポート機能を備えた、業界をリードする世界的に信頼できるパートナーとして、私たちはあなたの研究に適した遺伝子解析ソリューションへのご案内をお手伝いします。
まとめ
・がん免疫研究において、NGSやMicroarrayなどの網羅的解析ツールは非常に有用です。
・がん免疫研究において、絞られたターゲットの解析にはqPCRやサンガーシーケンスが有用です。
・TCRレパートリー解析にご興味がある方はOncomine TCR Beta LR, SR Assayをご検討ください。
https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/clinical/preclinical-companion-diagnostic-development/ion-ampliseq-immune-repertoire-assay.html
https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/clinical/preclinical-companion-diagnostic-development/oncomine-tcr-beta-sr-assay.html
参考文献
1. Masucci GV, Cesano A, Hawtin R, Janetzki S, Zhang J, Kirsch I, Dobbin KK, Alvarez J, Robbins PB, Selvan SR, Streicher HZ, Butterfield LH, Thurin M. (2016). Validation of biomarkers to predict response to immunotherapy in cancer: Volume I – pre-analytical and analytical validation. J Immunother Cancer 4, 76.
2. Anderson KG, Voillet V, Bates BM, Chiu EY, Burnett MG, Garcia NM, Oda SK, Morse CB, Stromnes IM, Drescher CW, Gottardo R, Greenberg PD. (2019) Engineered Adoptive T-cell Therapy Prolongs Survival in a Preclinical Model of Advanced-Stage Ovarian Cancer. Cancer Immunol Res. 7(9):1412-1425.
ターゲットNGSによる免疫学研究
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