リキッドバイオプシー(Liquid biopsy)とは、身体への負担が少ない低侵襲性の液性検体(血漿や尿など)を利用して主にがん診断に役立つ技術です。
このリキッドバイオプシーサンプルには腫瘍を含むさまざまな組織、細胞からの情報が含まれているため、全身の腫瘍プロファイルを網羅的に俯瞰できます。従来のバイオプシー技術は、内視鏡や針で生検を採取するため、苦痛とリスクを伴います。しかしながら腫瘍組織のごく一部しか採取できないため、断片的なプロファイル情報しか検出できませんでした。
細胞から遊離したcfDNA(cell-free DNA)は健康な人の血液中などにも存在していますが、肺がんをはじめ、さまざまながん患者の早期ステージにおいて、がん関連遺伝子に変異を持つctDNA(circulating tumor DNA)が含まれていることが明らかになってきました。ctDNAは、原発腫瘍より血液中に漏れ出て循環するcfDNAとされています。特に手術後の再発モニタリングにおける判定の方法として可能性が期待され、研究が盛んに行われています。
たとえば、上皮成長因子受容体、細胞増殖を促進するシグナルを伝達するタンパク質をコードする遺伝子であるEGFR遺伝子は、さまざまながん種で変異が認められていますが、2017年7月1日には肺がん患者の治療に使用する分子標的薬オシメルチニブのコンパニオン診断(CDx)として、EGFR遺伝子検査(血漿)が保険適用となりました。薬剤耐性変異であるT790Mが陽性のがん組織に対し、治療効果が期待される新たな治療薬の選択に役立つと発表されています。変異の検出は、臨床試験を推し進めるうえでも重要な結果をもたらします。
このように、リキッドバイオプシー検体に含まれるがんの遺伝子変異を、次世代シーケンサ(NGS)などを用いて解析することにより、がんの超早期発見や治療に用いる薬剤を、より精密に選択できることが期待されており、このような検査を行う医療体制が我が国でも整備されつつあります。
リキッドバイオプシーはがん治療にどう役立つのか?
ここでは、リキッドバイオプシー技術が注目されている背景を、がんの治療の側面からまとめてみました。
患者の負担
従来、患者の疾患の性質を正確に捉えるために、バイオプシーによる遺伝子変異解析、病理画像診断などさまざまな検査が行われてきました。
しかしバイオプシーは、侵襲性が高く、合併症を引き起こす恐れがあるといった背景から、バイオプシー検体の入手そのものが困難であることが課題でした。また、解析を実施しても腫瘍の一部の変異プロファイルしか得られないことも問題です。
リキッドバイオプシーは、低侵襲性で、複数回検体が得られるため、患者への負担が少ないというのが大きな利点です。また、全身のプロファイルが得られることからも、がんの超早期発見や精密な検査に基づく無駄のない適切な治療を行うことにより、近年高騰している医療費の削減や医療現場での人手不足の解消にもつながるのではないかと期待されています。
予後のモニタリング
がんの治療方法には、外科的な切除や抗がん剤、分子標的薬などによる薬剤治療、放射線治療などさまざまな方法がありますが、いずれの方法においても再発や治療効果を判断するために治療中、治療後ともにがんの状態をモニタリングする必要があります。
低侵襲性のリキッドバイオプシーを用いることにより、治療中に新たに薬剤耐性が得られたとしても、薬剤への応答性を確認し、必要に応じて薬剤の量や種類を変えていくことができます。
治療後であれば、がんの再発を腫瘍組織が大きくなる前に発見し、治療を再開することができます。実際、米国の臨床研究においてリキッドバイオプシーを用いたモニタリングにより、化学療法への応答に関してctDNAが正の応答性を示すことやCTスキャンでがんの再発を確認する数か月前から、再発を予測することができた例も報告されています*1。
リキッドバイオプシーを用いたがん研究の課題
がんの治療には、「どれだけ早くがんを見つけられるか」がカギになります。なぜなら、多くのがん種において、早期発見がその後の高い生存率につながるからです*2,3。
しかし、血漿検体に含まれるcfDNAは、全身のプロファイルであるため、がんに由来するctDNAは極めて微量(cfDNA中の1%以下)であり、ほとんどが正常なDNAです。
また、ステージが初期であればあるほど原発巣も小さく、腫瘍組織由来のctDNAは検出が困難となります。
これまでのがん研究や遺伝性疾患の研究(結合組織疾患や難聴や筋ジストロフィー)においては、Ion Torrent™ Ion AmpliSeq™テクノロジーによるクリニカルシーケンスが広く利用されてきました。
これらのことから、がん患者の生存率を高めるために、より早くがんを検出できる超低頻度な1%以下の変異検出技術の開発が期待されていました。
従来の約50倍の感度で変異を検出するIon AmpliSeq HDとは?
そこで、新たに登場したのがIon Torrent™ Ion AmpliSeq™ HDテクノロジーです。
この技術により、20 ngのcfDNA(およそ6,000コピー)を使用した場合、任意の遺伝子や領域について、0.1%という超低頻度な変異まで検出することが可能となりました。
Ion AmpliSeq HDテクノロジーを用いた、次世代シーケンサIon Torrent™ Ion GeneStudio™ S5による解析は、リキッドバイオプシーやがんゲノムに関連する研究を大きく加速します。
その他、さまざまな特長がありますので、詳細が気になる方は下記のボタンをクリックしてご参照ください。
▼3分でわかるIon AmpliSeq HD動画はこちら
※その他のリキッドバイオプシーに関する記事はこちら
また、より具体的な情報を今すぐ知りたい方は下記のフォームよりご連絡ください。
まとめ
- リキッドバイオプシーは体液(血漿や尿など)を利用したがん診断を行う技術である
- リキッドバイオプシー技術を応用すれば、がんを超早期に発見できる可能性がある
- Ion AmpliSeq HDは、リキッドバイオプシーを用いたがんの超早期発見に有用である
参考情報
1:Presented at IAP / ESP Congress, September 29th 2016, by Jose Luis Costa
2:Alexander M. Aravanis,Mark Lee,2 and Richard D. Klausner(2017)Next-Generation Sequencing of Circulating Tumor DNA for Early Cancer Detection.Cell 168, February 9, 2017
3:Hyunsoon Cho, Angela B. Mariotto, Lisa M. Schwartz, Jun Luo, Steven Woloshin(2014)When Do Changes in Cancer Survival Mean Progress? TheInsight From Population Incidence and Mortality,J Natl Cancer Inst Monogr 2014;49:187–197
研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用はできません。