各個人にあったヘルスケアと治療方針の決定を行うという精密医療が実現しつつあります。どのようにがん患者自身の免疫システムをがん治療に利用するかを研究する、がん免疫の分野がこれをリードしており、驚異的な速さで進歩を遂げています。
がん特異的抗原を認識する役割を担う免疫細胞であるT細胞は、がんを攻撃する免疫応答を開始、調節することができます。近年の免疫療法は、この能力を増強することに重きを置いています。
がんの免疫療法感受性を予想するためのバイオマーカーの同定ががん免疫研究の一つの目標となっています。がん由来の研究材料はしばしば入手が難しく(時には不可能であり)、質、量ともに不十分であることもよくあります。そのため、非侵襲的に取得可能なバイオマーカーの同定に対する切実なニーズが存在します。がん細胞を攻撃する性質から、T細胞のバイオマーカーとしての利用方法が研究されています。T細胞、がん細胞ともに血中にも存在するため、リキッドバイオプシーにより非侵襲的に取得可能です。
T細胞のバイオマーカーとしての利用方法の可能性の一つとして、次世代シーケンス解析による、TCR収斂と呼ばれるプロセスの検出が挙げられます。TCRは“T cell receptor(T細胞受容体)”の略であり、抗原を認識するT細胞表面のタンパク質です。TCRの収斂を理解するためには、まずTCRタンパク質が多数の異なる核酸配列から生じることを知る必要があります。ある細胞集団中のそれぞれのT細胞は独自のTCR遺伝子配列を有しています。各T細胞が長期にわたる抗原刺激により活性化され、expansionと呼ばれるプロセスにより分裂していくと、同一の抗原を認識するも異なる配列を持つTCRの集団(収斂したTCR)が結果として生じます。TCRの収斂度合いと免疫応答とは相関する可能性があり、一連の治療のどこで免疫療法を用いるか決定を下すガイドとなるバイオマーカーとなるかもしれません。
TCR収斂の予測マーカーとしてのポテンシャルはこれまで見落とされてきたかもしれません。なぜなら、T細胞ポピュレーション中のTCR遺伝子の正確なシーケンス解析には高感度な技術が必要とされるためです。
近年の論文Looney et al.(2020)においてLooney 氏のグループではTCRシーケンシングと、TCR収斂の免疫療法における予測マーカーとしてのポテンシャルを評価しています。Ion Torrent™ シーケンシングテクノロジーとIon Torrent™ Oncomine™ TCR Beta-LR Assayを利用することにより、塩基置換エラー率の低さがTCR収斂の評価を可能にし、彼らのサンプルコホートにおいて免疫療法へのレスポンスとの相関を決定する助けとなることを見出しました。著者らは、「他のシーケンシング技術ではTCR収斂は明らかにできなかったかもしれない。シーケンシングプラットフォームの選択は最重要事項だ。」と結論付けています。
がん免疫における予測マーカーとしてのTCR収斂の有用性評価に関しては、未だ多くの研究が必要ですが、がん研究者が新たな免疫療法を開発しようと思った場合に、高感度次世代シーケンシングソリューションを選択することが鍵となることは明らかです。
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