発色基質や沈殿基質は、昔からよく利用されてきました。これらを用いれば、非常に簡潔で安価な検出法を構築可能です。これらの基質は適切な酵素の触媒により、膜上に沈殿する不溶性色素へ転換されます。特殊な機器を用いずに、得られた着色バンドやスポットを処理・可視化できます。発色基質として、様々な種類の製品を取り揃えています。標識酵素の種類、感度、検出法に応じて基質を選択可能です。

はじめに

化学発光、蛍光法と異なり、発色基質の場合特殊機器を用いずにアッセイ結果を可視化可能です。フィルムの現像と同様に、目的の感度が得られるまでインキュベートします。化学発光法と異なり、着色沈殿物はリプロービング処理で剥がれにくい傾向があります。そのため、十分発色するまで反応を進行させてから、反応を停止させることが重要です。

発色基質の感度が低ければ、少量タンパク質の検出が困難になります。反応は数時間から一晩まで延長可能ですが、バックグラウンドシグナルも高くなります。感度の低い発色基質は、タンパク質量が多いケースに最適です。反応生成物はシグナルの安定した着色沈殿物です。そのため一般に発色法を用いた際に起こりえるゴーストバンドは見られません。一般に発色法は比較的タンパク質量が多い場合の検出に利用され、反応経過を視覚的に確認できるため、化学発光や蛍光ブロッティングシステムよりも極めて柔軟に最適化が行えます。

特定の基質について、販売元によって性能が大幅に異なる場合があります。これは、基質の性能が濃度と純度、あるいは添加剤やバッファーの成分に応じて左右されるためです。

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西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)用ウェスタンブロット発色基質

HRPを用いた発色反応には過酸化物の添加が必要です。過酸化水素溶液の寿命が極端に短いことから、従来法では使用直前に過酸化水素を基質と一緒にバッファーへ添加する必要があります。そのため、これらの基質混合液の標準的な有効期間はわずか数時間でした。市販されている沈殿性HRP基質の多くは、安定化過酸化物基質バッファーが添付されています。もしくは同バッファー中に調製済みの形態で供給されます。通常この溶液中の安定化過酸化物は濃縮されており、従来の過酸化水素30%ストック溶液よりも低腐食性です。30%過酸化水素および過酸化水素の希釈溶液は不安定です。そのため一貫性の高い結果を得るには、安定化過酸化物を使用した試薬をご使用ください。

HRPを利用したウェスタンブロッティング用発色基質。

分子量240.4のTMBは、主にELISA用HRP基質として利用されています。しかしHRP、過酸化物の存在下では、水溶性の青色生成物が産出され膜上に沈殿することがあります。1-Step TMB – Blottingは単一成分からなるるペルオキシダーゼ基質です。ウェスタンブロッティングや免疫組織化学の用途に利用できます。生成物が沈殿すると、酵素の位置する場所に濃紺色のバンドが得られます。1-Step TMB –ブロッティングは、高いシグナル対ノイズ比が必要とされる用途に適しています。

4-CN(分子量178.6)は、ブロッティングや組織化学におけるHRPの発色検出に使用できます。この沈殿物はTMBやDABほど感度や安定性に優れていませんが、アルコール可溶性の沈殿物は鮮明に画像にキャプチャされ易く、また鮮明な青紫色をしているため、二重染色に有益です。

DAB(分子量214.1)は、HRPや過酸化物の存在下で褐色の沈殿物を産出します。この褐色の不溶性生成物は、四酸化オスミウムを用いて簡単にキレート化できます。こうした特性から、DABは電子顕微鏡を用いた解析に最適です。複合体を形成するニッケル、銅、銀、コバルトなどの金属の添加によりDAPの発色を増強可能です。金属錯体の発色はDAB単独の発色より暗色で、染色感度を上げられます。

CN/DAB Substrateは、4-CNとDABの各利点を兼ね備えた基質混合物です。CN/DAB Substrateは感度が優れ、鮮明に画像キャプチャされる黒色の沈殿物を産出します。CN/DAB Substrateは、ウェスタンブロッティングやドットブロッティングの用途に適しています。


アルカリホスファターゼ用ウェスタンブロット発色基質

NBT(分子量817.6)は、テトラゾリウム塩と呼ばれる複素環式有機化合物の一種です。化合物が還元時されると、高着色性・水不溶性の生成物のNBT-ホルマザンが産出されます。ホルマザン発色は広範なダイナミックレンジにわたり直線的で安定性が高いため、この基質は免疫化学のアッセイや技法で広く利用されています。

BCIP(分子量433.6)がアルカリホスファターゼにより加水分解されると、ニトロセルロース膜またはナイロン膜上に青紫色の沈殿物が産出されます。免疫ブロット法および免疫組織化学の両研究において、BCIPは発色基質として利用できます。

APを用いたブロッティングまたは染色アプリケーションには、NBTとBCIPを併用するシステムが最適です。この二つを併用すると、各基質が単独で用いられる場合より極めて高感度かつ強力な黒紫色の沈殿物が産出されます。この反応は一定速度で進行するため、感度を正確に制御可能です。NBT/BCIPは、膜のバックグラウンド染色をほとんど起こさずに、鮮明なバンドを生成する特徴があります。

Fast Red TR/AS-MX Substrate(下図に示す構造)は、高感度な基質であり、転写膜上で鮮やかな赤色沈殿物を生成します。この特殊基質については、現在弊社ではお取り扱いしておりません。


| NBT/ BCIP反応スキーム。| BCIPがアルカリホスファターゼにより加水分解されると、二量体化されてインジゴ色素を生成する中間体が形成されます。NBTは、二量体化により生成される2還元当量によってNBT-ホルマザンへ還元されます
アルカリホスファターゼを用いたウェスタンブロッティング用発色基質。

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.