Search Thermo Fisher Scientific
Search Thermo Fisher Scientific
界面活性剤は、両親媒性分子であることから、脂肪族性または芳香族性を有した非極性の「尾部」、および極性の「頭部」を含みます。極性頭部基のイオン特性によって、以下の様々な分類の界面活性剤に分けられます:イオン性(荷電性、かつアニオン性またはカチオン性のいずれか);非イオン性(非荷電性);両性イオン性(正荷電基および負荷電基を共に有するが、正味荷電量はゼロ)。
界面活性剤には、生体膜の成分と同様に、非極性の尾部を持つため疎水性会合能があります。とはいえ、界面活性剤自体は水溶性です。したがって界面活性剤分子によって、水不溶性・疎水性の化合物が水性媒体へ分散(混和性)されます。この分散の一例として、膜タンパク質の抽出や可溶化などが挙げられます。
水溶液中の低濃度の界面活性剤は、空気-液体界面において単分子層を形成します。高濃度下において、界面活性剤モノマーはミセルと呼ばれる構造体へ凝集されます。ミセルは、界面活性剤モノマーの熱力学的に安定なコロイド集合体です。ここでは、非極性端部が内側に隔離されて水へ露出されず、極性末端は外向きに配向されて水と接触しています。
ミセル1個あたりの界面活性剤モノマーの個数(集合体の数)、およびミセルが形成される界面活性剤の濃度範囲(臨界ミセル濃度;CMCと呼ばれる)は共に、それぞれの界面活性剤に固有の性質です(下表をご覧ください)。臨界ミセル温度(CMT)とは、ミセルの形成が可能な最低温度を指します。界面活性剤ミセルはCMT以下の温度で結晶懸濁液を形成し、CMA以上の温度で再び明瞭化することから、CMTとはいわゆる曇点に相当します。
界面活性剤の特性は、濃度、温度、バッファーのpHやイオン強度、様々な添加剤の存在といった実験条件によって異なります。例えば特定の非イオン性界面活性剤のCMCは、温度上昇に伴い低下します。一方、イオン性界面活性剤のCMCは、対イオンを添加すると、荷電頭部基間における還元型静電反発の結果低下します。また、尿素などの添加物によって、水の構造が破壊されるため界面活性剤のCMCは低下します。一般に集合体の個数が大幅に増加すると、イオン強度が上がります。
界面活性剤は、タンパク質構造に対して変性または非変性の2タイプがあります。変性能を持つ界面活性剤としては、アニオン性のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、あるいはカチオン性のエチルトリメチルアンモニウムブロマイドが挙げられます。変性界面活性剤によって、膜が完全に破壊されタンパク質間相互作用が破壊されて、タンパク質が変性します。非変性界面活性剤は、Triton* X-100などの非イオン性界面活性剤、コール酸などの胆汁酸塩、およびCHAPSなどの両性イオン性界面活性剤にそれぞれ分類できます。
界面活性剤 | タイプ | 凝集体 # | MW モノ (ミセル) | CMC mM (%w/v) | 曇点 °C | 透析 |
---|---|---|---|---|---|---|
Triton X-100 | 非イオン性 | 140 | 647 (90K) | 0.24 (0.0155) | 64 | 不可 |
Triton X-114 | 非イオン性 | – | 537 ( – ) | 0.21 (0.0113) | 23 | 不可 |
NP-40 | 非イオン性 | 149 | 617 (90K) | 0.29 (0.0179) | 80 | 不可 |
Brij-35 | 非イオン性 | 40 | 1225 (49K) | 0.09 (0.0110) | >100 | 不可 |
Brij-58 | 非イオン性 | 70 | 1120 (82K) | 0.08 (0.0086) | >100 | 不可 |
Tween 20 | 非イオン性 | – | 1228 ( – ) | 0.06 (0.0074) | 95 | 不可 |
Tween 80 | 非イオン性 | 60 | 1310 (76K) | 0.01 (0.0016) | – | 不可 |
Octyl glucoside | 非イオン性 | 27 | 292 (8K) | 23-24 (~0.70) | >100 | 可能 |
Octyl thioglucoside | 非イオン性 | – | 308 ( – ) | 9 (0.2772) | >100 | 可能 |
SDS | アニオン性 | 62 | 288 (18K) | 6-8 (0.17-0.23) | >100 | 不可 |
CHAPS | 双性イオン | 10 | 615 (6K) | 8-10 (0.5-0.6) | >100 | 可能 |
CHAPSO | 双性イオン | 11 | 631 (7K) | 8-10 (~0.505) | 90 | 可能 |
界面活性剤は、様々な販売元から入手可能であると同時に、多数の研究室で日常的に使用されています。とはいえ、界面活性剤の純度や安定性の重要性に関してはほとんど認識されていません。一般に界面活性剤には、製造元に由来した不純物が微量に含有されています。こうした不純物の一部(特に非イオン性界面活性剤の大半に見られる過酸化物など)によって、タンパク質活性が損なわれることがあります。また界面活性剤の中には、空気や紫外線に曝されると即座に酸化するタイプもあり、可溶化剤としての特性と効力が失われる原因となります。弊社の界面活性剤は、高純度で低過酸化物含有量が低く、透明なガラスアンプル中に窒素ガス下で包装されています。このThermo Scientific Surfact-Amps Detergent Solutionsは、あらゆる界面活性剤アプリケーションにおいて極めて利便性が高い上、卓越した品質と一貫性を持ちます。サンプラーキットには、10種類の精製済み界面活性剤が同梱されています(Surfact-Amps Formatの7種類、および固体形態の3種類)。
生体サンプル中の分子間の挙動や相互作用に影響を与える大きなファクタ―として、分子の親水性度、疎水性度が挙げられます。荷電性または極性官能基を有するタンパク質や分子類の大半は、高秩序の水素結合分子間構造を形成するため、水に対して可溶性(または混和性)です。脂肪や脂質だけでなく、タンパク質のいくつか(もしくは、少なくともタンパク質の一部分)には、極性または荷電を持たないことがあります;そのため、これらのタンパク質は、他の極性分子を含んだ水による規則正しい相互作用から除外され、極性環境に接触する表面積が最小になるように共に相互作用する傾向があります。こうした水溶液中の非極性分子会合は、一般に疎水性引力と呼ばれています。とはいえ、これはより正確には、親水性環境からの除外と見なされています。
生体膜の形成と安定性によって、大規模なリン脂質の疎水性引力が発生します。この結果、シート内部に配向した疎水性脂質「尾部」、および水性環境側へ配向した極性「頭部」基を有する二層のシートが形成されます。膜タンパク質は、膜を完全に貫通します。もしくは、疎水性や親水性のアミノ酸側鎖や官能基の構造に依存して、膜の片側に埋め込まれます。
一般に、低濃度の穏やかな(非イオン性の)界面活性剤によって細胞膜の完全性が損なわれます。この結果、細胞溶解および可溶性タンパク質(通常はネイティブ形態)の抽出が促進されます。特定のバッファー条件を適用すると、様々な界面活性剤が膜二重層間へ効果的に浸透します。界面活性剤は、十分な濃度で浸透するため、単離されたリン脂質や膜タンパク質と共に混合ミセルを形成します。
SDSなどの変性界面活性剤は、CMC未満の濃度で、膜(疎水性)および非膜(水溶性、親水性)タンパク質へモノマーとして結合します。反応は、飽和するまで平衡駆動されます。したがって、遊離モノマー濃度によって界面活性剤濃度が決定まります。SDSは協同的な結合を起こします(あるSDS分子の結合によって、他のSDS分子のタンパク質への結合率が高まります)。SDS結合によって、タンパク質の大半が、分子量に比例した長さのしっかりとした棒状体へと変性されます。
Triton X-100などの非変性界面活性剤は、水溶性タンパク質に浸透しない剛性頭部および大きな非極性頭部を有しています;したがって、こうした非変性界面活性剤は、一般に水溶性タンパク質の天然の相互作用や構造を破壊しないうえ、協同的結合特性を有していません。非変性界面活性剤は、膜タンパク質の疎水性部分と会合する結果、それらを混和させる主要な効果があります。
CMC未満の濃度において、界面活性剤モノマーは水溶性タンパク質に結合します。CMC以上の濃度において、界面活性剤のタンパク質への結合は、界面活性剤分子のミセルへの自己会合と競合します。したがって、界面活性剤濃度をCMCより高くしても、タンパク質結合界面活性剤モノマーが効果的に増加することは一切ありません。
界面活性剤モノマーは、膜二重層に入り込むことによって膜タンパク質を可溶化させます。界面活性剤量の増加に伴い、膜は様々な可溶化段階を経ます。最初の段階において膜の溶解または破裂が起きます。界面活性剤:膜脂質のモル比0.1:1~1:1において、脂質二重膜は通常変化しませんが、一部の膜タンパク質の選択的抽出が可能です。モル比2:1まで上昇させると、膜の可溶化が起こる結果、混合ミセルが産出されます。こうした混合ミセルとして、リン脂質-界面活性剤ミセル、界面活性剤-タンパク質ミセル、脂質-界面活性剤-タンパク質ミセルなどが挙げられます。10:1のモル比では、全てのネイティブ膜脂質-タンパク質間相互作用が、界面活性剤-タンパク質間相互作用へ効果的に変換されます。
最適なタンパク質抽出に必要な界面活性剤量は、CMC、凝集数、温度、膜や界面活性剤の性質などに応じて異なります。適正な可溶化バッファーには十分量の界面活性剤が含有されているため、膜タンパク質分子あたりミセル1個以上が得られます。これにより、各タンパク質分子が、確実に別々のミセルへと単離されます。
最初の細胞溶解や膜タンパク質抽出において、界面活性剤の使用が必須かつ有益であっても、抽出タンパク質の後続アプリケーションにおいて、しばしば界面活性剤の一部または全てを除去する必要があります。例えば、水溶性タンパク質の多くは界面活性剤可溶性の形態で機能しますが、膜タンパク質は、しばしば界面活性剤の可溶化によって天然脂質相互作用が破壊され、修飾および不活性化されます。このような場合、界面活性剤をリン脂質または膜状の脂質混合物へ交換することによって、膜タンパク質が二重膜に再構成され、膜タンパク質の機能が回復することがあります。
最初に精製した後に人工膜へ再構成されたタンパク質であれば、各タンパク質機能に関して個別の研究を行えます(ただし、膜中の天然配向の回復が大きな課題となります)。特にタンパク質機能の回復を重要視しない場合でも、タンパク質定量やゲル電気泳動を行うため、サンプル中の界面活性剤濃度を下げることが推奨されます。
界面活性剤を除去するには、いくつかの方法があります。CMCの非常に高い界面活性剤や、N-オクチルグリコシドなど凝集数の少ない界面活性剤は、透析によって有効に除去できます。CMCが低く凝集数の多い界面活性剤については、透析が行えません。これは、サイズが大きすぎて透析膜の細孔を通して拡散できないミセル状で、界面活性剤分子の大半が存在するためです。また、目的タンパク質を選択的に結合して溶出させる適切条件下でイオン交換クロマトグラフィーを実行すれば、効果的に界面活性剤を除去できます。ショ糖密度勾配分離によって、界面活性剤を除去することも可能です。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.