一般にタンパク質や核酸を取り扱う研究において、還元剤[ジチオスレイトール (DTT)、2-メルカプトエタノール (BME)]、未反応架橋剤や標識試薬薬(スルホ-SMCC、ビオチン)、または防腐剤(アジ化ナトリウム、チメロサール)といった、実験手順の後続工程に干渉し得る小分子物質を除去する必要があります。同様に、電気泳動、イオン交換またはアフィニティークロマトグラフィーなどの下流アプリケーションでは、一般にタンパク質サンプルを別のバッファー系と交換することが推奨されます。タンパク質などの高分子サンプルに関する混入物の除去およびバッファー交換は、透析法によって行えます。

はじめに

透析は、半透膜を介した選択的かつ受動的な拡散により、溶液中の高分子から不要な微細化合物を除去する分離技法です。サンプルおよびバッファー(いわゆる透析液;通常はサンプルの200〜500倍容量)は、膜の反対側へ配置します。膜細孔より大きなサンプル分子は膜のサンプル側に保持されますが、小分子や緩衝塩は膜を自由に通過するため、サンプル中の小分子濃度が低下します。透析バッファーを交換すると、既にサンプル中には存在しない小分子が除去されるため、透析液中に多くの混入物が拡散します。このようにして、サンプル内の微細混入物の濃度を許容範囲内または極小レベルまで低下させることができます。

MembranePoresandMolecules透析膜の作用機序。透析膜は、様々なサイズの細孔を備えた半透過性の膜(通常シート状の再生セルロース)です。細孔サイズより大きな分子は膜を通過できませんが、それより小さい分子であれば自由に通過できます。このように、透析によって高分子含有サンプルに関する精製やバッファー交換が行えます。

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High-Performance Dialysis Brochure

Dialysis is a separation technique that gained popularity in life science laboratories during the 1950s. Research papers of that era described dialysis as a new, cutting-edge tool that scientists could use to unravel complex mixtures of biomacromolecules. Many of the dialysis theories established at that time are the cornerstones for contemporary products featured in this brochure. There are, however, two major differences between the dialysis tools of yesterday and today—preparation time and the amount of sample loss due to leaks. Early laboratory dialysis methods involved dedicating a significant amount of time to membrane preparation; Thermo Scientific Pierce Dialysis Products are essentially ready to use and resist sample leakage.

拡散の原理

透析は、拡散による、溶液中分子のランダムな熱的移動プロセスであり、高濃度から低濃度の領域への正味の移動が(平衡に達するまで)起ります。透析において、サンプル容器内の不要分子は、半透膜を通過して液剤または透析液の第二容器へ拡散します。大きな分子は膜孔を通過できないため、サンプル容器内に残ります。対照的に、小分子は膜を自由に通過しながら拡散するため、溶解液の全容量にわたり平衡状態となり、サンプル中の小分子濃度が効果的に低減します。

各透析バッファーの変更前に、平衡化のために透析を実行できる場合であれば、膜に保持された物質はバッファー対サンプルの容量比で精製されます。例えば解析バッファー200 mLに対してサンプル1 mLを透析する場合、均衡化の達成時には不要な透析物質の濃度が200倍低下します。各200 mLの二つの追加バッファーを変更した後、サンプル中の混入物レベルは8 x 10^6 (200 x 200 x 200)分の1に低減します。元のサンプルに100 mMのDTTが含有されている場合、全サイクルを3回行った後、サンプル中のDTTは約12.5 nMまで低減する可能性があります。濃度をさらに低下させたい場合は、透析液量を追加して透析プロセスを続行してください。

透析製品のセレクションガイド

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透析の能力

透析達成の所要時間は、分子の拡散速度に影響を与える事項により決まります。分子の熱力学は熱により影響を受けるため、温度を上昇させると拡散速度が上がります。したがって、透析は4℃よりも室温の方が進行速度は高くなります。適切な温度設定については、目的分子の熱安定性を考慮したうえで決定することが重要です。また拡散速度は、分子濃度に正比例する一方、その分子量に反比例します。分子濃度が上昇するにつれて、これらの分子の一つが透析膜に接触して膜の反対側まで拡散する可能性が高まります。しかし分子の分子量が増加するにつれて、溶液中での移動速度および膜を通過して拡散する可能性は低下します;分子が小さく細孔を通過できる場合も同様です。

また透析速度は、膜の表面積に正比例し、膜の厚さに反比例します。ラボ透析アプリケーション用の標準的な膜は厚さ0.5〜1.2 mil (12〜30 µm)であり、完全な構造を備えており、適正な拡散速度を実現します。膜の厚さは一定であり容易に変更はできませんが、一般に膜の表面積は変更可能です。平坦に近い形状の方が、膜表面上に広く拡散させることができ、迅速に透析が行えます。これは、サンプル中の全ての分子が膜に接近して、大半の分子がいつでも膜に直接接触できる状態であることに起因します。Thermo Scientific Slide-A-Lyzer Dialysis CassettesやMINI Devices and Flasksなどの高性能透析製品は、種々のサンプル容量に対する表面積対容量比を(実用範囲内で)最大化させる設計です。

A13n08-Fig4-SAL-rates-copy透析速度に対する表面積対容量比の影響。上のグラフでは、Thermo Scientific Dialysis Devicesの4種類のサイズで透析した各サンプル(2 mL、70 mL、70 mL、および200 mLで、それぞれ3.5 KのMWCOを有する)からの1 MのNaClの除去率を示しています。極大容量(例:4 L)の水(透析液)について室温下で透析を行いました。各指定時点(グラフ中の三角印)において、透析バッファーを交換して、サンプル導電率の測定によってNaClの除去率を測定しました。大型装置(フラスコ)は、表面積対容量比がその他の装置の二分の一に相当するため、処理速度が遅くななったと考えられます。

また透析処理中にバッファーを撹拌すると、拡散速度が上がります。低分子量化合物は、細孔を通過して膜の外側へ出ると、ネルンスト拡散層と呼ばれる微小環境を形成します。この拡散層(厚さ約200~300分子)において、低分子量化合物は残りの透析液と比較して高濃度です。分子は透析膜の細孔へランダムに再侵入してサンプルへ戻るため、この局所的な高濃度状態は透析速度の低下を誘因します。攪拌によってネルンスト層外側のマクロ環境が効果的に破壊されるため、拡散プロセスを駆動するのに必要な濃度差が維持されます。

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膜の分子量カットオフ

透析膜の細孔の平均または最大サイズによって、膜を通過して拡散できる分子のサイズが決定づけられ、その分子量カットオフ(MWCO)が定義されます。膜のMWCOとは、膜を通して有効に拡散しない標準的分子の最小平均分子量を指します。一般に名目上MWCOは、拡張透析時に90%以上保持される最小サイズの球状分子として定義されます。したがって、一般に10 KのMWCO透析膜は、少なくとも分子量10 kDaを有するタンパク質を保持します。

膜のMWCOは厳密な規定値ではありませんのでご注意ください。MWCO付近の分子は、MWCOよりはるかに小さな分子に比べて、拡散速度が遅くなります。再生セルロースから成る透析膜には、様々なサイズの細孔が備わっています;非常に大きな分子でさえ100%保持することは実際不可能です。透析アプリケーショにおいて混入物の除去に十分な時間を確保するには、上記の透析膜の性質や、表面積対サンプル容量比 (SA:V)による影響を把握しておくことが不可欠です。

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膜の取り扱い

ラボ透析用の標準的な膜は再生セルロース製であり、銅アンモニアまたはビスコースいずれかの処理によって製造されています。いずれの処理法においても、溶解セルロースは、チューブまたはシートとして製造された後に乾燥されます。乾燥によるひび割れを防止するために、通例はグリセロールを添加して、期待される孔構造を維持します。3.5 K、7 K、10 Kの各MWCO膜の細孔サイズは、15~50オングストロームです。膜には対称的な細孔構造が備わっているため、小分子は膜を通して両方向へ移動できます。再生セルロースは親水性であり、バッファー中で飽和しやすいため、水溶液中での透析用途において均質な媒体を提供します。膜の拡散能力は、親水度に直接関連しています。

再生セルロース膜の製造過程によって、最終製品中に低レベルの「混入物」が若干混在します;特定の実験では、サンプルの混入物成分による影響に関して考慮する必要があります。主な混入物としては、硫黄化合物 (0.01~0.3%)、重金属 (トレース)およびグリセロール (0~21%)などが挙げられます。これらの低分子化合物の大半は、透析処理中に膜の外側へ拡散します。そのため、これらの物質によって目的分子の機能性が妨害され得る場合、サンプル添加前に膜を予備透析、あるいは超純水またはバッファーで30分間処理してください。

再生セルロースは、ほとんどタンパク質吸着を起こしません。一部のタンパク質吸着はあらゆるサンプルで発生しますが、高濃縮サンプルであれば、総タンパク質に対する損失率が比較的低くなります。また再生セルロース膜は、セルロースアセテート(セルロースエステル)製の膜よりも化学的適合性と熱安定性が優れています。再生セルロース膜は、有機溶媒および弱酸や希釈酸に対して高耐性であり、タンパク質や分子生物学のアプリケーションで一般的に用いられるpH範囲や緩衝塩に適合します。

全てのセルロース膜は、セルラーゼ酵素活性に対してセンシティブです。膜の使用前に長期間湿潤保存する場合は、標準濃度の抗菌剤(例:0.05%アジ化ナトリウム)を添加しておくと、セルロース分解性微生物の増殖を防止できます。一度湿らせた膜は、再グリセリン化されていない限り、乾燥させないようにしてください。乾燥によって細孔サイズが変化する(縮む)可能性があります。結ぶことによって透析チューブの端を(結び目で)塞がないでください。張力により、細孔サイズやMWCOが増大する可能性があります。酵素や微生物の混入を防ぐため、膜を素手で触れないでください。Slide-A-Lyzer Dialysis Cassettes、MINI Devices and Flasksなどのアセンブル装置を利用すれば、セットアップやサンプル取り扱いの際に膜を加工する必要がありません。

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透析手順

サンプル成分と透析バッファー溶液の間には違いがあります。透析バッファー溶液は、透析を行う膜全体で濃度差を発生させます。バッファー対サンプル容量比を高く設定すると、濃度勾配を維持することができます。透析バッファーの交換回数と透析回数も、透析から得られる結果に影響する要因となります。各サンプルに関連して変動があるため、あらゆるアプリケーションに共通した透析手順を提示することはできません。ここでは一般的ガイドラインのみご紹介いたします。同様に処理の完了時点は、やや主観的に決めることになります。実験の後続工程に干渉しないレベルまで、低分子量化合物の濃度を低下させることが目的です。

タンパク質サンプルの一般的な透析手順:

  1. 指示に従って、膜をプリウェット処理または調製します。
  2. 透析管または透析装置へサンプルを充填します。
  3. 室温で1〜2時間透析します。
  4. 透析バッファーを交換して、さらに1〜2時間透析します。
  5. 透析バッファーを交換して、4℃で一晩透析します。

注: 優れた結果を得るには、サンプル容量の少なくとも200倍容量の透析バッファー(透析液)をご使用ください。Slide-A-Lyzer Dialysis Flasksなど大容量装置の使用に際して、透析液を節約する場合は5倍過剰の透析液を用いれば十分です(特に数回交換を行う場合)。

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透析膜を用いたタンパク質濃縮

サンプルの多くは、浸透圧の影響によって透析処理中に水またはバッファーを取り込みます。サンプルの出発塩濃度が高い場合や、サンプル成分が吸湿性である場合に、このような傾向があります。出発塩濃度が高い場合、サンプル中の緩衝塩が外側へ拡散できるよりも迅速に、浸透によって水がサンプルへ侵入します。その結果、透析サンプル相内のサンプルが膨張します。こうした場合には、サンプルを元の濃度へ戻すか、サンプル容量を減少させることが推奨されます。

サンプルを濃縮するために、通常の透析液の代わりに、サンプルを含有する透析膜を吸湿性化合物の溶液の入った小さなポリ袋に入れます。サンプルを混入させないために、吸湿性化合物(例:高分子量ポリエチレングリコール)は、透析チューブの細孔サイズより大きな分子から構成されている必要があります。 この設定手順では、水や小分子がサンプルから出て吸湿性溶液へ拡散(浸透)する際に、濃縮が起こります。

また、強制透析によってサンプルを濃縮する手法もあります。透析膜内に含まれるサンプルには減圧を行います;この結果、水、緩衝塩および低分子量化合物が、透析サンプル容器から効果的に「引き」出されます。また、別のダイアフィルトレーション方式では、遠心力により透析膜を介してサンプルを「押圧」します;近年需要の高まるタンパク質濃縮装置では、この原理を基盤にしています。

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For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.