免疫組織化学的解析において、組織および細胞の形態の維持、および抗原部位の反応性は不可欠な要素です。

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はじめに

免疫組織化学(IHC)において、固定化は以下4点の重要な役割を果たします:

  • 細胞形態と組織構造を安定化させる
  • タンパク質分解酵素を不活化 する
  • 今後の処理や染色への耐性を高めるため、サンプルを強化する
  • 微生物による汚染や分解からサンプルを保護する

適正な固定化を行うには、アプリケーションおよび染色対象の標的抗原に基づいて最適化を行う必要があります。固定化には以下の手法があります:

  • 灌流:瀉血と生理食塩水灌流を行った後、組織を固定液で灌流することにより、深部組織を迅速に固定化させる手法です。
  • 液浸:サンプルを固定液に浸漬させることにより、組織や細胞に拡散させる手法です。組織全体で完全かつ徹底した固定化を行うために、一般に液浸と併せて灌流も実行されます。
  • 凍結:サンプルの有する抗原が化学的固定化または脱パラフィンでの有機溶剤暴露に対して敏感過ぎる場合、OCTなどの凍結保護の包埋媒体にサンプルを埋め込むことができます。その後、急速凍結させて液体窒素中で貯蔵します。
  • 乾燥:ICCにおける血液塗抹標本を空気乾燥させて火であぶることにより、細胞をスライドへ熱固定化させる手法です。

特定の固定液は、あるエピトープの免疫反応性を保持できる一方、別のエピトープについては免疫反応性を破壊する可能性があります。両エピトープが同一の抗原上にある場合でも、一方が破壊される恐れがあります。本ページのガイドラインを参照しながら、特定の系に適した固定液を決定することができます。ただし、各抗原はそれぞれ固有の特性を有しています。そのため固定液を選ぶ際には、以下の事項に関して検討してください:

  • 固定液のタイプ(ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、その他)
  • 浸透率および固定化率
  • 固定液濃度
  • pH
  • 温度
  • Post-fixation treatment固定化後の処理

化学的固定化と物理的固定化の比較

化学的固定液によって、サンプルタンパク質を架橋または沈殿させて、標的抗原をマスクする可能性があります。もしくは、長期固定後に、抗体が組織標的へ到達するのを防害する可能性があります。全ての組織、サンプルまたは抗原に対応する万能型の固定液は存在しません。したがって、抗原を変性させずに、あるいは組織の内在位置と細胞細部を破壊せずに、適切な固定化のバランスをとるために、各固定化手順を最適化させる必要があります。

物理的固定化は、染色用サンプルを調製する代替法です。この特異的手法は、サンプル供給源と標的抗原の安定性に基づいています。例えば血液塗抹標本は、乾燥させることよって固定化させます。この結果、サンプルの液体成分が除去されて全細胞がスライドに固定化されます。組織がパラフィン除去や抗原回復のための処理に対して敏感過ぎる場合、最初にその組織をOCTなどの凍結保護の包埋媒体に埋め込み、その後急速凍結させて液体窒素中で貯蔵します。

000015-IHC-Ezrin-HRP-DAB-400px結腸癌組織におけるエズリンの発色性IHC検出ヒト結腸癌組織サンプルを4%パラホルムアルデヒドで固定化しました。その後、抗エズリン抗体、次いでHRP結合ヤギ抗マウス二次抗体で、このサンプルをインキュベートしました。それから、Pierce Metal-Enhanced DABを用いてシグナルを発しました。

ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドおよびその他の化学固定液

ホルムアルデヒド

ホルムアルデヒドは、最も一般的に使用される化学固定液であり、あらゆる細胞標的に対して幅広い特異性を示します。この水溶性・無色・毒性・刺激性のガスは、タンパク質や核酸上の第一級アミンと反応して、部分的に可逆的なメチレン架橋を形成します。

ホルムアルデヒドおよびパラホルムアルデヒド

市販のホルムアルデヒドの大半は、蒸留/脱イオン水に溶解したパラホルムアルデヒド(高分子ホルムアルデヒド)で調製されており、ホルムアルデヒド水溶液を安定化させるためにメタノールが添加されています。ギ酸への酸化やパラホルムアルデヒドへの最終再重合を防ぐため、溶液を安定化させることが重要です。このために市販のホルムアルデヒドには、最大10%のメタノールが含有されている場合があります。固定化においてメタノール混入のホルムアルデヒドを使用しないように、多くのプロトコルでは、サンプル固定化の直前にパラホルムアルデヒドから「新鮮な」ホルムアルデヒドを作製することが推奨されています。

ホルマリンとホルムアルデヒドの比較

一般に「ホルマリン」および「ホルムアルデヒド」という用語は、互換的に使用されます。ただし、各固定液の化学組成は異なります。つまり、ホルマリンはホルムアルデヒドから作製されますが、ホルムアルデヒドはホルムアルデヒド溶液と濃度が異なります。例えば10%中性緩衝ホルマリン(NBF、または単にホルマリン)は、実際には4%ホルムアルデヒド溶液です;この違いは、従来、ホルマリンは商用グレードのストックホルムアルデヒド(37〜40%ホルムアルデヒド、リン酸緩衝液中で1:10希釈による)で調製されていたことに基づきます。

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グルタルアルデヒド

グルタルアルデヒドは、アミノ基、スルヒドリル基(および場合によっては芳香環構造)に対して反応するジアルデヒドです。グルタルアルデヒドを含有する固定液は、ホルムアルデヒドより強力なタンパク質架橋剤です。この架橋剤は比較的緩徐に組織へ浸透するため、可溶性抗原の溶出や構造変化が発生します。遊離性の不飽和アルデヒド基を用いて、抗体などのアミン含有部分を共有結合させることができます。そのため、グルタルアルデヒドベースの固定液で固定化された組織は、イムノアッセイ前に不活性アミン含有分子で処理する必要があります。エタノールアミンおよびリジンは、アルデヒドブロッカーの中でも最も有効性が高いです。

その他の固定液

塩化水銀ベースの固定液は、弱い細胞学的保存を克服する目的で、ホルムアルデヒドベース固定液の代わりに使用されます。この固定液は、相加性と凝固性の特性により作用します。この固定液を使用する主な利点として、良質な浸透性によって免疫染色が増強される点、さらに細胞細部の保存によって形態学的解釈が容易に行える点が挙げられます。一般にこの固定液には、浸透圧を維持させるため中性塩が含有されており、他の固定液と混合させると平衡バッファーとなります。塩化水銀ベースの固定液には、ヘリー液およびツェンカー液が含有されています。免疫染色を行う前に、水銀鉱床を切片から除去する必要があります。

沈殿固定液 には、エタノール、メタノールおよびアセトンが含有されています。この固定液によって、大きなタンパク質分子が沈殿します。細胞学的保存に適した固定液です。この固定化試薬は、細胞を透過性にする能力があります。この能力は、使用サンプルによっては重要な要素となるでしょう。しかし、組織の収縮を引き起こすことから、電子顕微鏡法には適していません。

ジイミドエステルの固定化は、アミン反応性架橋剤のジメチルスベリミデート(DMS)を使用して、アルデヒドベースの固定化を行う代替法です(Hassel, J. 、1974年)。DMSは、タンパク質のαアミノ基およびεアミノ基を有した二機能性試薬です。ジイミドエステルは、分子上の官能基に隣接したアミノ基を運搬するという固有の性質を有しています。そのため、DMSによるタンパク質の正味電荷の変化はありません。光学顕微鏡法および電子顕微鏡法の用途においてDMSを固定液として使用すれば、抗原の免疫反応性を保持することができ、またブロッキングを要するアルデヒド基が欠如しているといった利点があります。

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特定アプリケーション用の固定液製剤

組織化学や組織病理学に関する教本には、多種多様な固定液および様々な組織成分に対するその効果について詳細に記述されています。ともあれ、主要な固定液および対応する一般的標的抗原については、以下の一覧表をご覧ください。さらに、次表には一般的な固定液製剤を記載しています。

特殊抗原用の標準固定液
抗原固定液
低分子量のあらゆるタンパク質、ペプチドおよび酵素4%パラホルムアルデヒド
4%パラホルムアルデヒド - 1% グルタルアルデヒ
10%中性緩衝ホルマリン (NBF)
繊細な組織ブアン固定液
アミノ酸などの小分子4%パラホルムアルデヒド - 1%グルタルアルデヒド
血液形成臓器(肝臓、脾臓、骨髄);結合組織ツェンカー液
ヘリー液
核酸カルノア液
大型タンパク質抗原(免疫グロブリン)氷冷アセトンまたはメタノール (100%)
電子顕微鏡法に最適4%パラホルムアルデヒド - 1%グルタルアルデヒド
標準的な固定液製剤、および貯蔵や使用上の注意
0.1 Mリン酸バッファー中の4%パラホルムアルデヒド

混合する物質:

  • NaH2PO4、3.2g
  • Na2HPO4、10.9g
  • 蒸留水1000 ml
  • パラホルムアルデヒド40 g
    攪拌しながら混合物を60℃に加熱して、1N NaOHを1-2滴添加してパラホルムアルデヒドの溶解を促進させます。溶液を冷却して濾過します。
    4%パラホルムアルデヒド - 1%グルタルアルデヒドを含む0.1 Mリン酸バッファー
    上記のように、4%パラホルムアルデヒドを含む0.1 Mリン酸バッファーを調製します。その後添加する物質:
  • グルタルアルデヒド20 mL
    •  
      ブアン固定液

      混合する物質:

      • 飽和水性ピクリン酸750 mL
      • 40%ホルムアルデヒド250 mL
      • 氷酢酸50 mL
        室温で保存
        10%中性緩衝ホルマリン

        混合する物質:

        • Na2HPO4(無水)6.5 g
        • NaH2PO4•H20、4 g
        • 蒸留水900 mL
        • 40%ホルムアルデヒド100 mL
          4°Cで保存
          カルノア液

          混合する物質:

          • エタノール(無水)60 mL
          • クロロホルム30 mL
          • 氷酢酸10 mL
             
            ヘリー液

            混合する物質:

            • 塩化第二水銀5 g
            • 重クロム酸カリウム2.5 g
            • 蒸留水100 mL
            • 40%ホルムアルデヒド5 mL
              Liown容器中で、加熱、冷却、濾過。固定化後、蒸留水で24時間サンプル洗浄を行ってください。組織の処理に金属製ピンセットは使用しないでください。
              ツェンカー液

              混合する物質:

              • 塩化第二水銀5 g
              • 重クロム酸カリウム2.5 g
              • 蒸留水100 mL
              • 氷酢酸5 mL †
                Liown容器中で、加熱、冷却、濾過。固定化後、蒸留水で24時間サンプル洗浄を行ってください。組織の処理に金属製ピンセットは使用しないでください。
                沈殿溶液

                調製:氷冷アセトンまたはメタノール (100%)

                  室温で5〜10分間固定化させます。固定化、および(必要に応じて)透過処理に優れています。

                    †使用直前に構成成分を追加

                     

                    参考文献

                    1. Hassel, J. and Hand, A.R. (1974).J. Histochem.Cytochem.22 229-239.

                    For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.