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EMSA法は、タンパク質-DNA複合体の電気泳動の移動度の変化の確認をベースとしています。この複合体は、未変性ポリアクリルアミドゲルやアガロースゲルで電気泳動した際、フリーの直鎖状DNAよりもゆっくりと移動します[1,2]。DNAがタンパク質へ結合すると、DNA移動速度が変化または遅れることから、本アッセイはゲルシフトまたはゲル遅延度アッセイとも呼ばれます。
タンパク質-DNA複合体の分離能は、アッセイの各ステップにおける複合体の安定性レベルによって大きく異なります。電気泳動によって、タンパク質-DNA複合体とフリーのDNAは、速やかに分離され、サンプル中の結合DNAとフリーのDNA間の平衡状態の「スナップショット」が得られます。ゲルマトリックスによって、タンパク質-DNA複合体の安定化を補助する「casing」効果が得られます:タンパク質-DNA複合体のコンポーネントは、解離(分離)した場合でも高い濃度で局在されるため、迅速な再会合が促進されます[3,6]。また比較的低いイオン強度の電気泳動バッファーを用いれば、一時的に形成されるタンパク質-DNA複合体の安定性も補助するため、不安定な複合体でも解離/解析が行えます。
直鎖状DNA断片上に形成されたタンパク質-DNA複合体は、ゲル中での移動度が遅れる性質を持っています。一方、環状DNA(例:200〜400 bpの小サイズの環状DNA)を使用した場合、タンパク質-DNA複合体はフリーDNAより移動速度が速くなることがあります。これは、電気泳動の際に、スーパーコイルDNAが、ニックDNAまたは直鎖状のDNAよりも速く移動する現象と似ています。また、特定のタンパク質因子との結合により形成された、改変または湾曲(bent) DNAの立体構造を解離させる用途にも、ゲルシフトアッセイは適しています。ゲルシフトアッセイは、タンパク質-DNA相互作用の解析以外にも利用できます。タンパク質-RNA相互作用の解析[9,10]と同様に、タンパク質-ペプチド相互作用の解析[11]も、電気泳動をベースとした手法で行われます。
Our 72-page Protein Interactions Technical Handbook provides protocols and technical and product information to help maximize results for protein interaction studies. The handbook provides background, helpful hints and troubleshooting advice for immunoprecipitation and co-immunoprecipitation assays, pull-down assays, far-western blotting and crosslinking. The handbook also features an expanded section on methods to study protein–nucleic acid interactions, including ChIP, EMSA and RNA EMSA. The handbook is an essential resource for any laboratory studying protein interactions.
Contents include: Introduction to protein interactions, Co-immunoprecipitation assays, Pull-down assays, Far-western blotting, Protein interaction mapping, Yeast two-hybrid reporter assays, Electrophoretic mobility shift assays (EMSA), Chromatin immunoprecipitation assays (ChIP), Protein–nucleic acid conjugates, and more.
一般にEMSAでは、タンパク質への結合配列を含む直鎖状DNA断片が使用されます。ターゲットDNAが短く(20~50 bp)、十分に定義されている場合、特定配列を有する相補的オリゴヌクレオチドが低価格で合成でき、2本鎖を形成するためにアニーリングを行います。ほとんどのアプリケーションや配列において、スタンダードな脱塩精製のオリゴヌクレオチドは、EMSAの使用に十分なレベルの純度です。しかし、強力な二次構造を形成する配列や長い反復配列有する配列では、ゲル精製やHPLC精製が必要になる場合があります。こうした追加の精製によって、完全長で正しい配列を有するオリゴヌクレオチドを確実に得ることができます。
タンパク質-DNA相互作用の解析において、複数のタンパク質結合部位を有し、複数のタンパク質複合体が形成される場合、通例は比較的長いDNA断片が使用されます。一般にこうした比較的大きな断片(100~500 bp)の調製では、ターゲット配列を含むプラスミドDNAをクローニングし、制限酵素によって切り出すか、もしくはPCR反応によって必要な領域のみを増幅して調製します。この場合、目的のDNA断片をゲル精製し、さらに制限酵素消化またはシーケンシングによって確認する必要があります。スタンダードなエタノール沈殿法や脱塩法では、DNA断片調製に使用された酵素を除くことは難しく、さらに残存したプラスミドや鋳型DNAが原因で非特異的バンドが生じたり、アッセイ中の結合競合が発生しやすくなります。
EMSA反応において大量のDNAを使用する場合、エチジウムブロマイド染色やその他の蛍光DNA染色によってDNAバンドの可視化が行えます。しかし、多くのEMSA結合反応に用いられるキャリアDNAや非特異的な競合阻害物質(competitor)も染色されるため、高いバックグラウンドシグナルが発生します。またこの検出法では、大量のDNAを必要とします。しかしながら、非特異的結合を抑えるため、結合反応には低濃度DNAの使用が一般的に推奨されます(また安価です)。したがって一般的な手段では、実験を始める前にプローブを標識することによって、電気泳動後の特異的検出を可能にします。従来法では、以下のように³²P 標識のDNAプローブを調製していました:: Klenow断片を用いた3'-陥没末端のフィルイン(fill-in)による[γ-³²P]dNTP標識;あるいは、[γ-³²P]ATPおよびT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いた5'末端標識。電気泳動後に、ゲルをX線フィルムに露出させて、検出を行います。
コスト面や放射能関連の法規制による理由から、多くのラボにおいて非放射性ベースのEMSA検出システムへの移行が進んでいます。dNTPは、ハプテン(例:ビオチンやジゴキシゲニン)または蛍光色素で修飾できるため、さまざまな非放射性検出法でEMSAを行うことが可能です。適切なイメージングシステムを活用すれば、ゲル中の蛍光プローブのシグナルを直接検出する事が可能です。しかしながら、この手法は高価な機器を必要し、さらに放射性プローブほど感度が高くないため、今日までそれほど普及するに至っていません。
ハプテン標識のDNA probeを用いた場合、ウェスタンブロッティング検出で使用されている酵素基質ベースのシステムにおいて、ストレプトアビジンや抗DIG抗体などの二次検出試薬を介して可視化することが可能です。この方法を行うために必要な追加ステップは、適切なメンブレン上へ電気泳動後のタンパク質とDNAをトランスファーする操作のみです。適切な基質を使用すれば、ビオチン-ストレプトアビジン系は非常に安定で、最適化よって放射性プローブで得られる検出限界に相当する感度が得られます。ヌクレオチドを用いて上記のブロッティングアッセイを実行する際には、短い核酸断片のトランスファーと固定化を行うために、必ず正荷電メンブレンを使用してください。このタイプのメンブレンでは、ブロッキングや非特異的結合に関連した問題点が挙げられますが、市販の最適化されたキットを使用すれば改善が可能です。
非特異的競合阻害物質は、結合反応に無関係なブロッキング剤/消光剤として用いられる非標識核酸を指します。これには、非特異的タンパク質と標識されたターゲットDNAの結合を最小限に抑える効果があります。DNAゲルシフトアッセイでは、非特異的競合阻害物質として、超音波処理されたサケ精子DNAとポリ(dI-dC)がよく用いられています。この分断化された断片やポリマーから、過剰な非特異的部位が提供され、さまざまなDNA配列に非特異的に結合してしまう粗溶解物中のタンパク質を吸収します。試薬を適正な順序で結合反応へ添加する必要があります;有効性を最大限に引き出すため、標識DNA標的の添加前に、競合DNAを抽出物と共に結合反応へ添加してください。
標識プローブとタンパク質の結合によって得られたバンドの特異性を確認するため、特異的競合阻害物質を設定し、コントロールとします。特異的競合阻害物質は、標識プローブと同一配列を有しているか、あるいはターゲットのタンパク質が結合する事が確認されている配列を有しています。非標識の特異的競合プローブの添加量は、同一配列を有する標識プローブと競合によって標識プローブの由来のシグナルを抑制・消失させるために、通常モル比で200倍以上添加します。一方、最適化された実験系において、変異を入れた配列や低アフィニティーの結合部位を有する配列を過剰量を添加しても、特異的な相互作用とは競合せず、フレームシフトのバンドは保持されます。非特異的競合阻害物質場合と同様に、非標識の特異的競合阻害物質の添加するタイミングは、標識プローブの添加前です。ただし、非特異的競合阻害物質とタンパク質のインキュベート後に添加してください。
タンパク質-DNA間相互作用の強度や特異性は、以下の要因により影響を受けます:結合バッファーのイオン強度とpH、非イオン性界面活性剤の存在、グリセロールまたはキャリアタンパク質(例:BSA)、二価の陽イオン(例:Mg2+ またはZn2+)の存在/欠如、競合DNAの濃度と種類、結合反応の温度と時間。特定のイオンやpH、またはその他の分子が、結合反応時の複合体の形成に必須である場合、電気泳動バッファー中にそれらを入れておく必要があります。これによって、サンプルがゲルマトリックスに入るまでの間、相互作用が安定化されます。
核酸結合タンパク質の種類よって、それぞれ特有な結合条件が存在するため、全てのEMSAアッセイに万能型の反応条件は存在しません。しかしながら、EMSAは、よく研究対象となるターゲットの相互作用の解析に使用される研究手法であり、結合反応条件の関連情報については、目的タンパク質に関する研究論文から見つけ出すことも可能です。結合反応要件に関する情報が一切得られなかった場合、実験的に結合反応条件を検討する必要があります。この場合、まずは研究対象のタンパク質のタイプや、プローブ内のタンパク質が結合すると予想されるコンセンサス配列にフォーカスした条件で検証を行う事をお勧めします。例えば、核ホルモン受容体では、多くの場合、活性化のためにリガンドが必要となります。また、ジンクフィンガー(zinc-finger)タンパク質や核ホルモンタンパク質の場合、機能化のために亜鉛イオンが必要です。したがって、タンパク質リガンドや亜鉛イオンが、結合反応に必要となります。また、新規の核ホルモン受容体の結合反応を検討する場合、EDTAやEGTAなどの強力なキレート剤の使用は避けるのが無難です。
プローブへのタンパク質結合の要件に応じて、ゲルへのサンプルのアプライする方法ついても注意する必要があります。サンプルをゲルにロードする際、ウェル内に確実にアプライできるように、グリセロールまたはFicoll*(GEヘルスケア社)を結合反応サンプルに添加します。ローディング試薬が、結合反応に添加されていない場合、サンプルをゲルにアプライする直前に添加する事が可能です。また、ブロモフェノールブルーを添加すると、アプライする際にサンプルを目視で確認することができます。またブロモフェノールブルーは、トラッキング色素としても機能し、電気泳動の進行の確認が行えます。ただしブロモフェノールブルーやその他の色素は、タンパク質に結合して、結合反応を阻害することに留意してください。したがって問題が発生した場合、結合反応およびサンプルについて、トラッキング色素を添加した場合と無添加の場合の両試験区を設定して確認を行うことが重要です。このような場合、結合反応なしのサンプル、またはタンパク質非添加のサンプルにトラッキング色素を添加しておきます。
未変性TBEポリアクリルアミドゲルまたはTAEアガロースゲルを用いて、フリーDNAとタンパク質-DNA複合体を分離させます。従来はEMSA反応の分離に大型ゲルを用いていましたが、複合体を形成するタンパク質にも依存しますが、最大300bp程度のプローブであれば、ミニゲルでも十分使用できます。低分子のタンパク質と複合体を形成した大きなサイズのプローブを解析する場合、確実に正シフトを解離するために、比較的長いゲルが必要になります。ゲル濃度(%)の選択は、ターゲットDNAサイズや、タンパク質のサイズ、数、荷電によって決定します。タンパク質-DNA複合体をゲルにアプライしたら、ローディングウェルの底に溜まった状態で放置しないことが重要です。通常は4〜8%のポリアクリルアミドゲルが使用されています。ただし比較的小さいプローブや複合体には、高濃度のゲルは適用しません。E. coliRNAポリメラーゼ(~460 kDa) などの場合、アガロースゲル(0.7~1.2%)でも、非常に大きな複合体を分離させることができます。
結合反応を実行する前に、低温の室内で(あるいは、ゲルを低温に維持した状態で)、45~90分間、電流の変動がなくなるまで、ゲルを定電圧でプレランを行います。ゲルのプレランは、以下の目的で行います:過硫酸アンモニウム(ポリアクリルアミドゲルの重合に使用)を完全に除去する、電気泳動バッファーに添加された特殊な安定化剤またはイオンを分散/平衡化させる、ゲルを一定温度に維持する。ゲル上にサンプルをアプライした後、不安定な複合体を分析する場合は特に、フリーのDNAがゲルマトリックス内に入り込んでしまうため、電気泳動のデッドタイムを最小限に抑えることが重要です。サンプルを穏やかかつ素早くゲル内へアプライして、電気泳動をスタートします。プローブや複合体のサイズに依存しますが、サンプルの分離には30~90分かかります。ブロモフェノールブルーなどのトラッキング色素を利用すると、フリーのプローブの移動のモニターが行いやすくなります。ブロモフェノールブルーは、約30 bpの二本鎖DNAプローブよりも10〜20 mm遅れて移動します。一般に、フリーのプローブは、ゲルのボトム部分付近まで電気泳動します。ただしゲルから遊離しない程度に留めます。
特異的タンパク質がターゲットDNAに結合することにより、電気泳動での移動度がシフトされますが、この移動度の相対的変化によって、複合体中の結合タンパク質を同定することはできません。プローブに結合したタンパク質を同定するには、DNAに結合したと推定されるタンパク質に特異的な抗体を添加することによって確認する事ができます。ターゲットのタンパク質が標的DNAに結合すると、抗体はそのタンパク質-DNA複合体へ結合します。この結果、抗体が結合することによりシフトバンドの移動がさらに遅れます。これを「スーパーシフト」と呼びます。場合によっては、抗体によりタンパク質-DNA相互作用が壊され結果として特性変化が失われますが、スーパーシフトは確認されません。シフトバンドが消失したり、スーパーシフトが確認できない場合、結果は陰性と判断されますが、、適切なコントロールを設定することによって、目的タンパク質の同定が行いやすくなります。スーパーシフト反応は抗体だけでなく、二次結合タンパク質や間接的に結合するタンパク質の解析にも利用できます。
スーパーシフト実験を行う場合、結合反応の条件の検討をさらに十分に行う必要があります。抗体とタンパク質-DNA複合体は、適正な順序で添加してください。例えば、抗体によっては、複合体の形成前に添加すると、DNAへのタンパク質結合をブロックする可能性があります。スーパーシフトでは、抗体やタンパク質によっては、タンパク質-DNAシフト複合体では有効であった結合バッファーが使用できない場合があります。核タンパク質の多くは、還元条件が複合体のシフトに適しています。そのため、一般に1 mM以上のDTTをEMSA結合バッファーへ添加します。しかし抗体の多くは、還元条件下では、機能性が低下および消失します。可能であれば、ゲルシフトアッセイに使用可能であることが確認されている抗体を選択してください。また、ウェスタンブロッティングに有効でありながらELISAには有効でない抗体(変性タンパク質のみを検出)は、一般的にスーパーシフトアッセイには機能しません。
この場合、両者を組み合わせた「シフトウェスタンブロット」を行ってください。この方法では、ニトロセルロース膜や陰イオン交換膜へ、分離したタンパク質-DNA複合体をトランスファーする必要があります。ニトロセルロース膜上にトランスファーさせたタンパク質は、特異的抗体を用いて(ウェスタンブロット用抗体)、検出することが可能です。一方、オートラジオグラフィーまたは化学発光法によって、陰イオン交換膜上にトランスファーしたDNAを検出することができます[12]。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.