抗体を介した標的抗原の検出は、免疫組織化学において極めて重要性な要素です。本ページでは最良の結果を得るための秘訣について解説いたします。

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抗体希釈液とリンスバッファー

IHC染色において、抗体をバッファー溶液中で希釈し、染色や長期保存中の抗体を安定化させます。一般にこれらの溶液は、ウシ血清アルブミン(BSA; 0.2~5%)、あるいはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中にタンパク質性安定剤類を溶解したものを使用されいます。またTween 20などの界面活性剤を少量(0.1%)添加すると、サンプル全体へ均一に拡散しやすくなります。

抗体の各処理工程毎に必ずサンプルをしっかり洗浄します。これにより非結合の抗体が除去されるだけでなく、非特異的部位に弱く結合した抗体も除去されます。一般的なリンスバッファーはTween 20などの少量の界面活性剤(0.2%)から構成されており、PBSやトリス緩衝生理食塩水(TBS)中あるいは単に蒸留水中に希釈されています。各染色工程後に、数回の洗浄を行うことが推奨されます。

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レポーターの選択

酵素レポーターと発色基質

抗体介した抗原の検出には、標的抗原を視覚的に同定するためのレポーターが必要です。また以下をはじめとした様々な要素に基づいて、使用するレポーターのタイプを決定します:

  • 実験の種類
  • 抗原の発現レベル
  • シグナル定量化の必要性
  • 必要なイメージングのタイプ(光、エピ蛍光、共焦点)
  • 試薬や機器のコスト

最も一般的な検出方法は、酵素を介した発色検出とフルオロフォアを介した蛍光検出です。発色レポーターを用いて酵素標識を基質に反応させると、強力な発色生成物が得られます。これは標準的な光学顕微鏡で解析が行えます。アルカリホスファターゼ(AP)および 西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)は、タンパク質検出の標識として用いられる主要な2大酵素です。この二つの酵素は、発色性、蛍光性および化学発光性などの様々な基質を用いる事が可能です。

アルカリホスファターゼ(通常は仔牛小腸から単離される)は140-kDaのタンパク質であり、基質分子のリン酸基の加水分解を触媒します。この結果、発色物質が生成されたり、反応の副産物として光が放出されます。APは塩基性pH(pH 8~10)において最適な酵素活性を有しており、シアン化物、ヒ酸塩、無機リン酸塩、およびEDTAなどの二価カチオンキレート剤によって活性を阻害させることができます。

西洋ワサビペルオキシダーゼは40-kDaのタンパク質であり、過酸化水素の存在下で基質の酸化を触媒します。この結果、発色物質が生成されたり、反応の副産物として光が放出されます。HRPは中性付近のpHで最適に機能し、シアン化物、硫化物および酸化物によって阻害させることができます。抗体-HRPコンジュゲートは、抗体-APコンジュゲートよりも、酵素および抗体の比活性が優れています。また、高いターンオーバー率、優れた安定性、低コスト性、基質の多用途性などの観点から、HRPはあらゆるアプリケーションに最適な酵素となります。

IHC用の一般的発色レポーターの特性

酵素標識基質レポーターのカラー
西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)3,3'-ジアミノベンジジン(DAB)茶色から黒
アルカリホスファターゼ(AP)ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)および 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)の組み合わせ黒から紫
ブドウ糖酸化酵素ニトロブルーテトラゾリウムクロライド(NBT)青から紫
β-ガラクトシダーゼ5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルβ-D-ガラクトピラノシドで(BCIG or X-Gal)

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蛍光レポーター

有機蛍光色素は、プローブまたは一次/二次抗体へ修飾され、IHCに使用されるケースが増えています。蛍光レポーターは、酵素の活性化に基質を使用する必要がありません。また高解像度の蛍光顕微鏡法により抗原の検出が行えます。さらに蛍光レポーターは、抗原ごとにさまざまな蛍光色素を修飾することができ、多重染色ができるという利点があります。

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発色IHCおよび蛍光IHCを用いた標的抗原の検出法。 ヒト結腸癌切片については、間接検出あるいは一次抗体の直接ビオチン化いずれかの手段によって、サイトケラチン18を染色しました。間接検出では、Thermo Scientific Pierce Biotin-Conjugated Goat Anti-Rabbit Secondary Antibody、Poly-HRP conjugateおよびMetal Enhanced DABを用いてシグナルを開発しました(上左図)。また一次抗体を直接ビオチン化させた場合には、Thermo Scientific DyLight 594-Conjugated Streptavidinを用いて蛍光検出を行いました(右図の赤色部分)。 またThermo Scientific Pierce Hoechst Stainを用いて、細胞核を蛍光標識しました(右図の青色部分)。

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直接染色と間接染色の比較

抗体介した抗原の検出手法には、直接検出と間接検出の2種類があります。標的抗原の発現レベルに応じて、使用する検出方法を決定してください。

Direct_vs_Indirect_Ab_Detection直接検出法と間接検出法の概略図。

抗体の直接検出

抗体の直接検出法では、標的抗原に対する抗体(一次抗体)を酵素[通常、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)またはアルカリホスファターゼ(AP)]に結合させた後、基質を添加して活性化させます。あるいは、蛍光色素修飾した一次抗体を用いると、蛍光顕微鏡法による検出が可能になります。直接検出は、二次抗体を添加する追加ステップが必要ありません。その一方シグナル増幅が不可能であるため、少量のタンパク質の場合シグナル検出が困難になることがあります。またコンジュゲートのプロセスにより、標的抗原と一次抗体の結合が妨害される場合があります。とはいえ直接検出法には、次の重要な利点があります:多色蛍光染色は、使用する検出システム(蛍光顕微鏡)で検出できるすべての波長の蛍光色素が使用できます。、また一次抗体の有効性について、ホスト生物種によって制限されません(通例は単一種のみに制限され得る)。

抗体の間接検出

間接検出法では、未標識一次抗体に特異的な二次抗体を用いて一次シグナルの増幅を行います。複数の二次抗体が単一の一次抗体に結合できるため、このシグナル増幅が可能になります。つまり、二次抗体の添加により標的抗原の検出感度が向上します。最も一般的な検出法では、酵素結合や蛍光色素結合の二次抗体を使用します。複数の二次抗体が各一次抗体に結合した後、酵素標識(通常HRPまたはAP)を基質に反応させると、発色反応が得られます。また酵素標識システムを使用した場合、電子顕微鏡法で生成物を高電子密度にできるといった利点もあります。

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間接IHC染色は、直接法よりも標的シグナルの増幅に関して優れています。 ヒト結腸癌組織サンプルについては、直接検出法または間接検出法いずれかによってサイトケラチン18の固定化および染色を行いました。直接検出法では、ビオチン結合抗サイトケラチン18抗体(上左図)を使用しました。また間接検出法では、一次抗サイトケラチン18抗体およびThermo Scientific Biotin-Conjugated Goat Anti-Mouse Antibodyを使用しました(右図)。 両検出法とも、Thermo Scientific DyLight 649-Conjugated Streptavidinを用いて標的抗原を蛍光検出しました。

抗原の間接検出法

アビジンは卵白中に天然に存在する四量体タンパク質であり、ビオチンに対して高親和的かつ高特異的に結合します。抗原の検出を行うアビジン-ビオチン複合体法(ABC法)は、ビオチン標識した二次抗体を使用することによりこの結合親和性を利用して、一次抗体からのシグナルを増幅させます。HRPまたはAPを大きなアビジン-ビオチン複合体に標識し、サンプルへ添加すると、各複合体が酵素標識されてシグナルがさらに増幅します。

標識ストレプトアビジンビオチン(LSAB)法は、酵素レポーターを直接アビジンに結合させる手法で、上記のABC法に基づいて構築されています。LSAB法で形成される複合体はABC法で形成される大型複合体より小さいため、到達しづらいエピトープへのタグ付もLSAB法では容易に行えます。LSAB法の検出感度は、従来のABC検出法より8倍向上することが実証されています。

ホスファターゼアンチホスファターゼ(PAP)法は、ABC法やLSAB法より増幅レベルが高いため、感度がさらに優れています。PAP法では、未修飾の二次抗体を一次抗体に添加するため、複数の二次抗体が一次抗体に結合します。その後、三次抗体とペルオキシダーゼの複合体を添加します。その結果、複数の三次抗体が各二次抗体に結合するため、基質の活性化時の増幅レベルは、二次抗体のみの増幅時よりも100〜1000倍高くなります。さらにPAP法は、少量の一次抗体で各サンプルを染色できるという利点もあります。ただし追加の抗体(抗ホスファターゼ)が必要になります。

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IHCの間接検出法の概略図。

基質

可溶性基質と酵素の反応により、不溶性の発色物質が産出される結果として、免疫酵素組織の染色が行われています。基質の添加時の発色強度は、一次抗体の濃度と各組織抗原レベルに相関します。これらのアプリケーションに使用される酵素は様々ですが、最も一般的な酵素は西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)とウシ腸アルカリホスファターゼ(AP)です。酵素活性は酵素濃度、基質濃度、バッファー、pH、温度、(場合によっては)光といった様々な可変要素に依存しています。

スタンダードして使用されている従来品から、高感度かつ低バックグラウンドシグナルに最適化したキットまで、様々なタイプの基質が存在します。

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免疫組織化学用の基質

酵素標識基質レポーターのカラー
西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)3,3'-ジアミノベンジジン(DAB)茶色から黒
アルカリホスファターゼ(AP)ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)および 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)の組み合わせ黒から紫
ブドウ糖酸化酵素ニトロブルーテトラゾリウムクロライド(NBT)青から紫
β-ガラクトシダーゼ5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルβ-D-ガラクトピラノシドで(BCIG or X-Gal)

最適化戦略

チラミドシグナル増幅(TSA)によって、シグナル増幅をさらに強化できます。この増幅法はペルオキシダーゼ修飾の検出システムと組み合わせて実行できます。この手法は、ペルオキシダーゼ修飾の触媒活性を利用して、抗原に結合した一次抗体に局在する色素や標識を増やします。つまり、まず一次抗体およびペルオキシダーゼ修飾二次抗体を添加し、抗原との複合体を形成させます。 次に、チラミド誘導体修飾したタンパク質プローブをサンプルに添加します。チラミド誘導体は二次抗体に結合したペルオキシダーゼと反応し、高反応性のチラミドラジカルを形成します。これは、短寿命活性のチラミンの近傍に位置するチロシン残基に共有結合します。結合の後、チラミド修飾タンパク質プローブの検出は、プローブに特異的なチラミド修飾抗体を用います。また、ビオチン修飾プローブを使用する場合は、ペルオキシダーゼ修飾のストレプトアビジンを使用します。TSAシステムにより非常に低発現のタンパク質の検出が100倍向上することが報告されています。しかしながらTSA専用キットは高価であり、詳細な最適化を必要とし、さらにバックグラウンドシグナルが高いといった欠点もあります。

アビジンが正荷電されグリコシル化されると、組織サンプル中の非特異的結合および糖結合レクチンとの相互作用が原因で、高バックグラウンド染色が起こる場合があります。ストレプトアビジンは、アビジンとは進化的には別に、、ビオチンに類似した親和性を示します。しかしグリコシル化されておらず、わずかに負荷電であるため、バックグラウンドを低減させることができます。Thermo Scientific NeutrAvidin Proteinは市販のアビジン製品として、脱グリコシル化と修飾の処理済みで中性荷電を有するため、非特異的結合やバックグラウンドのさらなる低減が可能です。

一般にビオチン修飾を施すと、酵素活性を維持させるために、付加可能なHRP分子数がタンパク質当たり1~3個に限定されます。HRP酵素は小さいため、高分子HRP(ポリHRP) 結合型の二次抗体を用いて感度をさらに高めることができます。そのため一部の研究ではABC型増幅システムを使用する必要がありません。ポリHRPは独自技術により、酵素機能を維持しつつ複合体のHRMモル比を上昇させることによって、非常に微量な(ピコグラムやフェムトグラムレベル)のタンパク質の検出感度を向上させます。

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For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.