抗原へ特異的結合できる抗体を産生する動物免疫系の特性を活かして、あらゆる研究や診断の用途で目的分子の検出プローブを製作することができます。研究者自身により設計・製造できる高特異的な分子認識ツールは、現時点では本技術のみです。

分子解析に携わる医学研究者や細胞生物学研究者なら、何らかの形で抗体技術を利用していることがほとんどです。各人の研究ニーズによって、抗体の産生や精製への研究者による関与程度は異なるでしょう。


はじめに

抗体は、体内へ侵入する外来分子に反応して、免疫系により産生される宿主タンパク質です。抗原と呼ばれるこれら外来分子が免疫系により分子認識されることによって、特定抗原への結合能力を有した抗体を選択的に生産します。Bリンパ球により産出される抗体は、血液中やリンパ液中を循環しながら特定抗原に結合することによって、循環経路から当該抗原を除去させることができます。

抗原へ特異的結合できる抗体を産生する動物免疫系の能力を活用して、様々な研究や診断用途において目的分子の検出用プローブを生成できます。もちろん、研究者自身の手で設計や製造が行える技法は、高特異的な分子認識ツールしかありません。高特異性の他にも重要な特性がいくつかあるため、抗体はプローブの開発に特に有用です。例えば、各抗体は比較的均一かつ十分に特徴付けされたタンパク質構造を共有する(抗原結合決定部位は除く)ため、汎用メソッドにより予測に沿いながら、再現性の高い抗体の精製、標識および検出が可能になります。

抗原特異的プローブ用の抗体を生成、精製および修飾する手法は、1970年代から1980年代に開発されました。そして、今日では著名な「抗体:実験室マニュアル」(Harlow氏、Lane氏による共著)が1988年に出版されて以来、基本的にこの手法は変更されていません。

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抗体の生成

「抗体生成」という用語には、概略的な意味と特定の意味の2つがあります。広い意味で抗体生成とは、特定メソッドですぐに使用することを目的として、免疫原調製、免疫化、ハイブリドーマ作成、回収、スクリーニング、アイソタイピング、精製、および標識などの各工程を含む、使用可能な特異的抗体を生成する全プロセスを指します。限定的な意味での抗体生成とは、抗体生成に至るまでの工程を指します。ただし、特定用途用の抗体の各種精製方式と標識方式は除外します。

抗体を生成するには、実験動物や家畜へ調製済み抗原サンプルを安全に注射することによって、血清中の抗原特異的抗体を高レベルで発現させた後、動物体内から抗体を回収します。ポリクローナル抗体は、血清(出血)から直接回収されます。免疫化マウス由来の抗体分泌脾臓細胞と、不死骨髄腫細胞(細胞培養上清中の特異抗体を発現するモノクローナルハイブリドーマ細胞株を生成する)を融合させることによって、モノクローナル抗体が生成されます。

抗体生成を達成させるには、以下数項目の主要工程と検討事項に関して綿密な計画を立てることが重要です:

  • 標的抗原の合成または精製(例:ペプチドまたはハプテン)
  • 適切な免疫原性キャリアタンパク質の選択
  • 免疫原を作製する抗原とキャリアタンパク質の結合
  • 適切なスケジュールとアジュバント式による動物免疫化
  • 抗体価およびアイソタイプに関する血清(またはハイブリドーマ)のスクリーニング(「抗体の特徴付け」とも言われます;下記をご参照ください)

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抗体精製

抗体を精製するには、 血清(ポリクローナル抗体)、腹水またはハイブリドーマ細胞株の培養上清(モノクローナル抗体)から抗体を単離する必要があります。クルード状態から高特異的精製まで対応します:

  • クルード—免疫グロブリンを含む総血清タンパク質サブセットを沈殿させます
  • 標準精製—抗原特異性に関わらず、特定の抗体クラス(例:IgG)を親和性精製します
  • 特異的精製—特定抗原分子に結合するサンプル中の抗体のみを親和性精製します

有効な抗体を得るには、抗体の使用目的に応じて、必要な精製レベルが異なります。

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抗体の特性評価

抗体を特性評価するには、以下3つのプロセスをとります。通常これらのプロセスは、抗体の生産と精製のプロジェクト全体において様々な段階で実行されています。

  • スクリーニング—抗原結合特異性を有した抗体サンプルを同定する
  • 滴定—抗体濃度と機能アッセイ力価を測定する
  • アイソタイピング—モノクローナル抗体のクラスおよびサブクラスの属性を決定する

抗原特異的抗体を高レベルで産出している動物やハイブリドーマのクローンを同定するために、産出プロセスの第一段階にスクリーニングを行う必要があります。スクリーニングには、通常、ELISA法を適用します。

抗体濃度を推定するには、一般的なタンパク質アッセイを活用するか、もしくは特殊なマイクロ凝集アッセイキットなどを用いた種特異的かつ免疫グロブリン特異的な手法をとることができます。抗体価とは濃度に関連した指標ですが、より具体的には、所定の抗体サンプルの有効力価を指しています。力価測定とは、通常、ELISAなど所定アッセイでの検出に必要な抗体サンプルの希釈機能を測定することを指します。

アイソタイピングでは、モノクローナル抗体のクラス(例:IgGまたはIgM)およびサブクラス(例:IgG1またはIgG2a)をそれぞれ決定する必要があります。分子の精製法や修飾法を適切に選ぶにはアイソタイピングが必要であるため、抗体産生においてアイソタイピングは不可欠な工程となります。抗体アイソタイピング用の市販の既製キットを利用すれば、ごく簡単にアイソタイピングを実施できます。

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抗体の断片化

以下をはじめとした諸方法で、特定用途用に精製抗体を修飾できます:細微な抗原結合単位へ断片化させる;酵素や検出可能マーカーへ結合させる;固体支持体へ固定化させる。一般的には、全分子型の抗体が使用されています。ただし、非必須部位の除去された抗体を用いれば、各技法や実験のパフォーマンスを向上させることができます。

抗体断片化とは、 抗体分子全体を別個に切断させ、抗原結合に必要のない部位を除去する処理を指しています。FabおよびF(ab)'2は、IgGの抗体フラグメントとして、研究者の間では最も頻繁に作成・利用されています。

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抗体の標識化と固定化

抗原特異的プローブとして使用するため、抗体の生成と精製を行います。しかし、二次的な抗体検出メカニズムを抗体が有するか否かに応じて、所定技法(ELISA、ウエスタンブロッティング、細胞イメージング、免疫組織化学)における抗体の有用性が異なります。

免疫沈降やアフィニティー精製の形態で抗体を利用する技法は、クロマトグラフィー媒体(例:ビーズのアガロース樹脂)への結合/固定化メカニズムに依存しています。これを達成させる戦略では、抗体標識化と同様の考察点と化学的手法を導入しています。

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参考文献

  1. Alberts, B., et al.(1983).Molecular Biology of the Cell.Garland Publishing, Inc., New York, NY.
  2. Harlow, E. and Lane, D. (1988).Antibodies: A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.
  3. Sites, D.P., et al.(1976).Basic & Clinical Immunology.Lange Medical Publication, Los Altos, CA.

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.