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免疫組織化学(IHC)の原理は1930年代から既に知られていましたが、IHC研究に関する正式報告が最初になされたのは1942年以降となります。Coons ら(1942年) はFITC標識抗体を使用して、感染組織中の 肺炎球菌抗原の同定を行いました。それ以来、タンパク質コンジュゲーション、組織固定法、検出標識、顕微鏡に改良が加えられ、免疫組織化学は診断現場やラボにおいて代表的かつ不可欠なツールとなりました。
IHCは、疾患の診断、医薬品開発および生物学的研究の用途に活用されています。医療従事者は、特殊な腫瘍マーカーを用いながら、良性または悪性の癌診断、腫瘍の段階とグレードの決定、さらに原発腫瘍の部位を発見するため細胞型と転移起源の同定にIHCを活用しています。また、薬物開発において、疾患標的の活性またはアップ/ダウンレギュレーションのいずれかを検出する薬効テストの用途にも、IHCが利用されています。
各サンプルは別箇のスライド上で調製されますが、組織マイクロアレイなどの比較解析の用途では複数サンプルを単一スライド上に配置することもできます。IHCスライドを手動で処理や染色することもできますが、技術革新のなされた現在は、自動でハイスループットのサンプル調製と染色が行えます。サンプルの可視化は、光学顕微鏡または蛍光顕微鏡いずれを用いても可能です。また、過去15年間に機器性能が向上したため、画像キャプチャ、マルチパラメーターIHCデータ定量化の機能が改善され、ハイコンテントスクリーニングによるIHCデータ収集能力が向上しています。
可視化をするには、適正に抗原を標的し、シグナルを増幅する適切な抗体を使用することが不可欠です。一方、細胞形態、組織構造および標的エピトープの抗原性を維持させるには、サンプルを完全に調製することが必須条件となります。
アッセイ要件に応じて、患者や動物の生検、または動物の全臓器を収集し、保存やIHC分析に充てられます。細胞タンパク質や組織構造の破壊を防ぐため、迅速に組織を保存する必要があります。標的抗原検出を妨害し得る血液学的抗原の検出を防ぐ目的で保存を行う前に、通例は組織を灌流し、血液をすすぎ落とします。ペリスタポンプを用いて麻酔した動物に組織灌流を行うことにより、 動物を失血させ、滅菌生理食塩水で脈管構造を洗浄して、動物全体から全血液成分を除去します。その結果、IHC分析用の標的器官や組織を収集することができます。
固定化を行うと、タンパク質が化学的架橋されたり、タンパク質溶解度が低減されるため、長時間の固定化中や不適切な固定化中に標的抗原をマスクすることができます。そのため、用途や染色対象の標的抗原に応じて、適切な固定化法を最適化しなければなりません。
主要な固定剤は、半可逆性・共有結合性の架橋試薬のホルムアルデヒドであり、所要の固定化レベルに応じて、灌流や浸漬固定化の用途に使用可能な状態を半永久的に維持します。また、各種ご希望の抗原に対応した固定剤も取り揃えています。
長期保存中やIHC分析での切開中に、サンプルの天然形状と構造を維持させるには、パラフィンで固定化組織サンプルを包埋します。
パラフィン除去用の化学的固定化または溶剤いずれかに過敏なサンプルは、低温包埋媒質で包んだ後に、液体窒素中でスナップ凍結させます。
利用用途に応じて組織切片を行うか否かを決定します;例えば、厚さ5 mm以下のサンプルによる全組織標本IHC分析であれば切片を行う必要はありません。しかし、多重染色処理を要する小さなサンプルには、切片を行う必要があります。
ミクロトームを用いて、ホルマリン固定化・パラフィン包埋の組織を4~5μmサイズへ切片します。そして、粘着剤のコーティングされたガラススライドへこれらの切片をマウントします。通常、この粘着剤の添加には、組織が即座に結合するガラス表面にアミノ基を残す3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTS)またはポリ-L-リジンで表面処理されたガラススライドが用いられます。もしくは、ゼラチン、卵白アルブミンまたはElmer粘着剤などの理学的接着によりスライドをコーティングすることも可能です。マウント後、脱パラフィン調製のため切片をオーブンや電子レンジで乾燥させます。
凍結切片は、予め冷却したクリオスタットで切断した後、粘着性ガラススライドへマウントします。通常これらの切片は、室温下で一晩乾燥させた後、予め冷却(-20℃)したアセトン中に浸漬させて固定化します。ただし、使用する標的抗原や組織に応じて、乾燥処理を行わない場合もあります。
抗体を標的抗原へ到達させるには、ホルマリン固定・パラフィン包埋切片のパラフィンを完全に除去しなければなりません。IHCスライドからパラフィンを除去するには、通常、キシレン性、可燃性、毒性および揮発性の有機溶剤が使用されています。ただし、市販製品のご利用も可能です。
ホルムアルデヒド固定化により、組織サンプル中のタンパク質を架橋するメチレン架橋が起こります;こうした架橋によって、抗原提示がマスクされ、抗体結合を防ぐことができます。ホルマリン固定・パラフィン包埋の切片には、通常、加熱(熱誘導性エピトープ回復; HIER)または酵素分解(タンパク質分解誘発性エピトープ回復; PIER)いずれかの処理により、抗体エピトープのマスク解除処置を行う必要があります。
標的抗原の増幅や酵素検出を目的とした、ビオチン、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼなどに基づく染色アプローチでは、こうしたタンパク質内因性形態の作用により、偽陽性および高バックグラウンド検出が抑止されます。標準的戦略では、 全ての内因性ビオチンの物理的ブロッキングや、酵素活性の化学的阻害をする方法などをとります。
抗体は特定エピトープへ優先的に結合活性を示しますが、抗体は標的抗原の同族結合部位に類似した、非特異的タンパク質の部位(別称:反応性部位)へ部分的あるいはわずかに結合することがあります。抗体媒介性抗原の検出の状況下では、非特異的結合の作用により、高バックグランド染色が起こり、標的抗原検出をマスクする可能性があります。IHC、ICCおよび免疫染色などの用途においてバックグラウンド染色を低減させるには、一次抗体または二次抗体が何らかの状態で結合し得る反応部位をブロックするバッファを用いて、サンプルをインキュベートします。標準的ブロッキングバッファには、正常血清、脱脂粉乳、BSAまたはゼラチンが含有されています。また、独自製剤の市販ブロッキングバッファを利用すると、さらに効率性が上がります。
抗体による標的抗原の検出は、多段階プロセスであり、シグナル検出を最大化するため、各レベルにおける最適化が必要になります。
一次抗体および二次抗体をバッファ中へ希釈させることにより、抗体の安定化を促進し、サンプル全体へ均一に抗体を播種させて、非特異的結合を阻止します。希釈液が有効に作用する抗体と、有効に作用しない抗体があるため、各抗体の最適化が必要と言えます。
未結合抗体の除去、また非特異的部位へ微弱に結合した抗体の除去をするには、抗体の用途ごとにサンプルを洗浄することが不可欠です。リンスバッファ剤は、わずか数種の成分からなる単純溶液ですが、サンプル洗浄の有効性を高め、シグナル検出の妨害を最小限に抑えるには、適切な成分を考慮すべきです。
抗体媒介性の抗原検出法は、直接法と間接法の2種類に分類されます。どちらの手法でも抗体を用いて標的抗原を検出しますが、標的抗原の発現性や可用性の水準、また所望の読み出し情報に応じて、最適となる手法を選択してください。標準的な間接法では、ビオチンに対するアビジンの天然型結合親和性を活用して、標的抗原にレポーターを局所化し、検出シグナルを増幅させます。
IHC標的抗原の検出は、発色法または蛍光法いずれかで行います。また、実験計画ごとに、読み出し情報のタイプは異なります。蛍光検出では、一次抗体または二次抗体の結合したレポーターが、 蛍光顕微鏡で検出されるフルオロフォアです。発色検出は、通例西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)またはアルカリホスファターゼ(AP)の酵素活性に基づいており、(HRPへ)DABまたは(APへ)NBT/ BCIPなどの基質が添加されると、着色性・不溶性の沈殿物が形成されます。
抗体を用いずに標的抗原を検出するには、 タンパク質固有の酵素活性を利用して、組織サンプル中のβ-ガラクトシダーゼを同定することもできます。βガラクトシダーゼ、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイル-β-D-ガラクトピラノシド触媒(BCIGまたはX-Gal)は、不溶性の青色の酵素生成物の5,5'-ジブロモ-4、4'-ジクロロインジゴを形成します。IHC分析で発色反応を生成するには、インデューサーのIPTGと共にX-Galを用いて、凍結切片をインキュベートします。
対比染色により、一次染色への対照比較が可能になります。また、対比染色は細胞構造に特異的となることがあります。通常、この単一工程の染色は抗体染色の後に行われます。
全ての染色処理が完了した後、長期間利用や貯蔵用にサンプルを保存し、酵素生成物の可溶化または蛍光試薬の光褪色を防止する必要があります。適切な包埋剤でカバーガラスをマウントしてサンプル密封を施せば、組織サンプルと色素を安定化させることができます。蛍光励起の貯蔵寿命を拡張させる目的で蛍光検出を行う場合、褪色防止試薬も併せて使用することが推奨されます。そして、サンプル損傷を防ぐため包埋剤を除去した後、透明マニキュアまたは市販シーラントでカバーガラスを密封できます。
切片の調製後には、光学顕微鏡や蛍光顕微鏡でサンプルを可視化できます。抗体検出法に応じて、詳細情報の取得能力やイメージング機能の向上した共焦点顕微鏡検査を実行できます。また、複数サンプルのデータの定量化と比較を迅速に処理するハイコンテントスクリーニングによって、サンプルを解析することも可能です。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.