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タンパク質を検出、同定および定量化するには、一般的に質量分析(MS)を行います。そして、精度、感度および柔軟性の高いMS機器の運用によって、生物学的研究、バイオ医薬品の特性評価および診断検出において新たな応用が可能になりました。MSは、イオン化や測定法のあらゆる方式(例:ESI、MALDI、FTMS、イオントラップ、飛行時間型質量分析、四重極型質量分析)を備えており、アトモルからナノモル量まで、質量50~30万ダルトンのサンプルの分析が行えます。
MSベース分析用のサンプル調製は、変動性があるうえに処理時間がかかるため、プロテオミクスワークフローにおいて決定的な工程です。 サンプルの抽出と調製に関する品質および再現性に応じて、MSで得られる結果が大幅に変わります。プロテオミクス研究で優れた成果を上げるラボは、次の2点をよく認識しています:プロテオミクス研究で優秀な結果を得るには、サンプル調製、計測機器、ソフトウェアの質が重要な要素であること;一貫性と品質の高い結果を得るには、上記3つの要素を堅牢なワークフローへ適切に組み入れる必要があること。
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生物学研究者の扱う目的タンパク質は、一般的に他のタンパク質中の複合混合物中に存在することから、MS分析で2つの大きな問題が発生します。まず、大きな分子用のイオン化法は、混合物中にほぼ同量成分が含有されている場合に、効果があります。しかし生物学的サンプル中のタンパク質濃度は、ダイナミックレンジが10桁を超える可能性があります。こうした混合物のイオン化が、エレクトロスプレーイオン化(ESI)またはマトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)によって行われる場合、比較的高存在量の種は、低存在量の種からのシグナルを「かき消し」たり、もしくは抑制する傾向があります。
第2の問題点として、複合混合物からの質量スペクトルは、著しく多数の成分を含むため、完全に分析するのが極めて困難です。タンパク質サンプルが多量のペプチド生成物へ酵素消化されることにより、この問題点はさらに悪化します。MS液体クロマトグラフィー(LC-MS)およびタンデムMS(LC-MS/ MS)を達成するには、複雑性が低く純度の高いサンプルを使用することが不可欠です。これにより、高存在量の種によるイオン化抑制を最小限にし、溶出ペプチドのMSアンダーサンプリングを防ぐことができます。
MS分析用のタンパク質調製法は多様であるため、分析に至る工程をよく理解することが不可欠です。インタクトなタンパク質の研究には、一般的にゲル電気泳動が活用されている一方、複雑なタンパク質サンプルの質量分析ワークフローでは、ペプチド分析を行います。ペプチドはタンパク質よりも、LCによって分画させやすい上に、 イオン化と断片化の効率性が高いため、タンパク質同定でスペクトル解釈が容易になります。ペプチド調製では、システインの還元とアルキル化、ペプチドへのサンプル消化、ペプチドの濃縮と脱塩、そしてMALDI-MSまたはESIベースのMS戦略(LC-MSおよびLC-MS/ MS)によるペプチド分析を実行します。
サンプル調製やスループット能力など様々な要因に応じて、MALDI-MS、LC-MS、LC-MS/ MSの中からプロテオーム分析で実行する戦略を選定します。例えば、ひとつのMALDIマトリックス上で多数のサンプルを乾燥できるため、1時間以内に96個のサンプルが分析できます(LC-MSまたはLC-MS/ MSで分析可能なサンプル数は、わずか1個です)。反対に、サンプルの複雑性を抑えるには、必ずMALDI-MSにオフラインで実行しなければなりません。そのため、本手法ではLC-MSやLC-MS/ MSよりも、サンプル調製の重要性が非常に高くなります(LC-MSやLC-MS/ MS では、質量分析前にサンプル複雑性を低減させるインライン逆相LCの効果により、サンプル調製が最小限で済みます)。
タンパク質抽出、分画、精製を行うには、最初の工程で細胞溶解を実行します。種々の生物体、サンプルタイプ(細胞や組織)、細胞内構造、または特定タンパク質などから卓越した収量と純度を得るため、多種多様な技法が開発されてきました。細胞型や細胞膜(または細胞壁)の成分は多岐にわたるため、細胞タンパク質を抽出するには、物理的手法および試薬ベース手法のどちらも必要になるでしょう。
細胞破砕や細胞内容物の抽出を行うには、一般的に物理的溶解法をとります。しかし、装置ごとに変動性があるため、反復が困難な特殊な装置およびプロトコルが必要になります(例:ダウンス乳棒や超音波処理の設定は、それぞれ異なります)。また、従来の物理的破壊法では、基本的に少量サンプルやハイスループットのサンプル処理へ対処できません。つまり、物理的溶解法だけでは、膜結合タンパク質の可溶化は行えません。それにひきかえ、界面活性剤を用いた試薬ベースの溶解法では、細胞溶解だけでなく、タンパク質の可溶化も実現します。種々のバッファ、界面活性剤、塩、還元剤などを用いることで、細胞溶解液が最適化され、特定の細胞型やタンパク質画分に関して最良の結果が得られます。
細胞溶解によって、細胞区画が破壊され内因性プロテアーゼやホスファターゼが活性化される可能性があります。こうした酵素活性による劣化や人工修飾から抽出タンパク質を保護するには、溶解試薬へプロテアーゼやホスファターゼ阻害剤を添加する必要があります。
精製または特定タンパク質機能のテストを目的として細胞溶解を行う場合、標的タンパク質の安定性と機能性に対する溶解試薬効用に関して特に注目する必要があります。界面活性剤によっては、特定酵素の機能が不活性化され、タンパク質複合体が破壊される場合があります。目的タンパク質を研究する目的や、抽出タンパク質を長期安定化させるためには、後続分析で抽出/精製したタンパク質から界面活性剤を除去する必要があります。
低存在量タンパク質由来のペプチドの検出は、高存在量タンパク質由来のペプチドによってマスクされるため、低存在量タンパク質を検出、同定、定量化する質量分析能力は、サンプル複雑性から悪影響を受けます。つまり、サンプル複雑性を抑えると同時に、タンパク質濃度のダイナミックレンジをできるだけ低減させれば、極低濃度のタンパク質の検出能力が一段と高まります。
枯渇および濃縮の戦略が開発され、高存在量タンパク質の除去や、サンプル中の標的タンパク質の単離が可能になりました。高濃度のアルブミンおよび免疫グロブリンを含有する、血液または血清などの生物学的サンプルの複雑性を低減させるには、主に枯渇戦略がとられます。枯渇戦略では、免疫沈降法(IP)や共免疫沈降法(co-IP)などの免疫親和性法を活用します。サンプルからこうしたタンパク質や高存在量タンパク質などを除去するには、市販キットをご利用ください。しかしこの手法の大きな欠点として、高存在量タンパク質が他のタンパク質へ結合しやすいため、低存在量タンパク質との複合体が枯渇してしまいます。
タンパク質濃縮法は、それぞれの生化学的活性、翻訳後修飾(PTM)、または細胞内の空間的局在に基づいて、細胞タンパク質のサブクラスの分離技法を数多く包括しています。リン酸化やグリコシル化などの翻訳後修飾を強化するには、(リン酸化には)イオン金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)もしくは(グリコシル化には)固定化レクチンなどの親和性リガンドを用います。また、PTM特異的抗体が使用されます。他の技法では、修飾アミノ酸やPTMの代謝または酵素取り込みを行い、濃縮に利用できる特殊なタンパク質化学的性質が導入されます。そしてようやく、種々の酵素クラス固有の化合物や、細胞表面タンパク質を選択的に標識する細胞不透過性の標識試薬を用いて、タンパク質も濃縮できるようになります。
それぞれの細胞成分分画を分離させるには、他の濃縮法をとります。物理的破壊法、界面活性剤バッファ、密度勾配法を入念に最適化させることにより、分離処理を達成させます。例えば、相分離界面活性剤で疎水性膜タンパク質を可溶化させて疎水性膜タンパク質から抽出できます。他に、密度勾配遠心分離法により、タンパク質可溶化に先行して、無傷の核、ミトコンドリアおよび細胞小器官などの分離が可能です。
質量分析法による消化と分析にサンプルを対応および最適化させるため、サンプルは、その単純性あるいは複雑性に関わらず、数種類の方法で処理する必要があります。例えば、MSでは荷電イオンを測定するため、塩、特にナトリウムやリン酸塩は、できるだけ検出されないように、MS前に除去しなければなりません。
透析用や脱塩用の製品を用いて、バッファ交換、脱塩、または小分子除去を行い、下流プロセスへの干渉を防ぐことができます。タンパク質アッセイは、タンパク質濃度の監視に役立ち、充填や産出の実験工程を一貫して制御できます。
サンプルタンパク質の変性法は、溶液中消化またはゲル内消化いずれかによって、それぞれ異なります。溶液内消化では、タンパク質は、尿素またはチオ尿素など強力なカオトロピック剤で変性されます。この工程後、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、またはジチオスレイトール(DTT)などのジスルフィド還元を実行します(もしくは、前記2つの手法を併用します)。そして、ヨードアセトアミドまたはヨード酢酸などの試薬で、システイン残基の遊離スルフヒドリル基をアルキル化させ、遊離スルフヒドリルによるジスルフィド結合の改質を不可逆的に防止します。さらに、エンドプロテイナーゼ(例:トリプシン、キモトリプシン、Glu-CおよびLys-C)で、還元、変性、アルキル化されたタンパク質を消化させます。これにより、ペプチド結合が加水分解的に破壊され、タンパク質はペプチドへ分解されます。
溶液中タンパク質の変性、還元、アルキル化、消化の代わりに、1次元ゲル電気泳動(1DE)または2次元ゲル電気泳動(2DE)によるタンパク質分離が行われます。この手法では、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によりサンプル中のタンパク質を変性および分離させます。電気泳動後、Coomassieの蛍光色素または銀染色を用いてタンパク質のバンドやスポットを可視化させます。そして、タンパク質のバンドやスポットがゲルから切り出され脱色された後、ゲルプラグ中のタンパク質は、生体内でアルキル化、還元、および消化されます。その後、ゲルマトリックスからペプチドが抽出され、MS分析用に調製されます。
サンプルの分量や複雑性など様々な要因に応じて、溶液中またはゲル内のどちらで消化を実行するか決定します。ゲル内消化の後、ゲルマトリックスからペプチドを抽出すると、ペプチドが大幅に損失するため、サンプルが少量の場合には溶液中消化が好適です。また、複雑性レベルが低~中程度のサンプルを扱う場合や、界面活性剤がサンプルへ悪影響を与える場合、溶解液中消化が適しています。ゲル内消化の利点は、SDS-PAGEによりタンパク質の変性と分離を併用して、サンプル中タンパク質の相対量を視覚的に示せることです。また、ペプチド抽出によって、界面活性剤や塩のほとんどが除去されますが、ペプチド回収に影響が出ます。処理時間に関して言えば、溶解液中消化はSDS-PAGEを要さないため、実行時間を短縮させることができます。また、全処理は自動で実行されるため、ハイスループットの性能が非常に優れています。(ただし、ゲル内消化用および抽出用の自動化システムも開発されています)。
低存在量タンパク質の分析や翻訳後修飾ペプチドの同定を達成するには、特定の標的ペプチドの濃縮とサンプル洗浄を行う必要があります。特定のPTM(例:リン酸化、ユビキチン化、グリコシル化など)を強化するには、PTM特異的な抗体またはリガンドを用いてアフィニティー精製を行います。例えば、リン酸化ペプチドを濃縮するには、リン酸化セリン、チロシンまたはスレオニンへ選択的に結合する、抗ホスホ特異的抗体を用いたIPにより、あるいは酸化チタンを用いたプルダウンにより、実行することができます。ペプチドの濃縮後、塩やバッファを除去するには、グラファイトまたはC-18チップカラムいずれかを用います。また、界面活性剤を除去するには、アフィニティーカラムや界面活性剤沈殿用の試薬を用います。また、分子量カットオフ(MWCO)領域を変動させるコンセントレータを用いると、希釈サンプルの濃縮ができます。
そして、精製ペプチドサンプルは、質量分析用の調製が完了します(サンプルは、各分析タイプに応じて異なります)。LC-MSやLC-MS/ MS分析で優れたLC分解および分析結果を得るには、移動相とイオン対試薬を適切に選択することが不可欠です。LC-MSやLC-MS/ MS分析で優れたLC分解および分析結果を得るには、移動相とイオン対試薬を適切に選択することが不可欠です。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.