化学選択的ライゲーションとは、相互に特異的な反応性化学基を用いて分子を結合させるプロセスを指しています。シュタウディンガー化学は、アジド/ホスフィン標識分子間の特定の架橋反応に基づいており、代謝標識などの用途に極めて有効性・汎用性の高い化学選択的戦略です。


化学選択的ライゲーションの概要

化学選択的ライゲーションでは、分子を結合させるため相互に特異的な反応性化学基の固有対を使用します。この化学反応の例として、ヒドラジド-アルデヒド間縮合、クリックケミストリー(アジド-アルキン間)、シュタウディンガー ライゲーション(アジド-ホスフィン間)などが挙げられます。上記の化学反応タイプの中でも、生物学的研究における生細胞標識や質量分析法(MS)の用途に最も効果的な化学反応は、シュタウディンガー化学です。

この反応化学は生物学的研究に用いられる代表的な架橋法とは異なり、相互に特異的かつ生物学的システムとは無関係の反応性基の固有対に基づいています。ホスフィンとアジドは細胞内で発生しないため、生物学的プロセスにとっては「目に見えないもの」であり(生体直交型(bioorthogonal)と呼ばれる)、お互いに対してのみ反応を示します(化学選択)。そのため、バックグラウンドや人為産物の発生が最小限に抑えられます。

また反応基対のアジド成分は極めて微量かつ生体直交型であるため、細胞の構成成分のタグ付き代替物質として生細胞へ供給し、タンパク質や巨大分子類を合成することができます。

10-Staudinger-Scheme-Rxn代謝標識戦略としてのシュタウディンガー化学選択的ライゲーション。上左図。反応性/ホスフィン含有の化学修飾試薬を利用すれば、タンパク質のホスフィン活性化が簡単に達成できます;また、ホスフィン活性型の蛍光色素や親和性タグ(ビオチンなど)も用意しています。上右図。低分子のアジドタグは、細胞構成成分(アミノ酸、糖など)の代謝的なin vivo取り込みに利用されます。また、反応性アジド修飾試薬を用いて、タンパク質や別の分子をin vitro修飾する手法もあります。下図。結合時、ホスフィン活性化化合物はアジドタグ分子へ高特異的に結合し、「A」と「B」両分子による安定な共有結合が形成されます。

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アジド-ホスフィン反応化学

シュタウディンガー反応はメチルエステルホスフィン(P3)とアジド(N3)間で発生し、アザ-イリド中間体が生成されます。この中間体が捕捉された後、安定な共有結合が形成されます。この架橋化学(1953年ノーベル賞受賞者のポリマー化学者であるHermann Staudinger氏により、1900年代に発明)は、バイオコンジュゲーション法として近年になった生物学的システムに適用されたばかりです(SaxonおよびBertozzi、2000年)。ケミカルバイオロジーの応用形態は、現在シュタウディンガー ライゲーションとして認知されています。

10-Staudinger-Rxnシュタウディンガー ライゲーションの反応スキーム(アジド-ホスフィン間結合)。ホスフィン活性化タンパク質や標識試薬はアジド標識の標的分子と反応して、アザ-イリド中間体を形成します。この中間体は、水性条件下ですみやかに再配列され、反応物分子間で安定なアミド結合を形成します。

アプリケーション

生体分子架橋

シュタウディンガー化学(および化学選択的ライゲーションの各種方式)を応用して、2つの精製生体分子の修飾と結合が行えます。例えば、NHS-ホスフィンを用いて精製抗体の修飾(標識)が行えます。またNHS-アジドを用いて酵素レポーターの修飾が行えます;結合時に2つのタンパク質を共に架橋させると、抗体-酵素複合体が形成されます。


代謝標識

アジド基は非常に小さいため、アミノ酸/糖/その他の構成成分にアジド基を付加して代謝合成することができます。その後、天然の成分の代わりに、これらのアジド基付加物質を細胞へ供給することが可能です。このようにして、アジドタグを細胞代謝機構により各種の目的分子へ組み込めば、ホスフィン活性化試薬を用いて、内在する代謝活性の検出や測定が行えます。この応用例を下図に表しました。

Bioorthogonal-Example1アジド-ホスフィン試薬を用いた、in vivoビオチン代謝標識の戦略例。アジド糖誘導体が生細胞に供給されると、内因性の翻訳後修飾機構により糖タンパク質へと組み込まれます。その後アジドタグ分子を選択的標識したり、あるいはホスフィン活性化分子(この場合、ビオチン誘導体)へと結合させます。特定処置への応答を研究中の細胞へアジド糖を供給すれば、ビオチン親和性タグを用いて精製が行え、また治療レジメに起因したグリコシル化の違いについて分析することができます。

対象製品

詳細情報


アジド-アルキンクリックケミストリー

シュタウディンガー ライゲーションは、生物学的サンプルの使用に向けて開発された化学選択的ライゲーション化学反応などに比べて、有害な添加剤をほとんど必要としません。アジド-アルキン化学(「クリック」ケミストリー)では、アジドホスフィン(シュタウディンガー)化学と同様のアジド成分を使用しますが、特殊な銅含有反応バッファを使用する必要があり、細胞成分が有害な影響を受けます。


参考文献

  1. Agard, N., et al.(2006).A comparative study of bioorthogonal reactions with azides.ACS Chemical Biology 1(10):644-648.
  2. Prescher, J.A. and Bertozzi, C.R.(2005).Chemistry in living systems.Nature Chem.Bio.1(1):13-21.
  3. Varki, A., et al.(2008).Essentials of Glycobiology.Second Edition.Cold Spring Harbor Press: Cold Spring Harbor, NY.
  4. Saxon, E. and Bertozzi, C. (2000).Cell surface engineering by a modified Staudinger reaction.Science 287:2007-10.
  5. Berlett, B. and Stadtman, E. (1997).Protein oxidation in aging, disease, and oxidative stress.JBC 272(33):20313-16.
  6. Nessen, M.A., et al.(2009).Selective enrichment of azide-containing peptides from complex mixtures.J Proteome Res 8(7):3702-11.

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.