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byJae Choi, Ph.D.; Janaki Narahari, Ph.D.; Douglas Hughes, Ph.D.; Megan Dobbs, B.S.; Georgyi Los, Ph.D.; Brian Webb, Ph.D. - 04/30/13
パーキンソン病(PD)とは、ドーパミン作動性ニューロンの選択的損失や黒質緻密部中のレビー小体を特徴とする神経変性疾患を指します(SNpc) (Lees /2007年)。ところがパーキンソン病に関与する分子機構については、未だに解明が進んでいません。一般的な除草剤や殺虫剤は、パーキンソン病の発病原因と関連付けられてきました(Tanner /2011年)。パラコートは標準的な農業用除草剤であり、酸化ストレスによりin vivoにおいてドーパミン作動性細胞が消失する原因となることが報告されています(McCormack /2002年;Cristovao /2009年)。パラコートを全身投与すると、αシヌクレイン発現の上昇や凝集体の形成が起こります(McCormackら /2002年)。ロテノンはミトコンドリア内複合体Iも阻害するタイプの殺虫剤です(Greenamyre /2010年)。ロテノンは、ドーパミン作動性ニューロンの変性や運動障害を特徴とするパーキンソン様表現型を誘発させることから、ラットモデルに適用されてきました。(Shererら /2000年)。MPP+は、ヘロイン合成時の副産物であるMPTPの活性代謝物です。MPP+は、酸化ストレスや細胞死を誘発すると見込まれるため(Fallon /1997年)、神経毒性効果の既知対照として機能します。
酸化ストレスによって、抗酸化剤応答エレメント(ARE)のシス作用性配列を介して、種々の抗酸化遺伝子の転写が活性化されます (Brigelius-Flohe /2011年)。また酸化ストレスによって、生存促進遺伝子のNF-κB依存性の転写活性が刺激されることも、関連研究から明らかとなっています(Nguyen /2009年)。様々な研究の成果により、パラコート/ロテノン/MPP+などがパーキンソン病の高リスク因子として確認されています。しかしこれらの神経毒性化学物質がドーパミン作動性ニューロンへ影響を及ぼす分子機構については、未だにほとんど解明されていません。そのため、こうした化学物質によってどのように遺伝子がARE/NF-κB依存的に誘導されるのかに着目しました。こうした可能性を検証するために、Thermo Scientific Pierce Luciferase Assay Vectors and Kits(ガウシア/ウミホタル/レッドホタル ルシフェラーゼ)による、高感度なルシフェラーゼレポーターアッセイシステムを開発しました。本システムと共に神経芽腫細胞(IMR-32)を用いて、パーキンソン神経毒パラコート/ロテノン/MPP+などによるARE/NF-κB依存性転写(CMV駆動転写により正規化)の活性化の発生状況を同時測定しました。それにより、3つ目のルシフェラーゼレポーターでノーマライズを行い別の2つのレポーターで2経路の活性測定を行い、この3種類のルシフェラーゼアッセイの実際の応用方法を実証します。
レポーターベクターの構築やARE/ NF-κBの応答の測定を行う前に、種々濃度の様々な神経毒性化学物質において分泌されたガウシア/ウミホタルルシフェラーゼを測定することにより、in vitroでのルシフェラーゼ活性に対する試験化学物質のオフターゲット効果について確認を行いました(図1)。上記2酵素のルシフェラーゼ活性は、相対的に次の化学物質(濃度500 μM以下)からは影響されませんでした:パラコート、ロテノン、TCDD(2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ダイオキシン)、tBHQ (tert-ブチルヒドロキノン)、3-MC (3-メチルコラントレン)など。しかしリファンピシン(プレグナンX受容体の活性化因子である、PXR)により、高濃度下においてガウシア活性が阻害されます。また、致死濃度の化学物質が原因となり細胞の転写/翻訳が停止することから、細胞生存率に干渉しない範囲の化学的濃度を測定する必要があります(図2)。以上の検証結果をまとめると、これらの化合物には処理濃度の適正範囲が存在し、それに従って弊社実験のルシフェラーゼ活性の変化により、(各ルシフェラーゼがレポーターとして結合している) 遺伝子の発現が生物学的影響を受けることが明らかとなります。
図2. 種々濃度の農薬/試験化合物(10時間処理)の、IMR-32細胞の生存率曲線。 細胞生存率に干渉しない範囲の化合物濃度を測定しました。 化学物質が致死濃度であれば、必然的に転写レポーターアッセイに関する正確な解釈が妨げられます。 上グラフ中の黄色部分は、後続実験で適用する範囲を示しています(図3~5)。 各プロット値は、3回分の± SD平均値です。
次の研究手順の準備として、(a) ARE/NF-κBレポータープラスミドを構築し、(b) 既知活性剤を用いてアッセイシステムでの発現について検証を行いました。ARE遺伝子をpMCS-Gaussia Luc (製品番号:16146)へクローン化し、NF-κB 遺伝子を、TATA最小プロモーターなどのpMCS-Cypridina Luc (製品番号:16149)へクローン化しました。機能性に関する試験を行うために、各レポータープラスミドをIMR-32(神経芽細胞腫)細胞へトランスフェクトしました。そして、種々濃度の標準的な活性化因子で各レポータープラスミドを処理した後、Pierce Luciferase Flash Assay Kitsを用いてそれぞれのアッセイを行いました。用量依存的に、L-スルフォラファン(抗酸化剤)によりAREが活性化され、また腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)によりNF-κBが活性化されました(図3) 。これにより、 ARE/ NF-κBの各レポーター構築物は機能的であったことが示されます。
図3. 標準的な活性化剤で処理した後、2種類の応答エレメントが機能的となります。 (A) 抗酸化剤、L-スルフォラファンによる AREの活性化。 (B) TNFαによるNF-κBの活性化。 各プロット値は、3回分の± SD平均値です。
次に、tBHQまたはTNFαによりAREおよびNF-κBが活性化される範囲を、ルシフェラーゼアッセイシステムの開発と試験を行いました。本アッセイでは、3つのプラスミド(ARE-ガウシア、NF-κB -ウミホタル、CMV-レッドホタル)を神経芽腫細胞へ同時にトランスフェクトさせます。トランスフェクションの24時間後、所定時間(この場合は5時間)種々濃度の試験化合物を用いて細胞を処理します。ガウシア (分泌型ルシフェラーゼ)の活性を一定量の培養液中で測定して、AREの活性の評価を行います。細胞溶解後、Pierce Cypridina-Firefly Dual Assay Kitを用いて、ウミホタルおよびレッドホタルの活性を溶解液中で同時に測定します。相対光単位(RFU)の値は全て、レッドホタルのデータからノーマライズします。
抗酸化剤tBHQはAREを強力に活性化し、またNF-κB応答エレメントはほんのわずかに活性化されます。(図4A).TNFαによってNF-κB /AREのいずれも強力に活性化されます(図4B)。つまり、神経芽腫細胞におけるTNFαの活性化時に、TNFα/AREの両経路間に著しいクロストーク応答のあることが示されます。
図4. ルシフェラーゼアッセイによって、AREおよびNF-κBはともに、tBHQ/TNFαいずれかにより活性化されることが明らかとなります。 (A) tBHQにより、AREは強力に活性化され、またNF-κBはわずかに活性化されます。(B) TNFαにより、ARE/NF-κBの両経路が強力に活性化されます。 (同時トランスフェクトされ恒常発現したCMV-Red Firefly Lucレポーター由来のシグナルから、ガウシアおよびウミホタルの値をノーマライズします。) 各プロット値は、3回分の± SD平均値です。
最終的には、パラコート、ロテノンまたはMPP+により抗酸化応答エレメント(ARE)およびNF-κBの両経路を活性化できることを判定することが目的です。そのためルシフェラーゼアッセイシステムを適用することによって、ヒトIMR-32細胞中のAREおよびNF-κBの各レポータープラスミド(同時トランスフェクト済み)の発現への影響について測定しました。トランスフェクション後24時間目に、種々濃度のパラコート、ロテノンまたはMPP+を用いて、ヒトIMR-32(神経芽細胞腫)細胞を5時間処理しました。パラコートに応答して両経路の活性化が起こります(図5A)が、ロテノン(5B)やMPP+(5C)に応答した活性化はごくわずかであるかあるいは活性化が一切起こりません。
パラコートおよびロテノンは、活性酸素種(ROS) 構造の生成に厳密に関与することが報告されています(Castello /2007年;Cristovao /2009年;Drechsel、Patel /2009年)。つまり、酸化ストレスによって抗酸化応答エレメント(ARE)として知られているシス作用配列を介して、様々な抗酸化遺伝子の転写が活性化されます。同様に、酸化ストレスは生存促進遺伝子のNF-κB依存性転写を活性化することが一般に実証されています(Brigelius-Flohe、Flohe /2011年;Nguyen /2009年)。パーキンソン病神経毒に応答した、ARE/NF-κB誘導の両レポーター活性化を同時に測定しました。測定の結果、パラコート(ロテノンやMPP+ではなく)によって、ARE/NF-κBの両レポーター転写活性が誘発されました。この測定結果により、パラコート(MPP+やロテノンではなく)に誘発される酸化ストレスは、AREの転写活性化に直接関与することが実証されます。
神経細胞の成長は遅く代謝率が低いことから、神経細胞中のルシフェラーゼレポーターアッセーはこれまで困難でした。下記にて、ルシフェラーゼアッセイシステムの有効性を実証します。本アッセイシステムにより、神経細胞中の既知の活性剤/酸化防止剤/農薬化学物質に応答した、抗酸化剤の応答エレメント(ARE)およびNF-κBの両経路における転写上昇を測定します。
弊社のアッセイシステムによって、ヒトIMR-32神経芽腫細胞中のARE/ NF-κB依存性の転写活性化におけるL-スルフォラファン /TNFa /tBHQ /パラコートの影響を容易に検出することができます。こうした研究成果の中でも、パラコートがAREレポーターアッセイの活性化剤として同定されたことは最も注目に値します。パラコートによるAREの活性化が、最終的に神経毒性や保護に寄与するかについては不明です。とはいえ結論としては、本アッセイシステムを使用すれば、パラコート効果の分子機構を解明することができ、また小分子のAREモジュレーターのスクリーニング処理によってパーキンソン病や治療の潜在的な正の治療効果を同定することができます。
細胞培養: IMR-32 (ATCC, CCL-127)およびHepG2 (ATCC, HB8065)細胞を、10%ウシ胎児血清を含むイーグル基本培地中で、5%CO237℃下で培養しました。細胞を2日毎に継代し、50〜70%のコンフルエンスで維持しました。細胞が健康体であることを確認するため、トランスフェクション前に対数期の細胞を96ウェルプレートに16時間播種しました。
トランスフェクション:96ウェルプレートの各ウェルにおいて、対数期の1.0 x 10^5個のIMR-32細胞を、トランスフェクションの16時間前に0.1 mLのイーグル基本培地中に播種しました。3つのプラスミド(50/50/30 ng)を、10 μLの無血清培地へ希釈しました。TurboFect Transfection Reagent (0.3 μL;製品番号:R0533)を希釈DNAへ添加し、ピペッティングにより混合しました。混合物を各ウェルに滴下しました。次の処理を進める前に、細胞を5%のCO2中において37°Cで24時間インキュベートしました。
細胞生存率アッセイ: 96ウェルプレートの各ウェルにおいて、対数期の1.0 x 10^5個のIMR-32細胞を、トランスフェクションの16時間前に0.1 mLのイーグル基本培地中へ播種しました。化合物の希釈シリーズを含む新鮮な (100 μL)培地をプレート内のウェルに添加しました。そして細胞生存率アッセイ前に、5%のCO2インキュベーター中で培養液を37℃下で引き続き10時間インキュベートしました。10時間後、10 μLのThermo Scientific alamarBlue Cell Viability Assay Reagent (製品番号:88951)を各ウェルに添加し、3.5時間プレートのインキュベートを続行します。その後Thermo Scientific Varioskan Flash Multimode Plate Readerを用いて、545 nm/590 nm (Ex/Em)にてプレートの測定を行いました。
ルシフェラーゼレポーターアッセイ:トランスフェクションの24時間後、活性測定のために培養液を採取しました。100 μLのPierce Luciferase Cell Lysis Buffer (製品番号:16189)を用いて、プレート上の細胞を溶解させました。採取した培養液/溶解液のいずれも、ルシフェラーゼ活性の測定に使用しました。Pierce Gaussia Luciferase Flash Assay Kit (製品番号:16158)を用いて、ガウシア の活性を測定しました。PierceCypridina Luciferase Flash Assay Kit (製品番号:16168) を用いて、ウミホタルの活性を測定しました。PierceGaussia-firefly Luciferase Dual Assay Kit (製品番号:16181) を用いて、ガウシアホタルの活性を測定しました。Pierce Cypridina-firefly Luciferase Dual Assay Kit (製品番号:16181) を用いて、ウミホタルの活性を測定しました。試薬インジェクターが備わっているThermo Scientific Varioskan Flash Luminometer(シグナル積分時間=1秒)を用いて、発光シグナル(RLU)を検出しました。
Pierce TurboFect Transfection Reagent (製品番号:R0533)を用いて、以下を1.0 x 10^5個の細胞へ24時間トランスフェクトしました:ARE-ガウシアおよびNFkB-ウミホタル ルシフェラーゼレポータープラスミド;このプラスミドは、Pierce promoterless pMCS-Luciferase Reporter Plasmids (製品番号:16146) (製品番号:16149) (製品番号:16152)へ、各応答エレメントおよび最小プロモーターをクローニングすることにより構築されています。トランスフェクションの24時間後、化学的活性剤を用いて細胞を4〜5時間処理することによって、シグナル伝達経路を活性化させました。活性測定を行うために、培養液を採取しました。Pierce Luciferase Cell Lysis Buffer (製品番号:16189)を用いて、細胞を溶解させました。適切なルシフェラーゼフラッシュアッセイキットを用いて、培養液/溶解物中の活性を測定しました(前項をご参照ください)。以下2つを用いて、発光シグナル(RLU)の検出を行いました:(a) 試薬インジェクターが備わっているVarioskan Flash Luminometer(シグナル積分時間=1秒);(b) フィルターセットはCypridina Luc;範囲425~525 nm 、 Red Firefly Luc;615nm LP 。
(アルファベット順)
関連の分析法や各結果については、以下の文献中に掲載があります:
Thermo Scientific Pierce Gaussia Luciferase Flash Assay Kitを使用すれば、哺乳動物の細胞培養培地や全細胞溶解物中の調節エレメントの転写活性を極めて高感度にアッセイすることができます。
Gaussia Luciferase Flash Assay Kitの特性:
本Flash Assay Kitには、哺乳動物細胞の培養培地/溶解物中のガウシアルシフェラーゼ活性の測定用試薬が含まれています。本キットと共にThermo Scientific Gaussia Luc Vectorsを使用すれば、極めて高感度な発光レポーターアッセイシステムが実現し、プロモーター/経路活性の分泌検出や細胞内検出が行えます。ガウシアルシフェラーゼが細胞培地中に高分泌されるため、レポーター活性の生細胞モニタリングが行えます。ガウシアにより生成されるシグナルは、同様条件下でアッセイされたホタルやウミシイタケのルシフェラーゼ由来のシグナルよりもはるかに高いです。
Thermo Scientific Pierce Gaussia Luciferase Flash Assay Kitの詳細についてはこちら
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.