In vitro タンパク質発現は、機能的なタンパク質を産生するための迅速な手法です。in vivo タンパク質発現方法と比べて、in vitroタンパク質の発現は、毒性タンパク質の発現、 NMRまたはMS分析のための安定同位体ラベル、非天然アミノ酸の導入が可能、組換えタンパク質発現のための培養および誘導条件が不要等メリットがあります。

どのタンパク質発現系においても最終的な目標は、高機能で純粋なタンパク質の産生です。タンパク質は全て異なるため、一つの精製法やプロトコルが、全てのタンパク質に最適または効果的ではありません。実際、タンパク質精製の成功率はどの発現系においても高くありません。Protein Data Bankが管理している、クローニング済み、精製済みタンパク質の共同データベースには、クローニング・精製された数多くの遺伝子がリストアップされています(表 1)。

表 1。クローニング・精製された遺伝子の数

ソース http://targetdb.sbkb.org (2012、1月).

 クローン化発現精製% 精製
原核生物147151967503801339%
真核生物4658827330801929%
古細菌141968812390344%

研究対象のタンパク質の発現、精製に使用できる発現系を可能です。ここでは、Thermo Scientific 1-Step High Yield IVTシステムを用いて発現されたタンパク質の正しい精製法について、幾つかのワークフローとトラブルシューティングを説明、評価、推奨します。

ベクターとオプション

1-Step IVT システムで使用するベクターには幾つか条件がありますが、Thermo Scientific pT7CFE ベクターは全ての条件を満たしています。これらのベクターは、目的の遺伝子の上流にEMCV UTR、1~3のアフィニティー融合タグおよびpoly A 3 'テールを持ちます。使用するタンパク質精製法により、アフィニティータグを選択してください(表 2)。 各アフィニティータグには、それぞれ利点があります。例えば、組換えタンパク質のサイズを小さくしたい場合、 GSTタグ(26kDa)に比べて 、 Hisタグや抗原ベースのタグ(HA 、c-myc およびFLAG)の方が適しています。

表 2。in vitro翻訳 (IVT)によるタンパク質発現に利用可能なThermo Scientific pT7CFE1 Vectorの種類

VectorN-term TagC-term TagCleavage Site
pT7CFE1-NHis6xHis  
pT7CFE1-CHis 6xHis 
pT7CFE1-NHAHA  
pT7CFE1-CHA HA 
pT7CFE1-NMycc-Myc  
pT7CFE1-CMyc c-Myc 
pT7CFE1-NFtagFLAG  
pT7CFE1-CFtag FLAG 
pT7CFE1-NHA-CHisHA6xHis 
pT7CFE1-CGST-HA-His GST
HA
6xHis
HRV3C (C-term)
pT7CFF1-CGFP-HA-His GFP
HA
6xHis
HRV3C (C-term)
pT7CFE1-NHis-GST-CHA9xHis
GST
HAHRV3c (N-term)
pT7CFE1-NHis-GST9xHis
GST
 HRV3c (N-term)
Notes:
  • HA = YPYDVPDYA
  • c-Myc = EQKLISEEDL
  • FLAG = DYKDDDDK

この研究の主な目的は、複数のタグを持つベクターと精製方法の組み合わせが、発現レベルおよび精製の容易さと品質において、全体的に良い結果をもたらすかどうかを明らかにするためでした。研究の結果、NまたはC末端GSTタグを持つベクターは、短い抗原アフィニティータグを持つベクターと比較して、多くの場合、高いタンパク質発現量をもたらすことがわかりました。また、GSTおよびHisタグの両方を持つ複数タグのpT7CFEベクターは、精製において柔軟性と高い成功率をもたらすことがわかりました。これら複数タグベクターは二つの異なる精製法が使用可能で、どちらか一方、あるいは組み合わせて使用できます。(図 1).HRV3Cプロテアーゼ切断部位を組み込むことで、融合タグのオンカラムまたは溶出後の除去が可能です。

A13n09-Fig1

図 1: 精製オプションのフローチャート。 NまたはC末端GST:His:HRV3c シーケンスを含む複数タグのベクターを使用した場合、4つの精製経路のいずれも使用可能です。 グルタチオンアフィニティーのワークフロー(太字経路)を推奨します。

次のセクションで、精製プロトコルを図1に示します。結果と考察セクションにおいて、グルタチオンアフィニティー精製のワークフローを推奨する実験結果を示します。また、各タンパク質の結果を最適化するためのトラブルシューティングガイドや提案をご提供します。

プロトコル

グルタチオンアガロースを用いたGSTベースの精製

固定化グルタチオンを用いた精製法は、非変性条件で、最小限のステップ、高い回収率、および高い純度をもたらします。プロトコルは柔軟性があり、10-50mMのグルタチオンを用いて、融合タンパク質の溶出を可能にし、また、GSTタグ付きHRV3Cプロテアーゼを用いて、融合タグを切除した目的タンパク質の溶出を可能にします。記載されているバッファ容量は、100 μLの IVT反応液からの精製に用いる場合の量です。 (Part No. 88891).反応液量が2 mL(Part No. 88892)の場合はバッファー量を適切に変更して下さい。

GSTタグタンパク質の発現および精製のためのプロトコル

必要な材料:

  • GSTタグおよびHRV3C切断配列を有する、IVTクローニングベクター:pT7CFE1-CGST-HA-His (Part No. 88868)、pT7CFE1-NHis-GST (Part No. 88870) または pT7CFE1-NHis-GST-CHA (Part No. 88871)。
  • 100 μLの反応液量の1-Step High Yield IVT Kit (Part No. 88891) 。2 mL(Part No. 88892)の反応液量の場合はスケール をご変更下さい。
  • グルタチオン結合バッファー:125 mMトリス、 pH 8.0、 150 mM NaCl, 1% Triton™ X-100、 10%グリセロール、 1 mM DTT
  • グルタチオンアガロース樹脂:Pierce Glutathione Agarose (Part No. 16101)
  • Spin Column:Pierce Spin Columns – Screw Cap (Part No. 69705)
  • グルタチオン洗浄バッファー:125 mMトリス、pH 8.0、 1 MNaCl、 1% Triton™ X-100、 10%グリセロール、1 mM DTT
  • HRV3C切断バッファー:50 mMトリス、 pH 7.4、150 mM NaCl
  • GSTタグ付きHRV 3C プロテアーゼ (2 units/μL) :Pierce Human Rhinovirus 3C Protease (Part No. 88946)
  • グルタチオン溶出バッファー:グルタチオン洗浄バッファー(10 mMのグルタチオン含む)

手順:

  1. 目的の遺伝子を適切なpT7CFE1ベクターにクローニングします。
  2. 製品指示書に記載された100 µLの反応手順に従って、1-Step High Yield IVT Kit (Part No. 88891)を用いてタンパク質を発現させます。
  3. 反応産物(サンプル)を1分間、10,000 x gで遠心分離します。分離されたサンプルをGlutathione結合バッファー で5倍(1 : 5)に希釈し、Glutathione Agarose Resinを200 μL充填したSpin Columnにアプライします。
  4. サンプルを室温で2 〜3時間、撹拌して混合します。(オプション:温度感受性のタンパク質は、2時間~一晩、4 °Cでインキュベートします。)
  5. 未結合物質を遠心分離により30秒間700 x gで回収します。
  6. 500 μLのGlutathione Wash Bufferで樹脂を3回洗浄します。
  7. 溶出オプションA (推奨) :HRV 3Cオンカラム切断
    1. 500 μLのHRV3C Cleavage Bufferで樹脂を洗浄します。
    2. 100 µLのHRV3C Cleavage Bufferおよび 3 µLのHRV 3C Proteaseを追加します。軽く振りながら(500 rpm)、4°Cで16時間インキュベートします。切断効率はタンパク質の性質に左右されます。切断効率を改善するには、 HRV 3C Proteaseの量とインキュベーションの時間を増やします。
    3. 20秒間500 x gで遠心分離を行い、タンパク質を回集します。回収率を最大限にするには、100 μLのHRV3C Cleavage Bufferを樹脂に追加し、遠心分離によりフローを回収します。Pierce HRV 3C Proteaseは GSTタグ標識されているので、樹脂に残留し、溶出タンパク質溶液には基本的には含まれません。
  8. 溶出オプションB:グルタチオン溶出
    1. 100 µLのGlutathione溶出バッファーでサンプルを溶出します。(Glutathione洗浄 バッファー中のグルタチオン濃度は10 mM)。
    2. 30秒間700 x gで遠心分離を行い溶出した物質を回収します。

Hisタグ融合タンパク質のコバルトIMAC精製

6X Hisまたは9X Hisアフィニティータグを含む発現タンパク質は、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)により精製することができます。コバルトベースまたはニッケルベースのIMAC樹脂はどちらも、この目的に使用可能ですが、コバルト樹脂の方が、通常より高い純度が得られました(データ非掲載)。このプロトコルは、HRV3C切断シーケンスを含むどのHis融合タグ(NおよびC末端)にも有効です;しかし、最良の結果を得るには、GST:His 複合タグベクターを選択することをお勧めします。

Hisタグ融合タンパク質の発現および精製のためのプロトコル

必要な材料:

  • HisタグおよびHRV3C 切断シーケンスを備えたIVTクローニングベクター: pT7CFE1-CGST-HA-His (Part No. 88868)、 pT7CFE1-NHis-GST (Part No. 88870) または pT7CFE1-NHis-GST-CHA (Part No. 88871)。
  • 100 µL の反応液量の1-Step High Yield IVT Kit (Part No. 88891)。2 mL(Part No. 88892) の反応液量用の手順 を変更して下さい。
  • コバルト結合バッファー:100 mM トリス、pH 8.0、 500 mM NaCl、1% Triton X-100、10% グリセロール、1 mM DTT、8 mMイミダゾール
  • コバルトIMAC樹脂:HisPur Cobalt Agarose (Part No. 89964)
  • Spin Column:Pierce Spin Columns – Screw Cap (Part No. 69705)
  • コバルト洗浄バッファー(100 mM トリス、 pH 8.0、 500 mM NaCl、1% Triton X-100、10% グリセロール、1 mM DTT、10 mM イミダゾール)
  • HRV3C 切断バッファー:50 mM トリス、 pH7.4、 150 mM NaCl
  • Hisタグ融合HRV 3C プロテアーゼ (2 units/μL):Pierce Human Rhinovirus 3C Protease (Part No. 88946)
  • コバルト溶出バッファー:100 mM トリス、pH 8.0、500 mM NaCl、300 mM イミダゾール

手順

  1. 目的の遺伝子を6X His、C-GST-His-HA またはN-His-GST 発現ベクターのいずれかにクローニングします。最適な発現および精製には、N-His-GST発現ベクターをお勧めします。
  2. キット(Part No. 88891)に添付されている1-Step High Yield IVT反応のプロトコルに従い、タンパク質を発現させます。
  3. タンパク質発現後、 サンプルを1分間、10,000 x gで遠心分離します。遠心分離後のサンプルをCobalt Binding Bufferで1:5 (100 µLを400 µLで希釈) に希釈し、スピンカラム内で25–50µL のCobalt IMAC Resinに添加します。
  4. サンプルを4°Cで1時間、撹拌して混合します。
  5. 30秒間700 x gの遠心分離を行い、未結合物質を収集します。
  6. 400 μLのCobalt Wash Bufferで樹脂を3回洗浄します。純度を高めるために、洗浄回数およびイミダゾール濃度を増やします(次の図6を参照) 。
  7. 溶出オプションA :HRV 3c オンカラム切断
    1. 500 μLのHRV3C Cleavage Bufferで樹脂を洗浄します。
    2. 100 µL のHRV3C Cleavage Buffer、および3 µL のHRV 3C Proteaseを添加します。軽く振りながら(500 rpm)、4°Cで16時間インキュベートします。切断効率は、タンパク質によって異なります。切断効率を改善するには、 HRV 3C Protease量とインキュベーション時間を増やします。
    3. タンパク質を20秒間500 x gで遠心分離し回収します。回収率を最大にするには、更に100 μLのHRV3C Cleavage Buffer を樹脂に追加し、遠心分離により回収します。Pierce HRV 3C ProteaseはGSTタグで標識されているので、樹脂に結合したままであり、溶出したタンパク質は基本的にプロテアーゼを含みません。
  8. 溶出オプションB :イミダゾール溶出。
    1. 1ベッドボリュームのCobalt Elution Buffer(25 〜50μL)で3回溶出します。
    2. 30秒間700 x gで遠心分離を行い、未結合物質を回収します。
結果と考察

N末端GSTタグを有するベクターは、最も高い発現率をもたらします。

タグサイズとタイプの発現に及ぼす効果を評価するために、C-terminal GST tag (大)またはC-terminal HA tag (小)それぞれ単独のタグを持つベクターにクローニングされた、いくつかのタンパク質発現レベルを比較しました。タンパク質によっては、どちらか一方が発現量が多いという結果になりました(図2a )。しかしGSTタグの方が発現量が多かった場合、その差は顕著でした。これは、新たにタンパク質の発現検討を行う際は、必ずGSTタグ付きまたはタグなしでの検討を行い、高収量の発現の機会を見逃さないようにする必要があることを示唆しています。

N末端GSTタグとC末端GSTタグの発現効果を比較しました。テストしたほぼ全てのタンパク質について、 N末端タグはC末端タグよりも優れたタンパク質発現結果が得られました(図2b)。

A13n09-Fig2a
A13n09-Fig2b
図2。 タグは、 1-Step Human High-Yield IVT系においてタンパク質発現レベルに影響を及ぼします。 A. GSTおよびHA pT7CFEベクター間の比較(どちらも C末端)。 B. N端末およびC端末のGST pT7CFE ベクター間の比較(どちらもC端末HAタグを含む) 様々な遺伝子配列を含むpT7CFEプラスミド(3.6 μg)を、100 μLのHigh-Yield IVT反応液に添加し、30 ℃で17時間インキュベートしました。各翻訳反応液の一部(2 μL)を、SDS-PAGEで分析し、続いてニトロセルロース膜に転写しました。 Pierce Fast Western Dura Kit (Part No. 35070)を用いてウェスタンブロットを行いました。図 2A に標的特異的抗体、図2Bに抗HAタグ抗体を持った際の結果を示します。 ブロットはmyECL Imager (Part No. 62236)で可視化し、myImageAnalysis software (Part No. 62237)を用いて適切な分子量の発光シグナルを定量しました。

グルタチオンベースのアフィニティー精製により、最大の回収率および純度が得られます

IVT発現タンパク質の精製において、グルタチオン(GSTタグ用)またはコバルト(Hisタグ)のアフィニティー樹脂のいずれかを用いることで、満足のいく結果が得られます。GSTおよびHisタグ(ならびにHRV3C切断部位)の両方を含む複数の融合タグベクターの場合、複数の溶出プロトコルの使用が可能です。標準的な低分子の溶出方法(すなわち、固定化グルタチオン溶出には10-50 mMのグルタチオンまたは、コバルト溶出には300 mMのイミダゾール)が使用可能で、HRV 3Cプロテアーゼを用いたオンカラムまたは溶液ベースの切断と組み合わせて使用できます。

グルタチオンアフィニティー精製により、最大の回収率および純度を得ました(図3 )。8種類の異なるタンパク質を、N末端およびC末端両方のマルチタグpT7CFE発現ベクターにクローニングしました。発現後、グルタチオンアガロース樹脂またはコバルトアガロース金属アフィニティークロマトグラフィー (IMAC)樹脂のいずれかを用いて精製しました。タンパク質はそれぞれ、10 mMのグルタチオンまたは300 mMのイミダゾールのいずれかを用いて溶出しました。8つ全てのタンパク質が、N末端GSTタグを用いたグルタチオンアガロースで精製されました。しかしHisタグを用いたコバルトアガロースでは、8つのうち6つのタンパク質のみが精製されました(すなわち、p53およびcFOSは成功しませんでした) 。

A13n09-Fig3

図 3。 High Yield IVTを用いたタンパク質発現の、GSTベースとHisベース精製の比較 8つの異なるタンパク質を、N末端( N )またはC末端( C )のいずれかのHis:GST融合タグを用いて発現させ、またグルタチオンアガロース(G)またはコバルトIMACアガロース(H)を用いて精製しました。 タンパク質はGおよびHから、それぞれ10 mMの還元型グルタチオンまたは300 mMのイミダゾールのいずれかを用いて溶出しました。

GST融合タグ(Part No. 88946)を持つHRV 3Cプロテアーゼを用いてオンカラム消化後にタンパク質を溶出することにより、グルタチオン精製における全体的な純度を向上させました。例えば図3に示されるように、 50 kDaの内在性グルタチオン結合タンパク質(伸長因子1 - gamma、 EF-1g)は、目的のGSTタグ融合タンパク質[ 1 ]と共に溶出されます。しかし、 HRV 3Cプロテアーゼを用いた切断によるグルタチオンアガロース樹脂からの溶出では、このタイプの共溶出を防げます。組換えタンパク質のみに HRV 3C切断部位が含まれているからです。 異なる5つのタンパク質について、グルタチオンアガロース精製におけるHRV 3Cプロテアーゼ(プラス)またはグルタチオン(マイナス)による溶出方法を比較しました (図 4)。HRV3Cプロテアーゼは GST融合タグを持つため、目的のタンパク質のみが溶出され、 GST- HRV3Cプロテアーゼおよび切断されたGST融合タグは、カラムに結合したままです。

A13n09-Fig4
図 4。 GST融合タンパク質溶出における、グルタチオンとHRV 3Cプロテアーゼの比較。 N末端GST融合タンパク質を、グルタチオンアガロースを用いて精製しました。 10 mMのグルタチオンまたはHRV 3Cプロテアーゼを用い、プロトコルの記述に従い溶出しました。 Badタンパク質のレーンでは、追加バンド(三角形)はBadと共溶出する14-3-3タンパク質です。 溶出タンパク質を質量分析によって同定しました(データ表示なし)。

イミダゾールの、 Hisタグタンパク質のIMACベース精製への影響

Ni-NTAとコバルト樹脂の比較実験結果(データ表示なし)に基づき、1-Step Human High Yield IVT系を用いて発現したHisタグタンパク質の精製には、cobalt- overニッケルベースのIMACをお勧めします。コバルトはニッケルよりも非常に高いレベルの精製、回収率を示します。

細菌(タンパク質発現のための通常の方法)に比べ、ヒトプロテオームはより大きく、より複雑です。その結果、ヒト細胞溶解物(1-Step Human IVT系のように)は通常、IMACにおいて細菌溶解物より高度なバックグランド(より多くの非標的タンパク質の共溶出)をもたらします。ニッケル樹脂の代わりにコバルト樹脂を使用した他、洗浄ステップ数および洗浄バッファーのイミダゾール濃度を調整し、コバルトIMACで得られる精製産物の純度を最適化しました(図 5)。回収率は低下したものの、洗浄回数とイミダゾール濃度の増加により、純度が上がりました。研究者は洗浄条件を最適化して、純度と回収率の許容できるバランスを見出すことが可能です。

A13n09-Fig5

図 5。 純度および回収率は、イミダゾール洗浄条件バッファーの影響を受けます。 プラスミドDNA(3.6 μgのpT7CFE1-GFP-CHis) を、100 μLの高収量反応混合物に添加し、30°Cで18時間発現させました。 反応混合物を5000 x gで5分間遠心分離し、上清を結合バッファー内で1:5に希釈しました (100 mM トリス、 pH8.0、 500 mM NaCl)。 サンプルをスピンカラム(Part No. 69705) 内で25 μLのコバルト樹脂に添加し、4°Cで撹拌、混合しました。インキュベーション後、カラムを30秒間700 x gで遠心分離し、通過するフローを回収しました。 樹脂を、様々な洗浄ステップ(400 μL)および可変イミダゾール濃度で洗浄しました(結合バッファーに、 8 mM または16 mM のイミダゾールを添加)。 溶出分画の1/3を4〜20%のSDS -PAGEゲルで電気泳動し、Imperial Protein Stain (Part No. 24615)を用いて染色しました。 回収率(%)は、ex/em = 510 nm/485 nmの蛍光測定値(溶出画分/粗画分の比、X100)で評価しました。

全体的なタンパク質精製の成功と純度に基づき、オンカラムのGST- HRV3C溶出を利用した、固定化グルタチオンアフィニティーが、推奨ワークフローと言えます(図 1)。

精製の最適化とトラブルシューティング

タンパク質精製の成功は、タンパク質の種類により大きく左右されます。上記のように、グルタチオンおよびIMACシステムにおいて、単純な結合とTBSベースの洗浄バッファーで、満足できる結果が得られます。いくつかの添加剤は、純度または回収率を増加させる可能性があります (表 3)。他のプロトコル変更は、精製困難なタンパク質のトラブルシューティングに役立つことがあります(表 4)。

表 3。推奨される精製バッファー添加物

添加剤機能IMACグルタチオン樹脂
NaCl/KClタンパク質の可溶化、非特異的結合の減少150 ~600 mM150 ~ 600 mM (結合)
150 ~ 1150 mM
(洗浄)
イミダゾールIMAC精製における非特異的結合の減少5 ~ 15 mM (Co);
10 ~ 40 mM (Ni)
N/A
非イオン性洗浄剤 (Triton X-100、 NP-40)タンパク質の可溶化;非特異的結合の減少;タンパク質分解0 ~ 1.2%0 ~ 1.2%
還元剤 (DTT)タンパク質凝集を防止1 ~ 5 mM1 ~ 10 mM
グリセロールタンパク質の可溶化;タンパク質の安定化;疎水性相互作用の減少0 ~ 20%0 ~ 20%
イオン性洗浄剤 (CHAPS)タンパク質の可溶化;タンパク質分解0 ~ 1%0 ~ 1%

表 4。トラブルシューティング

問題: 低いタンパク質発現率
プラスミドの品質が原因となる場合:
  • 調製プラスミドがヌクレアーゼを含んでいないことを確認します。プラスミドDNAを、1-Step Human in vitro系で使用する前にエタノール沈降を行います。

不適切な保存や期限切れの試薬​​の使用が原因となる場合:

  • キットのコンポーネントが適切な温度で保存されていたか確認します。
  • GFPポジティブコントロールを用いて発現レベルをテストし、発現システムの性能をチェックします。

クローニングエラーが原因となる場合:

  • 発現タンパク質が、予想される融合タグを含んでいるか確認します。抗融合タグ抗体を用いてウエスタンブロットを行います。
問題: 精製量が少ない
タンパク質の精製樹脂への結合効率が低いことが原因となる場合:
  • NまたはC末端GST融合ベクターに目的のタンパク質をクローニングします。
  • タグまたはタンパク質が不溶化、または凝集している場合。低温(20-26°C)、短時間でタンパク質を発現させます。
  • 結合、洗浄および溶出のステップに、非イオン性界面活性剤(Triton X-100 または NP-40) を添加します。
  • GST精製では、1~10 mM DTTを結合、洗浄および溶出バッファーに添加します
  • 精製樹脂との接触時間を増やします。結合時間を増やし4°Cで一晩、結合させます。

タンパク質がカラムから溶出しないことが原因でとなる場合:

  • すべての精製ステップを実行し、精製バッファを4°Cに保ちます。
  • 精製樹脂が精製中に乾燥した場合。スピンカラムを使用している場合、スピン時間を短くします(30秒)。
  • グルタチオン精製では、 グルタチオン濃度を50 mMに上げ、複数の溶出分画を回収します。コバルトIMACでは、イミダゾールの濃度を500 mMに上げ、複数の溶出分画を回収します。
  • HRV3c 溶出:HRV3C濃度を増やし、切断時間を長くします。
  • HRV3c 溶出:融合タグが、HRV3C切断部位および目的のタンパク質の立体障害により、切断されなかった場合。融合タグの位置を逆側に変更します。
引用文献
  1. Stergachis, A.B., et al.(2011) Rapid empirical discovery of optimal peptide for targeted proteomics.Nature Methods.8(12):1041-3.[1-Step Human IVT系で発現された800以上のGST融合タンパク質の精製について記述。精製法、および質量分析法によるタンパク質溶出分画の不純物の同定。]
一般参考文献
  1. Mikami, S., et al.(2008) A human cell-derived in vitro coupled transcription/translation system optimized for production of recombinant proteins.Protein Expression and Purification.62:190-198.[ヒトin vitro 高発現系で発現されたタンパク質の新規精製法について記述。]


    pT7CFE1-NHis Vector for Mammalian Cell-Free Protein Expression

    Thermo Scientific pT7CFE1-NHisは、Thermo Scientific 1-Step Human In Vitro Protein Expression System を用いたタグ融合タンパク質のin vitro 翻訳(IVT)を最適化するためのクローニングプラスミドです。 pT7CFE1-NHis Vector は、 N末端6xHisタグを利用可能で、タンパク質の精製および検出を容易にします。

    pT7CFE1の特徴:

    • 5 'UTRのEMCV IRESは、mRNAの高効率の翻訳を促進します
    • MCSは、10個の異なる制限酵素切断部位を持ち、クローニングに便利です:Msc1、 Nde1、 BamH1、 EcoR1、 EcoRV、 Pac1、 Pst1、 Sac1、 Sal1、 Not1 および Xho1
    • 3 '領域のPoly A 配列は、ヌクレアーゼからのmRNAの安定化と保護を促進します
    • T7ターミネーターによりmRNA転写物長さを均一にします
    • プラスミドの線状化は、Poly A シーケンスとT7ターミネーターの間の制限酵素切断サイトで実行できます

    Thermo Scientific pT7CFE1-NHisの詳細

    For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.