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byHai-Yan Wu, Ph.D.; Joanna Geddes, B.S.; Kay Opperman, Ph.D.; Barbara Kaboord, Ph.D. - 01/28/14
一次ニューロンの培養は、ニューロンの構造や分化、シナプス機能や神経伝達物質放出、創薬における前臨床試験での神経毒性、および疾患モデルの研究で用いられる有力なモデルシステムです。一次ニューロンの培養には、動物モデルが有する複雑さの多くが存在しないため、電気生理学的記録や電機刺激実験、薬理学的処理、および高解像度顕微鏡解析での使用により適しています[1、2、3]。しかしながら、一次ニューロンは、単離条件およびその培養または生育環境に大きく左右されます。ラボごとに異なる手法で作製されていることで、その細胞収率、生存率、成熟速度が多岐に渡り、ラボ間での実験結果比較および再現実験を困難なものにしています。
本項では、穏やかな組織消化酵素製剤を用いた神経細胞の単離法についてご報告いたします。新手法の効率は、胎生17~19日(E17-19)のマウス皮質の消化、および単離されたニューロンの培養について、既存手順のそれと比較しました。新手法は、Thermo Scientific Pierce Primary Neuron Isolation Kit(品番88280)として商品化しております。このキットは、従来のトリプシンを用いた手順を全面的に大きく改良するものあり、その形態学的特性、細胞特異的なタンパク質発現、およびシナプススケーリング範囲から明らかなように、高収率、高生存率、高品質なニューロン培養を作製することができます。
脳組織から一次ニューロンを単離するためには、プロテアーゼの使用調節によって細胞間のタンパク質結合を消化した後、穏やかな機械的破砕によって個々の細胞を遊離させる必要があります。この酵素的消化プロセスは、全般的な単離効率および単離されたニューロンの生存率に大きく影響します。脳組織に最適な消化酵素を決定するため、様々な濃度のプロテアーゼ群についてスクリーニングを行い、どの酵素または酵素の組合せが健全な神経細胞の遊離に最も効率的かを判定し(データ未掲載)、最良な候補を選択して文献で用いられている標準的手順と比較しました。一次ニューロンは、Pierce Primary Neuron Isolation Kitに記載されている最適化された穏やかな酵素的消化法(図1)、または従来のトリプシンを用いた自家調整(DIY)手法を用いて、胎生17~19日のマウス胎生皮質から単離しました。細胞の収率および生存率は、1つのマウス皮質から調製した細胞懸濁液により判定しました。細胞の収率は、トリプシンを用いた手法と比べておよそ2倍に増加しました(図2)。細胞の生存率は、新手法(94~96%)の方がトリプシンを用いた手順(83~92%)よりも常に高くなりました。この手法は、マウスおよびラットの皮質や海馬など、脳の様々な部位に適しています(表1)。
細胞懸濁液1.5 mL中における、1つの皮質または3つの海馬についてのデータです。生存率は、トリパンブルー色素排除法により測定しました。
細胞型 | 収量(細胞数/mL) | 生存率(%) |
---|---|---|
マウス皮質ニューロン | 4.5 × 106 | 95% |
マウス海馬ニューロン | 3.6 × 106 | 95% |
ラット皮質ニューロン | 4.0 × 106 | 96% |
ラット海馬ニューロン | 4.0 × 106 | 97% |
一次ニューロンの多くはすぐに利用されることなく、1~3週間の培養によって樹状突起や活性型シナプスが再形成されるため、培養の健全性および構造を経時的に評価することが重要です。細胞の形態は、1日目、14日目、24日目に位相差顕微鏡で観察しました。培養1日目には、短い突起を持った円形細胞が少数観察されました(図3、上段)。14日目および28日目までには、広範で絡み合った樹状突起の回路網が構築され、シナプス前部マーカータンパク質のシナプトフィジンおよびシナプス後部マーカータンパク質のPSD95がシナプス末端に発現することで、より確かめられます(図3、下段右)。さらなる健全性の指標として、GFPを遺伝子導入したニューロンの培養7日目における軸索の形態を視覚化しました。ニューロンは、神経成長因子を添加した弊社の支適培地中において、広範に側枝を広げ十分に分化した軸索を持つまでに生育しました(図3、下段左)。
細胞の生存率および純度についても、培養1日目および7日目に検査しました。培養ニューロンの細胞生存率を測定するため、核染色蛍光色素であり生細胞を染色しないヨウ化プロピジウム(PI、赤色)を使用して、培養中の死細胞を視覚化しました(図4A)。弊社の手法とトリプシンを用いた手法のどちらで調製された培養であっても、1日目においてPI標識された細胞が点在しました。それにも関わらず、全細胞に対するPI標識細胞の割合は、トリプシンを用いたDIY手法では25%であり、弊社の手法で調製された培養よりも大幅に高くなりました(図4B)。ニューロン培養の純度を調べるため、ニューロンマーカータンパク質である微小管関連タンパク質2(MAP2、緑色)およびグリア細胞マーカーであるグリア線維性酸性タンパク質(GFAP、赤色)に特異的な抗体を用いて、細胞を免疫染色しました(図4D)。ニューロン純度は、核染色された全細胞数に対するGFAP陰性細胞数の割合として算定しました。1日目において、弊社の手法で調製された培養は90%の純度を示しましたが、トリプシンを用いた手法による培養ではわずか80%でした(図4E)。両手法で単離されたニューロンは、同一の培地と添加剤で生育させたため、培養7日目には同程度の細胞生存率および細胞純度になりました(図4Cおよび4F)。
A.1日目の画像
B、C. 細胞生存率
D.7日目の画像
E、F. 細胞純度
ニューロンの形態は、ニューロンの機能を指し示す重要な指標となります。より複雑で豊富な樹状突起の分枝を持ったニューロンは、シナプス入力がより増加し、神経回路網においてより良く情報伝達が行えると考えられています[5、6、7]。培養中のニューロン形態を特性評価するため、ショール解析を適用してニューロン樹状突起の複雑性を評価しました。個々のニューロンを標識するため、培養7日目のニューロンにGFPを遺伝子導入しました。培養21日目において、2種類の手法で調製されたニューロンのどちらについても、成熟スパインや少数の糸状仮足などの隆起を持った、複雑に枝分かれした樹状突起側枝の点在が確認されました(図5A)。しかしながら、ショール解析を行った結果、弊社の手法で調製されたニューロン培養の方が、トリプシンDIY法によって単離されたそれよりも、より複雑に枝分かれした樹状突起側枝を有していることが分かりました。
A.ファロイジン標識、21日目
B、C. ショール解析
ニューロンの機能を指し示すもう1つの指標は、ニューロンの恒常的なシナプス可塑性を表す、観察されたシナプススケーリングの度合いです。シナプススケーリングの度合いを、シナプスマーカータンパク質に対する抗体を用いた免疫蛍光染色によって視覚化しました。明るく密集した免疫反応の斑点は、興奮性のN-メチル-D-アスパラギン酸受容体I(NR1)に対応しており、シナプス前小胞タンパク質であるシナプトフィジンおよびシナプス後肥厚部タンパク質95(PSD95)は、トリプシン法によるものと比較して、弊社の新手法で調製されたニューロン培養においてより多く存在していました(図6A)。弊社の手法で調製されたニューロンにおいて、NR1の免疫反応がより強く起こり、シナプトフィジンおよびPSD95がより多く存在することは、ニューロン培養におけるタンパク質の発現レベルがより高いことを示唆しています。シナプスタンパク質の発現を定量測定するため、Syn-PER Synaptic Protein Extraction Reagent(品番87793)を使用して、15日目のニューロン培養からシナプトソームを単離しました。シナプトソーム懸濁液からの全タンパク質の収率は、弊社の手法で調製されたニューロン培養についてはおよそ33%であり、文献において使用される手法で調製された検体よりも高くなりました(図6B)。これにより、弊社の手法による培養において、より広範囲のシナプス形成とより多くのシナプスタンパク質発現が確認されました。
弊社の手法による一次ニューロンの培養の機能的有用性を明らかにするため、NMDA受容体アゴニストであるN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)を使用して、分子レベルでの興奮毒性反応を調査しました。NMDAによって誘導されたNMDA受容体の過剰活性は、システインプロテアーゼであるカルパインによるカルシニューリンA( Ca2+/カルモジュリン(CaM)依存性ホスファターゼ)の開裂を引き起こし、興奮毒性による神経変性において重要な役割を担う、切断された恒常的活性型を形成します[4]。文献報告のとおり、弊社の手法およびトリプシンによるどちらの培養ニューロンにおいても、NMDAによる刺激を受けて、カルパインにより切断されたCaNAが明確に確認されました。カルパイン阻害剤であるALLMによって切断されたウエスタンブロットシグナルが著しく低減するため、このような切断されたCaNA産物にはカルパインの活性化が関係しています。この結果は、弊社の手法で単離されたニューロン培養が、神経生物学および神経病理学において、細胞機構を研究するうえで有力なモデルシステムとなり得ることを示唆しています。
弊社では、胎生マウスやラットの皮質および海馬に由来する初代ニューロンの単離、培養について、標準化された、再現性のある、柔軟性の高い手法をご提供しております。弊社の手法(すなわち、Pierce Primary Neuron Isolation Kit)によって単離、培養されたニューロンは、適切に分化され、広範な軸索および樹状突起側枝を発育させ、ニューロンおよびシナプスマーカーを発現し、多数の機能的なシナプス結合を形成します。このようなニューロンは、分子および細胞生物学において、ニューロンの発育、機能研究のモデルシステムとしても用いることができ、特に、内在性または発現したタンパク質およびタンパク質輸送の細胞内における局在性を視覚化するために適しています。
新たに顕微解剖された健全な胎生17~19日(E17-19)のマウス皮質に、Pierce Neuronal Isolation Enzyme (with papain)(品番88285)を加えて30分間インキュベートした後、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)で2回洗浄しました。1,000 µLチップを装着したピペットを使用して、血清が添加されたニューロン培養培地中で20回ピペッティングすることで組織を分解し、単一の細胞懸濁液を生成しました。トリプシンによる手法についても、パパインの代わりにトリプシンを使用した以外は同様の手順で実施しました[4]。細胞全体の収量は、Invitrogen™ Countess™ Automated Cell Counter(Life Technologies社)を使用して測定し、細胞生存率は、トリパンブルー色素排除法を用いて測定しました。
表示培養日数におけるニューロンを、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定化し、0.1%Triton™ X-100添加HBSSで室温にて10分間の透過処理を実施した後、3%BSA添加HBSSで室温にて30分間のブロッキングを行いました。一次抗体による細胞標識を4°Cにて一晩行った後、対応した二次抗体による標識を室温にて1時間実施し、HBSSで2回洗浄しました。
シナプスタンパク質のライセートは、Syn-Per Synaptic Protein Extraction Reagent(品番87793)を用いて、メーカーの指示に従って培養15日目の皮質ニューロンから調製しました。タンパク質の濃度は、Pierce BCA Protein Assay Kit(品番23225)を使用して測定しました。
等量の全タンパク質(10~20 μg/レーン)を、2~10% 変性SDS-ポリアクリルアミドゲル上で分離させ、ニトロセルロースメンブレンに転写しました。メンブレンは、3%ウシ血清アルブミンでブロッキングした後、一次抗体を加えて4°Cにて一晩インキュベートしました。ブロットについては、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼをコンジュゲートしたヤギ抗ウサギまたはヤギ抗マウス二次抗体を加えて室温にて1時間インキュベートした後、洗浄しました。バンドは、SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate(品番34080)を用いて視覚化し、フィルムに露出しました。
Charles River Laboratories社から入手した妊娠CD-1マウスを、ロックフォードのイリノイ大学医学部の実験動物施設で飼育しました。実験はイリノイ州ロックフォードのイリノイ大学医学部動物実験委員会に承認された方法で行い、国立衛生研究所の「実験動物の管理と使用に関する指針」に従って実施しています。
Thermo Scientific Pierce Primary Neuron Isolation Kitに含まれる単離および培養試薬を使用することで、マウスやラットに由来する胎生皮質および海馬組織から、最適な生存率を有する一次ニューロンを、最大限の収量で得ることができます。
Primary Neuron Isolation Kitの特徴:
収量—自家調整手法に対して2倍量に増加
Thermo Scientific Pierce Primary Neuron Isolation Kitについて詳しく知る
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.