In vitro翻訳(IVT)システムは酵素などの機能性タンパク質の迅速な発現を目的として使用されます。一般的に、タンパク質は哺乳類細胞で発現させると、細菌で発現させた場合に比べ高い活性を示します。哺乳類の持つ翻訳システムは速度が遅く、これが間接的にタンパク質の折りたたみに良い影響を与えているからです。Thermo Scientific1-Step Human High-Yield IVT Systemは、タンパク質の発現や折りたたみに必要な哺乳類細胞成分を含むHeLa細胞抽出物をもとに作成されています。ここでは、このIVTシステムが迅速に高機能なカスパーゼ3酵素を発現させる能力、及び酵素活性のモジュレーターをスクリーニングするための活用法をご紹介します。

カスパーゼ3タンパク質はシステイン-アスパラギン酸プロテアーゼ(カスパーゼ)ファミリーに属しており、カスパーゼの逐次的な活性化は細胞のアポトーシス進行過程で中心的な役割を果たします。カスパーゼは不活性型前駆体として存在しており、保存されたアスパラギン残基でタンパク質分解を受け、大小2つのサブユニットとなり、これらが二量体化することで活性型酵素となります。カスパーゼ3(CPP32/Yama/apopainとも呼ばれる)は32 kDaの酵素前駆体として合成され、17 kDaと12 kDaのサブユニットに解離します[1~3]。われわれの結果は、ヒトIVTシステムで発現させたカスパーゼ3は、バクテリアで発現させたものに比べ3倍の活性を持つことを示しています。

結果と考察

カスパーゼ3遺伝子をpT7CFE1-CHis expression vector(品番88860)にクローニングし、1-Step Human High-Yield Mini IVT Kit(品番88891)を用いて発現させました。カスパーゼ3の発現量と活性レベルを評価するため、ウェスタンブロット(図1)と活性測定(図2)を行い、IVT合成産物と市販品である大腸菌より精製した組み換えカスパーゼ3の既知量とを比較しました。カスパーゼ3は過剰発現によりタンパク質の自己切断が生じ、17 kDaと12k Daのサブユニットに解離することが知られています。17 kDaの断片が活性を持つタンパク質断片であり、抗カスパーゼ3抗体で検出されます[4]。したがって、ウェスタンブロット(図1)を行うことでヒトIVTキットによって高レベルに発現した活性型(解離型)カスパーゼ3を確認することができます。

A14n03-Fig1
図1 ウェスタンブロットで高収量IVTによるカスパーゼ3の発現を確認。 組み換えタンパク質精製品(Sigma-Aldrich)(左)とワンステップヒト高収量ミニIVTキット(品番88891)を用いた反応産物(右)を電気泳動し、電気泳動サンプル中のカスパーゼ3をウェスタンブロッティング。
A14n03-Fig2
図2 ヒトIVTシステムで発現させたカスパーゼ3は、バクテリアで発現させたタンパク質を精製したものより高い活性を持っている。 大腸菌から精製された、または1-Step Human High-Yield IVT Kitで発現させたヒトカスパーゼ3について、それぞれの同量の活性を、Caspase-glo™アッセイ試薬(切断可能なDEVD―アミノルシフェリンおよびルシフェラーゼの基質を含むミックス)を使用して、メーカー(Promega Corp.)の手順に従って測定した。

IVTを用いて発現させたカスパーゼ3の活性を切断可能なDEVD-アミノルシフェリンおよびルシフェラーゼの基質を含むアッセイミックスを用いて測定しました。大腸菌で発現させ精製されたカスパーゼ3と比べ、3倍の活性を示しました(図2)。Ac-DEVD-CHOは合成テトラペプチドのカスパーゼ3阻害剤で、PARP切断部位となるアミノ酸配列を有しています。テトラペプチド阻害剤はアポトーシス細胞中におけるカスパーゼ3活性の同定、定量化に利用され、カスパーゼ3活性化の下流イベントを研究するのに活用されています[5~7]。

弊社は、ネガティブコントロールであるZ-FA-FMK阻害剤を用いた場合には全く阻害が起こらなかったのに対し、ヒトIVTを用いて発現させたカスパーゼ3が1 µM Ac-DEVD-CHOによって完全に阻害されることを示しました(図3、4)。これらの結果は、ヒトIVTシステムは高活性カスパーゼ3を迅速に発現できるだけでなく、カスパーゼ3のモジュレーター同定を目的とした低分子阻害物質のスクリーニングにも利用できることを示唆しています。

A14n03-Fig3
図3 Ac-DEVD-CHO阻害剤を用いた無細胞発現カスパーゼ3の特異的阻害 1-Step Human High-Yield IVT Kitを用いて発現させたカスパーゼ3のうち0.1 µLをAc-DEVD-CHO(阻害剤)1 µM、Z-FA-FMK(非標的外阻害剤)1 µMとともに、または添加物なしで10分間インキュベートした後、Caspase-glo™アッセイ試薬(Promega Corp.)を用いてカスパーゼ3の活性を測定した。
A14n03-Fig4
図4 カスパーゼ特異的阻害剤Ac-DEVD-CHOのIC50値の測定  様々な濃度のAc-DEVD-CHOを、総量100 µLでカスパーゼ3を発現させた高収量IVT反応液1 µLに添加した。 相対発光量(RLU)値をAC-DEVD-CHO濃度に対してプロットしIC50値を得た。

結論

ヒトIVTは活性型カスパーゼ3タンパク質の発現に利用でき、発現させたカスパーゼ3はAc-DEVD-CHOといった既知の合成テトラペプチドで阻害することができ、このシステムをカスパーゼ3のモジュレーターのスクリーニングに利用可能であることが示されました。

方法

カスパーゼ3の発現

ヒト細胞ライセイート50%、アクセサリータンパク質2.5 µL、反応ミックス5 µLおよびカスパーゼ3をクローニングしたpCFE-CHis発現ベクター1 µgを含む反応液(25 µL)を、キット(品番88891)の手順に従い30°Cで6時間インキュベートしました。

ウェスタンブロット

インキュベーション終了後1、2および4 µLのサンプルをSDS-PAGEサンプルバッファー中で加熱し4-12%のSDS-PAGEゲルで泳動しました。同時に、1、2および4 µLの組み換えカスパーゼ3タンパク質(#C1224, Sigma-Aldrich Co.)を同じSDS-PAGEゲル上で泳動しました。ウェスタンブロットにおけるイムノブロットは、抗カスパーゼ3抗体とPierce™ Fast Western Blot Kits, SuperSignal™ West Dura, Mouse(品番35070)で行いました。

活性アッセイ

カスパーゼ3酵素の活性を測定するため、同量の大腸菌から精製された酵素、ヒト高収量IVTシステムで発現させた酵素活性を、Caspase-glo™アッセイ試薬(切断可能なDEVD―アミノルシフェリンおよびルシフェラーゼの基質を含むミックス)を使用して、メーカー(Promega Corp.)の指示に従って測定しました。特異性を確認するため、ヒト高収量IVTで発現させたカスパーゼ3の0.1 µLを、カスパーゼ3の特異的阻害剤Ac-DEVD-CHO(#235420, EMD Millipore Corp.)1 µM、非標的阻害剤Z-FA-FMK(#342000, EMD Millipore Corp.)とともに、または添加剤なしで10分間インキュベートした後、Caspase-glo™アッセイ試薬を用いてカスパーゼ3の活性を測定しました。ヒトIVTで発現させたカスパーゼ3のIC50値を測定するため、様々な濃度のAc-DEVD-CHOを、総量100 µLでカスパーゼ3を発現させた高収量反応液1 µLに添加しました。相対発光量(RLU)値をAC-DEVD-CHO濃度に対してプロットしIC50値を得ました。

引用文献
  1. Cohen, G.M.(1997).Caspases: the executioners of apoptosis.Biochem.J. 326, 1-16.
  2. Mittl, P.R.E., et al., (1997).Structure of recombinant human CPP32 in complex with the tetrapeptide acetyl-Asp-Val-Ala-Asp fluoromethyl ketone.J. Biol.Chem.272: 6539-47.
  3. Nicholson, D.W. and Thornberry, N.A.(1997).Caspases: killer proteases.Trends in Biochemical Sciences 22: 299-306.
  4. Stennicke, H.R. and Salvesen, G.S.(1997).Biochemical characteristics of caspases-3, -6, -7, and -8.J. Biol.Chem.272:25719-23.
  5. Thornberry, N.A.(1994).Interleukin-1 beta converting enzyme.Methods Enzymol.244: 615-31.
  6. Thornberry, N.A., et al.(1997).A combinatorial approach defines specificities of members of the caspase family and granzyme B. Functional relationships established for key mediators of apoptosis.J. Biol.Chem.272: 17907-11.
  7. Atkinson, E.A., et al.(1998).Cytotoxic Tlymphocyte-assisted suicide.Caspase 3 activation is primarily the result of the direct action of granzyme B. J. Biol.Chem.273: 21261-6.


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    For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.