グリコシル化は、翻訳時や翻訳後修飾においてタンパク質に糖類が付加される反応です。また、タンパク質の機能や折りたたみ、細胞間接着にとって重要です。Thermo Scientificワンステップヒト結合型IVTキット(品番88881)にはHeLa細胞のライセートなどが含まれており、鋳型DNAからのタンパク質翻訳に必要な細胞機構を提供します。こちらのページではプロトコルを紹介し、このシステムのIVT反応ミックスには翻訳機構だけでなく発現タンパク質のグリコシル化に不可欠な糖類および機能が含まれていることを示します。3つの異なる糖タンパク質の発現について試験を行い、アスパラギン結合型の高マンノースオリゴ糖を分解するエンドグリコシダーゼHを用いてヒトIVTシステムで生じるグリコシル化のタイプを決定しました[1~3]。

プロトコル

糖タンパク質発現のプロトコル

RNAseフリーの環境を維持するよう気をつけます。試薬は使用前に速やかに解凍し氷上を維持してください。室温でIVT反応の準備を行います。使用しないHeLaライセートおよびその他のキット構成品はすぐに-80°Cで保管してください(このプロトコルのDNA濃度、インキュベーション時間および温度は製品説明書のデフォルトプロトコルとは異なります)。

  1. HeLaライセート、アクセサリータンパク質、反応ミックス[ワンステップヒトIVTキット(品番88881)構成品]および0.1 µg/µLに希釈した糖タンパク質をコードするDNAを氷上で解凍します。素早く解凍するため、手袋をはめた手で容器を暖めてください。半分まで解凍されたら氷上に戻します。
  2. 表1に明記された割合での反応を室温で準備します。1.5 mLのヌクレアーゼフリーチューブに、列記した順序で試薬を加えます。各試薬を添加後、反応液を穏やかに撹拌します。反応をスケールアップする場合、明記した割合を維持してください。

表1IVT反応の成分表(糖タンパク質発現用)

成分名はThermo Scientificワンステップヒト結合型IVTキット(品番88881)のものです。

成分量(µL)
HeLaライセート12.5
アクセサリータンパク質2.5
反応ミックス5
ヌクレアーゼフリー水3
DNA(0.1 µg/µL)2
25
  1. 反応液を3~4時間、26°Cでインキュベートします。
  2. 翻訳反応に続き同日中に以降のアプリケーションおよび分析を行う場合は氷上に反応液を維持してください。長期保管する場合、反応液は-20°C以下としてください。反応産物は10,000 × g 5分の遠心で回収可能です。
結果と考察

次の3つの異なる糖タンパク質、ヒト絨毛性ゴナドロピンホルモン-βサブユニット(HCG-β)、α-1-酸性糖タンパク質1(ORM1)およびpT7CFE-CHAベクター(品番88862)にクローニングしたエリスロポエチン(EPO)をワンステップヒト結合型IVTシステムで発現させました。これらの糖タンパク質を発現しているライセートをメーカーの指示に従いエンドグリコシダーゼH(Endo H)で処理しました。Endo H処理によりSDS-PAGEにおける高分子量のバンドが消失したことから、ヒトIVTで発現させたタンパク質がグリコシル化を受けたことが示唆されました(図1)。

Endo Hは複合体でないN結合型糖類のみを分解します。したがって、これらの結果はヒトIVTシステムでN結合型グリコシル化のみが生じたことを示しています。N結合型とO結合型グリカンを含む糖タンパク質であるフェチュインについて、ヒトIVTシステムで発現させO-グリコシダーゼで酵素的消化を行った場合のO結合型グリコシル化については観察していません(データ未掲載)。N結合型グリコシル化の特徴を調べるため、さらに質量分析法による試験を行っています。

A14n02-Fig1
図1 ヒトIVTによるN結合型糖タンパク質の発現 HCGβ、ORM1、EPOHAのHAタグ付きDNA各0.1 μg、0.2 μgを、結合型ヒトIVT反応液25 μLにそれぞれ加えて、26°Cで4時間反応させた。 この反応液の一方はそのまま、もう一方をEndo Hでメーカーの指示に従って処理し、発現したタンパク質をSDS-PAGEゲル上で分離、抗HA抗体を用いたウェスタンブロットでタグを検出した。 グリコシル化されたタンパク質の位置は、三角印のマーカーで示している。一番下のバンドは、グリコシル化されていないタンパク質に相当する。 Endo Hによって、すべてのN結合型マンノースが完全に除去され、そのタンパク質の残渣が単一のバンドとして表れている。 DNA濃度が低いほど、グリコシル化されていないタンパク質に対するグリコシル化されたタンパク質の相対的な比率が、著しく高くなった。
結論

Thermo Scientificワンステップヒト結合型IVTシステムによる部分的N結合型糖タンパク質の発現を実証しました。このシステムによる糖タンパク質の発現は、製品取扱説明書に記載のデフォルトプロトコルの反応条件を最適化する必要があります。(1)反応液に添加するDNA量を減らす、(2)インキュベート温度を26°Cに下げる、(3)インキュベート時間を4時間未満にすることでタンパク質発現に対する負荷を軽減し、グリコシル化されたタンパク質の発現を最大化しました。この技術を利用することでタンパク質の翻訳後修飾としてin vitroでのグリコシル化を行うことができます。

方法

タンパク質発現は上記プロトコルで行いました。発現させたタンパク質における糖タンパク質の結合型については、メーカーの指示に従いEndo H(#P0702S, New England Biolabs)でサンプルを処理することで決定しました。概要は以下の通りです。糖タンパク質を発現しているIVT反応液5 µLに10X Glycoprotein変性バッファー1 μLを混合し、脱イオン水を加えて10 μLとしました。95~100°C、10分間の熱処理により糖タンパク質を変性させ、500Xg 、30秒で反応液をスピンダウンしました。10X G5反応バッファー2 μL、Endo H 3 μLおよび水を加え反応液の総量を20 μLとしました。反応液を37℃で1時間インキュベートしました。最後に、タンパク質をSDS-PAGEで分離し、メンブランに転写、抗HA抗体(Ab No. 26183)を用いてタンパク質のHAタグを標識し、Fastウェスタンブロットキット(品番35065)で検出しました。

引用文献
  1. Robbins, P.W., et al.(1984).Primary structure of the streptomyces enzyme endo-beta-N-acetylglucosaminidase H. J. Biol.Chem.259: 7577-83.
  2. Trumbly, R.J., et al.(1985).Amplified expression of streptomyces endo-beta-N-acetylglucosaminidase H in Escherichia coli and characterization of the enzyme product.J. Biol.Chem.260: 5683-90.
  3. Mikami, S., et al.(2006).A hybridoma-based in vitro translation system that efficiently synthesizes glycoproteins.J. Biotechnol.127: 65-78.


    ヒトIVT-DNA

    Thermo ScientificワンステップヒトIn Vitroタンパク質発現キットは、mRNAまたは鋳型プラスミドから全長タンパク質の翻訳と翻訳後修飾を行うことができ、最大で反応あたり100 µg/mLの収量を得ることができます。

    ヒトIVTキットは、in vitroでの翻訳または転写と翻訳を組み合わせた反応を行うための、HeLa細胞ライセートを用いた独自のタンパク質発現システムです。90分間の反応1回でタンパク質発現を行います。最適化されたpT7CFE1発現ベクターと組み合わせた場合、反応時間は6時間まで延ばすことができ最大100 µg/mLまで継続的にタンパク質合成を行います。ヒトIVTキットは、機能性酵素、リン酸化タンパク質、糖タンパク質および膜タンパク質を発現させ、タンパク質相互作用の研究、迅速な変異解析の実行および活性測定にすぐに利用可能です。

    ワンステップヒト結合型IVTキットの特徴

    • 機能的—ヒトの翻訳機構を利用して、活性タンパク質を発現
    • 簡便—転写と翻訳をワンステップで実行
    • ハイパフォーマンス—ウサギ網状赤血球in vitro翻訳より高収量
    • 確実—ウサギ網状赤血球システムでは崩壊してしまうタンパク質でも、発現可能

    Thermo Scientific Pierce Primary Cardiomyocyte Isolation Kitについて詳しく知る

    For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.