Thermo Scientific Pierce GTPase Enrichment Kit with ActivX* GTP ProbeはGTPase小サブユニットおよびG-protein大サブユニットに対して選択的標識と濃縮を行うことができます。Thermo Scientific ActivX Desthiobiotin-GTP Probe†は、不安定なアシルリン酸結合によりヌクレオチドと改変型ビオチンが結合した構造をしています(図1A)。酵素からGTPまたはGDPヌクレオチドを除去後、Desthiobiotin-GTP ProbeはGTPaseのヌクレオチド結合部位にある保存されたリジン残基に共有結合させて(図1B)、サンプル内の標的酵素クラスを選択的に濃縮、同定するのに利用されます1-3。阻害剤の結合親和性や標的特異性を試験するため、サンプルはプローブと競合する低分子阻害剤とともに事前にインキュベートします。

ActiveSite-Rxn-GTP-Fig1

図1 GTPase用 desthiobiotin-GTP probeのメカニズムと化学的構造 パネルA:デスチオビオチンは不安定なアシルリン酸結合によりGTPヌクレオチドと結合しており、デスチオビオチン標識は効率的にGTPase活性部位近くのアミンへ転移されます。 ストレプトアビジンに結合したデスチオビオチンは酸性溶出条件により容易に結合が解かれるため、標識されたタンパク質やペプチドは高効率で回収できます。 パネルB:ヌクレオチドアナログがGTPaseの活性部位に結合し、ビオチンアフィニティタグは活性部位に高度に保存されたリジン残基へ不可逆的に転移されます。

活性部位の標識はウェスタンブロットまたは質量分析(MS)により評価します。ウェスタンブロットのワークフローでは、デスチオビオチン標識されたタンパク質を濃縮後にSDS-PAGEで分離し、その後の検出を行います。MSワークフローでは、デスビオチン標識されたタンパク質を還元・アルキル化した後、酵素でペプチドへと消化します。デスビオチン標識された活性部位のペプチドのみがLC-MS/MS分析用に濃縮できます。いずれのワークフローも阻害剤の標的への結合を把握するのに利用可能ですが、包括的な阻害剤の標的化や非標的化を同定できるのはMSワークフローのみです。

ActiveSite-workflow-Fig2

図2 活性部位への標識は、ウェスタンブロットまたは質量分析により評価できます。 ウェスタンブロットのワークフローでは、デスチオビオチン標識されたタンパク質は濃縮後にSDS-PAGEで分離し、特異抗体を用いた検出を行います。 MSワークフローでは、デスビオチン標識されたタンパク質を還元・アルキル化した後、酵素でペプチドへと消化します。 デスビオチン標識された活性部位のペプチドのみがLC-MS/MS分析用に使用されます。

結果と考察

低分子GTPaseへの標識と阻害剤のプロファイリング

GTPaseは膜貫通レセプターの細胞内ドメイン、小胞輸送、核タンパク質輸送およびタンパク質の生合成でのシグナル伝達において重要な物質です。ヘテロ三量体のGTPaseは一般的にGタンパク質共役受容体(GPCR)と結合しておりレセプターのシグナルを決定するアイソフォームが複数あります。低分子GTPaseスーパーファミリーには数百のタンパク質が属しており、さらにRas、Rho/Rac、Rab、ArfおよびRanに分けられます。これらの単量体GTPaseはGTP結合型かGDP結合型であるかに応じて、細胞内のシグナル伝達で分子スイッチとして機能しています。

GTPaseを標識するための活性部位プローブの機能と特異性を実証するため、A549細胞ライセートをdesthiobiotin- GTPで標識しウェスタンブロットで分析する前に濃縮しました。ウェスタンブロットのワークフローを用いて(図2)、塩化マグネシウムで処理した細胞ライセートは低分子GTPase Ras、Cdc42およびRho Aを特異的に標識することが明らかになりました。また、組み換えRac1を阻害するため、desthiobiotin- GTPで標識する前にGTPの非加水分解性類似物GTPγSを用いました。これらの結果はdesthiobiotin-GTPプローブがGTPaseの活性部位を特異的に標識することを示してます。

GTPase-Enrich-Fig3

図3 desthiobiotin-GTPプローブは低分子GTPaseを特異的に標識します。 パネルA:A549細胞ライセート(500 µg)をdesthiobiotin-GTPプローブ20 µMで標識後、20 mMのMgCl2処理あり(+)または処理なし(-)で比較しましたい。 desthiobiotinで標識したタンパク質は、SDS-PAGEによる分離とGTPase特異的抗体を用いたウェスタンブロットを行う前に変性させ、ストレプトアビジンアガロースを用いて濃縮しました。 パネルB:組み換えRac 1はdesthiobiotin -GTPプローブで標識する前にGTPγS処理を行いました。 標識は20 mM MgCl2存在下(+)または非存在下(-)で行いました。 サンプルをSDS-PAGEで分離し、ウェスタンブロットで活性部位のビオチン化を検出しました(Labeled)。 泳動量が同じであることを示すため、同じゲルをThermo Scientific GelCode Blue Stain試薬で染色しました(Total)。

質量分析による同定を行うためのGTPase濃縮

desthiobiotin -GTPプローブは活性型GTPaseを選択的に標識するわけではありませんが、このプローブの結合を利用することで包括的なプロテオミクス研究を目指したGTPaseの特異的な標識が可能です。標的タンパク質は、desthiobiotinで標識された活性部位のペプチドを分析することで同定することができます。MSワークフローにより、G-protein大サブユニットと低分子GTPaseファミリーから66のGTPaseに対応する500を超える活性部位ペプチドを同定しました(表1)。このアプローチを用いてプロテオミクスの標的リストを作成することで、複数の細胞や組織を対象としたGTPaseの発現を比較することができるようになります。

表1質量分析によるGTPaseの同定

ファミリーファミリーあたりのGTPaseの数
Rab38
RAS9
ARF8
RHO5
4
Sar12
結論

Pierce Desthiobiotin GTPase Kitとそのプローブは幅広い用途に利用できるツールであり、選択的な標識や、ウェスタンブロットや質量分析によるプロファイリングのためのGTPaseの濃縮を行うことができます。

引用文献
  1. Cravatt, B.F., et al.(2008).Activity-based protein profiling: From enzyme chemistry to proteomic chemistry.Ann Rev Biochem77:383-414.
  2. Patricelli, M.P. (2002).Activity-based probes for functional proteomics.Brief Funct Genomic Proteomic1(2):151-8.
  3. Okerberg, E.S., et al.(2005).High-resolution functional proteomics by active-site peptide profiling.Proc Natl Acad Sci U.S.A.102(14):4996-5001.

ActivX Desthiobiotin-GTPプローブは研究目的に限りActivX Biosciences Inc.からThermo Fisher Scientificに付与されたライセンスです。



    Pierce GTPase濃縮キットwith GTPプローブ

    Thermo Scientific Pierce GTPase Enrichment Kit with GTP probe はActivX™GTPプローブを利用してGTPase活性部位やGタンパク共役受容体のGTPaseサブユニットと共有結合し標識します。これにより、デスチオビオチンタグによる選択的濃縮ができるようになり、サンプル全体にわたって標的酵素クラスを同定し特徴を把握することができます。また、酵素阻害剤の特異性や親和性の評価にも利用可能です。

    GTPase濃縮キットwith GTPプローブの特徴

    • 特異性—ヌクレオチド結合タンパク質の保存された活性部位のリジンのみを標識
    • 互換性—細胞または組織由来のGTPaseをin vitroで標識するのに利用
    • 柔軟性—ウェスタンブロットまたは質量分析(MS)のワークフローと一緒に利用

    Thermo Scientific Pierce GTPase Enrichment Kit with GTP probe について詳しく知る

     

    For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.