レポーターアッセイは、様々な生体中における環境刺激に応じた遺伝子発現の制御機構を解析するため、長年にわたって利用されてきた手法です。レポーターコンストラクトは、遺伝子制御因子をレポーター遺伝子上流に挿入することによって構築し、その後このコンストラクト(一般的にはプラスミド)を標的細胞または生体に導入します(図1)。ルシフェラーゼに基づくレポーターアッセイ法が開発されたことで、広範な実験条件下で低バックグラウンド干渉な、新たなシグナル検出法が実現しました[1]。ルシフェラーゼレポーターアッセイにおいて、ルシフェラーゼは制御因子によって発現が調節され、その発光シグナルを測定することで、シグナル伝達経路に影響する解析対象因子の活性を定量することができます(図2)[2]。

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図1. Thermo Scientific pMCS--Gaussia Lucレポーターコンストラクト。 目的の制御因子は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子上流のマルチクローニングサイト(MCS)に挿入することができます。 培養にピューロマイシンまたはアンピシリンを添加することで選別が可能です。

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図2. ルシフェラーゼレポーターアッセイの概略図

多種多様なルシフェラーゼ変異体が、過去数十年にわたって発見されてきました。その多くは、発光のために固有の基質および補因子を必要としますが、そうでないものもあります。さらに重要なことに、生成される光は、その発光スペクトルのみならず、安定性および明度についても異なる場合があるということです[2]。複数タイプのルシフェラーゼが発見されたことは、マルチプレックス化実験において複数のレポーターコンストラクトを利用するアッセイの開発に、当然のことながら役立ちました。デュアルレポーターアッセイでは、単一の生体または細胞において、異なる2種類のルシフェラーゼを組み合わせて使用することがよくあります。このような場合、一方のルシフェラーゼは、実験パラメーターを解析するために使用され(実験レポーター)、もう一方のルシフェラーゼは、実験結果を補正するために、トランスフェクション効率、細胞生存率、細胞プレーティングの正確さを測定する内部コントロールとして使用されます(ノーマリゼーションレポーター)[2]。

スペクトル分解可能な発光スペクトルを持つ2種類の異なるルシフェラーゼを使用した、96ウェルまたは384ウェルマイクロプレートの新たなデュアルレポーターアッセイの性能について、Thermo Scientific Pierce Gaussia-Firefly Luciferase Dual Assay(品番16182)、またはGaussia(品番16159)およびRenilla(品番16165)Luciferase Flash Assay Kitsのそれぞれを使用して解析しました。アッセイの最適化は、発現型ルシフェラーゼ酵素を含むライセートを用いて行い、その結果を複数のBioTek™ Synergy™ Microplate Reader(インジェクター付属)で比較しました。

結果と考察

BioTek Synergyプレートリーダー、Synergy H1およびSynergy Neoについて試験を行いました。表1および2に、試験で用いたアッセイの設定を要約しました。さらなる詳細については、後述の考察および方法のセクションをご参照ください。

表1. ルシフェラーゼアッセイのリーダーパラメーター

積分時間の項目下段に記述した以外は、3機すべてのSynergy装置で同一設定としました。

 フラッシュアッセイデュアルスペクトルアッセイ
設定GaussiaRenillaGaussiaRed Firefly
ModeLumLumLumLum
ExcitationPlugPlugPlugPlug
Emission485/40530/25485/20640 LP
Gain100100225225
Integration time1sec1secH1、H4 = 1秒
Neo = 0.2秒
H1、H4 = 1秒
Neo = 0.2秒
Delay0msec0msec0msec0msec

表2. アッセイの最適化された読み取り高さ。

本項では、384ウェルプレート(ウェルあたりの総量30 µL)によるフラッシュアッセイ、および96ウェルプレート(ウェルあたりの総量70 µL)によるデュアルスペクトルアッセイのデータを示します。試験は、どちらのアッセイについても、2つのプレートタイプで行いました。

 Synergy H1Synergy H4Synergy Neo
96-well plate7 mm1 mm6 mm
384-well plate9.25 mm1 mm8.25 mm

光プローブの高さ(マイクロプレートから装置の光学系までの距離)は、シグナル/バックグラウンド比(S/B比)に少なからぬ影響を与える場合があり、その影響は、アッセイ容量が縮小されたウェル数の多いマイクロプレートにおいて、より重大なものになります。細胞ライセート中における高発現型ルシフェラーゼを使用したフラッシュアッセイのシグナルは、各リーダーの光プローブの高さを特定するために、十分な時間を得られる安定性がありました。Synergy H1およびNeoにおけるプローブZ軸高さの最適化を、Gen5ソフトウェアの読み取り高さ自動調整機能を使用して行ったところ(図3)、最適なシグナル感度が得られる高さはそれぞれ9.25 mmと8.25 mmでした。Synergy H4のZ軸高さについては、読み取りを継続しながら手動で読み取り高さを上げていく方法で最適化を行ったところ(データ未掲載)、プローブの高さが最低値である1 mmにおいて感度が最大になることが分かりました(表2)。

A. Synergy H1

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B. Synergy Neo

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図3. Z軸高さの自動最適化。 プローブZ軸高さの作用としてのシグナル強度曲線を示す、Thermo Scientific Gaussia Luciferase Flash Assayによる代表データ。アッセイは384ウェルマイクロプレートで実施し、A)Synergy H1およびB)Synergy Neoで読み取りを行った。

最適なシグナル検出を行い、様々なルシフェラーゼ変異体間で認められる発現レベルやシグナル強度のばらつきを除去するため、特定された最適なプローブZ軸の高さを用いて適切なゲイン設定を決定しました。最適なゲイン設定は、無希釈の細胞ライセート(等倍濃度)において、最適なS/B比が得られるとともに、シグナル強度が光電子増倍管(PMT)の飽和限界(オーバーフロー)より確実に低くなるような値に決定しました。ゲイン設定の決定は、96ウェルおよび384ウェルマイクロプレートの双方について行いました。

ルシフェラーゼフラッシュアッセイ

RenillaおよびGaussiaルシフェラーゼを含むライセートを半対数希釈し、表1および2に示した最適化されたパラメーターを用いて、リーダーの性能を調査しました。プローブの高さおよびSynergy Neo(HTS用装置)の積分時間を他機種よりも短い0.2秒に設定した以外は、3機すべての装置で近似したパラメーターにより試験を行いました。データは、Y軸に相対発光量を、X軸に希釈倍率を、両対数でプロットしました。GraphPad Prismソフトウェアの両対数直線非線形回帰分析によってデータを解析し、相関的直線性を調べました(図4)。発現型Renillaルシフェラーゼを含むライセートでは(図4A)、試験を行ったすべてのリーダーにわたって、5桁にも及ぶダイナミックレンジとともに、ほぼ完全な直線性が明白に示されています。反対に、Gaussiaルシフェラーゼを含むライセート試料において、直線性に基づくシグナルのばらつきが確認されるのは、希釈系列の最後から3段階目までです(図4B)。一方、試験を行ったすべてのリーダーでばらつきが一貫しており、このような現象は、Synergy H1を使用したアッセイにおいてとりわけ顕著に認められました。また、リーダー間の顕著なRLU強度シフトについては、選択パラメーターにおける装置最適システムの差異によるものである可能性が考えられます。

A. Green Renillaフラッシュアッセイ

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B. Gaussiaフラッシュアッセイ

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図4. RenillaおよびGaussiaルシフェラーゼフラッシュアッセイ A)RenillaおよびB)Gaussiaルシフェラーゼを含むライセートを、半対数用量で溶解バッファーに希釈しました。 データは、5桁に及ぶダイナミックレンジにわたる、希釈倍率に対する相対発光量(RLU)として表します。

ガウシア-ホタルルシフェラーゼデュアルアッセイ

ルシフェラーゼデュアルアッセイは、1組の別個なルシフェラーゼ酵素が生成する異なる波長の光をスペクトル分解する能力に依存しています。標準的なデュアルスペクトルルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイでは、レポータープラスミドおよびコントロールプラスミド(ウェル間のばらつきを補正するための手段となる)に由来する2種類のルシフェラーゼ活性を、同時にモニタリングすることができます。多くのルシフェラーゼはスペクトル分解可能であるものの、Gaussiaおよびred fireflyルシフェラーゼについては、スペクトルがわずかながら重複することがあります(図5)。適切な補因子および基質を含むワンステップ検出試薬を添加後、リーダーの性能に応じたフィルターを慎重に選択することで、各変異体からのシグナルを連続的または同時に読み取ることができます。図6に示した波長重複を確実に最小化する推奨帯域幅のフィルターは、Gaussiaによる発光については485±20 nmのバンドパス(BP)フィルター、red fireflyによる発光については640 nmのロングパス(LP)フィルターです。

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図5. Gaussia-fireflyルシフェラーゼデュアルスペクトルアッセイにおける発光スペクトルの図表。 網掛け領域は、Gaussia(最大波長485 nm)およびred firefly(最大波長613 nm)ルシフェラーゼに対する、それぞれの推奨フィルター帯域幅を表す。 Green Renillaルシフェラーゼ(前述のフラッシュアッセイを参照)およびCypridinaルシフェラーゼ(本調査では使用せず)のスペクトルについても表示している。

標準的なデュアルスペクトルルシフェラーゼレポーターアッセイの手順を、以下に要約しました(図6)。混合物の抑制的な用量反応などのアッセイ条件を近似させるため、Gaussiaを含むライセート(実験レポーター)を希釈し、図6に示した一定濃度を維持したまま、red fireflyルシフェラーゼを含むライセート(正規化コントロール)に1:1(v/v)の割合で加えました。本アッセイでは、単一試薬の注入によって惹起された二重発光シグナルの読み取りを、Synergy H1およびH4で連続的に、またはSynergy Neoの二重発光検出能力を用いて同時に行いました。

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図6. Thermo Scientific Gaussia-Fireflyルシフェラーゼデュアルアッセイキットの手順概要。 ワンステップな手順により、2種類のルシフェラーゼのスペクトル分解が可能。 双方の基質が単一のアッセイ試薬に含まれていることで、1つの試料における2種類のルシフェラーゼ活性を、フィルターを用いた検出法で同時に測定することができる。

red fireflyルシフェラーゼのシグナルは、Gaussiaルシフェラーゼの濃度に関わらず、試験を行った濃度範囲において使用したすべてのリーダーで明らかに優良な直線性を示しています(図7)。Gaussiaルシフェラーゼについては、図7に示したとおり、高濃度ではほぼ直線性を示すものの、低濃度ではほとんど失われてしまう傾向があります。また、このような傾向は、Synergy H1でアッセイを行った場合(図7A)、その他の装置による試験(図7B、C)と比較して、より明確に表れます。このことは、前述した試験条件でのリーダー間に認められる、アッセイ感度の差異によるものと考えられます。

A. Synergy H1

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B. Synergy H4

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C. Synergy Neo

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図7. Gaussia-fireflyルシフェラーゼデュアルアッセイ。 Gaussia-fireflyルシフェラーゼデュアルアッセイキットを使用して、各レポーターからの活性を種々のSynergyリーダーで測定しました。 このアッセイは、標準的なデュアルレポーターアッセイを模倣するシングルステップアッセイとして実施しました。 A)Synergy H1、B)Synergy H4、C)Synergy Neo。

結論

ルシフェラーゼによるレポーターアッセイは、複雑なシグナル伝達現象を高感度で調査する手法として、細胞ベースアッセイにおいて重要な役割を継続的に担っています。マルチプレックス化されたルシフェラーゼ変異体によって、細胞生存率、トランスフェクション効率、およびプレーティングのばらつきをモニタリングすることで、データの補正が可能になります。本項では、Pierceルシフェラーゼによるアッセイを、複数機種のSynergyマイクロプレートリーダーにおいて効果的に行う能力について、各マイクロプレートフォーマットでの比較結果とともに示しました。加えて、スペクトル分解可能なルシフェラーゼの連続的読み取り、またはSynergy Neoの多重平行検出器を利用した同時読み取りによる、ルシフェラーゼデュアルアッセイを行う能力について示しました。また、5桁にも及ぶルシフェラーゼ濃度の検出能力に関連する、最適なリーダーの設定およびフィルターセットについても記述しました。

方法

ルシフェラーゼフラッシュアッセイ

Renilla(品番16165)およびGaussia(品番16159)Luciferase Flash Assay Kit、RenillaまたはGaussiaルシフェラーゼが発現した細胞のライセート、ルシフェラーゼ酵素を含まないコントロール用の細胞ライセートは、Thermo Fisher ScientificのProtein Biologyユニット(イリノイ州ロックフォード)から譲り受けました。アッセイは、white 384ウェルマイクロプレート(カタログ番号3705、Corning Inc. Life Sciences, Tewksbury, MA)を用いて行いました。このアッセイは、以下のような改変を加えた、384ウェルマイクロプレートのメーカー推奨使用法に従って実施しました。分取した100倍濃度のCoelenterazine原液は、一時的に-80°Cで遮光保存しました。等倍濃度のCoelenterazine希釈標準溶液は、使用当日に、原液50 μLを当該のフラッシュアッセイバッファー5 mLで希釈して調製しました。リーダー設定の最適化を行うため、細胞ライセートを細胞溶解バッファーで等倍、1,000倍(1.0e-3)、10,000倍(1.0e-5)に希釈しました。細胞ライセートを溶解バッファーで希釈して、溶解バッファーのみのコントロールを含む、11段階の半対数希釈系列を作製しました。マイクロプレートリーダーのインジェクターは、すべてのアッセイにおいて、アッセイを行う直前に1.2 mLの希釈標準溶液で準備しました。あらかじめ5 µLの細胞ライセートまたは溶解バッファーが分注されたアッセイの各ウェルに、マイクロプレートリーダーのインジェクターを使用して、発光検出を行う直前に25 µLの希釈標準溶液を分注しました。このアッセイ手順は、Gen5™データ分析ソフトウェア(BioTek Instruments, Inc., Winooski, VT)のウェルモードで、表1に概略したパラメーターによって実行し、分析用データのエキスポートには、Microsoft™Excel™ソフトウェア(Redmond, WA)またはGraphPad™Prism™ソフトウェア(La Jolla, CA)を使用しました。

Gaussia-fireflyルシフェラーゼデュアルアッセイ

Gaussia-firefly Luciferase Dual Assay Kit(品番16182)、GaussiaまたはFireflyルシフェラーゼが発現した細胞のライセート、ルシフェラーゼ酵素を含まないコントロール用の細胞ライセートは、Thermo Fisher Scientific(Rockford, IL)から譲り受けました。アッセイは、白一色の96ウェルマイクロプレート(カタログ番号3912、Corning Inc. Life Sciences, Tewksbury, MA)を用いて行いました。このアッセイは、以下のような改変を加えた、96ウェルマイクロプレートのメーカー推奨使用法に従って実施しました。凍結乾燥したD-luciferinのペレットを、適切な容量のGaussia-Firefly Dual Assay Buffer(0.5 mL)に再懸濁し、100倍濃度の原液としました。分取した100倍濃度の原液は、-20°Cで遮光保存しました。Colenterazine原液は、前述の方法で調製しました。等倍濃度の希釈標準溶液は、使用日当日に、再懸濁されたD-Luciferin 50 µLおよびCoelenterazine原液50 µLを、Gaussia-Firefly Dual Assay Bufferで5 mLに希釈して調製しました。Gaussiaルシフェラーゼを含む細胞ライセートは、溶解バッファーで希釈して、溶解バッファーのみのコントロールを含む半対数希釈系列を作製しました。Fireflyルシフェラーゼを含む細胞ライセートについては、2倍濃度に希釈して、内部コントロールとして使用しました。Gaussiaルシフェラーゼを含むライセートまたは溶解バッファーを、fireflyルシフェラーゼを含むライセートと1:1の割合で混合し、合計容量を20 µLとしました。マイクロプレートリーダーのインジェクターは、アッセイを行う直前に1.2 mLの希釈標準溶液で準備しました。あらかじめ20 µLの細胞ライセートまたは溶解バッファーが分注されたアッセイの各ウェルに、マイクロプレートリーダーのインジェクターを使用して、発光検出を行う直前に50 µLの希釈標準溶液を分注しました。このアッセイ手順は、前述した方法で実行、分析しました。

引用文献
  1. Williams, T.M., et al. (1989). Advantages of firefly luciferase as a reporter gene: application to the interleukin-2 gene promoter. Anal Biochem. 176(1):28-32. [pubmed/2785354]
編集者注

本記事の初版は、BioTek Instruments, Inc.によって2013年10月16日にオンラインで公開された、アプリケーションノートAN101613_21です。



    Renilla Luc Flash Kit

    Thermo Scientific Pierce Renilla Luciferase Flash Assay Kit は、哺乳動物の全細胞ライセートにおいて、制御因子の転写活性に対する高感度な細胞内アッセイを可能とします。

    Renilla Luciferase Flash Assay Kitの特長:

    • 高感度—感度が向上することで、より少数の細胞でも利用可能
    • 低コスト—最高水準の高感度アッセイでは、試薬の消費量が低減
    • 時間節約—最低限の試料処理でアッセイが可能
    • 自動化可能—ハイスループットスクリーニングに対応可能
    • 簡便—一般的な細胞溶解バッファーと最適化されたフラッシュアッセイ試薬が同梱
    • 安全—放射性物質を使用することなくアッセイが可能

    Thermo Scientific Pierce Renilla Luciferase Flash Assay Kit の詳細情報

    For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.