プラスミドを用いるルシフェラーゼレポーターアッセイは、哺乳動物細胞におけるシグナル伝達経路を研究するうえで有力なツールです。しかし、トランスフェクション効率が低い細胞では発光シグナルが弱くなり、検出が困難な場合があります。Thermo Scientific PierceGaussiaCypridina、GreenRenillaルシフェラーゼフラッシュアッセイは、高い生物発光シグナルを生成することで、トランスフェクションが困難な細胞においても、ルシフェラーゼに基づく伝達経路の研究を可能とします。

本研究では、他の研究報告(1)の裏付けとなるJurkat細胞のトランスフェクション効率の低さが明らかになりました。次に、Pierce Luciferase Reporter Systemsを使用してこの細胞へのトランスフェクションを行い、Thermo Scientific Pierce Luciferase Flash Assay Kitsで活性を測定しました。さらに、cAMP応答配列(CRE)とプロモーターをPierce pMCS-Lucベクターに導入したレポータープラスミドを構築し、その後、トランスフェクションした細胞内で伝達経路を活性化させました。高感度なPierce Luciferase Reporter Systemsは、トランスフェクション困難な細胞においても、レポーター活性を効果的に測定することができました。

結果と考察

Thermo Scientific TurboFectトランスフェクション試薬(品番R0533)を使用して、Jurkat細胞への緑色蛍光タンパク質(GFP)プラスミドのトランスフェクションを行い、その効率を評価したところ、蛍光顕微鏡による検査でGFPシグナルが確認された細胞は、ほんのわずかしか(100個未満)存在しませんでした(図1A)。蛍光活性化細胞選別(FACS)によってトランスフェクションを定量化したところ、GFPを発現した細胞は全体の1%未満であり(図1B)、Jurkat細胞のトランスフェクション効率が低いことが明らかになりました。

A12n05-Fig1図1GFPプラスミドをトランスフェクションしたJurkat細胞では、その効率は低い水準にとどまります。A:明視野像を重ね合わせた、トランスフェクションされた細胞の蛍光顕微鏡検査。輝点が、GFPを発現した細胞に相当します。B:フローサイトメトリーによるトランスフェクションの分析。M2領域が、GFPの蛍光に対応します。

高感度なアッセイによってトランスフェクション効率の低い細胞を補うことができるということを証明するため、Pierce pCMVGaussiaCypridina、GreenRenillaルシフェラーゼレポータープラスミドを使用して、Jurkat細胞へのトランスフェクションを行い、Thermo Scientific Pierce Luciferase Flash Assay Kitsで活性を測定しました。分泌型のGaussiaおよび細胞内発現型のGreenRenillaルシフェラーゼは、その活性によって非常に強いルシフェラーゼシグナルを生成しました。分泌型および細胞内発現型のCypridinaルシフェラーゼにおいても、高いシグナルが検出されました。加えて、弊社のキットは他社製のそれよりも優れた性能を示しました(図2)。

A12n05-Fig2図2高感度なアッセイは、トランスフェクション困難な細胞における生物発光の検出に効果的です。CMVルシフェラーゼレポータープラスミドおよびCMV-ホタルルシフェラーゼを、15万個のJurkat細胞にトランスフェクションしました。RLU:相対発光量。†CMV-ホタルルシフェラーゼは、P社製。

Jurkat細胞におけるcAMP応答配列(CRE)プロモーターの活性についても、CRE-GaussiaCypridina、およびGreen Renillaレポータープラスミドを用いて試験を行いました。トランスフェクション後(24時間)の細胞をCRE活性化因子であるフォルスコリンで処理し、そのルシフェラーゼ活性をPierce Luciferase Flash Assay Kitsで測定しました。その結果、Jurkat細胞におけるcAMPの細胞内シグナル伝達経路を、Pierceルシフェラーゼレポーターによって解析可能であることが明らかになりました。CRE-ホタルルシフェラーゼ(P社製)についても評価を行ったところ、確認されたシグナルはごくわずかなものでした(図3)。

A12n05-Fig3図3高感度なアッセイは、トランスフェクション困難な細胞におけるcAMPシグナル伝達経路の検出に効果的です。CRE-Gaussia、-Cypridina、-Green Renillaルシフェラーゼレポータープラスミドを、プロモーターを持たないPierce pMCS-ルシフェラーゼレポータープラスミドを構築し、Jurkat細胞にトランスフェクションしました。CRE依存的なcAMPシグナル伝達経路の活性化を誘導するため、細胞をフォルスコリンで5時間処理しました。RLU:相対発光量。†CRE-ホタルルシフェラーゼは、P社製。
結論

トランスフェクション効率が低い細胞においてルシフェラーゼレポーターアッセイを行うことは、これまでは困難なことであるとされてきました。しかしながら、Pierce Luciferase Reporter Systemsは、トランスフェクション効率が1%未満の細胞においても、シグナル伝達経路の解析を可能とする強力な発光シグナルを有しています。

方法

細胞培養:Jurkat細胞(クローンE6-1、ATCC、TIB-152)を、10%のウシ胎児血清および1%のペニシリン/ストレプトマイシンが添加されたRPMI-1640培地で、二酸化炭素濃度5%、37°C条件下にて培養しました。細胞は2日ごとに継代し、50~70%コンフルエントな状態を維持しました。対数増殖期の細胞は、その健全性を確保するため、トランスフェクションを行う6時間前に96ウェルプレートにプレーティングしました。

トランスフェクション:トランスフェクションを行う6時間前に、0.1 mLのRPMI-1640に懸濁された対数増殖期のJurkat細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに対して15万個ずつ播種しました。プラスミドDNA(100 ng)は、10 μLの血清フリー培地で希釈しました。TurboFect Transfection Reagent(0.3 μL、品番R0533)を希釈したDNAに添加し、ピペッティングにより混合しました。この混合物を、各ウェルに液滴添加しました。その後の処理を行う前に、二酸化炭素濃度5%、37°C条件下にて、細胞を24時間培養しました。

蛍光顕微鏡解析:96ウェルプレートの1ウェルに播種された対数増殖期のJurkat細胞を、二酸化炭素濃度5%、37°C条件下にて6時間培養した後、pCMV-GFPプラスミド(100 ng/ウェル)をTurboFectTransfection Reagentとともに加えて、さらに24時間置きました。このプレートを軽く遠心分離し、細胞を沈殿させました。画像は、LWD 40X/0.55 ph1 ADL対物レンズを装着したNikon Eclipse TS100で取得しました。蛍光(GFP)画像には、明視野像を重ね合わせました。

FACSによるデータ取得および解析:BD FACScanフローサイトメーター(Becton Dickinson社)は、校正用3カラービーズ(Becton Dickinson社)を使用して、FACSComp 4.2ソフトウェアの溶解/洗浄条件下で校正しました。キャリブレーション完了後、試料を処理し、1万回分のイベントデータを収集しました。解析は、FITCの場合と同様に、530 nmの発光を検知する光電子増倍管を使用して、GFPの検出に基づいて行いました。FLH(蛍光強度)に対する細胞数のヒストグラム作成には、ソフトウェア(CellQuest Proバージョン4.0.2、Becton Dickinson社)を使用しました。

ルシフェラーゼレポーターアッセイ:トランスフェクション後24時間の細胞を軽く遠心分離(1,000 x g、3分)して、プレートの底に細胞を沈殿させました。培地は、活性を測定するために回収し、細胞は、100 μLのPierce Luciferase Cell Lysis Buffer(品番16189)で溶解しました。培地およびライセート中の活性は、Gaussia品番16158)、Cypridina品番16168)、Green Renilla品番16164)の当該Luciferase Flash Assay Kitsを使用して測定しました。ホタルルシフェラーゼの活性については、Bright-Gloアッセイキットで測定しました。生物発光シグナル(RLU)は、試薬インジェクターを備えたThermo Scientific Varioskan Flash Luminometer(シグナル積分時間 = 1秒)で検出しました。

CRE-Gaussia、-Cypridina、-GreenRenillaルシフェラーゼレポータープラスミドは、CREとプロモーター(TATAボックスおよびコザック配列前に位置する約40 bpのスペーサー)を、プロモーターを持たないPierce pMCS-ルシフェラーゼレポータープラスミド(品番16146品番16149品番16152)にクローニングすることで構築し、その15万個のJurkat細胞へのトランスフェクションを、Pierce TurboFect Transfection Reagent(品番R0533)を使用して24時間行いました。トランスフェクション後の細胞は、CRE依存的なcAMPシグナル伝達経路を活性化させるため、フォルスコリンで5時間処理しました。プレートは軽く遠心分離(1,000 x g、3分)し、活性を測定するため培地を慎重に回収しました。細胞は、Pierce Luciferase Cell Lysis Buffer(品番16189)で溶解しました。培地およびライセート中の活性は、Gaussia品番16158)、Cypridina(品番16168)、Green Renilla品番16164)の当該Luciferase Flash Assay Kitsを使用して測定しました。ホタルルシフェラーゼの活性については、Bright-Glo Assay Kitで測定しました。生物発光シグナル(RLU)は、試薬インジェクターを装備したVarioskan Flash Luminometer(シグナル積分時間 = 1秒)で検出しました。

引用文献
  1. Jordan, E.T., et al. (2008). Optimizing electroporation conditions in primary and other difficult-to-transfect cells. J Biolmol Tech 19(5):328-34.
参考文献

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    For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.