RasスーパーファミリーであるSmall GTPaseは分子スイッチとして働き、細胞の成長や分化、運動性といった真核細胞の多様な動きを制御しています。したがって、Small GTPaseは癌や代謝性疾患などいくつかの疾患の病態に関わっています1,2。GTPaseはグアノシン三リン酸(GTP)と結合時にActiveとなり、三リン酸塩が加水分解されグアノシン二リン酸(GDP)に変化すると不Activeとなります。Thermo Scientific Pierce Active GTPase Pull-down and Detection Kitsを使用することで、Active GTPaseの選択的濃縮を利用したGTPase活性化を分析することができます。これらのキットにはGSTタンパク質と結合ドメイン(PBDまたはRBD)との融合タンパク質が含まれており、この融合タンパク質はRho、Ras、Rac1、Cdc42、Rap1、Arf1またはArf6それぞれの活性型に対する選択性を有しています(表1)。

結果と考察

プルダウン法は特定のGTPaseの活性型を対象としたもので、既知の下流エフェクタータンパク質の親和性に基づいた手法です。これら下流エフェクターの各タンパク質結合ドメイン(PBD)は、GST融合タンパク質として発現しています(表1)。グルタチオンアガロース樹脂に固定化されたPBDは、細胞ライセートに含まれるGTP結合型で活性型のGTPaseに結合します(図1)。プルダウンで得られた活性型GTPaseは、ウェスタンブロットにより検出します。コントロールとして、細胞ライセートを非加水分解性GTP類似物であるGTPgSで処理します。この方法により活性型GTPaseは全てトラップされ、濃縮度の高いGTPaseを得ることができます。細胞ライセートを過剰量のGDPで処理し、GTPaseの大部分を不活性型にしたものをネガティブコントロールとして使用します。

表1. GTPaseと対応する下流エフェクター

各Active GTPaseキットには、タンパク質結合ドメインとGSTとの融合タンパク質が含まれています。

GTPase下流エフェクター結合ドメイン細胞機能
RhoGST-Rhotekin-RBD糸状仮足形成、葉状仮足形成、ストレスファイバー
RasGST-Raf1-RBD細胞増殖と分化
Rac1GST-Pak1-PBD糸状仮足形成、葉状仮足形成、ストレスファイバー
Cdc42
Rap1GST-RalGDS-RBD細胞増殖と分化
Arf1GST-GGA3-PBD-PBDトランスゴルジ網およびエンドソームで生じる出芽小胞を覆うコートタンパク質の合成
Arf6細胞表面での、膜輸送、アクチンリモデリング、構造構成
本表で特定した細胞機能は文献3~7に基づいて行いました。
GTPase-PullDown-Fig1図1. Thermo Scientific Active GTPase Pull-down and Detection Kitsのプロトコル概要

GTPase Pull-down and Detection Kitsの特異性と機能を明らかにするため、NIH 3T3細胞ライセートをGTPγSまたはGDPと共にインキュベートし、内因性GTPaseをそれぞれ活性化または不活性化しました。活性型Rho、Ras、Rac1、Cdc42、Rap1、Arf1またはArf6をプルダウンするため、それぞれに特異的なGST-PBDまたはGST-RBDを使用しました。GTPγS処理を行ったライセートでは強いシグナルが検出されますが、GDP処理を行ったライセートは最小限のシグナルかシグナルなしとなります(図2)。これらの結果は、PBDにActive GTPaseに対する特異性があることを示しています。

GTPase-PullDown-Fig2図2. ウェスタンブロットを用いた、活性型Rho、Ras、Rac1、Cdc42、Rap1、Arf1およびArf6の特異的検出。GTPγSまたはGDP処理したNIH 3T3細胞ライセートを適切なGST結合ドメインと共にインキュベートし、グルタチオン樹脂に固定化しました。溶出サンプルとライセートの一部は、GTPase特異的抗体を用いてウェスタンブロットで分析しました。

内因性のActive Small GTPaseのプルダウンは、成長因子または血清による刺激を行った後に実施することで、様々な種から得た種々の細胞タイプにおいて大きな効果が得られました(図3)。GTPaseにおける活性の変化は経時的に測定することができ、細胞タイプや処理によって差異があります。各ライセートの全GTPase量は一定であるため、各アッセイにおいてプルダウンで得られたGTPase量は、GTPaseの発現レベルの変化ではなく活性化状態を反映しています。今回の活性化試験では文献で報告されているものと類似した結果を得ています8-11

GTPase-PullDown-Fig3a図3. プルダウンアッセイを用いることで、種々の細胞タイプから得た内因性の活性型GTPase量を特異的な誘導により変化させ、容易に追跡することができる。各パネルは、上側のウェスタンブロットはプルダウンアッセイにより分離した活性型GTPase量を、下側のウェスタンブロットはライセート中で発現した全GTPase量を示している。ウェスタンブロットに対して濃度計測を行い、各処理毎にグラフ化しました。パネルA:EGFで活性化したHeLa細胞(ヒト)のRho活性。パネルB:PDGFで活性化したNIH 3T3細胞(マウス)のRas活性。パネルC:NGFで活性化したNS1細胞(げっ歯類)のRac1活性。パネルD:HGFで活性化したMDCK細胞(イヌ)のArf1活性。パネルE:血清で活性化したC2C12細胞(マウス)のArf6活性。
結論

これらの結果は、変化しやすい活性を経時的なアッセイでモニタリングするのに、GTPase Pull-down and Detection Kitsが有効であることを示しています。

方法

細胞培養と処理

HeLa細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDulbecco’s modified eagle medium(DMEM)で培養密度約70%まで増殖させ、次いでFBS 1%培地で24時間飢餓状態とし、上皮増殖因子(EGF)100 ng/mLによる刺激を各時間で与えました。NIH 3T3細胞は、10% FBSを含むDMEMで培養密度約70%まで増殖させ、次いで0.1% FBS培地で24時間飢餓状態とし、血小板由来の成長因子(PDGF)50 ng/mLによる刺激を各時間で与えました。NS1細胞は、10% FBSを含むRPMIで培養密度約70%まで増殖させ、次いで神経成長因子(NGF、50 ng/mL)を各時間で添加しました。MDCK細胞は、10% FBSを含むEMEMで密度約70%まで増殖させ、次いで血清フリー培地で48時間飢餓状態とし、肝細胞成長因子(HGF)50 ng/mLによる刺激を各時間で与えました。C2C12細胞は、10% FBSを含むDMEMで密度約70%まで増殖させ、次いで血清フリー培地で48時間飢餓状態とし、10%血清を各時間で添加しました。

Active GTPaseのプルダウンと検出

NIH 3T3細胞を溶解/結合/洗浄バッファー1 mLを使用し、培養プレート上で溶解しました。分離した細胞ライセート(500 μg)をGTPγS(ポジティブコントロール)またはGDP(ネガティブコントロール)で処理しました。処理後のライセート(または経時的にサンプリングした内因性ライセート1 mg)は、GST-Rhotekin-RBD 400 μg(活性型Rho用)、GST-Raf1-RBD 80 μg(活性型Ras用)、GST-Pak1-PBD 20 μg(活性型Rac1もしくはCdc42用)、GST-RalGDS-RBD 20 μg(活性型Rap1用)またはGST-GGA3-PBD 100 μg(活性型Arf1もしくはArf6用)と共にインキュベートしました。各溶出の半分は、SDS-PAGEで分析しウェスタンブロットでGTPase特異的一次抗体を用いて検出しました。

引用文献
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    For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.