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byHai-Yan Wu, Ph.D.; Kay Opperman, Ph.D.; Barbara Kaboord, Ph.D. - 04/02/14
初代心筋細胞は心血管機能、心保護、心血管疾患の基礎となるメカニズムを研究し理解するために幅広く使用されています。心筋細胞培養系は単一細胞の均質な集団で、可視化も操作も容易です。心臓全体に比較して、心筋細胞培養系は比較的ピューリティが高くで、内皮細胞のような混入細胞は限られています。加えて、マウスやラットのような小型哺乳類から分離された心細胞の調製では、個体で行った研究に比較して、迅速に比較的コストの低い実験を多数行うことが可能です。
新生仔マウスおよびラット心臓からの初代心筋細胞の分離は一般的に時間と手間がかかるものでした。心筋細胞分離の一般的な問題としては、心臓が強く細胞内結合した固い臓器であるため、解離プロセスが困難で時間がかかるものになるということです。新生仔マウスまたはラット心筋細胞を分離する現在の方法は、数種類のトリプシン消化(通常は各10~20分で5回から8回のインキュベーション)[1, 2, 3]、または通常16時間から一晩の長時間を要する消化の方法です(表1)。
ステップ | DIYトリプシン | Worthington Kit | Pierce Kit |
---|---|---|---|
消化インキュベーション | 37°C、20 min | 4°C、一晩 (16~20時間) | 30~35分 |
遠心分離 | 1200 rpm、10 min | 非該当 | 非該当 |
繰り返し または2回目の消化 | 5~8回 | 30~45分 | 非該当 |
必要な合計時間 | 2.5~4時間 | 17~21時間 | 35分 |
本記事では、新生仔マウスやラット心臓由来初代心筋細胞の分離および培養用の便利で時間節約となるプロトコルを記載します。既存のプロトコルに対する新しい方法の有効性を酵素消化、細胞分離効率、心筋細胞機能に関して比較しました。新しい方法Thermo Scientific Pierce Cardiomyocyte Isolation Kit(品番88281)は分離プロトコルを大幅に改良したもので、心筋細胞培養系の自発拍動性の高い活性を持つ細胞生存率を示し、常に高い細胞収率を可能にします。
初代心筋細胞の分離はデリケートなプロセスで、心臓組織内の複雑なタンパク質および細胞内マトリックス相互作用を壊すための酵素をコントロールして使います。酵素、濃度、消化のタイミングの選択は、心筋細胞の収率と生存率に大きな影響を及ぼします。数種の異なるプロテアーゼおよびコラゲナーゼを個々に、または組み合わせてスクリーニングし、最も効率的な消化方法を決定しました(データ未掲載)。
最適な酵素の組み合わせ(パパインとサーモリシンを所定の濃度で)およびプロトコル(図1、Pierce Kit)を選択し、それをトリプシン、市販キット、心筋細胞分離に推奨の市販の酵素混合物を使用している標準の文献プロトコルと比較しました。表1に示したように、自家調製(DIY)トリプシン法は5~8回の連続のインキュベーションを使用し、Neonatal Cardiomyocyte Isolation System(#LK003300; Worthington Biochemical Corporation)は一晩の消化に続き、二次消化を35~40分間翌日に行います。Liberase™ DHおよびTM(Roche Diagnostics)の酵素混合物では、方法に合致させるため35分間のインキュベーションを1回37°Cで行いました。
本Pierce Kit法はトリプシンプロトコル、Worthington Kit手順、2つのRoche酵素混合物法に比較し、2~10倍高い細胞収量を与えた(図2)。更に、新しく分離された細胞の生存率は、本分離プロトコルが他の方法より25~50%上昇した(図2)。本分離方法はマウスやラット新生仔心臓に同じく適している(表2)。
細胞生存率をトリパンブルー色素により測定しました。
細胞型 | 1mlあたりの収量 | 生存率 |
---|---|---|
マウス心筋細胞 | 2.0 x 106 | 63% |
ラット心筋細胞 | 2.5 x 106 | 62% |
細胞の形状、形態を細胞の健康と機能を判断する方法の1つとして用いました。マウスまたはラットの筋細胞がプレーティング後24時間であれば(1日目)、播種細胞は最初の丸い形から急速に平らになりはじめ、短く広げた偽足状の形を見せます(図3A)。3日目以降、マウスおよびラットの心臓から分離した心筋細胞は長く見え、偽足は互いに伸びてコンフルエントな単層培養系を示します(図3A、B)。
A. マウス心筋細胞
B. ラット心筋細胞
培養系の経時的な健全性を評価するため、マウス心筋細胞の生存率および純度を培養1日目、7日目に測定しました。ヨウ化プロピジウム(PI、赤)は通常生細胞から排出される核蛍光染色で、培養系の死細胞を目立たせるために使用しました(図3A、下列)。各分離方法で調製されPI標識された細胞が1日目にいくらか培養系に存在するにもかかわらず、本方法で培養系のPI標識細胞と全細胞の比率(図4A)はWorthington Kit(1日目に19%、7日目に8%)を使用して調製した培養から得られたものに似ていましたが、トリプシン自家製試薬(1日目34%、7日目16%)およびRoche酵素混合物(1日目55%、7日目50%以上)で調製した培養で得られた比率よりはずっと低くなっていました。
心筋細胞培養の純度を評価するには、心筋細胞マーカータンパク質であるトロポニンT心筋アイソフォームに特有の抗体で細胞を免疫染色しました(図3Aの緑色の部分、下列)。心筋細胞の純度は全トロポニンT心筋アイソフォーム染色細胞と全細胞の比率として計算されます(核染色で決定)。1日目に、本方法で調製した培養系は61%が純粋な心筋細胞で、Worthington Kit(図4B)で調製した培養に類似していました。トリプシンまたはRoche酵素混合物で調製した培養は有意に純度が低下しました(各51%および45%)。しかし、キットに付属の線維芽細胞の汚染を減少させる試薬、Cardiomyocyte Growth Supplementを培養系すべての増殖培地に加えると、Roche混合物で調製した培養(8%)を除き、7日目の培養純度全体が20~30%増加しました(図4B)。
図4. 培地内の心筋細胞生存率と純度。 A. 1日目および7日目の細胞生存率は全PI陰性細胞と全細胞の比率として、Hoechst核染色で示した。 1日目および7日目の細胞純度は全トロポニンT心筋アイソフォーム染色細胞と全細胞の比率として、Hoechst核染色で示された。 独立した2つの実験に由来する全200個の細胞を解析した。 データは平均±SDを示している。
分離した心筋の一部は自発性拍動の活性を1日目(図5A)に示し、これは単層形成に同調した拍動である(3日目)。平均速度100~115拍/分(図5B)の強い同調収縮が、位相差顕微鏡で3~6日目以降見られるようになります(図5A)。Pierce Kitを使用して調製した心筋細胞培養は強く速い拍動数を示し、これは細胞の健康と機能が良好なことを示しています。
A. 1日目の培養
A. 6日目の培養
B. 拍動数
初代心筋細胞が生理学的モデルシステムとして適していることを示すため、2つの細胞のシグナル伝達活性化を観察しました。まず、初代心筋細胞が血清欠乏により細胞死を誘導できるかを確認し、またインスリン様成長因子I(IGF-I)がセリン/スレオニンタンパク質キナーゼAkt活性化により細胞死を抑制するかを評価するこにしました[4]。5日目に心筋細胞培養系では、細胞を無血清培地でIGF-I存在下または非存在下で24時間インキュベートし、細胞生存率をPI染色で測定しました。生存細胞数は未処理の細胞培養系に関連して表しました。IGF-I非存在下では、心筋細胞の生存率は血清を除いて24時間培養した後には25%減少しました(図6A)。しかし、心筋細胞の生存率はIGF-Iの存在で維持されます。IGF-Iが介する心筋細胞の阻害抑制は10 µMのトリシリビン、Akt阻害剤Vでの処理で抑制され[4]、これはIGF-Iの生存効果がAktのタンパク質ダウンストリームで調節されていることを示唆しています。こうしたデータはIGF-Iが血清欠乏で誘導された心筋細胞死に対して、Aktパスウェイの活性化を通し保護するという理論を支持しています。
2つ目の実験では、心筋細胞がERK活性化を通してエンドセリン-1に適切に応答するか試験しました。エンドセリン-1は、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)とも呼ばれるMAPキナーゼが関与する心筋細胞肥大性シグナル伝達パスウェイの活性化を誘導すると報告されています[5, 6]。5日目の心筋細胞を1 µMエンドセリン-1に24時間曝し、細胞ライセートを調製し、ERKリン酸化をウェスタンブロットで確認しました。心筋細胞がエンドセリン-1に24時間曝されると、ERKのリン酸化がERKの全タンパク質レベルの変化なしに誘導されました(図6B)。以上の結果は本改良心筋細胞分離プロトコルが健康な心筋細胞を抽出し、心筋細胞の機能メカニズムの研究に使用できることを示しています。
A. 細胞死のエフェクターを介した心筋細胞機能
B. ERK活性化を介した心筋細胞機能
新生仔マウスまたはラット心臓由来から初代心筋細胞を迅速に分離する新技術について述べてきました。試薬およびプロトコルはPierce Primary Cardiomyocyte Isolation Kit(品番88281)として市販されています。既存の方法と異なり、抽出に1時間もかかりません。加えて、本技術では高い細胞収量と生存率を示し、85%以上の純粋な心筋細胞が培養7日目で得られます(図5B)。心筋細胞は血清欠乏誘導心筋細胞死に感受性があり、ERKの活性化を通してエンドセリン-1に応答することは、本方法で分離した心筋細胞が心筋虚血および低酸素症の研究の幅広い実験に使用できることを示しています。
本方法(Pierce Kit)では、解剖されたばかりの完全なマウス/ラット新生仔の心臓(1~3日齢)を刻み、Pierce Cardiomyocyte Isolation Enzyme 1および2と35分間インキュベートし、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)で2回洗浄しました。初代細胞分離用Complete DMEM中の組織を1000 µLのチップを用いて25~30回ピペッティングしました。これにより組織を破壊し、単一の細胞懸濁液を作成しました。自家調製トリプシンベース分離(DIYトリプシン)については、文献1~3に従って数回の消化方法を使用しました。Worthington Biochemical CorporationのNeonatal Cardiomyocyte Isolation System(#LK003300)(Worthington Kit)を使用した抽出方法では、キットのプロトコールに従いました。。Roche Diagnostics製のLiberase DH(#05401054001)およびLiberase TM(#05401119001)酵素混合物(Roche Blends)では、Rocheのげっ歯類心筋細胞分離アプリケーションプロトコル[7]に少し改良を加えて行いました。刻んだ心臓組織をLiberase DHまたはTMと推奨される濃度で35分間、37°Cでインキュベートし、1000 µLのチップを用いて25~30回ピペッティングして更に破壊し、単一細胞懸濁液を得ました。単一細胞懸濁液がそれぞれの方法で得られた後、全細胞収量をInvitrogen™ Countess™自動セルカウンターを使用して測定し、細胞生存率をトリパンブルー色素により測定しました。
指定した日の心筋細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%Triton™ X-100入りHBSS溶液を用いて10分間室温で透過処理し、3%BSA入りHBSS溶液を用いて30分間室温でブロックしました。細胞はその後一次抗体と一晩4°Cで反応後、対応する二次抗体とは室温で1時間インキュベートし、HBSSで2回洗浄しました。
等量の総タンパク質(10~20 μg/レーン)をSDS-PAGE(2~10%ゲル)に供し、ニトロセルロースメンブレンにトランスファーしました。メンブレンは3%ウシ血清アルブミンでブロックし、一次抗体で一晩4°Cでインキュベートしました。2次抗体ははヤギ抗ウサギ(品番31460)またはヤギ抗マウス(品番31430)HRP複合体二次抗体と1時間室温でインキュベートし、洗浄しました。バンドはSuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate(品番34080)で可視化しフィルムに露出しました。
Charles River Laboratories社から入手した妊娠CD-1マウスまたはSprague Dawley(SD)ラットを、ロックフォードのイリノイ大学医学部の実験動物施設で飼育しました。実験はイリノイ州ロックフォードのイリノイ大学医学部動物実験委員会に承認された方法で行い、国立衛生研究所の「実験動物の管理と使用に関する指針」に従って実施しています。
Thermo Scientific Pierce Primary Cardiomyocyte Isolation Kitを使用することで、マウスやラットに由来する新生仔の心臓から、高い生存率を持ち、高い収量で初代心筋細胞を得ることができます。
初代心筋細胞分離キットの特長:
Thermo Scientific Pierce Primary Cardiomyocyte Isolation Kitについて詳しく知る
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.