Thermo Scientific PiercePeptide Retention TimeCalibration Mixtureは逆相カラムでのペプチド保持時間を予測できます。このキャリブレーション混合物は、複雑な混合物の中のペプチド保持時間を質量分析(MS)システムで予測するのに有用です。1-3混合物を試験することで、エージングに伴うカラム性能をモニターすることが可能です。混合物は異なる逆相担体、カラムフォーマット、勾配、流速の評価にも効果的です。このキャリブレーション混合物はまたオートサンプラーのばらつきおよびクロマトグラフィー保持時間シフトを標準化するのにも有効です。

このキャリブレーション混合物は、等モル比で混合される15の合成重元素標識したペプチドを含み、クロマトグラフィーのグラジエント全体で溶出します。本混合物はクロマトグラフィー性能の最適化と定期的アセスメント、そして1ランあたり何十から何百ものペプチドを定量する4,5マルチプレックスなスケジュールターゲットMSアッセイを高速展開するために使用できます。

結果と考察

複数LCプラットフォームのクロマトグラフィー性能を測定

異なる装置構成のクロマトグラフィー性能を比較するため、PiercePeptide Retention TimeCalibration Mixtureはそれぞれディスカバリーとターゲット定量のため構成されたThermo Scientific Orbitrap XLおよびTSQ Vantage質量分析計で分析を行いました。異なる固定相、カラムフォーマット、勾配のコンディション、流速にもかかわらず、両プラットフォームはキャリブレーション混合物が再現可能な高分解能ペプチド分離を行うことを示しました(図1)。勾配全体のペプチド溶出はクロマトグラフィー状態および複数回のランの性能評価を最適化することも可能です。

88321-v15-Fig1-Peptide-Retention図1. キャリブレーション混合物のクロマトグラフィー分析。PiercePeptide Retention Time Calibration Mixture(250 fmol)をデュプリケートで分析しました。パネルA:Orbitrap* LTQ XL質量分析計およびMagic* C18 (Michrom Bioresources)を含むセルフパックカラム(75 μm x 20 cm)のバッファーA(0.1%ギ酸)およびバッファーB(0.1%ギ酸/99.9%アセトニトリル)を0.25%/分の勾配、300 nL/分で分析しました。パネルB:TSQ Vantage質量分析計およびThermo Scientific Hypersil Gold C18カラム(1.0 x 150 mm)を1.0%/minの勾配、120 μL/分で分析しました。キャリブレーションペプチドに対応する番号の付いたピークは表1を参照。

ペプチドの保持時間の予測

ペプチド保持時間はペプチドの疎水性および液体クロマトグラフィー(LC)システムに依存します。キャリブレーション混合物ペプチド中のペプチドには広い疎水性分布があり、どのような逆相システムでも疎水性と観察された保持時間の間に線形関係を計算するのに効果的です(表1)。Thermo Scientific Pinpointソフトウェアは、実験的に観察された保持時間および検量物の計算された疎水性を、タンパク質標的からの特性不明ペプチド保持時間の推定に自動的に使用します。1,2本アプローチは29のペプチド保持時間をウシ血清アルブミンの酵素消化から高精度で予測します(R2 = 0.89、図2)。実験的に測定された保持時間は予測保持時間の2分以内の範囲にありました。本アプローチはソフトウェア内にタンパク質配列のみ、またはパブリックデータベース(例:Peptide Atlas, www.peptideatlas.org)を、装置デューティサイクルおよび感度を最適化するスケジュールマルチプレックスMSアッセイを展開するために使用します。4,5

表1. Thermo Scientific Pierce Peptide Retention TimeCalibration Mixtureコンポーネントと特性。

各配列の重元素標識したアミノ酸は太字で示します。

#配列[M+2H]2+疎水性因子(HF)
1SSAAPPPPPR493.777.56
2GISNEGQNASIK613.3215.50
3HVLTSIGEK499.2815.52
4DIPVPKPK451.2817.65
5IGDYAGIK422.7319.15
6TASEFDSAIAQDK695.8325.88
7SAAGAFGPELSR586.8025.24
8ELGQSGVDTYLQTK773.8928.37
9GLILVGGYGTR558.3232.18
10GILFVGSGVSGGEEGAR801.4134.50
11SFANQPLEVVYSK745.3934.96
12LTILEELR498.8037.30
13NGFILDGFPR573.3040.42
14ELASGLSFPVGFK679.3741.18
15LSSEAPALFQFDLK787.4246.66
88321-v15-Fig2-Peptide-Retention図2. 疎水性による保持時間の予測。図1BからのPierce Peptide Retention Time Calibration Mixture配列およびクロマトグラフィーデータはPinpoint* 1.1ソフトウェアの保持時間-疎水性の関係を計算するため使用します。TSQ Vantage質量分析計においてウシ血清アルブミンからの29のトリプシンペプチドで観察された保持時間を予測保持時間に対しプロットしました。

ターゲットMSアッセイを複数プラットフォームで急速展開

ディスカバリーMSプラットフォームで収集したタンパク質MSデータ(例:イオントラップまたはOrbitrap装置)を高スループットなプラットフォームでターゲットの定量方法作成用に使用できます(すなわち、トリプル四重極MS装置)。本アッセイ展開はキャリブレーション混合物で合理化されています。MSプラットフォーム双方での検量物の保持プロファイルはPinpointソフトウェアを使用し、プラットフォーム間の相対保持時間の予測に用います。本戦略は処理済み細胞ライセートで同定した35のタンパク質(478のペプチド)の高速展開ターゲット定量MSアッセイに使用しました(図3)。相対保持時間の手法は、リン酸ペプチドなどの修飾ペプチドターゲットMS法の構築も簡単にします(データ未掲載)。

88321-v15-Fig3-Peptide-Retention図3. LC-MSシステム間のペプチド相対保持時間の予測Pierce Peptide Retention Time Calibration MixtureはLTQ Orbitrap XLおよびTSQ Vantage質量分析計を使用して分析しました。30分間5 μg/mLインスリンで処理した293T溶解細胞からの酵素消化を、LTQ Orbitrap XL質量分析計で分析しました。両プラットフォームからのThermo Scientific Proteome Discoverer 1.1ソフトウェアの検索結果および検量物結果は、35のタンパク質中478のペプチド向けスケジュール選択反応モニタリングアッセイを展開するためPinpoint 1.1にインポートしました。TSQ Vantage装置で観察された保持時間をOrbitrap XL装置で観察された保持時間に対してプロットしました。
結論

Pierce Peptide Retention Time Calibration Mixtureはクロマトグラフィーの状態を評価する強力なツールです。特性不明ペプチドの保持時間が配列のみで正確に予測できます。更に、データは相対保持時間を使用する装置間で移動でき、数十から数百のペプチドターゲットを分析するスケジュールMSの展開を容易にします。キャリブレーション混合物およびPinpointソフトウェアはLCの最適化評価、マルチプレックス定量タンパク質アッセイの展開に不可欠です。

引用文献
  1. Krokhin, O.V.(2006).Sequence-specific retention calculator.Algorithm for peptide retention prediction in ion-pair RP-HPLC: application to 300- and 100-A pore size C18 sorbents.Anal Chem 78(22):7785-95.
  2. Krokhin, O.V. and Spicer, V. (2009).Peptide retention standards and hydrophobicity indexes in reversed-phase high-performance liquid chromatography of peptides.Anal Chem 81(22):9522-30.
  3. Sequence Specific Retention Calculator (SSRCalc), http://hs2.proteome.ca/SSRCalc/SSRCalcX.html.
  4. Lange, V., et al.(2008).Selected reaction monitoring for quantitative proteomics: A tutorial.Mol Sys Biol 4:222.
  5. Kiyonami, R., et al.(2011).Increased selectivity, analytical precision, and throughput in targeted proteomics.Mol Cell Proteomics 10:M110.002931.


    For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.