タンパク質機能および構造の研究は、アフィニティータグ融合を精製の補助として使用する組換えタンパク質発現戦略により大きく向上しました。ポリヒスチジン融合タグ(Hisタグ)は特に人気で、その理由は小ささ(6~12アミノ酸)および固定化金属イオンアフィニティクロマトグラフィー(IMAC)に簡単で穏やかな精製を提供し、1ステップで90%を超える大量の純度の高いタンパク質が得られることにあります。

様々なIMAC担体が市販されており、ベースの異なる担体レジン、特定のキレート剤分子、キレート剤固定化の方法、キレートされる金属イオン(すなわち、キレートにチャージされる)等があります。こうした違いは各IMACレジンの結合容量、再利用性、流動特性、化学適合性に影響することがあり、最終的に特定のアプリケーションで結果の質(収量、純度、速度)を決定します。例えば、ニッケル(Ni)でチャージされたIMACレジンはコバルト(Co)でチャージされたレジンより一般的に高収量になりますが、コバルトは通常純度が高くなります。ニッケルレジンは高濃度のイミダゾールまたはサンプルまたはバッファー中の他の汚染物質に耐え、精製条件を修正する際に柔軟性があります。また、ニトリロ三酢酸(NTA)のような四座キレートはイミノ二酢酸(IDA)のような三座キレート剤と比較して、精製の純度が高く、金属イオンの浸出が少なくなります。注意深い選択と方法の最適化が、特定のアプリケーションとスケールに基づいて必要となるでしょう。

Thermo Scientific™ HisPur™製品はHisタグタンパク質精製用のIMACベースの担体で、磁気ビーズ、コバルトとニッケルの2種のアガロースレジン、ボトルやカラムの様々なサイズとフォーマットがあります。HisPur™ Nickel Superflow Agaroseは独自のニッケルがチャージされたニトリロ三酢酸キレート剤が高度架橋型(Superflow)6%ビーズアガロースに固定化されています。本記事ではHisPur Nickel Superflow Agarose性能特性について記述しています。これはFPLCによる組換えポリヒスチジンタグタンパク質を小規模および大規模に精製するのに適しています。

結果と考察

純度

HisPur Nickel Superflow Agaroseの精製効率を示す為に、数個の組換えHisタグ融合をFPLCで融合させた緑色蛍光タンパク質(GFP)、リポ酸リガーゼ(LplA)、β‐ガラクトシダーゼ(β-Gal)を過剰発現させレジンで精製し使用しました。精製はSDS-PAGEおよびデンシトメトリー分析で測定され、85~98%の純度レベルの溶出分画が得られました(図1)。またHisPur Cobalt Superflow Agaroseおよび他のソースのニッケルベースIMAC精製レジンの間で精製性能を試験、比較しました(図2)。類似したレベルの純度が両方のニッケルIMACレジンで得られました。

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図1. Thermo Scientific Pierce HisPur Nickel Superflow Agaroseを使用したHisタグ融合タンパク質の精製。 精製した過剰発現E. coliライセート(40mL)をHisPur Nickel Superflow Agarose10 mLを充填したカラムにロードした。 非結合タンパク質は洗浄バッファーで除去した。 結合タンパク質は溶出バッファーで回収した(「方法」を参照)。 ロードしたライセート(L)、フロースルー(F)、洗液(W)、溶出液(E)サンプルのプールした分画をSDS-PAGEで分離し、Thermo Scientific Imperial Stain Reagent(品番24615)で染色した。 収量はThermo Scientific Pierce 660 nmタンパク質アッセイ(品番22662)を使用して決定した。 純度はThermo Scientific myImageAnalysis Software(品番62237)で染色した溶出液レーンをデンシトメトリー解析した。 全体で10 µgのタンパク質が各溶出分画からロードされた。他の分画ではサンプル1 µLがロードされた。
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図2. 異なるニッケルレジンにおける6xHis-GFP純度。 E. coli過剰発現ライセートのアリコート(8mL):およそ16 mgの6xHis-GFPを2種の異なるNi-NTAレジン1 mLカラム(直径 = 0.7 cm)にロードした。Thermo Scientific HisPur Nickel Superflow Agarose、Qiagen™ Ni-NTA Superflow(カタログ番号 30410)。 カラムは30 mMイミダゾールを含む洗浄バッファー10 mL(10カラム容量)で洗浄した。 結合タンパク質を300 mMイミダゾールを含む溶出バッファー10 mLで溶出した。 分画は1 mLずつで収集した。 ロードしたライセート(L)、フロースルー(F)、洗液(W)、溶出液(1~10)の分画のアリコートをSDS-PAGEで分離し、Thermo Scientific Imperial Stain(品番24615)で染色した。 各ゲル溶出分画全てにわたる6xHis-GFPの純度はThermo Scientific myImageAnalysis Software(品番62237)でデンシトメトリー解析した。

動的結合容量

FPLCプロトコルでのタンパク質精製性能を最大化することは重要で、様々な流速でのレジンの結合特性への深い理解が必要です。タンパク質サンプルがレジンと長く接触するほど結合容量は高くなり、最後には理論的な担体の最大容量となります(図3)。大きな結合能力は低い流速で得られますが、こうした条件は処理に時間がかかります。よって、レジンの動的結合容量プロファイルは精製プロセスを最適化するのに重要な検討事項です。

与えられた特定の流速におけるカラム実行の動的結合容量(滞留時間に反比例する値)は一般的に標的タンパク質の10%がフロースルー分画に蓄積する(「ブレークスルー」と呼ばれる)前にレジンに結合するタンパク質の量とされます。動的結合容量を最大化すると、高流速でレジンが少なくて済み、同時に標的タンパク質の損失を最小化し、処理時間を制御することができます。

高度に精製したN末端6xHisタグ緑色蛍光タンパク質(GFP)を複数の流速で1 mLレジンベッドに加え、HisPur Nickel Superflow Agaroseについて動的結合容量のプロファイルを決定しました(図3)。1 mL/分の速い流速で(1分の滞留時間と同等の短い時間)、レジンは充填レジン1 mL当たりの結合容量がほぼ20 mg 6xHis-GFPを示しました。0.1 mL/分の流速で(10分の滞留時間と同等の長い時間)、レジンは充填レジン1 mL当たりの結合容量がほぼ70mg 6xHis-GFPを示しました。

組換えタンパク質間でタグへのアクセス性が異なることや、他のタンパク質や複雑なライセート中生体分子の存在もレジンの結合容量全体に影響します。よって、展開された各プロセスの流速(製品ラン速度)および容量(製品収量)間の適切なバランスを決定することは重要です。

A13n14-Fig3-Ni-NTA-Superflow-dbc図3. HisPur Nickel Superflow Agaroseの動的結合容量と流速の比較1 mL HisPur Nickel Superflow Agaroseを充填した5つのカラム(直径 = 0.5 cm)に精製6xHis-GST(1 mg/mL)を流速1.0、0.5、0.3、0.2、0.1mL/分でロードした。各カラムで、動的結合容量(ロードされた全タンパク質)は10%のブレークスルー(280 nmにおけるフロースルーの吸収係数が0.1 mg/mL 6xHis-GFPに対応する点)で決定した。結合曲線は近似1次結合動態(R2 = 0.975)に一致している。

再使用性および適合性

ラボ環境により、アフィニティー精製はmL以下から数Lまでのスケールで行われることがあります。小規模精製では新しいカラムを毎回充填して使う方が簡単で清潔ですが、同じ標的タンパク質に対して精製を繰り返し行う大規模処理には実用的ではありません。HisPur Nickel Superflow Agaroseは幅広いスケールで使用できる強力で高度に架橋したレジンです。レジンは1260 cm/hrもの線形流速においても圧縮もなく耐えることができます。これはSepharose™ 6B Agarose(GE Healthcare)が圧縮し始める線形流速の2倍に近い値となっています(データ未掲載)。

HisPur Nickel Superflow Agaroseの再使用性を示すため、単一カラムでクロマトグラフィーの繰り返しのプロファイルをグラフ化しました(図4)。ライセートサンプルを6サイクルの精製と、25サイクルの洗浄と再利用を行った後でも、結合容量または溶出効率に大きな減少は生じませんでした。HisPur Nickel Superflow Agaroseは金属のストリッピングを起こさず、または精製と精製の間に担体を再充填せずに複数回再利用できます。これはニッケルが固定化ニトリロ三酢酸キレートカラムから精製および再使用時には浸出しないからです。

A13n14-Fig4-Ni-NTA-Superflow-reuse図4. 標準NaOH再生手順を用いたHisPur Nickel Superflow Agaroseの再使用。単一のHisPur Nickel Superflow Agaroseの1 mLカラム(カラム直径= 0.7 cm)をクロマトグラフィーを用い、流速1 mL/min26サイクルで処理した。グラフはE.coliライセート(5 mLライセート、5 mL洗浄バッファー、10 mL溶出バッファー)からの過剰発現6xHis-GFP精製5サイクルごとの結果を示し(た。25のサイクル全てには、イミダゾールを除去し、洗浄してカラムを平衡化させ、再利用することが含まれていた。これは10 mL 0.5 M NaOH、10 mLの超純水、10 mLの結合バッファーを使用している。収量は6回の精製サイクルで全く同じであった。

HisPur Nickel Superflow Agaroseの非特異的結合は低く、精製後にカラムに残る残渣タンパク質はごく少量です。多くの場合、簡単な再利用のプロトコルで十分です。pH 5.0のMES緩衝生理食塩水で洗浄し、結合したイミダゾールを除去し、結合バッファーで平衡化します。しかし、細胞ライセートまたはサンプルの透明度、溶解度、品質によって沈殿したタンパク質および他の疎水性物質が経時的にレジンに蓄積することがあります。これはカラムの背圧上昇につながったり、精製中にタンパク質純度や収量の低下に繋がることがあります。この状況が起きた場合、レジンの性能は図4にある実験の定置洗浄(CIP)プロトコル(0.5 M NaOHで洗浄)で復旧できます。EDTAストリッピングおよびニッケルの再利用時には、レジンのクリーニングには必要ありません。

最後に、HisPur Nickel Superflow Agaroseの適合性を精製、IMAC担体のクリーニングや保存に使用した様々な化学物質で測定しました(図5)。レジンを50%のスラリーとして指定の溶液中、長期間保存しました(2時間または1週間)。インキュベーションに続き、結合バッファー中で各レジンサンプルを平衡化し、未処理のレジンサンプルへの静的なバッチ結合容量と比較しました。ほとんどの化学物質は結合容量に大きく影響しませんでした。HCl(pH < 2)またはNaOH(pH > 12)を使用し、長時間インキュベートするストリンジェントなCIPプロトコルはレジンの結合容量を低下させる(データ未掲載)ため、避けるべきです。また、EDTAおよびEGTAのような強いキレート剤も金属がレジンからストリッピングするために溶解、結合、洗浄および溶出バッファーでの使用を避けるべきです。

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図5. HisPur Nickel Superflow Agaroseの化学適合性。 HisPur Nickel Superflow Agaroseの1 mLアリコートを様々な溶液中の50%スラリーとして保存し、精製に使用した。 各溶液のインキュベーションに続き、トリプレットのレジンアリコート0.1 mLサンプルを2 mLスピンカラム(次の700 x gでの遠心分離処理のため)に加え、1 mL洗浄バッファーで3回洗浄、6xHis-GFP 5mgと転倒混和して22°Cで30分インキュベートした。 遠心分離でタンパク質溶液を除去した後、カラムを1 mL洗浄バッファーで3回洗浄した。最後に、結合タンパク質を溶出バッファー3 x 1 mLアリコートで溶出した。 各サンプルの溶出分画を合わせた収量は、Pierce 660 nmタンパク質アッセイ(品番22662)で決定した。 エラーバーは各条件における3つのサンプルの標準偏差である。
方法

すべての精製および結合実験は、特に明記しない限り次のバッファー条件で行いました。

  • 結合バッファー(pH 7.4の25 mMリン酸ナトリウム、0.3 M塩化ナトリウム、10 mMイミダゾール)
  • 洗浄バッファー(pH 7.4の25 mMリン酸ナトリウム、0.3 M塩化ナトリウム、30 mMイミダゾール)
  • 溶出バッファー(pH 7.4の25 mMリン酸ナトリウム、0.3 M塩化ナトリウム、0.3 mMイミダゾール)

すべての洗浄および溶出ステップは5~10カラム容量(CV)で行いました(レジンベッド体積)。変性条件下では、バッファーに8 M尿素または6 Mグアニジン-HClも添加しました。本記事で概略を述べた結果は一般的なものと考えられます。しかし、タンパク質収量と純度は組換え融合タンパク質の発現レベル、溶解度、融合タグへのアクセス性により大きく影響します。場合によっては、バッファー条件および流速を変えることが必要です。ここに述べた組換えタンパク質はすべて、単一6x-His融合タグを持ち、LB培地で培養されたE.coli BL21(DE)3細胞により発現され、IPTGで16時間未満に30°Cで誘導されました。細胞を収集し、0.005% NP-40および1x Thermo Scientific Halt Protease Inhibitor Cocktail(品番78438)を含む結合バッファーを用い、Microfluidizerで溶解しました。

参考文献
  1. Jansen, J-C. (editor).(2011).Protein Purification: Principles, High Resolution Methods, and Applications.3rd edition.Volume 151 of Methods of Biochemical Analysis.John Wiley & Sons, Hoboken, NJ
  2. Bornhorst, J.A. and Falke, J.J.(2000).Purification of Proteins Using Polyhistidine Affinity Tags.Methods Enzymol.326: 245-254.


    注目製品

    HisPur Ni-NTA Superflow Agarose

    Thermo Scientific HisPur Ni-NTA Superflow Agaroseは、ポリヒスチジンタグ付タンパク質をFPLC精製するために設計された二価ニッケル(Ni+2)がチャージされたニトリロ三酢酸(NTA)変性Superflow 6担体です。

    HisPur Ni-NTA Superflow Agaroseの特長:

    • 高容量—300 cm/時の線形流量で20 mgを超えるHisタグ付GFP/1mLレジンを結合
    • 高純度—ライセートからの精製に使用すると、純度80%を超える溶出分画が得られる
    • 多用途—未変性および変性状態でタンパク質の精製に使用可能
    • ロバスト—高度架橋型ビーズは最大1200 cm/hrの線形流量を許容
    • 適合性—様々な化学物質中やpH状態で機能を維持
    • コスト効率—レジンはクリーニングや再使用を繰り返しても安定している

    Thermo Scientific HisPur i-NTA Superflow Agaroseについて詳しく知る

    For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.