細胞内のタンパク質は、特異的な細胞内コンパートメントにそれぞれ局在しており、タンパク質の機能を知る上で重要な情報を得ることができます。タンパク質の局在および輸送に関する研究は、タンパク質の機能および疾患、特に癌を理解するのにますます重要となっています。生物学のより多くの真実を解明するために、研究は培養細胞モデルから動物モデルへと移りつつあります。組織サンプルには、綿密なタンパク質間のネットワークや細胞外マトリックスという、さらなる複雑さが存在します。Thermo Scientific Subcellular Protein Fractionation Kitは、こうした精巧な構造体の分画に特化した試薬です。組織サンプルにおける細胞内タンパク質の分画は、タンパク質の局在性を明らかにでき、微量タンパク質の検出感度を高めたり、プロテオミクスのサンプルの複雑性を軽減することが可能です。また、基礎的状態、刺激を加えた状態および疾患の状態での、タンパク質の生理学的な流動と再分布のモニタリングを可能にします。

細胞コンパートメント特異的なタンパク質の輸送および局在は、正常な細胞事象および疾患事象にとっても重要な現象です。タンパク質輸送の解析は、超遠心分画法による特定の細胞コンパートメントの抽出や、細胞コンポーネント毎の一連の抽出により評価します。研究は細胞培養系から動物モデルへシフトする傾向がみられるため、組織サンプルから細胞コンポーネントをコンタミネーションを抑えて、分画抽出することが課題となっています。さらに、組織サンプルのホモジナイズ処理は、培養細胞と比べて、タンパク質や細胞外マトリックスの綿密なネットワークを有し、より高度な複雑さを有しています。

The Subcellular Protein Fractionation Kit for Tissues includes buffers formulated to efficiently extract protein from 50-200mg of tissue with minimal contamination between cellular compartments. Firstly, the tissue sample is homogenized in the cytoplasmic extraction buffer, which causes selective membrane permeabilization, releasing soluble cytoplasmic contents. This homogenate is then strained to remove excess debris. The second buffer dissolves plasma, mitochondria and ER-golgi membranes but does not solubilize the nuclear membranes. After recovering intact nuclei by centrifugation, a third reagent yields the soluble nuclear extract. An additional nuclear extraction with micrococcal nuclease releases chromatin-bound nuclear proteins. The recovered insoluble pellet is then extracted with the final buffer to isolate cytoskeletal proteins (Figure 1).

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図1. 細胞成分分画手順の概略図。 タンパク質は、特異的な界面活性剤を用いて順次抽出します。 CEB = cytoplasmic extraction buffer(細胞質抽出バッファー)、MEB = membrane extraction buffer(細胞膜抽出バッファー)、NEB = nuclear extraction buffer( 核抽出バッファー)、NEB + MNase = 核抽出バッファー + micrococcal nuclease(クロマチン結合タンパク質の分画)、PEB = pellet extraction buffer(ペレット抽出バッファー)。

添加するバッファーの量は、各ステップともに、有効なタンパク質濃度になるように最適化されています。本キットには、ホモジナイズ後の組織由来の細胞デブリスを除去する濾過器も入っています。キットは、様々なマウス組織サンプルを用いて検証されています。組織ごとのタンパク質の局在性の評価は、組織タイプに関係なくユニバーサルに存在するタンパク質や、大量に存在するタンパク質、および各組織タイプに特異的に存在するタンパク質をマーカーとして、評価しました。さらに、下流のアッセイにて、タンパク質の機能的活性をアッセイしました。

結果と考察

分画効率を評価するため、マウスの心臓、脳、腎臓、肺、肝臓および脾臓など様々な組織タイプについて抽出操作を実施しました。タンパク質の局在性を評価するため、ウェスタンブロットにより、各コンパートメントに特異的なタンパク質マーカーを綿密に調べました。その結果、分画間にタンパク質のわずかなクロスコンタミネーションしか認められませんでした(図2)。このことは、タンパク質の局在性および組織内の輸送活性を測定するのに本手法が有用であることを示しています。

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図2. 複数の組織サンプルについて分画を行いましたが、標的タンパク質のクロスコンタミネーションは最小限なレベルでした。 Subcellular Protein Fractionation Kit for Tissuesを用いて、マウス組織サンプルを分画しました。 各抽出物からタンパク質量が10µgになるようにそろえてロードし、ウェスタンブロットで分析しました。 (肝臓および脾臓のデータは未掲載)。 CE:cytoplasmic extract(細胞質抽出物)、ME:membrane extract(細胞膜抽出物)、NE:nuclear extract(核抽出物)、CB:chromatin-bound extract(クロマチン結合型抽出物)、PE:pellet extract(ペレット抽出物)。

細胞細分ごとに分画したタンパク質の機能を確認するために、マウス脳組織由来の核抽出物およびThermo Scientific LightShift Chemiluminescent DNA EMSA Kitを用いて、ゲルシフトアッセイ(EMSA:electrophoretic mobility shift assay)を行いました。転写因子であるactivator protein-1(AP-1)に結合するDNA配列にビオチンを標識しました。このヘテロ二量体タンパク質の転写因子は、感染、ストレス、成長因子およびサイトカインといった様々な刺激に応答して遺伝子発現を制御しています。核抽出物由来のAP-1タンパク質は、特異的なDNA塩基配列に結合し、分子量シフトをもたらしました。この結果は、分画した核成分由来の抽出物には、ネイティブな機能型のAP-1タンパク質が含有していることを示しています(図3)。

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図3. 脳組織由来の核成分由来抽出物中のタンパク質のゲルシフトアッセイ(EMSA:electrophoretic mobility-shift assay)による機能解析。 Subcellular Protein Fractionation Kit for Tissues.を用いて、マウス脳(180 mg)を分画した。 得られた核成分由来の抽出物を用いてEMSAを実施した。 ビオチン標識した2本鎖DNAと、未標識の2本鎖DNA(competitor)を用いて競合阻害反応を行いました。
結論

Subcellular Protein Fractionation Kit for Tissuesは、心臓、腎臓、脳、肝臓、脾臓、肺など、それぞれユニークな構造を持つ様々なタイプの組織に対応できるように開発されました。本キットは、超遠心分離法を用いることなく、組織サンプルから5つの細胞コンパートメント(細胞質、メンブレン、核、クロマチン結合および細胞骨格)を効果的に分画・抽出することができます。抽出後は、ウェスタンブロットおよびDNA EMSAなどのアプリケーションに利用できます。

方法

細胞質タンパク質分画:マウス組織を摘出して秤量し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)でリンスしました。以後のステップは、Subcellular Protein Fractionation Kit for Tissues(品番87790)のマニュアルに従って操作しました。組織は、Cytoplasmic Extraction Buffer(CEB)中でホモジナイザー[ 例:tissue-tearor(BioSpec社)やダウンス型ホモニナイザー]を用いてホモジナイズしました。ホモジネートは、15 mLコニカルチューブにセットしたThermo Scientific Pierce Tissue Strainerに添加し、500 x gで5分間遠心しました。細胞デブリスが残ったstrainerは廃棄し、上清(細胞質抽出物)を回収しました。残りのペレットはMembrane Extraction Buffer(MEB)に再懸濁し、穏やかに攪拌しながら4°で10分間インキュベートしました。膜タンパク質抽出物は、3000 x gで5分間の遠心により回収しました。残りのペレットは、Nuclear Extraction Buffer(NEB)に再懸濁し、穏やかに攪拌しながら4°で30分間インキュベートしました。水溶性の核抽出物は5000 x g、5分間の遠心により回収しました。micrococcal nucleaseを添加したNEBをペレットに加え、穏やかに攪拌しながら37°Cで15分間インキュベートしました。クロマチン結合型の核タンパク質は溶出され、16,000 x gで5分間の遠心分離により回収しました。残ったペレットはPellet Extraction Buffer(PEB)に再懸濁し、室温で10分間インキュベートしました。ペレット抽出物は16,000 x gで5分間の遠心分離により回収しました。

 

ウェスタンブロット解析:各抽出物のタンパク質濃度を測定し、タンパク質量を揃え(10 μg)、4~20%のTris-グリシンSDSポリアクリルアミド変性ゲルで電気泳動を行い、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)メンブレンにトランスファーしました。メンブレンはThermo Scientific StartingBlock T20(TBS)Blocking Buffer(品番37543)でブロッキング後、一次抗体を加えて4°Cで一晩インキュベートしました。さらに、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)-コンジュゲートした二次抗体(品番31430)(品番31460)を加えてインキュベートしました。検出は、Thermo Scientific SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate(品番34080)を用いました。

Primary antibodies: The following Thermo Scientific Primary Antibodies were used: anti-heat-shock protein 90 (HSP90) (Ab No. MA5-14866); anti-sodium-potassium ATPase (Ab No. PA5-17251); and anti-vascular endothelial growth factor receptor 2 (VEGF-R2) (Ab No. MA5-15157). Anti-histone deacetylase 2 (HDAC2) and anti-vimentin were obtained from Cell Signaling Technology. Anti-histone H3 was obtained from Santa Cruz Biotechnology. Anti-nucleoporin p62 was obtained from BD Biosciences.

Electrophoretic mobilized shift assay (EMSA): Mouse brain was excised, weighed, and rinsed in PBS. The brain was tprocessed for subcellular protein fractionation as previously stated. The soluble nuclear fraction was pre-cleared with Thermo Scientific High Capacity Streptavidin Agarose (Part No. 20357) to remove endogenous biotin. The reactions were performed using the LightShift Chemiluminescent EMSA Kit (Part No. 20148). Mouse brain nuclear extract (5µg) was incubated with either biotin-labeled or unlabeled (competitor; 100-fold molar excess) AP-1 target DNA duplexes and supplemented with 2.5% glycerol, 5mM magnesium chloride and 0.05% NP-40. Reactions were electrophoresed on a 6% polyacrylamide gel and transferred to Thermo Scientific Biodyne B Nylon Membrane (Part No. 77016). Detection was performed using the Thermo Scientific Chemiluminescent Nucleic Acid Detection Module (Part No. 89880).

Animal care:  C57BL/J6 mice (8-12 weeks old, mixed gender) from Charles River Laboratories and housed in the animal facility at the University of Illinois College of Medicine at Rockford, were used to obtain mouse tissue. Experiments were performed exactly as approved by the Animal Care and Use Committee at the University of Illinois, College of Medicine at Rockford and conducted in accordance with the National Institute of Health Guidelines for the Care and Use of Laboratory Animals.

 



    Subcellular Protein Fractionation Kit for Tissues

    Thermo Scientific Scientific Subcellular Protein Fractionation Kit for Tissue は、2時間以内で、細胞分画から5つの細胞コンパートメント由来のタンパク質の濃縮が可能で、操作に必要な試薬およひtissue strainerがセットされています。

    Subcellular Protein Fractionation Kit for Tissueの特長:

    • Optimized—formulations and protocols specific for fractionation of tissue
    • Complete—obtain cytoplasmic, membrane, soluble nuclear, chromatin-bound and cytoskeletal protein fractions from a single kit
    • Time efficient—extract functional protein fractions without ultracentrifugation in approx. 2 hours
    • Convenient—unique tissue strainer allows rapid removal of tissue debris
    • Compatible—use extracts for downstream applications such as protein assays, Western blotting, protein assays, electrophoretic mobility shift assays, reporter-gene and enzyme-activity assays.
    • Versatile—extract proteins from a variety of tissue types, including liver, heart, brain, kidney, lung and spleen

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    For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.