インテグリンは、細胞外マトリックスと相互作用し、細胞の形状・運動性や細胞周期の進行など細胞外マトリックスの情報に応答して細胞内シグナルを伝達する細胞表面タンパク質です1。 インテグリンファミリーは、ECMと結合し、情報伝達をおこなう主要な細胞表面受容体です。 インテグリン受容体はαおよびβサブユニットから構成され、ECMと細胞内骨格リンカータンパク質との間で構造的・機能的橋渡しをする機能を果たします2。 インテグリン・ECM相互作用が介在するシグナル伝達も、成長因子によるシグナル伝達に対する細胞応答と統合されます。その細胞応答により、細胞増殖、細胞骨格の再構成その他細胞の生存に必要な反応が調節されます。

インテグリン受容体は、キナーゼドメインを有していませんが、ECM に接着し、相互作用することで複数の細胞内シグナルパスウェイを活性化させることができます。 インテグリンは、ECM に結合するとフィブロネクチンやラミニンコラーゲンテネイシンビトロネクチントロンボスポンジンなどと結合します。 インテグリンクラスターとECMとの相互作用に伴い、細胞骨格コンポーネントや細胞内シグナル伝達分子が集積して接着斑を形成します。 インテグリンの細胞質尾部は、α-アクチニンやタリンの結合部位の役割を果たし、これらが続いてビンキュリン(F-アクチンを細胞膜に繋ぎ止めるタンパク質)を取り込みます。3 アクチン重合・脱重合のほか、インテグリン受容体にリガンドが結合することにより、FAK(局所接着キナーゼ)のタリン介在オリゴマー形成反応が起こります。 The Tyr397 autophosphorylated FAK binds and activates Src and Fyn which in turn phosphorylate the FAK-associated proteins paxillin, tensin, and p130CAS. また、リン酸化した FAK は、PI3KPLCγGRB7 をリン酸化し、活性化を誘導することもわかっています4。 PI3K の活性化は、インテグリンの活性化を引き起こし、Akt シグナルパスウェイの細胞生存メカニズムの活性化につながります

Src により FAK の Tyr925 がリン酸化されると、GRB2SOS との複合体が形成され、Ras が活性化されます。Ras は、MEKKや、PAK、MEK、JNKSAPK など多様なキナーゼを活性化する役割を果たします。 これらのキナーゼは、c-MycElk1JunおよびSRF(血清応答因子)を含む多くの転写因子のリン酸化を行うことにより遺伝子発現を制御する主要な調節因子です。 活性化した Src は p180CAS もリン酸化し、Crk DOCK180 とのタンパク質複合体の形成を誘導します。 このタンパク質複合体は、Racの膜親和性を高め、上述のキナーゼ経路を更に活性化します2。 MAPK の活性化に関してインテグリンが関与するもう一つのシグナル伝達経路は、インテグリンとカベオリンとの結合を介するものです。 カベオリンは、高分子量タンパク質の形成に関与する小さな膜タンパク質です(22 kD)。 カベオリンタンパク質は、疎水性部位を持つため、細胞質 N、C 末端ドメインを介して原形質膜に留まることができます。 カベオリン-1(Cav-1)は、インテグリンや Fyn(Src 関連キナーゼ)と複合体を形成し、Fyn による Shc のリン酸化を誘導します。リン酸化された Shc は、Grb2 や SOS の結合部位としての役割を果たし、さらに Ras や MAPK そのパスウェイを活性化します5

細胞間接着および細胞とマトリックスの接着は、生体、器官や組織の形態形成と発達に関する基礎的な役割を担っていることから、細胞接着に関与する分子を特定することは、細胞生物学および免疫学における重要な研究課題となっています。 インテグリンによるシグナル伝達が関与する細胞接着や細胞プロセスを検出するアッセイ法がいくつかあります。 Vybrant® Cell Adhesion Assay Kit( V13181)は、Calcein AMを用いて細胞間接着や細胞基質接着を迅速かつ高感度で測定することができる方法です。 Calcein AMは、そのままでは蛍光を発しませんが、細胞内に取り込まれて内在性エステラーゼにより分解されると、強い蛍光を長時間発します。 カルセインは明るい緑色蛍光を発する pH 非依存性の細胞質性マーカーであり、細胞の接着プロセスに影響を与えないと考えられています。 6

コラーゲンは、細胞外マトリックスの主成分であり、脊椎動物では細胞の全タンパク質の約 25 % を占めています。 蛍光コラーゲンコンジュゲート( G13187G13186C13185)は、細胞–細胞接着または細胞–表面接着におけるコラーゲンとタンパク質の相互作用を視覚化します。 7最新の研究では、脂質ラフトで Src ファミリー キナーゼが活性化することが証明されました 8。 Vybrant® Lipid Raft Labeling Kits( V34403V34404V34405)を使って、生細胞脂質ラフトの鮮明な蛍光標識化を簡便に、かつ高い信頼度で行うことができます。

プロテアーゼは、フィブロネクチンによる細胞接着で表面分子がどのような役割を果たすかを探るためのツールとして使用されてきました。 92 つの EnzChek® Protease Assay Kit( E6638E6639)は、標識されたカゼイン誘導体がプロテアーゼ加水分解によって発する蛍光シグナルの増加を測定します。 基質に DQ® ゼラチン( D12060D12052)または DQ® エラスチンを使用した EnzChek® Gelatinase/Collagenase Assay Kit ( E12055) と EnzChek® Elastase Assay Kit ( E12056) は、ゼラチナーゼ(コラゲナーゼ)やエラスターゼの活性測定に必要なスピードと高感度、利便性を提供します。

菌類代謝物のブレフェルジン A(BFA)は、ベシクル形成 10やキネシン分布 11など、新たに合成されたタンパク質の輸送に関する細胞プロセスの解明に重要な役割を果たすことが証明されました。また緑色蛍光のBODIPY® FL と赤橙色蛍光の BODIPY® 558/568 BFA 誘導体( B7447B7449)は、4 種類の細胞株で ERやゴルジ体に選択的に局在します。 13 BODIPY® 558/568 BFA は、NBD C6-セラミド( N1154)と組み合わせて使用し、ERとゴルジ体を同時に解析することもできます。

参考資料

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6. Braut-Boucher, F. et. al. (1995) J Immunol Methods 178: 41-51
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