Toll様受容体(TLR)シグナル伝達の働きは自然免疫反応において不可欠です。 病原体に関連する分子パターンを認識してTLRシグナル伝達系が活性化されると、炎症促進性のサイトカイン、ケモカインおよび副次的な刺激分子の遺伝子の転写が開始され、特定の抗原に対する獲得免疫反応の開始を誘導します。 TLRsは、さまざまな炎症性疾患や癌に対する潜在的な治療ターゲットとして研究されています。 活性化されたTLRは、炎症性サイトカイン、I型インターフェロン、ケモカインなど数種類のタンパク質ファミリーの発現を誘発します。 ヒトTLRは、ショウジョウバエのToll受容体ホモログとして発見されました(1)。現在ではヒトTLRファミリーに属するタンパク質として10種類のタンパク質が特定されています(2)。 TLRは、全て膜貫通タンパク質であって、ロイシンリッチリピートの細胞外領域(特定の病原体を認識する)、膜貫通領域およびToll-IL-1R領域(細胞内シグナル伝達を開始する)により構成されています。 TLRリガンドの違いに応じて特異的な免疫応答が生じます。 TLR2 は、CD14 との初期相互作用の後、細菌の LAM、BLP、PGN を認識するようになります(3)。 TLR4 は、細菌の LPS と CD14 との結合の後、MD-2 タンパク質とホモ二量体複合体を形成します(4)。 TLR5 は、細菌のフラジェリンとの相互作用で活性化されます(5)。 TLR1TLR6 は、TLR2 の補助受容体として機能し、特定の病原体への結合能に基づく独自のシグナル伝達メカニズムを構築します(6)。 TLR1、TLR2、TLR4、TLR5、TLR6 は、すべて細胞表面の受容体です。この他の TLR 受容体はエンドソームに含まれ、他の病原体を認識します。 TLR3TLR7/TLR8、TLR9 は、それぞれウイルスの dsDNA、ウイルスの ssRNA、細菌の CpG で活性化されます(7 ~ 9)。 また TLR7 と TLR8 は、イミダゾキノリン化合物のイミキモドや R-848 でも活性化できます。

TLR のシグナル伝達は、刺激された受容体がどれであっても NF-κB と MAP キナーゼを活性化させ、調節反応を誘導します。 TLR3 と TLR7/TLR8 は、IRF3IRF7 の活性化も仲介し、IFN を誘導します。 TLR の活性化により開始されたシグナル伝達は、TIR ドメイン含有細胞質アダプタの間で行われる独自の相互作用を介しています。このアダプタには、myeloid differentiation primary-response protein-88(MyD88)や TIR domain–containing adapter protein(TIRAP)、TIR domain–containing adapter–inducing IFNb(TRIF)、TRIF-related adapter molecule(TRAM)などがあります(10)。 MyD88 は、IRAK4 に作用する中心的なアダプタ タンパク質です。その結果IRAK4 は、IRAK1 を誘導してリン酸化します。 活性化された IRAK 複合体は、TRAF6 との相互作用を経て TAB1TAK1 をリン酸化し、これらが次に NF-κB と MAPK パスウェイを活性化します(11)。 TLR3 は、MyD88 独立経路の中で TRIF と相互作用して IKKeTRAF3TBK1 の複合体を活性化し、これにより IRF3 と IRF7 をリン酸化します。 (12)

IRF3 の活性化により、T 細胞の免疫原性反応を刺激する遺伝子(CD40CD80CD86)が誘導されます。 また IRF7 は、IFNaIFNb 遺伝子の発現を誘導し、抗ウイルス免疫反応を促進します。一方 AP-1 と NF-κB は、インターロイキン(IL-1bIL-6IL-8IL-12)やマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1aMIP1b)、サイトカイン(RANTESTNFa)の発現により炎症反応を仲介します。(13)

参考資料

  1. Lemaitre, B. et al. (1996) Cell 86:973–983.
  2. Oda, K and Kitano, H. (2006) Molecular Systems Biology 2:2,006.0015.
  3. Takeuchi, O. et al. (1999) Immunity 11:443–451.
  4. Hoshino, K. et al. (1999) J Immunol 162:3749–3752.
  5. Hayashi, F. et al. (2001) Nature 410:1099–1103.
  6. Takeuchi, O. et al. (2002) J Immunol 169:10–14.
  7. Alexopoulou, L. et al. (2001) Nature 413:732–738.
  8. Diebold, S. et al. (2004) Science 303:1529–1531.
  9. Hemmi, H. et al. (2000) Nature 408:740–745.
  10. Akira, S and Takeda, K. (2004) Nat Rev Immunol 4:499–511.
  11. Kawai, T and Akira, S. (2006) Cell Death and Differentiation 13:816–825.
  12. Fitzgerald, K. et al. (2003) Nat Immunol 4:491–496.
  13. Moynagh, P. (2005) Trends in Immunol 26:469–476.