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制限酵素がなければ、今日の分子生物学研究はどうなっていたでしょうか?このラボの働き者は基礎生物学研究や商業用途における多くの進歩を40年以上支えてきました。制限酵素(または制限エンドヌクレアーゼ)は最初細菌から発見されましたが、その後数種の古細菌から見つかっています。一般的に、制限酵素は2本鎖DNAを切断します。各制限酵素は特定のDNA配列を認識し、切断は酵素によって、認識シーケンス内または少し離れた距離で起こります。認識シーケンスは一般に4~8塩基対(bp)の長さで、切断によって粘着末端(5′または3′突出末端)または平滑末端が生じます (図1)。

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ある制限酵素で生じた突出または平滑末端の図
図 1. ある制限酵素で生じた粘着または突出末端(5′または3′)または平滑末端の図。

今日では、約4,000個の制限酵素の特性が明らかになっており、そのうち600個が市販されています。REBASE は制限酵素について包括的な最新の情報が得られる有用で参照できるリソースで、特異性、感度、市販元などが記載されています[1]

制限酵素の歴史

1950年代始めに、多くの研究チームが異なる細菌を宿主とする同種株へのバクテリオファージ感染効率の違いを観察しました[2,3]。GrassoとPaigenが結果を論文発表しました。細菌株の1つ(例:E. coli C)で増殖したファージλが他の同種細菌株(例:E. coli K)を感染させるために使用されると、宿主株(E. coli C)の再感染に比較して感染率に著しい低下が見られます。新しい宿主(E. coli K)は入ってくるファージを選択したり「制限」したりしているように見えます。新しい株上で育たなかったファージが、1ラウンドの感染後により一般的な速度で株に感染することができたため、研究者はこれが遺伝現象ではないとも記しました。観察された現象は「宿主制御変異」と呼ばれ、基礎となるメカニズムを探す研究が活発に行われる分野となりました [4]

1960年代に宿主制御変異の基礎となるメカニズムがファージDNAの酵素切断を含むことが明らかになり、制限酵素の発見と単離につながりました。1960年代初頭、Werner ArberはファージDNAの宿主域決定因子を示し、そしてそれに続く実験でメチオニンが宿主保護に関与することを示しました[5]。こうした知見は最終的に制限修飾(R-M)系の提唱につながり、それは制限酵素および宿主からのメチラーゼが協同して働き、外来性のウイルス(非メチル化)DNAを切断する一方で、宿主DNAをメチル化から保護するものです [6]

興味深いことに、R-M系の制限酵素タイプIおよびIII群について行われた多くの初期の研究では、構造と機能によって分類していました(「制限酵素の分類」を参照)。しかし、制限酵素の完全な有用性は、Kent WilcoxとHamilton Smithが最初のタイプIIクラス制限酵素であるHindIIを発見するまで明らかにはなりませんでした [7]。HindIIは特定の対称的なDNA配列を認識し、その認識シーケンス内で定義された方法で切断します。最も初期のタイプII制限酵素で発見されたこの特長を、Kathleen DannaとDaniel NathansはSV 40でのDNA物理マッピングの際にHindIIで利用しました[8]。これは制限酵素マッピングと呼ばれる方法です。

制限酵素に関するこの先駆的な業績に対し、Daniel Nathans、Hamilton Smith、Werner Arberは1978年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。DNAリガーゼの発見で、成長し続ける部位特異的切断を行う制限酵素ファミリーと一緒に、組換えDNA技術が誕生しました。

制限酵素命名法

命名法は酵素の生命体起源である3つの特性、すなわち属、種、株(血清型)を考慮しています。短縮された名にローマ数字が続き、同じ株から複数の制限酵素があることを表します[9]。例えば、HindIII酵素(または以前の命名法でHind III)が表すのは、

  • Haemophilusの"H"
  • influenzaeの"in"
  • 血清型dの"d"
  • Haemophilus influenza 血清型dと他の制限酵素を区別するための"III"(例:HindIIとHindIII)

制限酵素の分類

制限酵素は構造の複雑性、認識シーケンス、切断部位位置、補助因子要件によって4つのクラスに分類できます。表1 にクラスを区別する特性をまとめます。

表 1.制限酵素のクラスと特性。

酵素のクラス特性
タイプI
  • 制限およびメチル化活性の両方を持つ複数サブユニットタンパク質
  • ATP要求性
  • 認識部位から可変の距離にある切断部位
タイプII
  • 特定の認識シーケンス
  • 認識シーケンス内または近くにある切断部位
  • 切断部位の5’リン酸および3'ヒドロキシル末端を生成
  • 大半はMg2+要求性
タイプIII
  • 逆方向への2部分認識シーケンス
  • 認識シーケンスの1つから一定の距離離れた切断部位
  • ATP 要求性
タイプIV
  • メチル化DNAのみを切断
  • 認識部位から約30塩基対離れた切断部位

タイプII制限酵素の特異な特性のため、クローニング、法医学のDNA分析など多くの研究用途に最もよく使用されるようになりました。酵素の特異な切断パターンは、法医学研究の基礎である制限断片長多型(RFLP)分析に使用されています。リガーゼは酵素によってDNA末端の5′リン酸と3′ヒドロキシルを結合させ、制限酵素で生じた5′リン酸と3′ヒドロキシルを持つDNA分子の再構成と結合を可能にします。これは組換えDNAクローニングの基本原理です。

分子生物学研究において有用性があるため、タイプII制限酵素が最も研究された酵素クラスで、最も大きな群です。3,500以上のタイプII制限酵素が特性評価され、さらにタイプIIP、IIA、IIB、IIC、IISなどに分類されています。パリンドローム構造(対称)ターゲット配列を認識するタイプIIP酵素は、市販されている制限酵素で最も普及しています[10]

認識部位および切断特異性

制限酵素を分類し比較する他の重要な方法として、アイソシゾマーおよびネオシゾマーがあります。

  • アイソシゾマーは同じ認識シーケンスおよび同じ特異性を持つ制限酵素です。例えば、AgeIおよびBshT1は5′-A↓CCGGT-3′を同じパターンで認識し切断します。しかしながら、アイソシゾマーは部位選択性、反応条件、メチル化感度、スター活性で異なることがあります。
  • ネオシゾマーは同じヌクレオチド配列を認識しますが、DNAを違う位置で切断します。ネオシゾマーの例はSmaI(5′-CCC↓GGG-3′)およびXmaI(5′-C↓CCGGG-3′)で、双方が5′-CCCGGG-3′を認識しますが別の場所で切断し、異なる種類の末端を生成します(この場合、SmaIでは平滑末端でXmaIでは5′突出末端)。

双方の認識シーケンスおよび切断パターンで異なる特異性について有効性を持つため、制限酵素は遺伝物質の特性評価および操作を行う、非常に柔軟性があり強力なツールのセットとなりました。

リソース

関連製品

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.