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過去数十年間の研究によって、ヒトのプロテオームはヒトゲノムよりもはるかに複雑であることが認められています。ヒトゲノムに含まれる遺伝子数は2万~2万5千個と推定される(1)一方、ヒトのプロテオーム中のタンパク質総数は100万個以上と推定されています(2)。こうした推定値により、単一遺伝子が複数タンパク質をコードすることが明らかになります。ゲノム組み換え、代替プロモーターによる転写の開始、差動転写の終結、および転写産物の選択的スプライシングは、単一遺伝子と異なるmRNA転写物を生成する機構です(3)。
タンパク質の翻訳後修飾(PTM)により、ゲノムレベルからプロテオームレベルへと、さらに複雑性が高められます。PTMは、活性、局在性、および(タンパク質、核酸、脂質、補因子などの細胞分子との)相互作用を調節するため、機能的プロテオミクスにおいて重要な役割を果たす化学修飾です。
さらに、ヒトプロテオームは動的性質を有しており、多くの刺激に反応して変動します。そして通常、翻訳後修飾は細胞活性の調節に利用されています。PTMは、様々なアミノ酸側鎖やペプチド連鎖で発生し、一般的には酵素活性により媒介されます。実際、5%のプロテオームには、翻訳後修飾を果たす酵素が200種以上含有されると推定されています。これらの酵素には、以下が含有されています:キナーゼ、ホスファターゼ、トランスフェラーゼ、またはリガーゼ - 官能基、タンパク質、脂質または糖などを、アミノ酸側鎖へ追加あるいはアミノ酸側鎖から除去します;プロテアーゼ - ペプチド結合を切断し、特定配列または調節サブユニットを除去します。また、autokinaseドメインやautoprotolyticドメインなどの自己触媒ドメインを用いて、多数のタンパク質を自己修飾させることができます。
翻訳後修飾は、タンパク質の「ライフサイクル」中のどの段階でも発生し得ます。例えば、適切なタンパク質の折り畳みや安定性を媒介するため、もしくは各細胞区画(例:核、膜)に新生タンパク質を指令するため翻訳が完了した直後に、多数のタンパク質が修飾されます。触媒活性の活性化または不活性化を行うため、あるいはタンパク質の生物学的活性へ影響を与えるため折り畳みおよび局在化が完了した後に、別の修飾が発生します。また、タンパク質は、タンパク質を標的とし、分解させるタグへ共有結合します。通常タンパク質の修飾は、修飾単独で行われるわけではなく、 タンパク質の成熟と活性化の段階的機構により、翻訳後切断と官能基付加の協働を介して行われます。
また、修飾の特性に応じて、タンパク質のPTMは可逆性を有することがあります。例えば、キナーゼは特定のアミノ酸側鎖でタンパク質をリン酸化します(触媒を活性化/不活性化させる手法として一般的です)。一方、ホスファターゼはリン酸基を加水分解することにより、タンパク質から除去させ、生物学的活性を逆転させます。ペプチド結合のタンパク質分解切断は熱力学的に有利な反応であるため、ペプチド配列や調節ドメインを持続的に除去します。
つまり、心臓病、癌、神経変性疾患および糖尿病に関する研究において、タンパク質やタンパク質翻訳後修飾に関する分析は非常に重要となります。PTMの特性評価は、手軽ではないものの、病因プロセスの基礎となる細胞機能に関して非常に有益な洞察が得られます。技術的には、翻訳後修飾タンパク質に関する研究において、特異的な検出法と精製法の開発が主要な課題となります。折りよく、こうした技術的障害は、新たに開発された洗練性の高いプロテオミクス技術によって克服されつつあります。
前述のように、翻訳後修飾(PTM)は膨大なタイプの存在するため、潜在的なタンパク質修飾を全て解説することはできません。そこで、本概要ページでは、現行のタンパク質研究において主要タイプとされるPTMのみをいくつかご紹介いたします。また、リン酸化、グリコシル化およびユビキチン化を重点的に扱いますので、各PTM専門ページにてこれらのPTM詳細情報をご覧ください。
主にセリン、スレオニンまたはチロシン残基において、可逆的タンパク質のリン酸化は非常に重要性が高く、また翻訳後修飾として十分に研究が重ねられています。細胞周期、増殖、アポトーシスおよびシグナル伝達経路といった、様々な細胞プロセスの調節において、リン酸化は重要な役割を果たしています。
タンパク質のグリコシル化は、主要な翻訳後修飾のひとつに見なされており、タンパク質の折り畳み、高次構造、分布、安定性および活性へ大きな影響を及ぼします。グリコシル化は、核転写因子の単純な単糖修飾から、細胞表面受容体の極めて複雑な分岐鎖状の多糖類の変更まで、広範に対応するタンパク質へ、あらゆる種の糖部分を追加することができます。アスパラギン結合(N結合)またはセリン/スレオニン結合(O結合)のオリゴ糖形態の炭水化物は、あらゆる細胞表面や分泌タンパク質の主要構造成分となっています。
ユビキチンは、76個のアミノ酸からなる8-kDaのポリペプチドで、ユビキチンのC末端グリシンを介して、標的タンパク質中のリジンIμ-NH2へ付加されます。最初のモノユビキチン化の後、ユビキチンポリマーが形成されることがあります。そして、ユビキチン化タンパク質の分解とユビキチンのリサイクルを触媒する26Sプロテアソームによって、ポリユビキチン化タンパク質が認識されます。
一酸化窒素(NO)は、一酸化窒素合成酵素(NOS)の3つのアイソフォームにより産生されます。また、一酸化窒素は遊離システイン残基と反応してS-ニトロソチオール(SNO)を形成する化学的メッセンジャーとしての役割を果たします。S-ニトロシル化は、タンパク質の安定化、遺伝子発現の調節、およびNOドナーの提供をする細胞に活用する重要なPTMであり、SNOの生成、局在化、活性化および異化作用は厳密に調節されています。
S-ニトロシル化は可逆反応であり、 タンパク質を脱ニトロシル化させるグルタチオン(GSH)やチオレドキシンなどの酵素を減少させる宿主の原因で、細胞質におけるSNOの半減期は短くなります。したがって、通常SNOは膜、小胞、間質空間および親油性タンパク質の折り畳み中に貯蔵されることによって、脱ニトロシル化を防ぎます。例えば、アポトーシス媒介性カスパーゼは、SNOとしてミトコンドリアの膜間スペースに貯蔵されます。細胞外または細胞内の合図に応答して、カスパーゼが細胞質中に放出されます。その結果生じた高度還元環境により、タンパク質が急速に脱ニトロシル化されるため、カスパーゼ活性化とアポトーシスの誘導が起こります。
S-ニトロシル化は無作為に発生するイベントというわけではなく、特異的システイン残基のみにS-ニトロシル化が起きます。タンパク質には複数システインが含有され得るため、またSNOは不安定な性質を有しているため、S-ニトロシル化システインは、検出や非ニトロシル化アミノ酸からの識別が困難になる場合があります。通常SNO検出する手法としては、Jaffreyらの開発によるビオチンスイッチアッセイがとられます。(以下、アッセイの各工程)(6):
窒素への一炭素メチル基の転移(N-メチル化)、あるいはアミノ酸側鎖への酸素の転移(O-メチル化)によって、タンパク質の疎水性が高まり、カルボン酸に結合した場合に、アミノ酸の負電荷を中和することができます。メチルトランスフェラーゼによりメチル化が媒介され、S-アデノシルメチオニン(SAM)が主要なメチル基供与体となります。
メチル化が頻繁に発生するため、ATP後の酵素反応には、主にSAMを基板として用いることが推奨されます(4)。また、N-メチル化が不可逆的である一方、O-メチル化は可逆的となることがあります。ヒストンメチル化や脱メチル化が転写用DNAの有効性へ影響を与えるように、メチル化はエピジェネティック制御の有名なメカニズムです。アミノ酸残基を単一または複数のメチル基へ結合させることによって、修飾の効果を高めることができます。
N-アセチル化、あるいは窒素へのアセチル基の転移は、不可逆的および可逆的な両メカニズムを介して、あらゆる真核生物タンパク質中で発生します。N末端アセチル化は、N-アセチルトランスフェラーゼ(NAT)酵素によるアセチルCoAから、アセチル基を有するアミノ酸へ交換する前に、メチオニンアミノペプチダーゼ(MAP)によってN末端メチオニンを切断する必要があります。リボソームへ結合したままの成長中ポリペプチド鎖上でN末端がアセチル化されていることから、この種のアセチル化は同時翻訳と言えます。真核生物タンパク質の80〜90%がこうしてアセチル化されていますが、正確な生物学的意義は不明のままです(4)。
遺伝子転写を調節するには、通常、ヒストンN末端上のリジンε-NH 2でアセチル化(リジンアセチル化と呼ばれる)を行います。ヒストンのアセチル化は、 転写を促進する染色体凝縮を低下させる可逆的事象であり、ヒストンacetyletransferase(HAT)活性を含む転写因子によって、これらのリジン残基のアセチル化が調節されます。HAT活性を有する転写因子は、転写コアクチベーターとして作用する一方、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、リジンアセチル化のレベルを低下させると同時に染色体凝縮を増大させることによって、アセチル化の効果を逆転させるプレッサーとなります。
サーチュイン(サイレント情報レギュレータ)は、ヒストンを標的とするNAD依存性脱アセチル化酵素基です。名称が示すように、これらはヒストンをハイポアセチル化することにより遺伝子サイレンシングを維持します。また、ゲノム安定性の維持を促進することが報告されています(8)。
アセチル化が最初に検出されたのはヒストンですが、細胞質タンパク質もアセチル化されることが報告されているため、アセチル化は、単に転写を調節するだけでなく、細胞生物学において重要な役割を果たしていることが予想されます(9)。さらに、リン酸化、ユビキチン化およびメチル化などのアセチル化と翻訳後修飾の間のクロストークによって、アセチル化タンパク質の生物学的機能を修飾することができます(10)。
タンパク質アセチル化の検出は、アセチルリジン特異的抗体を用いた染色体免疫沈降法(ChIP)によって、あるいは42質量ユニットによるヒストンの増加が単一のアセチル化を示す質量分析によって実行できます。
細胞小器官内膜(小胞体[ER]、ゴルジ体、ミトコンドリア)、小胞(エンドソーム、リソソーム)および細胞膜へタンパク質を標的させるには、脂質化を行います。脂質化には、以下4種類があります:
各タイプの修飾により、タンパク質の膜に対する親和性は明らかに高まります。一方、全ての脂質化では、タンパク質の疎水性を高めることにより、結果的に膜への親和性を高めます。二つ以上の脂質が投与タンパク質に結合できることから、異種間どうしの各脂質化法も互換性があります。
GPIアンカー により、細胞膜へ細胞表面タンパク質が固定化されます。これらの疎水性部分は、ER中で調製され、一括して新生タンパク質に添加されます。GPIアンカー型タンパク質は、通常コレステロールやスフィンゴ脂質に富む脂質ラフトに局在化し、細胞膜上でシグナリングプラットフォームとして機能します。ホスホイノシトール特異的ホスホリパーゼCにより、GPIアンカーはタンパク質から遊離できる通り、この種の修飾は可逆的です。実際、質量分析法によるゲル分離と分析では、このリパーゼを使用して、膜からGPIアンカー型タンパク質を遊離させる目的でGPIアンカー型タンパク質を検出します。
膜局在化のためタンパク質に疎水処理を施すには、N-ミリストイル化を行います。14-炭素飽和脂肪酸(C14)であるミリストイル基によって、タンパク質は膜への疎水性と親和性を十分に得られますが、持続的に膜中へタンパク質を固定化できるまでには至りません。そのため、N-ミリストイル化は、立体配座の局在スイッチとして機能し、タンパク質立体構造の変化によって、膜付着の処理の可用性に影響します。のような局在条件のため、膜に選択的に局在するシグナルタンパク質(例:Srcファミリーキナーゼ)は、Nミリストイル化されます。
N-ミリストイル(NMT)より特異的に促進されるN - ミリストイル化には、N末端グリシンにミリストイル基を付着させる基板として、ミリストイルCoAを使用します。メチオニンは全真核生物タンパク質のN末端アミノ酸であるため、このPTMでは、ミリストイル基の添加前に、上記のマップによりメチオニン切断を行う必要があります(これは、単一タンパク質に関する、多数のPTMの中の一例です)。
S-パルミトイル化では、 パルミトイルアシルトランスフェラーゼ(PAT)を介して、パルミトイル-CoAからシステイン残基のチオレート側鎖へC16パルミトイル基を追加します。長めの疎水性基であるため、このアンカー処理により持続的に膜へタンパク質を固定化させることができます。しかし、タンパク質とアンカー間の結合を解くチオエステラーゼによって、この局在化は可逆的であるため、膜局在化を調節するオン/オフスイッチとしてS-パルミトイル化を行います。ミリストイル化またはファルネシル化(下記をご参照ください)など他種の脂質化を強化するには、通常S-パルミトイル化を行います。また、S-パルミトイル化タンパク質は、脂質ラフトへ選択的に集中します(4)。
S-プレニル化は、ファルネシルトランスフェラーゼ(FT)またはゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ(GGT IおよびII)を介して、 C末端から5個のアミノ酸中の特定システイン残基へ、ファルネシル基(C15)またはゲラニルゲラニル基(C20)を共有結合的に追加します。S-パルミトイル化とは異なり、S-プレニル化は加水分解安定性があります。Rasスーパーファミリーの全メンバーを含むタンパク質全体の約2%が、プレニル化されます。これらの分子スイッチ基は、ゲラニルゲラニル化またはファルネシル化(もしくはその両方)されます。また、これらのタンパク質は、シングルシステインまたはデュアルシステインでプレニル化の反応タイプを決定するC末端に、特異的な4アミノ酸モチーフを有しています。ER中で起こるプレニル化は、Rce1によるタンパク質分解的切断後、およびイソプレニルシステインメチルトランスフェラーゼ(ICMT)によるメチル化後、一般的にPTMの段階的プロセスの一部を担います。
ペプチド結合は生理学的条件下で無期限に安定状態を保つため、細胞にはこうした結合を解く何らかのメカニズムが必要になります。プロテアーゼは、タンパク質のペプチド結合を切断する酵素ファミリーを包括しており、抗原プロセシング、アポトーシス、表面タンパク質の脱落および細胞シグナリングにおいて不可欠です。
11,000種以上のプロテアーゼを包括するファミリーは、基質特異性、ペプチド切断メカニズム、細胞内位置、活性時間などに関して、それぞれ多様性があります。プロテアーゼのこうした多様性により様々な機能性が実現しますが、一般的にはタンパク質分解のタイプに基づいてプロテアーゼを分類できます。未構築タンパク質サブユニットやミスフォールドタンパク質を除去するには、また小さなペプチドや単一アミノ酸のレベルまで所定タンパク質を減じることにより、タンパク質濃度を恒常濃度に維持するには、分解性プロテオリシスが決定的な要素となります。また、新生タンパク質や活性化酵素原からのシグナルペプチドの切断など細胞生物学において、プロテアーゼは生合成の役割を果たしています。また、プロテアーゼは酵素機能のため特定部位での切断が必要な不活性酵素前駆体です。つまり、プロテアーゼは酵素活性を調節する分子スイッチとして作用します。
タンパク質分解は、熱力学的に有利かつ不可逆的な反応です。したがって、シスまたはトランスおよび区画(例:プロテアソーム、リソソーム)の切断による調節など、時間的/空間的な制御メカニズムによる非制御のタンパク質分解を防ぐため、プロテアーゼ活性が厳密に調節されています。
アミノペプチダーゼ(タンパク質のアミノ末端で切断)およびカルボキシペプチダーゼ(タンパク質のカルボキシ末端で切断)などの作用部位に準じて、多様なプロテアーゼファミリーを分類することができます。また、タンパク質分解に関与する所定プロテアーゼの活性部位別の分類法もあります。この分類戦略に基づいて、既知プロテアーゼの90%以上は、以下4つのカテゴリーいずれかに分類されます:
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.