dPCRデータ発表のためのdMIQEガイドラインについて

この記事では、高品質のデジタルPCR(dPCR)実験をサポートする、dMIQEガイドラインの推奨事項の一部を紹介します。

  1. dPCR実験におけるマイクロ反応の数が相対的な不確実性に与える影響
  2. 等量のdPCRマイクロ反応の重要性
  3. ポジティブおよびネガティブマイクロ反応のシグナルの明確な識別

デジタルPCRは、高い精度と感度により核酸を定量する、強力な技術として登場しました。2020年に、dPCR実験の信頼性と再現性を確保するために、Minimum Information for Publication of Quantitative Digital PCR Experiments(dMIQE:定量的デジタルPCR実験の公開のための最低限の情報)ガイドラインの大幅な更新がClinical Chemistry誌に掲載されました。これらのガイドラインは何を意味し、より再現性の高い結果を達成するのにどのように役立つでしょうか?

 

2020年のdMIQEガイドラインは以前のバージョンを元にしており、高品質のdPCR実験を実施するための包括的な枠組みを提供するように作成されています。このガイドラインの主な目的は、dPCRデータレポートの透明性と正確性を向上させ、研究者がさまざまなラボで結果を評価および再現できるようにすることです。

更新されたガイドラインは、アッセイデザイン、サンプル処理、装置のキャリブレーション、データ解析、品質管理など、dPCR実験の重要な側面をカバーしています。これらのガイドラインに従うことで、研究者は実験のセットアップと実行を最適化し、ばらつきやバイアスの潜在的な原因を最小限に抑えることができます。

2020年のdMIQEガイドラインの主要な推奨事項には、最適な感度と特異性を実現する適切なアッセイとプローブの選択、汚染と分解を最小限に抑えるのに役立つ取り扱いや調整に関する推奨事項、適切な装置のキャリブレーションと検証に関する推奨事項など、幅広いトピックが含まれ、すべては正確で高精度の測定をサポートすることが目標です。


マイクロ反応の数学

ポアソン分布—dPCRを規定する統計原理

ポアソン分布モデルでは、ターゲット分子はマイクロ反応間でランダムかつ独立に分布していると仮定しています。ポアソン分布は、サンプルあたりのマイクロ反応が多くなるほどターゲット分子の真の分布の妥当な近似になります(dMIQE Group,、2020年)。これに関連して、反応数が増えるにつれて、観測される頻度(ターゲット分子のポジティブマイクロチャンバーの数)が真の確率(ターゲット分子を含む反応の確率)に収束するという「大数の法則」が作用します。反応数が多いと、研究者にとって以下のような利点があります:

  1. 統計の信頼性の向上:マイクロ反応数が多いほど、ターゲットに対してポジティブの反応が多くなる可能性が高くなります。これにより、ターゲット濃度の定量における統計的信頼性が向上します。
  2. サンプルをより適切に説明:より多くのマイクロ反応とサンプル量検査の向上(デジタルプーリングテクニカルノートを参照)の組み合わせは、サンプル中のターゲット分子のランダムサンプリングを向上させ、結果は実際のターゲット濃度をより正確に示すものになります。また、サンプリングエラーを低減できるため、はずれ値の定量への影響が小さくなります。
  3. 感度と精度の向上:dPCRの統計的検出力は、マイクロ反応数が増えるにつれて高くなり、ターゲット濃度が低い場合でも正確な定量を可能にします

重要:マイクロ反応数がより多いと、不確実性の影響を最小限に抑えることで「真の値に近づくこと」ができます。

 

さらに、dMIQEガイドラインの図(図1)は興味深い洞察を示しています。λの95%信頼限界のモデル化に基づいて、1万のマイクロ反応点での相対的不確実性経験が大幅に向上することがわかりました。この点を超えると、相対的な不確実性の改善は依然として明らかですが、より緩やかな傾向が見られます。この変移を理解することは、研究者が研究に必要なダイナミック レンジに基づいてdPCR実験を最適化するのに役立ちます。

図1.ポアソン分布の予測精度と直線範囲

各グラフは、4つの異なる区画数(n)のdPCR反応のポアソン分布に基づいて数学的に生成されています。ほとんどのdPCR装置は、n>10,000での反応を提供します。(A)相対的な不確実性(λの95%の上限のモデル化に基づく)は、範囲の極値で最も高くなります(ポジティブの区画はほとんどなし;k/n 0.95)。反応の区画数が増加すると、ポジティブの区画の任意の割合での精度も高くなります。n>10,000になると、相対的な不確実性は範囲の大部分で<5%になります。水平の点線は、5%と10%の相対的な不確実性に対応しています。(B)ダイナミックレンジは、反応の区画数に比例します。ダイナミックレンジはパーティションの数よりも大きいことに注意してください。水平の点線は、λの相対的不確実性が50%未満である任意のnにおける反応あたりのコピーに対応しています。


Clin Chem, Volume 66, Issue 8, August 2020, Pages 1012–1029. https://doi.org/10.1093/clinchem/hvaa125
上記の説明分で記述されていない限り、この図の内容には次の著作権が適用されます。© American Association for Clinical Chemistry 2020. これは、Creative Commons Attribution License(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)の条項に基づいて配布されるOpen Accessの記事です。オリジナルの著作物が適切に引用されている場合に限り、あらゆる媒体での無制限の再利用、配布、および複製が許可されています。

反応あたりのマイクロチャンバー数を増やすことによる利点に関心がありますか?

QuantStudio Absolute Q dPCRシステムでのデジタルプーリングを活用することによる、サンプルあたりのマイクロ反応数の増加についてのテクニカルノートをお読みください。


なぜ量が重要なのか?

dPCR装置が各マイクロ反応において等しい量を提供するという要件は、dPCRによる定量が正確で高精度であることを確保するために重要です (The dMIQE Group、2020)。マイクロ反応で量を等しく保つことは、次のようないくつかの理由で不可欠です:

  1. ポアソン統計モデル:dPCRにおけるターゲット分子の定量はポアソン統計モデルに依存しています。このモデルが成り立つためには、各反応が1つのターゲット分子を含むか、空であるかの確率が等しくなければなりません。反応量が逸脱するとターゲット分子の分布にバイアスが生じ、不正確な定量結果につながる可能性があります。
  2. 全体的な精度:反応量が等しいことで、dPCR定量の正確性が向上します。ポアソン統計モデルでは、マイクロ反応あたりのターゲット分子数の分散が平均と等しいと仮定しています。すべてのマイクロ反応における量の偏差は、ターゲットの定量におけるばらつきの増加と精度の低下につながる可能性があります。
  3. アッセイ性能の一貫性:臨床研究目的でdPCRを使用する場合、一貫したアッセイ性能が重要です。各反応で量が等しいと、アッセイの再現性と堅牢性が向上し、経時的および異なる装置間での結果の信頼性が向上します。

最適化されたdPCRアッセイとはdPCRアッセイの成功を意味します

ポジティブ反応とネガティブ反応の明確な識別

dPCR装置がポジティブマイクロ反応とネガティブマイクロ反応を明確に識別するという要件は、正確なターゲット定量と信頼性の高いデータ解釈のために非常に重要です(dMIQE Group、2020)。ポジティブマイクロ反応とネガティブマイクロ反応の明確な区別は、次のようないくつかの理由で不可欠です:

  1. 正確なターゲット検出:dPCRの主な目的は、サンプル中のターゲット分子の存在を正確に検出および定量することです。(ターゲットを含有する)ポジティブマイクロ反応と(ターゲットを含有しない)ネガティブマイクロ反応間の明確な識別は、正確な数のターゲット分子が同定および測定されるために重要です。
  2. 偽のポジティブおよびネガティブの回避:明確な識別は、偽ポジティブ(マイクロ反応を誤ってポジティブと識別する)と偽ネガティブ(ポジティブのマイクロ反応を検出できない)のリスクを最小限に抑えるのに役立ちます。誤った結果は、不正確な結論や実験データの誤った解釈につながる可能性があります。
  3. 散布図の「ばらつき」の量を減らす:中程度の蛍光レベルのマイクロチャンバーは、「ばらつき」と見なされるものを生じさせます。 dPCR装置は、最適でない増幅効率の可能性を避けるために、ポジティブとネガティブのマイクロチャンバーの境界を正確に定義するための、信頼性が高く、調整可能なしきい値設定機能を有している必要があります。
  4. トランスレーショナル研究アプリケーションの向上:臨床研究およびトランスレーショナル研究では、迅速に疾患関連マーカーを特定したりモニタリングする目的で、正確なターゲット検出が重要です。明確な識別により、ターゲット分子の高感度かつ特異的な検出が可能になり、dPCRのトランスレーショナル研究の能力が向上します。

当社のQuantStudio Absolute Q dPCRシステムは、dMIQEガイドラインで定められた要件を満たしており、dPCRのワークフローおよび解析の向上に役立ちます。


引用文献

The dMIQE Group.(2020).The digital MIQE guidelines update: Minimum information for publication of quantitative digital PCR experiments for 2020.Clinical Chemistry, 66(8), 1012-1029. https://academic.oup.com/clinchem/article/66/8/1012/5880117


QuantStudio Absolute QデジタルPCRシステム

dPCRのハイスループット自動化

デジタルPCRコンテンツライブラリ