生体分子プローブにおけるカルボキシル反応性化学基です。カルボジイミド化合物のEDCやDCCなどの第一級アミンへカルボン酸を標識・架橋します。本ページでは、この試薬クラスの反応化学や生物学研究のアプリケーションについて解説いたします。


はじめに

カルボキシル反応性架橋剤の反応性基

タンパク質中や様々な生体分子中で発生するような、カルボン酸(-COOH)へ特異的かつ実質的に結合する既知学官能基はほとんどありません。HPLC分析または蛍光標識化で小化合物を誘導体化する用途には、特定のジアゾメタン試薬やジアゾ試薬が使用されてきました。カルボニルジイミダゾール(CDI)を非水性条件下で使用すると、カルボン酸を活性化させ、アミド結合を介して第一級アミン(-NH2)へ直接結合させることができます。

カルボジイミド化合物を利用すると、主要かつ汎用性の高い手法でカルボン酸を標識や架橋することができます。最も入手しやすく標準的なカルボジイミドは、水性架橋用の水溶性EDCや、非水性有機合成法用の水不溶性DCCです。

22980-EDC-stc

カルボジイミドEDCおよびDCCの化学構造。 EDC(別称:EDAC)は、1-エチル-3- ( -3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(MW 191.70)です。 DCCは、N ',N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(MW 206.32)です。

カルボジイミド結合はCDI媒介結合と同様に、アミド結合形成を介した第一級アミンとの直接反応のためにカルボキシル基を活性化させることによって作用します。それらの化学構造は共役分子間の最終結合へ一切組み込まれないことから、カルボジイミドはゼロレングスのカルボキシル-アミン架橋剤とみなされています。

Bioconjugate Techniques, 3rd Edition

Bioconjugate Techniques, 3rd Edition (2013) by Greg T. Hermanson is a major update to a book that is widely recognized as the definitive reference guide in the field of bioconjugation.

Bioconjugate Techniques is a complete textbook and protocols-manual for life scientists wishing to learn and master biomolecular crosslinking, labeling and immobilization techniques that form the basis of many laboratory applications. The book is also an exhaustive and robust reference for researchers looking to develop novel conjugation strategies for entirely new applications. It also contains an extensive introduction to the field of bioconjugation, which covers all the major applications of the technology used in diverse scientific disciplines, as well as tips for designing the optimal bioconjugate for any purpose.


EDCカルボジイミド架橋剤
EDC反応化学

EDCがカルボン酸基と反応すると、反応混合物中の第一級アミノ基の求核攻撃により変位しやすい有効なO-アシルイソ尿素中間体が形成されます。第一級アミンは、元のカルボキシル基とのアミド結合を形成し、副産物であるEDCが水溶性尿素誘導体として放出されます。O-アシルイソウレア中間体は溶液中において不安定性です;適正にアミンと反応しない場合、中間体の加水分解、カルボキシルの生成、N-置換尿素の放出などが起こります。

01-Carbodiimide-RxnEDC(カルボジイミド)架橋反応を表した図。標準的カルボジイミドEDCを用いた、アミンへカルボキシルの架橋。分子(1)および(2)には、ペプチドやタンパク質、または何らかの化学物質(それぞれカルボン酸と第一級アミン基を有する)が適用できます。分子がペプチドやタンパク質であれば、図中の反応における架橋剤や結合腕より数十~数千倍サイズの分子となります。

EDC架橋は酸性(pH 4.5)条件下において最も有効性が高く、また外来性のカルボニルやアミンを含有しないバッファ中で実行する必要があります。MESバッファ(4-モルホリノエタンスルホン酸)は、カルボジイミド反応用のバッファとして推奨されます。リン酸バッファと中性pH(最大7.2)条件は、低効率ではあるものの 反応化学に適合性があります;反応溶液中のEDC量を増加させることによって低効率を補償できます。

一般にN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)またはその水溶性類似体(スルホ-NHS)をEDC結合プロトコルへ組み込むことにより、効率性を向上させたり、乾燥安定性(アミン反応性)中間体を作製します。EDCによりNHSをカルボキシルへ結合させると、O-アシルイソ尿素中間体より極めて安定性の高いNHSエステルが形成され、同時に生理学的pHで第一級アミンへの結合も可能になります。

01-Carbodiimide-Sulfo-NHS-RxnスルホNHSとEDC(カルボジイミド)の架橋反応を表した図。カルボジイミドEDCおよびスルホ-NHSを用いた、アミンへのカルボキシル基への架橋。EDC反応へNHSやスルホ-NHSを添加すると(上図の一番下の経路)、反応効率が上がり、保存や今後の使用のために分子(1)を活性化させることが可能です。

EDCは、第一級アミンへの結合においてイミダゾール存在下でリン酸基を活性化させることも可能です。5'リン酸基を介したオリゴヌクレオチドの修飾、標識、架橋または固定化に、この手法が取られることもあります。

詳細情報


EDC架橋のアプリケーション

EDCを用いたカルボン酸基への第一級アミンの架橋能力によって、強力かつ汎用性の高い手段で以下を行えます:ペプチドやタンパク質の架橋;分子プローブの調製;タンパク質や細胞生物学の検出法や分析法に用いる巨大分子の固定化。

当然ペプチドやタンパク質には、第一級アミン(N末端と特定アミノ酸側鎖)およびカルボン酸(C末端と特定アミノ酸側鎖)が共に含まれています。つまりEDCの効果により、ペプチドとタンパク質は互いに結合しやすくなり、カルボキシル基またはアミノ基いずれかを有する化合物や固体表面へ結合しやすくなります。


1.キャリアタンパク質へのペプチド結合

ペプチドやタンパク質にはカルボキシレートおよびアミンが共に含まれているため、一般にEDC媒介架橋によってポリペプチドのランダム重合が起こります。重合によってペプチド抗原がKLHやBSAなどの免疫原性担体タンパク質へ高密度で重合共役することから、抗体産生用の免疫原を調製する際にはこうした重合が有益です。

対象製品

Please Configure List Items!

2.アミン化合物によるカルボキシル基の標識

ペプチドまたはタンパク質(グルタミン酸やアスパラギン酸のC末端や側鎖)のカルボキシル基を標識・架橋するには、EDCを用いた手法を取るしかありません。ペプチド上やタンパク質上の多量の第一級アミンにも同時に反応することなく標識や架橋を達成するには、大過剰モルの目的のアミン含有分子を供給する必要があります。例えばペプチドC末端のみをビオチン化させるには、適量のEDCを添加する前に、通例100倍モル過剰のアミン含有ビオチン化合物などにペプチドを結合させます。ペプチドのEDC活性カルボン酸基により遭遇されるアミンの大半は、ビオチン化合物のアミンであるため、ペプチド-ビオチン結合がペプチド間結合よりも優勢となります。

対象製品

Please Configure List Items!

3.親和性精製におけるペプチドの固定化

一般にタンパク質の固定化や架橋は、カルボン酸を介すよりも、第一級アミンまたはスルフヒドリル基を介して行われます。対照的に、ペプチド(および小カルボキシル基含有分子類)は、通例EDCを用いて固定化され、アミン誘導体化表面物質またはアガロース樹脂などの固体支持体へ重合や結合されます。アガロース樹脂の一例として、Thermo Scientific CarboxyLink Coupling Resinがあります。これは、ジアミノジプロピルアミン(DADPA)で修飾済みの4%ビーズアガロースであり、長いスペーサーアーム端におけるペプチドカルボン酸結合に必要なアミンが供給されます。ペプチド-KLH結合体を用いて動物を免疫化した後、抗体の抗原特異的親和性精製において、通例この手法により通例ペプチドがアガロースビーズへ固定化されます。

詳細情報

Please Configure List Items!

対象製品

Please Configure List Items!

4.表面物質へのペプチドの付着

アガロースビーズの他に、様々な固体材料をプラットフォームに利用して、アッセイ法における分子固定化が行われています。第一級アミンとカルボン酸は、磁気ビーズやガラススライドなどの固体粒子用の主要な表面誘導体です。第一級アミンでコーティングされたガラス(ホウケイ酸)表面用の試薬としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTSまたはAPS)などのアミノシラン化合物が一般的です。そのためEDCは、ペプチドや化合物類を表面物質へ共有結合付着させる重要な手段となります。

対象製品

Please Configure List Items!

DCCカルボジイミド架橋剤
DCCの反応化学とアプリケーション

DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)はEDCと同様の方法で、第一級アミンへカルボン酸を架橋させます(上の反応スキームをご参照ください)。しかしDCCは水溶性でないことから、標準的なタンパク質研究生物学ラボではなく、主に製造業や有機合成の用途に利用されています。例えば、主要な市販の既製NHSエステル架橋剤や標識試薬は、DCCを活用して生産されています。水分を排除した結果、ほぼ加水分解しない乾燥粉末として、NHSエステルの調整と安定化が行えます。またDCCは、商業的運用におけるペプチド合成操作にも利用されています。

詳細情報

Please Configure List Items!

対象製品

Please Configure List Items!

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.