第一級アミンの標識化および架橋用の生体分子プローブ中のアミン反応性化学基には、NHSエステル(N-ヒドロキシエステル)およびイミドエステルが含まれます。本ページでは、このクラスの試薬の反応化学および生物学研究アプリケーションについてご紹介いたします。

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はじめに

アミン反応性架橋剤反応基

最もシンプルかつ標準的で汎用性の高い技法で、抗体などのペプチドやタンパク質を架橋または標識化するには、第一級アミン(-NH 2)と反応する化学基を使用します。第一級アミンは、各ポリペプチド鎖のN末端やリジンの側鎖(リジン、K)アミノ酸残基中に存在します。これらの第一級アミンは、生理的pHで正荷電されているため、主にネイティブタンパク質の立体構造の外表面に発生します。この外表面において、水性媒体へ導入された結合試薬が、第一級アミンにより利用されやすくなります。また、第一級アミンは、標準的な生物学的サンプルやタンパク質サンプル中の有効な官能基の中でも、特に求核性が高いため、様々な反応性基へ結合しやすくなります。

実際、第一級アミンと化学結合を形成する合成化学基は数多く存在します。こうした合成化学基には以下が挙げられます:イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、NHSエステル、スルホニルクロリド、アルデヒド、グリオキサール、エポキシド、オキシラン、カーボネート、アリールハライド、イミドエステル、カルボジイミド、無水物、フルオロエステル。通常これらの合成化学基は、アシル化またはアルキル化いずれかを介してアミンへ結合します。

ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒドは、活動的なカルボニル(-CHO)試薬であり、マンニッヒ反応や還元的アミノ化を介してアミンを凝縮させます。これらの化合物は、疫組織化学(IHC)の用途で組織や細胞の固定化および保存に使用します。還元的アミノ化の詳細については、カルボニル反応性架橋剤化学をご参照ください。EDCなどのカルボジイミドは、 カルボキシル基を活性化させて、第一級アミンへ直接結合させます( カルボジイミド架橋剤化学をご参照ください)。FITC(フルオレセインイソチオシアネート)と呼ばれる従来の蛍光標識試薬を活用してきた研究者の間では、イソチオシアネート基はよく知られています。

しかし、タンパク質の架橋・標識用の試薬に組み込まれるアミン特異的な官能基として最も普及しているのは、NHSエステルとアミドエステルです

Bioconjugate Techniques, 3rd Edition

Bioconjugate Techniques, 3rd Edition (2013) by Greg T. Hermanson is a major update to a book that is widely recognized as the definitive reference guide in the field of bioconjugation.

Bioconjugate Techniques is a complete textbook and protocols-manual for life scientists wishing to learn and master biomolecular crosslinking, labeling and immobilization techniques that form the basis of many laboratory applications. The book is also an exhaustive and robust reference for researchers looking to develop novel conjugation strategies for entirely new applications. It also contains an extensive introduction to the field of bioconjugation, which covers all the major applications of the technology used in diverse scientific disciplines, as well as tips for designing the optimal bioconjugate for any purpose.

02-Amine-reactive-groups-stcタンパク質の生物学的メソッドで用いられる、厳選されたアミン反応性化学基。

N-ヒドロキシエステル(NHSエステル)

NHSエステルの反応化学

NHSエステルは、カルボキシル分子のカルボジイミド活性化により形成される反応性基です(カルボジイミド架橋剤化学をご参照ください)。NHSエステル活性化架橋剤および標識化合物は、生理的条件から微アルカリ性条件(pH値7.2〜9)下で、第一級アミンと反応し、安定したアミド結合を生成します。この反応により、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)が遊離します。

02-NHS-Ester-Rxn上図は、第一級アミンへの化学的結合におけるNHSエステル反応を表しています。(R)は、NHSエステル反応性基を有する、標識試薬または架橋剤の一端を表しています;(P) は、標的の官能基(第一級アミン)を含む、タンパク質または分子を表しています。

NHSエステルの加水分解は、第一級アミン反応と競合します。加水分解速度は、バッファpH値に合わせて上昇することにより、タンパク質溶液の濃度を低減させ、また溶液中の架橋効率を低下させます。NHSエステル化合物の加水分解の半減期は、pH値7.0の0℃下において4〜5時間です。また、この半減期はpH値8.6の4℃下では10分間に短縮されます。 第一級アミン非含有の水溶液中におけるNHSエステルの加水分解範囲は、260〜280 nm(NHS副産物の吸収範囲)で測定が可能です。

NHSエステルの架橋反応は、主にリン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、HEPESまたはホウ酸バッファ中で、pH値7.2~8.5の室温または4℃下で 0.5〜4時間実行します。トリス(TBS)などの第一級アミンバッファは、反応に競合するため互換性がありません。しかし、結合手順の最後に反応をクエンチ(停止)させるには、トリスまたはグリシンバッファの添加が役立つケースもあります。

低濃度のアジ化ナトリウム(≤ 3mMまたは0.02%)あるいはチメロサール(≤ 0.02mMまたは0.01%)であれば、通常NHSエステル反応に著しく干渉することはありませんが、それらが高濃度の場合には干渉が起こります。また、不純なグリセロールや高濃度(20〜50%)のグリセロールによって、反応効率が低下します。

スルホNHSエステルは、N-ヒドロキシ環上にスルホン酸(-SO 3)を含有している点を除き、NHSエステルと一致します。この荷電基は反応化学に一切影響を与えませんが、荷電基を含有する架橋剤の水溶性が上昇する傾向があります。また、荷電基は、スルホNHS架橋剤の細胞膜への透過を防ぐため、細胞表面架橋法で使用できます。

02-Sulfo-NHS-Ester-Rxn上図は、第一級アミンへの化学的結合におけるスルホ-NHSエステル反応を表しています。(R)は、スルホNHSエステル反応性基を有する、標識試薬または架橋剤の一端を表しています;(P)は 、標的の官能基(第一級アミン–NH2)を含む、タンパク質または分子を表しています。

NHSエステル試薬の溶解度は、バッファ成分や分子構造の残部(例:スペーサーアーム)によって異なります。非スルホン化形態のNHSエステル試薬の多くは、水不溶性であるため、水性反応混合物への添加前に、DMSOやDMFなどの 水混和性の有機溶媒中で溶解させる必要があります。そのため、水不溶性のNHS-エステルとの架橋反応では、通常、水性反応で最終容量0.5〜10%の有機溶媒キャリーオーバーが必要になります。

21655-DSS-stc
21580-BS3-stc

NHS架橋剤とスルホ-NHS架橋剤の比較。 DSSとBS3(スルホ-DSS)のアミン対アミン架橋剤の構造。 DSSは即座に水溶しませんが、溶解後には細胞膜全体に浸透して細胞内を架橋させることができます。 BS3は(標準的な作業濃度において)水溶性ですが、荷電されると、細胞膜へ透過できなくなります;このため、無傷細胞の表面のみでBS3架橋が起こります。

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NHSエステル架橋の応用

1.タンパク質相互作用の分析

上図に示したDSSやBS3などのNHSエステル基を両端に有したホモ二官能性架橋剤は、主にタンパク質複合体中の結合パートナーどうしを共有結合的(永久的)に結合させる目的のアプリケーションに使用します。結合は、2つ(同一または別箇)のタンパク質分子の第一級アミン間で発生し得ます。しかし、分析の検出用分子の全集団にわたり高頻度で架橋されるのは、非ランダムかつ密接に結合関係へ関与するタンパク質のみです。ランダム重合を目的とするケースを除き、こうしたアミン-アミン架橋剤は、結合関係を有さない精製タンパク質の架橋に用いられることはほとんどありません。

この技法は、タンパク質相互作用の発見や検証、あるいは既知タンパク質相互作用の発生条件の分析に適用できます。実験は、in vitroで (混合溶解物、または相互作用すると推定される精製タンパク質を用いて)、もしくはin vivo(細胞内または細胞表面)で行うことができます。適切に調節を行うことにより、様々なサイズや特性の接合体の相対的存在量(電気泳動および染色、もしくはウェスタンブロッティングにより測定)が、架橋時の特異的相互作用の指標となります。スペーサーアーム長、開裂特性、溶解性特性などの異なる各架橋剤を用いて結果を比較すると、ひとつの相互作用から様々な特性が明らかになります。

ヘテロ二官能性NHSエステル架橋剤の中でも、とりわけ光活性化可能な基を含む両端を有した架橋剤は、タンパク質相互作用の分析に非常に有用です。これらの架橋剤は、最初に精製済み「ベイト」タンパク質と反応(第一級アミンへのNHSエステル反応により)させることができます。また、この架橋剤を細胞や溶解物へ添加すると、ベイトタンパク質が「プレイ」タンパク質と相互作用します。必要に応じて、架橋剤の第二端部を(紫外光で)活性化させて、最初に接触する化学基へ付着させることができます。タンパク質相互作用複合体中において、反応の結果、ベイトタンパク質とプレイタンパク質の相互作用物質間で架橋が起こります。このテーマの詳細については、光反応性架橋剤化学のページをご覧ください。

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2.特異的タンパク質複合体の調整

ヘテロ二官能性架橋剤は、一端にNHSエステル基を有し、もう一端に別の反応性基を有しており(例:スルフヒドリル反応性マレイミド)、特異的タンパク質複合体の作成に使用できます。

例えば、精製抗体を西洋ワサビペルオキシダーゼ酵素へ結合させて、ELISA法で用いる抗体-HRP複合体を産出します。別の例では、KLHまたはキャリアタンパク質類へペプチド抗原を結合させて、有効な免疫原を調製します。Sulfo-SMCCは、この技法用の主要な架橋剤です。SM(PEG)n架橋剤は、SMCCに類似していますが、それらに含まれるポリエチレングリコール(PEG)単位の数に応じて、スペーサーアーム長が異なります。

関与する官能基が異なるため、制御された段階的な手法で反応を行うことができます。いずれに実例においても、一つのタンパク質のアミンは、NHSエステル反応性基を用いた分離で活性化させることができます;第二タンパク質(スルフヒドリル基を有する)を添加すると、それらは活性化された第一タンパク質の各分子へ結合します。HRPやKLHなど需要の高いタンパク質は、活性化された形態(SMCCとNHSエステルが反応済みの状態)で市販されています。

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3.抗体やタンパク質の標識

NHSエステル化合物は、抗体やタンパク質のビオチン化および蛍光標識用の試薬の中でも、最も一般的かつ有効性が高いです。NHSエステル化合物の需要がここまで高い理由として、標識化アプリケーションにおいて可用性が高く広範に使用されている2点が挙げられます:

  • ビオチンおよび多数の蛍光化合物は、元来カルボキシル基を含有しています。また、これらはカルボキシル基へ容易に合成できます。さらに、これらはカルボジイミド化学(通常はDCC)を用いて簡単に誘導体化させることができ、NHSエステル化合物を産出します。
  • 標識化を行う主な対象は、抗体のような大きなタンパク質(IgG分子量;150,000)であり、これらの有する10~15のリジンアミンに対して、NHSエステル化合物はご希望の親和性タグや検出タグを結合させる反応が行えます。

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4.抗体とタンパク質類の固定化

ビーズアガロース樹脂、磁性粒子、様々なタイプの固体支持体などは、NHS-エステル基で活性化された形態で取り揃えています。これらの活性化支持体が、タンパク質やアミン含有リガンドへ 安定的かつ効率的に結合し、それらを固定化させます。その結果、このタンパク質やリガンドは和性精製法で使用できるようになります。上述のように、NHSエステルは容易に加水分解を行うため、NHS-アガロースおよび類似の活性化樹脂は、有機溶剤(通常はアセトン)中で常に乾燥もしくはスラリー化された状態で供給されます。

アガロースビーズへタンパク質を固定化させるには、還元的アミノ化による結合用のアルデヒド活性化樹脂が、NHSエステルの代替えとして主に用いられています。 これに関連するアミン固定化法(AminoLink製品)の詳細については、Carbonyl-reactive Crosslinker Chemistryのページをご覧ください。

また、免疫沈降(IP)手順中にビーズ上の抗体を保持するには、主にDSSなどのホモ二官能性NHS架橋剤(上記の第1項をご参照ください)が利用されています。この「架橋IP」法(別名:IgGオリエンテーション)では、最初にプロテインA/ Gアガロース樹脂へ精製IP-抗体を結合させます。それから、DSSを添加して、第一級アミンを介して親和性結合抗体とプロテインA/ G分子を共有結合的に架橋させます。

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イミドエステル

イミドエステル反応化学

イミドエステル架橋剤は、第一級アミンと反応することによりアミド結合を形成します。イミドエステル架橋剤は、アルカリ性pHでアミンと素早く反応しますが、その半減期は短いです。pHのアルカリ性が高くなると、半減期およびアミンとの反応性が増します。つまり、架橋はpH値8よりもpH値10で実行した方が効率は高くなります。pH値10以下の反応条件では副反応が発生する可能性がありますが、アミジン形成の条件はpH範囲8~10が適しています。単官能性アルキルイミデート用いた研究の結果、正確に1イミドエステル官能基を有した結合体は、pH<10で形成されることが判明しています。中間体のN-アルキルイミデートは、比較的低pH範囲で形成されます。そして、近傍の別のアミンへ架橋されてN、N'-アミジン誘導体を形成するか、あるいはアミジン結合に転換されます。比較的高いpHでは、中間体や側生成物の形成を介さずに、アミドが形成されます。チオール切断可能ジアミドエステルの使用時には、pH値10未満で発生する余分な架橋が原因で、結果に関する解釈が妨害されることがあります。

03-Imidoester-Rxn上図は、第一級アミンへの化学的結合におけるイミドエステル反応を表しています。(R)は、イミドエステル反応性基を有する、標識試薬または架橋剤の一端を表しています;(P) は、標的の官能基(第一級アミン&ndash;NH2)を含む、タンパク質または分子を表しています。
イミドエステル架橋剤の応用

ホモ二官能性イミドエステル架橋剤は、タンパク質構造や膜中の分子会合の研究に利用され、また固相支持体上へタンパク質を固定化する用途に使用されてきました。得られるアミジンは、プロトン化されるため、生理的pHで正電荷を帯びます。これにより、置き換えられた元のアミンの天然電荷特性がある程度維持されるため、特定の実験に有用となるでしょう。また、イミドエステル架橋剤は、組織固定用のグルタルアルデヒドの代替剤として検討されてきました。こうした電荷特性があるものの、イミドエステルは、膜内の細胞膜と架橋タンパク質に浸透できるため、膜組成、構造、タンパク質間相互作用やタンパク質-脂質間相互作用などの研究が可能になります。また、これらの架橋剤は、マルチサブユニットタンパク質内のサブユニットの個数および位置の測定や確認を行うために使用されてきました。これらの実験では、モル大過剰の架橋剤(100~1,000倍)や低濃度タンパク質(1mg/ mL未満)を用いて、分子間架橋よりも分子内架橋を優先的に促進させます。

イミドエステルは、現在も特定の手順で使用されていますが、アミジン結合形成が高pH下で可逆的であるという一面があります。そのため、大半のアプリケーションではイミドエステルの代わりに、安定性と効率性の優れたNHSエステル架橋剤が使用されています。

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For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.