免疫組織化学法において、組織抗原の最終的な染色前に実行すべきステップがいくつかあります。そして多くの潜在的な問題によって、処理工程の結果に影響を与えます。本ページではIHC染色における主要な問題について解説します。

詳細情報

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結腸癌組織中のビメンチンの免疫組織化学的検出。固定化されたヒト結腸癌組織サンプル中からビメンチンを検出しました:抗ビメンチン抗体と共に細胞をインキュベートし(左図)、Negative controlは、ブロッキングバッファーのみでインキュベートしました。その後Thermo Scientific Pierce Goat Anti-Mouse Poly-HRPを用いてサンプルをインキュベートし、Thermo Scientific Pierce Metal Enhanced DABを用いてシグナルの開発を行いました。また細胞をヘマトキシリンで対比染色しました。

高バックグラウンド染色

以下のポイントは、高いバックグランド(結果として低シグナル:ノイズ比)の原因を特定のためにまとめています。また詳細については、本ページ最後の追加情報をご覧ください。

原因:内因性酵素

抗体のインキュベーション時間と同じ時間をかけて、組織サンプルを基質単独でインキュベートします。強力なバックグラウンドシグナルの発生は、内因性のペルオキシダーゼやホスファターゼによる干渉を示しています。

  • 解決法:メタノールまたは水で調製した3%のH2O2を用いて、内因性ペルオキシダーゼをクエンチします。もしくは市販のペルオキシダーゼ抑制因子をご利用ください。内因性ホスファターゼは、レバミゾールで抑制させることができます。

原因:内因性ビオチンまたはレクチン

アビジン-ビオチン-酵素複合体の添加前に、内因性ビオチンがブロッキングされていない場合、高バックグラウンドが発生する可能性があります。

ABC複合体がアビジンで作製されている場合、高グリコシル化タンパク質は組織サンプル中のレクチンに結合する可能性があります。

  • 解決法:希釈バッファー中の0.2 Mのアルファ-メチルマンノシドを用いて、内因性レクチンをブロッキングしてください。またアビジンの代替として、Thermo Scientific NeutrAvidinタンパク質を使用できます。*アビジンおよび本製品は、グリコシル化されていないためレクチンには結合しません。

原因:二次抗体の交差反応または非特異的結合

二次抗体は、ターゲット以外の抗原上に存在する同一エピトープや類似エピトープに対して、中~高程度の親和性を示します。

  • 解決法:使用する二次抗体と同じ生物由来の正常血清を用いて、組織をブロッキングすれば、血清濃度が2%以上高くなります。またBSAや脱脂粉乳などの試薬でブロッキングを行う場合、使用する二次抗体と同じ生物種由来の正常血清(2%以上)を添加してください。あるいは、ビオチン化二次抗体の濃度を低下させてください。

卵白はアビジンの供給源であり、スライドのコーティング、抗体の希釈、または組織サンプルのブロックの用途に利用されることがあります。

  • 解決法:IHC染色中に卵白ベースのアビジンがビオチン化二次抗体へ結合することを防ぐため、卵白の使用は避けてください。

原因:一次抗体に関する問題点

インキュベーション中に、組織サンプル上の一次抗体とターゲットでないエピトープ間で、非特異的な相互作用が起こりますが、バックグラウンド染色に影響するレベルではありません。一次抗体の濃度が高いと、こうした相互作用が増加し、非特異的結合やバックグラウンド染色の原因となります。

  • 解決法:一次抗体の濃度を低下させてください。

また一次抗体は、ターゲットではない抗原上の同一エピトープや類似エピトープに対して、中~高程度の親和性を示します。

  • 解決法:ブロッキングバッファーの濃度を上げるか、もしくは別の一次抗体をご使用ください。

一次抗体希釈液にはNaClは添加されていないか、もしくは添加されていても非常に微量です。そのためイオン性相互作用が低くなっています。

  • 解決法:NaClを添加してください(通常0.15 M~0.6 MのNaClを含有した希釈液)。

弱いターゲット染色

また詳細については、本ページ最後の追加情報をご覧ください。

原因:酵素-基質反応

組織サンプルが適切に調製および標識されている場合でも、発色性の沈殿物を形成させるためには酵素-基質反応を発生させる必要があります。脱イオン水にはペルオキシダーゼ阻害剤が含有されていることがあり、酵素活性が著しく損なわれる可能性があります。また、使用する基質に適したpHの基質バッファーを使用する必要があります。

酵素と基質の反応状態を確認するには、ニトロセルロース上に酵素を一滴を滴下し、直ちに調製した基質へ浸漬させることによって簡単に試験できます。酵素と基質が適切に反応していれば、ニトロセルロース上に着色されたスポットが確認できます。

  • 解決法:酵素希釈液の交換、および/または適切なpHで基質を調製して試験を繰り返してください。

原因:一次抗体の力価

一次抗体は、標的エピトープに対する親和性を経時的に失います。これは長期保存、pH変化、過酷な処理(凍結/解凍サイクル)などの結果として生じるタンパク質の分解または変性いずれかに起因します。

一次抗体の力価について、組織サンプル(標的抗原を含有することが既知)を、一次抗体の濃度を振って染色することによりテストします;試験サンプルと同時に試験を行ってください。Positive controlで抗原に対して全く陽性でない場合、一次抗体が力価を失ったことを示しています。

  • 解決法: 抗体希釈液のpH値を、最適な抗体結合の指定範囲内に必ず設定してください。また製造元の指示に従って抗体を保存してください。

対象製品

原因:二次抗体の阻害

二次抗体の濃度が高いと、バックグラウンドが高くなります。しかし濃度が極端に高い場合、逆の効果が発生して抗原検出が低下します。

二次抗体濃度について阻害性を試験するには、positive controlサンプルを用いて、二次抗体の濃度を低めに振ってチェックを行います。濃度の低下に伴いシグナルが上昇する場合、抗体濃度が高すぎることが示唆されます。

  • 解決法:二次抗体の濃度を低下させてください。

血清中に見られる抗原中和抗体が希釈液に含有されている場合、二次抗体の結合がブロッキングされてしまいます。

  • 解決法:中和抗体を除去するか、希釈液を交換してください。

自己蛍光

蛍光マーカーを使用している場合は、未処理の固定化組織中に自己蛍光が存在していないことを確認してください。これによって、組織の調製と標識によって自己蛍光が発生することが示されます。上記のオプションの試験によって、 自己蛍光の原因の特定が可能です。

試験サンプル中に自己蛍光が存在する場合、組織サンプル自体の自家蛍光(一般的なケース)、あるいは、固定化法による自己蛍光のいずれかが考えられます。自己蛍光が固定化工程に起因するかどうか判断するには、各種の固定液を試験して(アルデヒドで固定化を行った場合であれば、非アルデヒド固定液を用いて試験する)、抗原検出を妨害せずに自己蛍光を低減させられるか判定します。アルデヒド固定法を用い、他の固定液が適正に作用しない場合、氷冷の水素化ホウ素ナトリウム(1 mg/mL-PBSまたはTBS)で、サンプルを処理すれば、固定液による自己蛍光を低減させられます。(Beiskerら、1987年)

また蛍光を選択的にクエンチする色素で組織サンプルを処理しても、自己蛍光を低減させられます。これらの色素は以下のとおりです:

  1. ポンタミンスカイブルー(Cowanら、1985年)
  2. スーダンブラック(Romijnら、1999年)
  3. トリパンブルー(Mosimanら、1997年)

一般にパラフィン包埋サンプルは、サンプルが除去されているにもかかわらず、より高い自己蛍光がパラフィンから発せられます。そのため凍結切片へ交換することにより、自己蛍光を低減させます。

これらの手法で、組織サンプルの検出されていても、自己蛍光が十分に低減されない場合、自己蛍光と競合しない蛍光マーカーを使用してください。

高バックグラウンド染色の低減化に関する追加情報

  • 慎重に組織サンプルを調製します。 組織が損傷すると、染色の拡散される可能性があります。
  • 薄切片を調製組織が十分に浸透されていない場合に行ってください。
  • 固定化の最適化。 組織の抗原は、固定液の種類によって反応はさまざまです。pH、インキュベーション時間および温度を最適化します。
  • ブロッキングを向上させるには、過剰なバッファーのきれいに取り除くだけで十分です。抗体の添加前に、組織サンプルを洗浄する必要はありません。
  • モノクローナル一次抗体の使用 交差反応性を低減させるため、ポリクローナル抗体は使用しません。
  • 交差吸着ポリクローナル抗体 を使用して、交差反応を低減させます。
  • 抗体のアフィニティー精製によって、固定化抗原カラムを用いて抗体を調製します。
  • インキュベーション時間を短縮させると、一次抗体および二次抗体による非特異的結合が減少します。
  • 最新の基質を使用します。、Metal Enhanced DABなどのシステムでは、シグナル対ノイズ比がDABよりも高くなります。

染色強度の増強に関する補記

  • 固定化の最適化。 免疫反応性は、反応処理の工程だけでなく、固定の工程からも影響を受けます。抗原の感受性が高い場合、凍結/融解サイクルや高温を避けてください。
  • きれいなスライドにサンプル組織をマウントしてください。また処理中に組織が剥がれないように、適切な条件を適用してください。
  • 酵素を阻害しない。APシステムを使用している場合、リン酸緩衝液を使用しないでください。HRMシステムを使用している場合、アジ化ナトリウムを使用しないでください。これらの成分によって、酵素活性が阻害されます。
  • 組織の過剰ブロッキングを避ける;抗原部位がマスクされることがあります。
  • 中和抗体がブロッキング血清中に存在し得ることを留意してください。
  • モノクローナル抗体のスクリーニングを、メンブレンシステムを用いて行います(ドットブロット法)。モノクローナル抗体のスクリーニングに用いられるポリスチレンプレートによって、表面に結合したタンパク質の立体構造が変化します。ELISAで使用するモノクローナル抗体では、組織中の未変性タンパク質を認識できない場合があります。
  • 組織への抗体の浸透性を高める;トリプシン、ペプシン、キモトリプシン、およびプロナーゼなどの脱マスキング剤を使用してください。
  • 検出効率を高める、感度を向上させる;ABCなどのシグナル増幅システムを使用してください。
  • 適切な酵素複合体を調製する。酵素-基質複合体の全成分を適正な比率で添加し、慎重に混合します。
  • ビオチンを有すると予想される試薬の使用を避けます。;例えば脱脂粉乳またはフラクションVグレードのBSA(IHCグレードのみご使用ください)。
  • 一次/二次試薬のインキュベーション時間や濃度を上げる
  • 感度の優れた基質システムを使用する;例えばMetal Enhanced DAB 基質など。
  • 常にpositive controlを設定します。システムが適正に作用していることの確認が行えます。
  • 適正な対比染色と封入液を使用する。一部の酵素製品は、アルコール、キシレン、その他の溶媒に対して可溶性です。水性マウンティングに関する検討が必要です。

詳細情報

参考文献

  1. Beisker, W.et al.(1987) Cytometry 8, 235-239.
  2. Cowen, T. et al.(1985) Histochemistry 82, 205-208.
  3. Mosiman, V. L. et al.(1997) Cytometry 30, 151-156.
  4. Romijn, Herms J. et al.(1999) J. Histochem. Cytochem 47, 229-236.

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.