細胞内のあらゆる生物学的システムは、タンパク質により制御されます。そして、タンパク質の多くは独立的に機能する一方、大部分のタンパク質は適切な生物学的活性のため、他のタンパク質と相互作用を起こします。タンパク質機能や細胞生物学を理解するには、共免疫沈降(Co-IP)、プルダウンアッセイは、架橋、標識転写やファーウェスタンブロット解析などの手法により、タンパク質間相互作用の特徴付けを行うことが不可欠です。

タンパク質間相互作用の概要

タンパク質は、遺伝子発現、細胞の成長、増殖、栄養摂取、形態、運動性、細胞間コミュニケーション、アポトーシスなど、細胞中のあらゆる生物学的プロセスの促進に大きく貢献します。しかし、細胞は多量の刺激に応答することから、タンパク質発現は動的プロセスと言えます;タンパク質は、特殊目的に用いられる場合、常に発現または活性化されるわけではありません。また、全ての細胞が同質であるわけではなく、多くのタンパク質は細胞タイプ依存的に発現されます(1)。タンパク質のこうした基本特性は複雑性を示します。そのため、適切な生物学的状況下のタンパク質機能を理解しようとする場合は特に、研究調査が困難になりかねません。

タンパク質機能を理解するには、以下の主要点を考慮します (1):

  • タンパク質の配列と構造 – タンパク質機能を予測するモチーフの発見に用います
  • 進化履歴と保存配列 – 重要な調節残基を同定します
  • 発現プロファイル –細胞タイプ特異性と発現の調節方法を明らかにします
  • 翻訳後修飾  – リン酸化、アシル化、グリコシル化、およびユビキチン化により、 局在化、活性化、機能などが示唆されます
  • 他のタンパク質との相互作用 – 合パートナーの機能を識別すれば、機能の推定が行えます
  • 細胞内局在 – タンパク質機能が暗示されることがあります。

1990年代後半まで、タンパク質機能の解析において、主に単一のタンパク質へ焦点が当てられていました。しかし、大部分のタンパク質は適切な機能で他のタンパク質と相互作用することから、タンパク質機能を完全に理解するには、タンパク質の相互作用パートナーと関連させて研究する必要があります。 また、ヒトゲノムの文献公表やプロテオミクス分野の発展に伴い、細胞内のタンパク質機能を理解するには、タンパク質間相互作用のプロセスを把握し、生物学的ネットワークを同定することが不可欠です。 

Protein Interactions Technical Handbook

Our 72-page Protein Interactions Technical Handbook provides protocols and technical and product information to help maximize results for protein interaction studies. The handbook provides background, helpful hints and troubleshooting advice for immunoprecipitation and co-immunoprecipitation assays, pull-down assays, far-western blotting and crosslinking. The handbook also features an expanded section on methods to study protein–nucleic acid interactions, including ChIP, EMSA and RNA EMSA. The handbook is an essential resource for any laboratory studying protein interactions.

Contents include: Introduction to protein interactions, Co-immunoprecipitation assays, Pull-down assays, Far-western blotting, Protein interaction mapping, Yeast two-hybrid reporter assays, Electrophoretic mobility shift assays (EMSA), Chromatin immunoprecipitation assays (ChIP), Protein–nucleic acid conjugates, and more.

タンパク質間相互作用のタイプ

タンパク質相互作用は、基本的に安定性または一過性の特性を示します。どちらのタイプの相互作用も、強力性あるいは微弱性いずれかの特性を持ち得ます。安定した相互作用は、マルチサブユニット複合体として精製されたタンパク質に関与します。これらの各サブユニット複合体は、お互い同質あるいは異質のいずれかとなるでしょう。安定した複合体を形成するマルチサブユニットの相互作用として、ヘモグロビンとコアRNAポリメラーゼがモデルに挙げられます。

一過性相互作用により、細胞プロセスの大部分が制御されるでしょう。一過性相互作用は、(名称の示すとおり)本質的に一次的な現象です。通常は、リン酸化、コンフォーメーション変化または細胞の各領域への局在化など、相互作用を促進するセット条件が必要になります。一次的相互作用は、それぞれ強度や速度が様々です。結合パートナーと接触中は、一過性タンパク質は、タンパク質修飾、輸送、フォールディング、シグナル伝達、細胞周期など、広範囲の細胞プロセスに関与します。

疎水結合の組み合わせ、ファンデルワールス力、各タンパク質上の特異的結合ドメインでの塩橋によって、各タンパク質がお互いに結合します。これらのドメインは、小さな結合裂け目または広い表面になることがあり、わずか数個のペプチド長あるいは数百のアミノ酸にまで及ぶことがあります。また、結合ドメインのサイズに応じて、結合強度が異なります。ロイシンジッパーは、安定したタンパク質間相互作用を促進する標準的表面ドメインです。これは、隣接するらせんペプチド鎖の間に突出する各αへリックス上の定間隔のロイシン残基による疎水性結合を介して平行に相互結合する、各タンパク質上のαヘリックスで構成されています。分子充填がタイトであるため、ロイシンジッパーは多タンパク質複合体を安定して結合させます。ただし、分子充填を低下させ得るαヘリックス中の非ロイシンアミノ酸、およびそれ故の相互作用強度が原因となり、全てのロイシンジッパーが同一に結合するわけではありません。

短いペプチド配列へ結合する一過性結合ドメインとして、二つのSrc相同性(SH)ドメイン、SH2、SH3などが例に挙げられ、一般的にシグナル伝達タンパク質中に見られます。SH2ドメインは、リン酸化チロシン残基(通常、タンパク質活性化の指標となる)を有するペプチド配列を認識します。チロシン残基のリガンド媒介性受容体リン酸化が、SH2ドメインを介してこれらの残基を認識する下流エフェクトターをリクルートしている間、SH2ドメインは成長因子受容体シグナル伝達に重要な役割を果たします。SH3ドメインは、通常プロリン立地ペプチド配列を認識し、一般的には標的タンパク質を同定するために、キナーゼ、ホスホリパーゼ、GTPアーゼなどにより活用されます。通常SH2およびSH3の両ドメインはこれらのモチーフに結合しますが、各タンパク質の相互作用の特異性は各モチーフ中の隣接アミノ酸残基により決定されます。

タンパク質間相互作用の生物学的効果

特定の機能的対象と相互作用する複数タンパク質に関して、様々な方法で結果を実証できます。タンパク質相互作用の測定可能効果は、主に以下のとおりです(2):

  • 酵素の動力学的特性が変性する。基質結合またはアロステリック効果の微妙な変化による可能性があります
  • ドメインやサブユニット間で基質を移動させて基質チャネルを有効化すると、最終的に目的の最終生成物が得られます
  • 通常は小さなエフェクター分子用として、新たな結合部位を作成します
  • タンパク質が、不活性化または破壊されます
  • 別の結合パートナーとの相互作用を介して、基質に合わせてタンパク質特異性を変更させます。例:どちらのタンパク質も単独では発揮できない新たな機能が実証されます
  • 上流イベントまたは下流イベントで、調節の役割を果たします
タンパク質間相互作用の標準的分析法

タンパク質相互作用の検証、特徴付け、および認識を行うには、一般的に複数の技法を併用する必要があります。既知の複数タンパク質との関与により、従来の未知タンパク質が発見されるでしょう。タンパク質相互作用の解析によって、よく知られたタンパク質に関して、独自の不測の機能的役割が明らかになるかもしれません。タンパク質の生体内相互作用の発生位置やプロセスおよび条件、またこれらの相互作用の機能的意義を理解するには、第一に相互作用の検出や検証を行います。

タンパク質間相互作用の種々の研究法は、膨大に存在するため全てここでご紹介しきれませんが、下表と本項以下では、タンパク質間相互作用の解析法と各手法で研究可能な相互作用タイプを解説いたします。簡潔に言えば、タンパク質共複合体は経時的に分解しないため、安定性のタンパク質間相互作用を単離するには、免疫沈降やプルダウンアッセイなど物理的手法をとるのが最も容易です。微弱性や一過性の相互作用を同定するには、最初にタンパク質を共有結合で架橋させて、Co-IP中やプルダウン中の相互作用を制限させる手法をとります。また、架橋、標識転写およびファーウェスタンブロットは、タンパク質間相互作用の同定法とは無関係に実行できます。

あらゆるタイプのタンパク質相互作用の標準的解析法
手法タンパク質間相互作用
共免疫沈降(Co-IP)安定性、強力性
プルダウンアッセイ安定性、強力性
架橋タンパク質相互作用解析法一過性、微弱性
標識転写タンパク質相互作用解析法一過性、微弱性
ファーウェスタンブロット解析中程度の安定性
共免疫沈降(Co-IP)

共免疫沈降(Co-IP)は、タンパク質相互作用の検出用として標準的な技法です。共免疫沈降は、原則的に単一タンパク質の免疫沈降(IP) と同様の方式で実行します。ただし、抗体(別名:ベイト)により沈降された標的タンパク質が、溶解液からの結合パートナー/タンパク質複合体、または「プレイ」の共沈殿に用いられる場合は除きます。基本的に相互作用タンパク質は、支持体への固定化抗体に結合した標的抗原へ結合します。免疫沈降タンパク質とその結合パートナーを検出するには、一般的にドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)およびウェスタンブロッティング解析を行います。関連タンパク質が共沈殿される場合、一般的にこれらのタンパク質が細胞レベルで標的抗原の機能に関連していると仮定されます。とはいえ、これは単なる仮定に過ぎず、さらなる検証が必要になります。

プルダウンアッセイ

プルダウンアッセイは、相互作用タンパク質の精製用ビーズ状支持体を用いる点から、共免疫沈降の方法論に類似しています。それでも、この2つの手法には違いもあります。共免疫沈降ではタンパク質複合体を補足するために抗体を使用しますが、プルダウンアッセイではベイトへ結合する溶解物中のタンパク質を精製するために「ベイト」タンパク質を使用します。強力性・安定性の相互作用を研究する用途や、共免疫沈降用の抗体を入手できない場合には、プルダウンアッセイが最適です。

架橋タンパク質相互作用解析法

一般的にタンパク質間相互作用は一過性であり、単一カスケードまたは細胞内の代謝機能の一部として、短時間しか発生しません。相互作用複合体の成分を安定化または永久隣接させるには、相互作用タンパク質の架橋を行います。相互作用成分が共有結合的に架橋された後、細胞溶解、アフィニティー精製、電気泳動または質量分析法などの手段によって、タンパク質間相互作用の解析が行えます(架橋後には、最初の相互作用複合体を維持できます)。

標識転写タンパク質相互作用解析法

標識転写は、標識された架橋剤で相互作用分子(ベイトタンパク質およびプレイタンパク質)を架橋させます。そして、ベイトとプレイ間の結合を切断させ、標識をプレイに付着したままにさせます。目的タンパク質との相互作用が微弱性・一過性なタンパク質も同定できることから、この手法は非常に有用性が高いです。新たな非アイソトープ試薬法の登場に伴い、この技法はあらゆる研究者に身近で便利な存在となります。

ファーウェスタンブロット解析

プルダウンアッセイは、タンパク質間相互作用の検出に、抗体の代わりに標識タンパク質を用いる点で共免疫沈降と異なるように、ファーウェスタンブロッティング解析もウェスタンブロッティング解析とは異なります。ファーウェスタンブロッティング解析は、標的タンパク質特異的な抗体の代わりに、精製済み標識ベイトタンパク質で電気泳動したタンパク質のインキュベートにより、タンパク質間相互作用を検出します。それぞれの差異を強調するため、語頭に「ファー」が置かれています。

関連文献

  1. Golemis E. (2002) Protein-protein interactions : A molecular cloning manual.Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press. ix, 682 p. p.
  2. Phizicky E. M. and Fields S. (1995) Protein-protein interactions: Methods for detection and analysis.Microbiol Rev. 59, 94-123.

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.