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アミン反応性化合物だけでなく、スルフヒドリル(–SH) 結合性の化学基を有する化合物は、タンパク質法やバイオコンジュゲート法に用いられる主要な架橋剤/修正試薬です。スルフヒドリル(別称:チオール)は、システイン(Cys, C)アミノ酸の側鎖のタンパク質中に存在します。2つのシステインのスルフヒドリル基は、三次/四次タンパク質の天然構造の基礎として、通例ポリペプチド鎖内部またはポリペプチド間でジスルフィド結合(–S–S–)により連結されています。チオール反応性化合物との反応に有効なのは、一般に[ジスルフィド結合中の硫黄原子ではなく]遊離/還元型スルフヒドリル基(–SH)だけです。
スルフヒドリル基は、タンパク質の結合や標識において有用な標的となります。第一に、スルフヒドリルはあらゆるタンパク質中に存在しますが、第一級アミンほどに数多くは存在しないため、スルフヒドリル基を介した架橋法は選択性や精度が高くなります。第二に、タンパク質中のスルフヒドリル基は通例ジスルフィド結合に関与するため、これらの部位で架橋を行ってもタンパク質の基礎構造が大幅に変性したり、結合部位のブロックされる恐れがありません。第三に、有効な(遊離型)スルフヒドリル基の数を簡単に制御/変更できます;天然ジスルフィド結合の還元によって、スルフヒドリル基を生成できます。また2-Iminothiolane (トラウト試薬)・SATA・SATP・SAT(PEG)4などのスルフヒドリル付加試薬を用いて第一級アミンと反応させることによって、スルフヒドリル基を分子へ導入することも可能です。さらに、スルフヒドリル反応性基をアミン反応性基と組み合わせてヘテロ架橋剤を作製すれば、架橋手順の柔軟性や制御性が高まります。
スルフヒドリル反応性化学基には、以下が含まれます:ハロアセチル、マレイミド、アジリジン、アクリロイル、アルキル化剤、ビニルスルホン、ピリジルジスルフィド、TNBチオール、ジスルフィドなどの各還元剤。上記の大半は、アルキル化(通常、チオエーテル結合の形成)またはジスルフィド交換(ジスルフィド結合の形成)いずれかを介してスルフヒドリル基へ結合します。
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マレイミド基は、反応混合物のpH範囲6.5~7.5でスルフヒドリル基へ特異的に反応します;反応後には、非可逆性(還元剤でも結合が切断されない)の安定なチオエーテル結合が形成されます。高アルカリ性の条件下(pH >8.5)では、第一級アミンが反応しやすく、非反応性マレアミド酸へのマレイミド基の加水分解速度も上昇します。マレイミドは、チロシン・ヒスチジン・メチオニンとは反応しません。
ジチオスレイトール(DTT)やβ-メルカプトエタノール(BME)などのチオール含有化合物は結合部位について競合するため、マレイミドと共に用いる反応バッファから除去してください。例えば、DTTを用いてタンパク質中のジスルフィドを還元してスルフヒドリル基を結合に利用する場合、マレイミド反応の着手前に脱塩カラムを用いてDTTを完全に除去する必要があるでしょう。興味深いことにジスルフィド還元剤TCEPはチオールを含有しておらず、マレイミド試薬の関与する反応前に除去する必要がありません。
過剰量マレイミドは、反応停止時に遊離チオールを添加すればクエンチすることができます。EDTAを結合バッファに添加すると、浮遊二価金属(非反応性スルフヒドリルが酸化する原因となる)をキレート化することができます。
ホモ二官能性マレイミド架橋剤(各末端にマレイミド基を有する)を用いて、タンパク質構造内のシステインジスルフィド結合を、システイン間の非還元結合へと置換できます。まずTCEPまたはその他還元剤を用いて、天然ジスルフィド結合を切断する必要があります。その後マレイミド架橋剤を添加すると、チオエーテル結合を介して2つのシステインのスルフヒドリルが接合します。いずれのスルフヒドリル基ペアも結合が可能ですが、大半の架橋は、ネイティブ二次/三次構造へ必然的に関連するシステイン間に形成されることが見込まれます。
タンパク質/スルフヒドリル分子の特定ペアを用いる特殊な状況には、ホモ二官能性マレイミド架橋剤を用いたスルフヒドリル間架橋法が有用です。とはいえこの手法は、あまり一般的ではありません。
ヘテロマレイミド架橋剤(例:一端にマレイミド基を、もう一端にアミン反応性基をそれぞれ有する)を用いて、2種類の精製タンパク質を結合させます(各タンパク質の重合や自己共役は起こりません)。こうした試薬類のうち、スルホ-SMCCやSM(PEG)n(スルホ-SMCCペグ化類似体)などのNHSエステル/マレイミド化合物が最も一般的です。
例えばスルホ-SMCCを使用すれば、連続的な二段階手順によって、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などのレポーター酵素を抗体やタンパク質へ結合させることができます。その結果、アッセイ用として検出可能な親和性プローブを作製できます:
この結合法を適用する様々なタンパク質ペアは、いずれの配向でも架橋が行えます(例:抗体上に作製されたスルフヒドリルへHRPを配向/ あるいは、HRP上に作製されたスルフヒドリル基へ抗体を配向)。ただし、必ずNHSエステルエンドを最初に反応させる必要があります。HRPなどの一般的に需要のある標識は、調製済みのマレイミド活性化形態で市販されています。とはいえ上記の結合方法を用いれば、特殊なカスタム手順/実験に求められるあらゆる精製タンパク質ペアを結合させることが可能です。
スルホSMCCや同等試薬を用いたNHSエステル/マレイミドヘテロ架橋法として、特殊でありながら極めて重要性の高い以下のような手法例があります:抗体産生用として、システイン含有の合成ペプチド抗原を免疫原性キャリアタンパク質へ結合させる。スルホSMCCを用いて大きなキャリアタンパク質(BSAやKLHなど)をマレイミド活性化させると、タンパク質分子1個あたりに数十〜数百個のマレイミド基を産出させることができます。これによって多数のペプチド抗原が、各キャリアタンパク質分子に結合します。標準的に用いられるキャリアタンパク質は、マレイミド活性の形態で市販されています。とはいえ、あらゆるタンパク質や種々スペーサー長の架橋剤(SMCCなど)を使用して、ペプチド用や特殊研究用途のスルフヒドリル小分子用のキャリアを作製することが可能です。
反対側の末端にカルボキシル反応性ヒドラジド基を含むヘテロマレイミド架橋剤は、糖タンパク質の炭水化物や多糖類へタンパク質を結合させる用途に有用です。ヒドラジド基の詳細については、カルボニル反応性架橋剤の化学のページをご覧ください。マレイミド基は、単一試薬中で反対側のヒドラジドとペアリングのできる点で希少性が高いため、スルフヒドリルから炭水化物への結合アプリケーションについてはこちらで解説いたします。これは、ヒドラジド基にNHSエステルの標的となる第一級アミンが含有されていることに起因します。
それでも、炭水化物への結合は、天然スルフヒドリル基を有するタンパク質のみに限定されるわけではありません。つまり炭水化物に付着させる高分子は、必ず最初に修飾を施してスルフヒドリル基を付加する必要があります。上記のように、トラウト試薬(2-イミノチオラン、2-IT)およびSATAは、第一級アミン部位上にスルフヒドリル基を付加させる用途に用いる修飾試薬です。
高分子スルフヒドリル基の標識用のビオチン試薬や蛍光試薬は、一般にマレイミド化学に基づいています。一般にタンパク質標識は、NHSエステル試薬を用いて直接第一級アミンに対して施されます。しかし特定タンパク質については、第一級アミンに標識すると目的用途において不活性となることがあります。対照的にスルフヒドリル含有システインは通例アミン含有リジンよりも低含有量であり、特異性や均一性の高い標識が行えます。
例えば、抗体(例:IgG)にはヒンジ領域にジスルフィド結合が含まれています。このヒンジ領域を選択的に還元することによって、マレイミド化合物を用いた標識のためにスルフヒドリル基を露出させることが可能です。その結果、一価の「半」抗体(厳密に1つのビオチンまたは蛍光体タグで標識)が得られます。
主要なハロアセチル架橋剤には、ヨードアセチル基またはブロモアセチル基が含まれています。ハロアセチルは、生理学的pHでスルフヒドリル基と反応します。ヨードアセチル基の反応は、スルフヒドリル基の硫黄原子とヨウ素を求核置換することにより進行します。反応後、安定なチオエーテル結合が形成されます。pH 8.3下でスルフヒドリル基の個数よりもわずかに過剰のヨードアセチル基を使用すれば、スルフヒドリルの選択性が強化されます。遊離スルフヒドリルの欠如している場合や、大過剰のヨードアセチル基を使用する場合、ヨードアセチル基は他のアミノ酸と反応する可能性があります。イミダゾールはpH 6.9~7.0でヨードアセチル基と反応できますが、インキュベーションを1週間以上続行する必要があります。
ヒスチジン側鎖(pH 5以上)やアミノ基(pH 7以上)は、上記のヨードアセチル基と非プロトン化形態で反応します。(チロシンまたはヒスチジンまたはトリプトファン残基と反応し得る) 遊離ヨウ素の生成を抑制するには、ヨードアセチルの反応と調製を暗所で行います。ヨードアセチル化合物を還元剤へ暴露しないでください。
原理上、ホモ二官能性およびヘテロ二官能性のヨードアセチル/ブロモアセチル架橋剤は、マレイミド対応物として同タイプのあらゆる用途に使用できます。しかし実際は、ハロアセチル架橋性化合物はほとんど市販されておらず、バイオコンジュゲーション法で利用されることもほとんどありません。マレイミドと異なる点として、ハロアセチルには環構造が含まれていないため、極めて短い架橋を作製できます。
ヨードアセチルビオチン化試薬はまだ数タイプが市販されており、抗体や種々タンパク質の標識に一般的に利用されています。蛍光標識法に熟練した方であれば、フルオレセイン試薬5-IAF(5-ヨードアセトアミド-フルオレセイン)を既にご存じでしょう。
マレイミド試薬は、広く一般的に利用されています。ただし、ヨードアセトアミド試薬またはマレイミド試薬による各標識の比較や、特定タンパク質における高機能プローブを生成する試薬を確認するには、必ず実証試験や比較実験を行います。
アガロース樹脂へのタンパク質固定化の用途においては、ハロアセチルが未だにスルフヒドリル反応性化学として非常に一般的です。ヨードアセチル活性化アガロースは、SulfoLink Coupling Resin and Kitsの基本要素となっています。樹脂を使用して、システインジスルフィド結合の還元された半抗体(上記参照)やタンパク質サブユニットを固定化できます。とはいえ、ヨードアセチル活性化アガロースの用途は、以下が非常に重要かつ主流です:免疫化や抗体産生用の抗原と同じペプチドを使用した後、抗体精製のためにシステイン含有ペプチドを固定化する (スルホSMCCによる免疫原調製に関する上項をご参照ください) 。
ピリジルジスルフィドは、広範囲のpH (最適pH範囲:4~5)でスルフヒドリル基と反応し、ジスルフィド結合を形成します。反応時に、分子のSH基と試薬の2-ピリジルジチオール基間においてジスルフィド交換が起こります。その結果、ピリジン-2-チオンが放出されます。これを分光光度計で測定(Amax = 343 nm)し、反応の進行をモニターできます。これらの試薬を架橋剤として用いて、スルフヒドリル基をタンパク質に導入することができます。ジスルフィド変換は生理的pHで実行できますが、反応速度は酸性条件下よりも遅くなります。
ピリジルジチオール化合物は、標的スルフヒドリルと共にジスルフィド結合を形成します。そのため、これらの架橋剤を用いて調製した複合体は、ジチオスレイトール(DTT)やタンパク質の電気泳動用サンプルバッファ(SDS-PAGE)などの標準的ジスルフィド還元剤を用いて切断ができます。このように、後続の実験手順でスルフヒドリル結合工程を逆転させる必要のある場合(元のスルフヒドリル含有分子を正確に回収するため)、ピリジルジスルフィド架橋剤/標識試薬は、マレイミド/ハロアセチル試薬に代わる有用な試薬となります。
例えばタンパク質複合体が電気泳動対象のサンプルの一部となる実験状況では、複合体を切断し、元の各成分へ分離させることが推奨されます。一部の実験では、切断可能または非切断性の各架橋剤を使用した場合の電気泳動やウェスタンブロットのそれぞれの結果を比較すると有益でしょう。
第2の例として、精製タンパク質をHPDPビオチンで標識することができ、これによりタンパク質が細胞溶解物サンプル中の推定相互作用物質へ結合します。次に、インタクトなタンパク質複合体をビオチン基でストレプトアビジンアガロースに捕捉します。この時点から、ジスルフィド結合を切断して、下流の分析のためにタンパク質相互作用複合体の全成分を遊離させることが可能になります。
さらに、ピリジルジチオ活性化DADPA樹脂に対するSulfo-LC-SPDPを使用すれば、可逆スルフヒドリル固定化樹脂を作製することができます。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.