がんと闘うための思いもよらない協力者

そうした関心は、確かな根拠のあるものです。Watson 氏は次のように説明しています。「T_reg 細胞は、奇妙な代謝物を活用するという代謝面での柔軟性を備えています。たとえば、腫瘍環境において、T_reg 細胞が酸素やグルコースではなく、乳酸に頼って生存できるという発想は、画期的なものです。T_reg 細胞の代謝を操作して標的にすることができれば、免疫療法を改善し、腫瘍の成長を減速させることが可能になります」

Watson 氏は、腫瘍微小環境における免疫療法の研究により 2017 年の NIH Director’s New Innovator Award（NIH ディレクター新人イノベーター賞）を受賞した Greg Delgoffe 博士の研究室で、重要分野のオーナーシップを担ったことをきっかけとして、大規模がん免疫研究の分野で独自性を発揮し始めました。

コンサートチェリストである Watson 氏は、チームによるコラボレーションの力、つまり、才能と強みをプールし、スキルを磨き、素晴らしいものを生み出す力を熟知しています。オーケストラの音楽家が協力し合いしながら細部まで深く掘り下げ、意味のある作品を創り出すのと同じように、Watson 氏はほかの科学者たちに、新たなコラボレーションによるアプローチを試すことを推奨しています。

Watson 氏はソーシャルメディアを使って研究仲間とつながり、情報を交換しています。全員の研究を加速し、さらに多くの発見を生み出すのに役立つものとして、Watson 氏はソーシャルメディアに期待を寄せています。

「私たちの研究室では、研究室の存在感や業績の認知度を高めるために、ツイッターなどのソーシャルメディアを使っています」と Watson 氏は語ります。「文献へのリンクや資金調達に関する情報のほか、研究室で日々起きている興味深いことやおもしろいことをシェアしています。このような方法で私たちの名前を科学コミュニティに伝えていくことは、優れた学生や博士課程修了者、フェローを私たちの研究室に誘致するうえで役立つかもしれません。ソーシャルでの共有は、今や研究者の開発プロセスの一部であり、私の世代独自のやり方でもあります」

早くに成功を収めた Watson 氏ですが、いくつかの挫折を経験し、それを乗り越えて突き進む必要があることも知っています。「科学はいわば失敗の積み重ねです」と Watson 氏は感慨をこめて話しています。「失敗すると、否応なく自分のアプローチを調整せざるを得なくなります。それによって学習し、細部までさらに深く掘り下げることができるのです」

Delgoffe 研究室での日々の研究と長期的な目標の達成には、特定のツールが欠かせません。たとえば、Watson 氏は Invitrogen MitoTracker と CellTrace 生存率／増殖解析染色試薬を使っています。これは、そうしたツールが、ミトコンドリア集団の測定に加え、腫瘍の微小環境において代謝物操作が免疫細胞に与える特異的影響を特定する際に役立つからです。

そうしたツールと、仲間たちと協力し合いながら学ぶ意欲を武器に、Watson 氏は命を救う新たながん治療を目指して、がん免疫研究の限界をすでに押し広げつつあります。