Jordi Petriz 氏の写真

望遠鏡から顕微鏡へ

先駆的がん研究者の生涯にわたる答えの探求

Jordi Petriz 博士

夜空に魅せられた少年であった Jordi Petriz 氏は、星の起源について説明してほしいと父親にせがんだことがあります。父親の驚くべき回答は、幼少期の Petriz 氏への育成がいかにして先駆的科学者になるための触媒であったかを示しています。父親は「自分にはわからない」と言ったのです。

「父は初等教育しか受けておらず、この種の質問に答える方法を学ぶ機会がありませんでした。そこで彼は、私がその分野の専門家と会える機会を設け、私が天文学会に加入するサポートをしてくれたのです。」Petriz 氏は説明します。

Petriz 氏は地元バルセロナ(スペイン)の天文学会を通して、宇宙の理解と科学的研究への生涯的な情熱に気付き、12 歳になる頃には自分で機能的な望遠鏡を組み立て、それを使用して木星や土星、周回軌道衛星を観察していました。その後、彼は専門家向けの望遠鏡を入手し、現在にいたるまで天体の研究を続けています。実は、Petriz 氏を内なる世界の発見へと導いたのは、外の世界の研究への興味の側面であり、内なる世界の発見は科学における彼のキャリアの中心となりました。

「私は微小隕石を収集し、顕微鏡を使ってその分析を始めたのです。」と彼は言います。「その世界に私は魅了されました。微視的世界の研究と発見に取り組み始めたこのときが、私の人生におけるキーポイントだったと思います。」

大きく考えるために小さく考える

微視的世界への転換は、現実的でもありました。「自身のキャリア路線において私が望遠鏡から顕微鏡に乗り替えた主な理由の一つは、当時のスペインでは単純に天文学における専門的キャリアがなかったことです。そこで私は、すべての努力を生物学分野に向けようと決めたのです。」

Petriz 氏は動物生物学の学術研究を始め、やがてスペインのエブロ川デルタでフィールドワークをすることになりました。生化学技術を用いてサギの卵に対する汚染物質の影響を研究するなかで、Petriz 氏は、肧の発育に必要な細胞膜が、PCB や DDT といった汚染物質の蓄積から肧を保護するのにどのように役立っているかに大きな興味を持ちました。

肧を保護するこれらの細胞膜は、細胞膜中の多剤排出トランスポーターと呼ばれるタンパク質により汚染物質に対する耐性を発揮します。このタンパク質は毒性化合物を発見し、細胞の外に排出します。多剤排出トランスポーターは、抗生物質や抗がん剤を含む幅広い化合物の細胞外への排出を仲介します。

「細胞が汚染物質に対してだけでなく他の種類の薬剤に対して、どのようにして自己防衛機能を持つことができるかについて特に興味を持ちました。それは、がん細胞がいかにして化学療法に耐性を示すのかという点においてきわめて重要です。」と Petriz 氏は言います。

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「微視的世界の研究と発見に取り組み始めたときが、私の人生におけるキーポイントだったと思います。」

Petriz 氏は大学での研究を終えると、バルセロナの病院でがん研究を行う特別研究員としての職を得ました。そこでは、多剤排出トランスポーターの複雑で謎に満ちた活動に対する興味に導かれ、免疫表現型検査の手法を機能解析と組み合わせることにおける先駆者となりました。

従来の免疫表現型検査のみでは、彼のすべての疑問に答えることはできなかったからです。

免疫表現型検査を使用することにより、多くのさまざまな細胞サブ集団を特定できますが、その活動を特定することはできません。」と彼は説明します。「たとえば、これらのトランスポーターの一つに特定の抗体を結合させることはできますが、そのトランスポーターがどのように働くのかを測定することはできません。これは、細胞がトランスポーターをどのようにして発現させるかを検出することはできても、トランスポーターがどのように働くのかについての重要な情報を見逃していることになります。機能的測定は、トランスポーターがどのように働くのかを理解し、薬物への耐性を理解するために基本的なものです。」

フローの利用

細胞膜中のトランスポーターの挙動の画期的研究において Petriz 氏が用いたキーツールはフローサイトメトリーです。

「私は、機能解析を実施するために、フローサイトメトリーの大きな可能性に当初から大いに興味を持っていました。フローサイトメトリーはこれらの発見を実現するために不可欠なものです。」細胞がどのようにして、そしてなぜ多剤排出トランスポーターを発現させるのかを理解しようと、彼は非常に原始的な幹細胞のサブ集団の研究を始めました。これらのサブ集団は特定の表現型を持たないため、原始的集団を特定することができる唯一の方法は機能的フローサイトメトリーを使用することでした。

この機能的サイトミクス研究は非常に希少な細胞と少量のサンプルボリュームで作業する必要があるため、高感度のフローサイトメーターが必要不可欠です。Petriz 氏が選択したサイトメーターは Invitrogen Attune NxT フローサイトメーターです。

「Attune NxT 機器は事実、これまでで最高のフローサイトメーターだと、私は信じています。抜群の感度を有してるからです。」と Petriz 氏は言います。この高感度性能が、他のフローサイトメーターでは不可能な非常に希少な細胞の存在、さらに表現型、機能、および DNA 量のわずかな変化の検出をどのようにして可能にするかについて彼は説明します。「このサイトメーターの高い感度は本当に驚くべきもので、非常に満足しています。」

将来の展望

現在 Petriz 氏と彼のチームは、急性骨髄性白血病患者で行った研究を基にした論文の出版を期待しています。Petriz 氏はInvitrogen Alkaline Phosphatase Live Stainを使用して、白血病性幹細胞で発現している酵素の活性をさまざまな時点で測定することできました。もっとも重要なことは、彼のチームは非常に原始的な幹細胞のサブ集団を診断時に特定し、これらの細胞サブ集団の活動を患者の生存率と関連付けて分析できたことです。

「我々はこの結果に非常に興奮しています。」と彼は報告しています。「すぐに出版できると思います。」

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「私は常に周囲の人々から学ぶことが好きです。私は知識に対して貪欲です。それが進歩の根源なのです。」

研究で難題に直面している他の科学者に対する Petriz 氏の主なアドバイスは、非常に実用的なものです:サンプルを注意深く取り扱うこと。

「サンプル操作はフローサイトメトリーにおいてだけでなく、他の多くの研究分野においても大きな問題となります。」と彼は説明します。「サンプル操作は、測定しているほぼすべての対象に大きく影響します。だからこそ私は、がん研究の実施に興味を持っているすべての人、特に希少細胞に興味のある人に対して提案しています:サンプル操作をなるべく避けること。」

彼のチームはそれを実践し、可能な限り少ないサンプル操作で実験を実施しています。彼らはサンプルを入手すると抗体と蛍光プローブで染色し、フローサイトメーターでの分析用にそれを単純に希釈します。非常に希少な細胞の特定を容易にするにはこれが不可欠であると、Petriz 氏は説明します。科学において一般的に使用される手順を余分に行うと、標的集団の特定に容易に失敗する可能性があるからです。

彼はまた、あまり科学的ではないけれど、同様に重要なアドバイスを提供しています:つながりを保つこと。「私は常に周囲の人々から学ぶことが好きです。私は知識に対して貪欲です。それが進歩の根源なのです。」と彼は言います。

Petriz 氏には科学への情熱を失ったという記憶はありませんが、彼のインスピレーションはラボの中だけに限られていたわけではありません。彼は会議に出席して仲間たちとアイデアをやりとりすることを楽しみますが、科学とまったく関係のない人々と話をすることも好きです。科学者以外の人たちとの会話が、研究の新しい発想につながる場合もあります。

彼はこう説明します。「一度、一般市民の方々に科学についての話をする機会がありました。それは、がんに苦しむ家族を持つ人々から直接話を聞くチャンスでした。彼らは心を動かす質問をしてきました。そしてそれは大きなモチベーションとなり、絶えず新しい疑問を追求していくこと、新しい実験を開発し続けることへと私を駆り立ててくれています。」


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For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.