A scientist selecting a protocol on a ProFlex PCR System 3 x 32-well block

ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が初めて導入された時、プロセスは困難で時間がかかるものでした。変性、アニーリング、および伸長は、サンプルを手動で別のウォーターバスに移し、サイクルごとに新しい酵素を追加することにより行われていました。サーマルサイクラー(PCR装置)はPCRプロセスを自動化するために開発され、私たちの実験をより容易かつ迅速にするためにPCRテクノロジーは進化し続けています。今では、小規模ラボ向けのコンパクトサイズから、ハイスループットラボ向けの自動化機能まで、サーマルサイクラーで利用できるオプションが多くあります。ここでは、PCR装置の選択方法に関する考慮すべき6つの役立つヒントを紹介します。

PCRサーマルサイクラー教育 スポットライト記事

1.正確で均一な温度

PCRの3つの主なステップ (変性、アニーリング、および伸長)は温度に大きく依存するため、ウェル間の温度が正確かつ均一なサーマルブロックが必要です。そうでなければ、実験の再現性が損なわれる可能性があります。

サーマルサイクラーを選択する際、温度精度に関して品質検査されているか、および定期的な検査に対してどのようなオプションがあるかを確認してください。サーマルサイクラーの正確な温度を実現するために、温度検証キット(図1)を使用した試験や、訓練を受けた専門家による再校正を定期的に行う必要があります。温度検証試験は以下を測定するために実施されます:

  • 等温モードでの設定点温度に対するウェル間精度
  • 温度遷移直後の設定点温度に対するウェル間精度
  • (ブロック温度とサンプル温度に影響する可能性のある)ヒートカバーの温度精度

PCRブロック温度の均一性

サーマルサイクラーはすべてのサンプルウェルで温度均一性を維持しなければならず、それは理想的には設定温度の0.5℃以内です。温度の均一性が高いほど、増幅の均一性の確率が向上します。図1に示すように、温度検証プローブを使用して温度不均一性を試験できます。

 アプリケーションノート:サーマルサイクラーのサンプル増幅の均一性:複数モデルの比較


2.プライマーアニーリングの最適化のための精密な温度コントロール

ターゲットDNAに合わせてPCRのプライマーアニーリングを最適化するには、アニーリング温度と呼ばれる最適な温度を見つける必要があります。通常最適化では、複数の設定を同時に試験できるように、ブロック全体でさまざまな温度を設定します。サーマルサイクラーを選択する際、使用するブロックのタイプ(グラジエントまたは代替法)や、実験の性質に適合しているかどうかを確認してください。

PCRのアニーリング温度

PCRのアニーリング温度は、増幅するターゲットのDNAフラグメントによって変わります。これは、PCRプライマーがターゲットDNAに結合するのに最適な温度です。

PCRのプライマーアニーリング温度の最適化を効率化するよう設計されたサーマルサイクラーの機能として、ラジェント温度制御機能があります。グラジェント設定の目的は、さまざまな温度を、通常レーンごとに2℃以上の温度勾配でブロック全体に設定することです(図2A)。こうすることで、複数の温度を同時に評価して最適なプライマーアニーリング温度を見つけることができます。

理論的には、正確なグラジエントはブロック全体で線形の温度勾配を示します(図 2B)。しかし、グラジエント機能のあるサーマルサイクラーは通常、1つのサーマルブロックで構成されており、このサーマルブロックの温度は、各末端に1つずつ配置された2つの加熱および冷却素子のみによって制御されます。この設計には以下のような制限があります:

  • 設定できる温度は2つのみであること(図2A ):ユーザーは計算した装置の高温と低温の間の温度を設定できないため、他の温度をブロック全体で正確に設定することはできません
  • レーン間で熱の相互作用があるため、ブロック全体の温度は正確な線形グラジエントではなく、S字形曲線を描きます(図2B
図2.グラジェント温度設定。(A)サーマルブロックの設計上、ライマーアニーリングの下限と上限に相当する2つの温度のみを設定できます。この2つの温度は、計算したアニーリング温度(Tm)と、各レーン間の理想的な温度差に基づいて設定します。(B)グラジェントサーマルブロックの理論的温度(正確なグラジエント)と実際の測定温度。
 

プライマーアニーリングの温度制御の向上に役立つ、「グラジエントよりも優れた」技術を備えた代替のサーマルサイクラーを使用できます 。このような技術のタイプの1つは、サーマルサイクラーを3つ以上の独立した金属ブロックで構成し、各金属ブロックが加熱冷却素子を備えるように設計することです。グラジェントブロックと比較したこのVeriFlexブロック設計の特長は以下のとおりです:

  • 3つ以上の異なる温度を個別に設定できるため、各個別のゾーンを定義して温度をより正確に制御できます。これは温度の最適化に特に有効です(図3A)。
  • 独立した金属ブロックは断熱され、ブロック間の熱相互作用が防止されるため、ブロック温度をより精密に制御し、ブロック全体で温度の真の線形を実現できます(図3B)
図3.「グラジエントよりも優れた」技術を搭載したVeriFlexブロック。(A)独立した個別のブロックを採用することで、より精密な温度制御を実現するApplied Biosystems VeriFlexの「グラジエントよりも優れた」技術を搭載したサーマルサイクラーブロック。(B)VeriFlexブロックの6つの独立したゾーンを4℃間隔で設定した場合の温度は、グラジエントブロックの理論的ブロック温度に従います(図2B)。

3.サンプル温度vs.ブロック温度

サンプル温度を制御できることは、PCR反応の正確性を実現する上で非常に重要です。ランプ速度、ホールド時間、および予測アルゴリズムは、すべてPCR実験結果に影響を与える重要な要素です。サーマルサイクラーを選択する際、どのようなタイプの精密な温度制御が実験の性質に必要かを判断してください。

PCRのランプ速度

PCRのランプ速度は、サーマルサイクラーがあるステップから別のステップに移る際の温度の変更にかかる時間のことで、通常1秒当たりの摂氏(℃/秒)で表されます。「上昇ランプ」と「下降ランプ」はそれぞれサーマルブロックの加熱速度と冷却速度を示します。

ブロックからサンプルに熱エネルギーが移動するのに時間を要するため、サンプルのランプ速度は(ブロックのランプ速度より)緩やかになります。サンプルのランプ速度を使用すると、サーマルサイクラーのPCRの結果や再現性への潜在的な影響をより正確に比較できます(図4)。

サーマルサイクラーのランプ速度は、どれほど速く設定温度に到達するかに影響します。ランプ速度が速いほどPCRランが速くなり、所定の時間でより多くの実験を実施できます(図5A)。

ホールド時間と予測アルゴリズムはPCRの精度に影響を与える2つの重要な要素です。

ホールド時間は、PCRプロトコルの各ステップ間の時間を指します。次のステップに進む前に、サーマルサイクラーが各ステップで適切な温度を維持していることを確認することが重要です。そうでなければ、PCRの結果は正確でなく、実験の再現性に影響を与える可能性があります。

予測アルゴリズムは、サンプル量とPCR用プラスチック製品の厚さに基づいてサンプルの温度と時間を制御するのに役立ちます。この機能により、オーバーシュートやアンダーシュートすることなく、サンプルは可能な限り迅速に設定温度に到達します。これは、エラーを最小限に抑え、信頼性の高い結果を取得するのに役立ちます。


4.柔軟性とデザイン

サーマルサイクラーを選択する際、実験の性質上、特定の設計が必要かどうかや、柔軟性が要求されているかを特定してください。スループットを向上させることができるサーマルサイクラーの特徴には、ランプ速度サーマルブロック構造、および自動化プラットフォームとの統合などがあります。また、1回のPCRランで実行できる反応数を考慮することも重要です。反応数はサーマルサイクラーブロックの設計によって決まる場合があるため、結果や結果を得るまでの時間に大きな影響を与えます。

交換可能なブロック(高いスループットが必要な場合に交換できるもの)や、独立したブロック(別々のPCRの同時ランを可能にする、独立して動作するブロックを装備した装置)などのオプションにより、最適化に要する時間を大幅に短縮し、複数のユーザーが同じ装置を同時に使用することができます。

Top of the ProFlex PCR System containing the 3 x 32-well block

最大3つの独立した実験を同時に実行するための3 x 32ウェルブロック。

Top and screen of the ProFlex PCR System containing the 96-well block

標準的なPCRアプリケーション用の96ウェルブロック。

Top of the ProFlex PCR System containing the Dual 96-well block

ハイスループットシーケンシング用のデュアル96ウェルブロック。

Top and partial screen of the ProFlex PCR System containing the Dual 384-well block

ハイスループットシーケンシング用のデュアル384ウェルブロック。

さらに、個別に制御できる複数のモジュールを搭載したたサーマルブロックは、1台のサーマルサイクラーで異なるPCRプロトコルを同時に実行するのに最適です(図6)。

自動化ハイスループットPCRの場合、リキッドハンドリングシステムを制御するソフトウエアでプログラム可能で、かつこれと互換性があるサーマルサイクラーを選択する必要がありますです。自動化システムはほぼ無人で24時間動作できるため、マニュアル操作による実験セットアップに要する時間を最小限に抑え、所定の時間でランできる反応数を増やすことができ、ハイスループットPCRに最適です。その場合、リキッドハンドラーやプレートスタッカーによるハンズフリー操作を行うために、使用するロボットプラットフォームに容易かつ柔軟に統合できることが望ましいです。

特に複数のサーマルサイクラーを使用する場合、サーマルサイクラーのもう1つのオプションとして、クラウドまたはオンプレミスサーバーを介して装置をリモート制御できる機能があります。これは、有線接続より便利で望ましい方法です。

5.信頼性、耐久性、品質

サーマルサイクラーの購入は投資です。そのため、選択するサーマルサイクラーは、ラボの使用レベル、環境ストレス、および輸送条件に耐えられる必要があります(図7)。装置の信頼性と耐久性の試験内容を報告しているサーマルサイクラーメーカーもあります。サーマルサイクラーを選択する際、装置でどのような信頼性、耐久性、および品質試験が行われているかを確認してください。

Applied Biosystems testing for thermal cyclers: a) component reliability, b) durability, and c) robustness
図7.サーマルサイクラーの耐久性試験。 (A)コンポーネントの信頼性:ロボットアセンブリを使用して、ヒートカバー、制御パネル/タッチスクリーン、温度サイクリングモジュールなどの使用頻度が高い装置コンポーネントを反復的に試験する場合があります。(B)環境ストレス:環境チャンバーを使用して、温度、湿度、高度などの一般的な実験室におけるさまざまな条件をシミュレーションする場合があります。(C))輸送試験:装置が正常動作する状態で確実に届けられるようにするため、国際安全輸送協会(ISTA)基準に従って、厳しい衝撃および振動の試験を実施する場合があります。


表1.Applied Biosystemsサーマルサイクラーの耐久性および環境試験の結果。

実行した試験試験方法要件結果
コンポーネントの信頼性:温度サイクル1サイクル = 95℃(15秒)、60℃(60秒)>350,000サイクル合格
ヒートカバーの開閉リッド作動ロボット:1サイクル = 閉じる、開く、閉じる>29,000サイクル合格
タッチスクリーンタッチ(Applied Biosystems自動サーマルサイクラーでは未実施)タッチスクリーン作動ロボット:1サイクル = タッチ、放す>2,900.000サイクル合格
ドッキング機構(ProFlex PCRシステムのみ)ドッキング作動ロボット:1サイクル = ドッキング、放す、ドッキング>5,000サイクル合格
環境試験温度環境チャンバー内でのサーマルサイクラーの性能15~30℃合格
湿度環境チャンバー内でのサーマルサイクラーの性能15~80%合格
高度環境チャンバー内でのサーマルサイクラーの性能6,000フィート(812 mbar)合格
輸送試験ISTA*推奨の衝撃および振動試験合格合格

*国際安全輸送協会、 www.ista.org 

 アプリケーションノート:Applied Biosystemsサーマルサイクラーの信頼性と品質試験


6.保証およびサポートサービス

信頼性と耐久性に関して厳しい試験を実施しても、サーマルサイクラーの寿命前に技術的問題が発生するのを回避することはできません。安心して継続使用していただくために、購入の際にメーカーから提供されている保証、サービス、およびサポートをご検討ください。機能しない装置でお困りの場合、これらのサービスによって大きな違いが生じる場合があります。以下の事項についてご確認ください:

  • 出張修理/引取り修理リモートモニタリングサービス修理中の代替装置手配など、装置停止の影響を最小限に抑えるための、柔軟性に富んだサービスが提供されていること
  • 保証期間、サービス対応の所要時間、技術サポートへのアクセス、およびサポート技術者のスキルと知識
  • 実験室の諸要件や規制要件に沿った装置設置、操作、コンプライアンス、および検証に関するサービスが提供されていること
  • 仕様に準じて装置が動作することを確認、検証するための温度検証、点検、校正、およびクリーニングなどの保守サービスが提供されていること
A thermal cycler being unpackaged by two lab technicians to begin the repair process
図8.サーマルサイクラーの修理プロセス。関心のあるサーマルサイクラーでどのような技術サポートや修理/サービスプランを利用できるかを特定することは、どのようにしてPCR装置を選択すべきかを判断するのに役立ちます。
PCR実験の装置を選定する際には、性能、デザイン、信頼性などのサーマルサイクラーの特徴のほか、提供されているサポートやサービスをご確認、ご検討いただくことがとても重要です。

参考文献

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.