ハイスループットマルチプレックス定量

tandem mass tag(TMT)はアイソバリックな化学タグであり、相対定量プロテオミクス分析においてマルチプレックス分析を実現します。複数サンプルを並行して MS 分析できるためスループットが向上し、細胞、組織、生体液由来の最高 10 種類の異なるサンプルを相対定量分析できます。タグは、MS/MS レポーター、スペーサーアーム、アミノ反応基から構成されます。アミノ反応基はラベリングの際、ペプチド N-末端またはリジンに結合します。 

相対定量実験では、実験条件に応じて異なるアイソバリックタグを用います。ラベリング後、すべてのサンプルを混合し、1 度の液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)測定で分析します。アイソバリックタグは同じ化学特性を有するため、異なる TMT-標識サンプルに由来するすべてのペプチドは LC 分離では共溶出します。ペプチドが質量分析計に注入されると、共溶出したペプチドは質量で識別できない単一のプリカーサーイオンピークとして同時検出されます。

フラグメンテーション後、各実験条件由来のタグは MS/MS スペクトルにおいて、低 m/z 領域に固有のシグネチャーレポーターイオンを生成します。タンパク質の同定は、得られたイオンピークをフラグメントデータベース内のイオンピークと照合することにより行います。データベースで同定されたタンパク質に対し、レそれぞれのポーターイオンの強度と比較することで、タンパク質定量に不可欠な情報が得られます。


TMT 定量ソリューション
ハイスループット定量プロテオミクスを実現

Thermo Scientific TMT10plex Isobaric Label Reagent Set には、同一の質量および化学的(アイソトポメリック)構造を有する 10 種類の異なるアイソバリック化合物が含まれます。各化合物は、アミン反応性 NHS- エステル基、スペーサーアーム、マスレポーターで構成されます。この試薬セットを用いると最高 10 種類のペプチドサンプルを調製し、並行ラベリングおよび同時分析ができます。相対質量できるサンプル数の増大、サンプルスループットの向上、定量値欠損が少なさは、本アプローチの利点のごく一部であり、結果としてハイスループット定量プロテオミクスが実現します。

干渉を最小限に抑え、精度と感度を向上

Thermo Scientific Orbitrap Fusion トライブリッド質量分析計は、 Orbitrap 全装置の中でも最高の分解能を誇り(m/z 200 で最高 500,000)、フルスキャン MS モードで卓越した検出限界および選択性を実現します。Synchronous Precursor Selection MS3(SPS MS3)機能により、きわめて正確かつ高精度の TMT 定量結果が得られます。トライブリッド質量分析計特有のこのデータ取得ストラテジーにより、TMT レポーターイオン比の確度が向上し、感度が高まる結果、定量されるペプチド数が増大します。

Orbitrap Fusion トライブリッドのセグメント化された四重極は、狭い単離ウィンドウでのイオン透過を向上させます。このことは干渉を最小限に抑えるうえで不可欠です。改良されたイオン源を用いると、 0.4 Th の単離ウィンドウで十分強度のイオンを検出でき、相対比の不確かさを最小化できます。

タンパク質の定量と同定を容易に

アイソバリック標識実験では、 LC-MS の生ファイルから定性的および定量的にデータを抽出する必要があります。Thermo Scientific Proteome Discoverer ソフトウェアは、定性的・定量的プロテオミクス研究におけるもっとも包括的なデータ分析プラットフォームです。SPS MS3 のフラグメンテーションデータの解析でタンパク質定量をサポートするだけでなく、 MS2 レベルでタンパク質同定も支援します。このソフトウェアは、ペプチド同定における包括的なデータマイニングツールセットを提供し、複数のサーチエンジンを支援します。TMT ベースのグリコペプチド定量を実現する唯一のソフトウェアでもあります。


TMT 定量ワークフロー