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赤外分光法(FT-IR)は測定が容易で汎用性が高いうえに、多くの情報量をもつ分析技術であるため、幅広い材料評価に利用されています。このページでは、FT-IRや赤外顕微鏡をご使用いただくうえで重要な、基礎、測定法、応用アプリケーション、赤外スペクトルの解析方法について解説します。また、当社では多くの日本語の技術情報やセミナー、トレーニングなどが用意されています。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
FT-IRを学習するはじめの一歩として、このセクションでは「FT-IR」という言葉の意味や原理について説明します。さらに、主なサンプル測定方法とその利用方法について詳しく紹介します。
赤外分光法(FT-IR)は、常温・大気下で測定可能で、測定手法によっては手間のかかる前処理をほとんど必要とせず簡便に定性分析を行うことができます。また赤外スペクトルを見ることで分子構造だけでなく結晶性や分子の配向性もわかり、定量などにも使用可能で、異物分析や品質管理、材料の研究開発などのさまざまな分野で活用されています。下記のチュートリアル動画では、一般的な検出器の特性とアポダイゼーション関数についても概説しています。
FT-IRはフーリエ変換赤外分光法(Fourier transform infrared)の略で、赤外分光法とも表されます。赤外線がサンプルを透過するとき、赤外光の一部の波長はサンプルに吸収され、一部は吸収されずに通り抜けます(透過測定の場合)。その結果、検出器で得られた信号はサンプルの分子構造の「指紋」を表す、赤外吸収スペクトルになります。つまり、赤外光と分子構造には相互作用があり、異なる化学構造をもつ分子からは異なる形状の赤外スペクトルが得られます。この有用性を利用して幅広い物質の同定に利用することができます。
FT-IRの代表的な特徴は下記の通りです。
フーリエ変換を利用し、検出器で得られた信号を解釈可能な赤外スペクトルに変換します。
FT-IRはパターンのある赤外吸収スペクトルを生成し、これによってサンプルの構造を考察あるいは同定することができます。
チュートリアルを見る:「FT-IR」の意味について簡単に説明します。(英語)
赤外分光光度計(FT-IR)は、干渉計(インターフェロメーター)を内部に装備し、干渉計内で生じる光の位相差を利用して赤外光源のもつ全ての波長の干渉波を作ります。その干渉波(インターフェログラム)を、光路内に設置された物質(サンプル)に照射します。検出器で得られたアナログ信号はデジタル化され、フーリエ変換処理によりインターフェログラムから、波長ごとの赤外吸収情報を取り出すことができます。
FT-IRには主に4つの測定手法があります。
それぞれの測定手法に特徴があり、サンプルの形状、性状、あるいは目的によって使い分ける必要があります。(下記のサンプリングテクニックの項目で詳細を説明します)
FT-IRは、シンプルな材料の同定目的のみならず、フレキシビリティの高い研究用の装置としても利用できます。目的に応じて、サンプル測定用のアクセサリーが多種多様に用意されており、幅広いアプリケーションに対応します。代表的な用途は下記の通りです。
FT-IRは容易で且つ、そのフレキシビリティの高さにより、さらに多くの用途でご使用いただくことができます。
チュートリアルを見る:ハイフネーテッド分析技術を含むFT-IRのサンプル測定技術について説明します。(英語)FT-IRで何ができるのか、例を示して説明します。
このセクションでは、FT-IRの代表的な測定法である、透過、反射、ATR、拡散反射の詳細ついて、そのアクセサリーの使用法や注意点を説明します。サンプルの性質、形状および目的に応じた測定手法の選択が必要です。サンプル調製と分析作業の最適化に焦点を当て紹介します。
特定のサンプルタイプにあわせて適切なサンプル測定法を選択すると、良好な赤外スペクトルが取得でき、効率的な分析業務が行えます。各種サンプリングテクニックを学習し、適切な測定手法を採用してください。詳細は下記それぞれの測定手法を展開してご確認いただけます。
以下の4つのサンプリングテクニック(測定法)について、その仕組み、分析可能なサンプルの種類、各技術の利点をご確認いただけます。
概要
様々なサンプルの性状に応じて、適切な透過アクセサリーを利用します。そのアクセサリーをサンプル室に設置するだけで測定が可能です。赤外光がサンプルを透過し、サンプルで生じた吸収エネルギーが測定され、縦軸が透過率の赤外吸収スペクトルが得られます。固体サンプルの場合は、透過測定を行う前に、サンプルをKBr錠剤や薄いフィルムなどに加工する必要があります。KBr錠剤を作成する場合はテーブルプレスなどの錠剤成型器を利用します。
分析可能なサンプルの種類
透過法を使用すると、下記のようなさまざまなサンプルで品質の優れたスペクトルを取得できます。透過測定は、バルクサンプルまたは赤外顕微鏡でも多用される測定技術です。
透過法のメリット
概要
全反射吸収(ATR)法は、サンプルと高屈折率の結晶(ATRクリスタル)が接触し、試料表面で全反射する光を測定する方法です。赤外線を屈折率の高い赤外透過性のあるクリスタルに、特定の角度で入射すると、ATRクリスタル内部で内部反射が起こります。この内部反射が作り出すエバネッセント波は、ATRクリスタルと接触しているサンプル表面に到達します。
全反射現象によって、表面に潜り込んだ赤外光はサンプルのエネルギーを吸収します。この潜り込み深さは、赤外光の入射角とATRクリスタルの屈折率、サンプルの屈折率によって定義され、波数依存性があります。その後、赤外光は再びATRクリスタルに戻り、クリスタルの反対側から出て、FT-IRの検出器に到達します。検出器に到達したシグナル(インターフェログラム)からATR赤外スペクトルを生成します。
全反射吸収(ATR)法で分析可能なサンプルの種類
ATR測定法は、透過測定だと吸収が強すぎるため飽和しやすいサンプルや厚みのあるサンプルに適しています。ATR測定がこうしたサンプルに適しているのは、表面に潜り込んだエバネッセント波の強度がATRクリスタル表面からの距離に対して指数関数的に減衰するため、一般的にサンプルの厚みに左右されないためです。
ATR測定法は幅広いサンプル評価に適用することが可能です。固体サンプルの場合、表面測定法としても活用されます。また、粗くて硬いサンプルであっても、ダイヤモンドなどの硬質なATRクリスタルを使って分析できます。最適なサンプル形態としては次のようなものがあります。
さらに、ATR測定法は、液体分析にも適しています。液体をATRクリスタルにほんの一滴垂らす程度で分析が可能です。また、多重反射型ATR測定を利用することで、より精度の高い液体中成分の定量測定が可能です。ATR測定法は次のような液体の分析に使用できます。
ATR測定法のメリットは?
概要
拡散反射法は、主に粉末上のサンプルで利用される測定法です。赤外線が微粒子に到達したとき、その粒子といくつかの相互作用を起こします。まず、赤外光は粒子を透過することなく、粒子の表面で反射します。次に赤外光は粒子を透過することなく、粒子の表面で多重反射を受けます。拡散反射率は、1つまたは複数のサンプル粒子への透過と、それに続く、他の微粒子からの散乱によって得られます。
拡散反射測定には、主にサンプル粉末または、KBrなど赤外透過性のあるマトリックスとの混合物で満たしたサンプルカップを利用します。サンプルに入射した赤外光は、粒子と相互作用した後、粒子の表面を反射し、その結果、サンプルを貫通しながら拡散または散乱します。次に、出力ミラーにより、この散乱光をFT-IR本体の検出器に導きます。検出器に到達したシグナル(インターフェログラム)から拡散反射赤外スペクトルを生成します。バックグラウンドは通常KBrなど赤外透過性のあるマトリックスや金ミラーを用います。サンプルを適切に調製することで、優れた定量および定性データを収集することができます。ただし、定量測定には、光路長の関係から、拡散反射よりも、透過測定やATR測定の方が適しています。
分析可能なサンプルの種類
拡散反射法は有機物、無機物サンプルに利用され、一般的に、微粉末化(10 µm未満)したサンプルと、臭化カリウム(KBr)などの粉末マトリックスを混合して、サンプルカップに入れて測定します。触媒表面の吸着成分の評価にも使用されます。一般的なサンプルタイプは次のとおりです。
シリコンカーバイドペーパーを用いることで、大型の加工しにくい表面の分析にも使用できます。シリコンカーバイドペーパーは、分析対象のさまざまな種類の材料から、少量のサンプルを剥し落とすために使用できます。この技術は、以下のサンプルに利用できます。
拡散反射法のメリット
概要
鏡面反射法は、反射効率の原理に基づく表面測定技術です。すべてのサンプルは照射される光の周波数によって変化する固有の屈折率があります。鏡面反射法では、サンプルを透過するエネルギーを計測するのではなく、サンプルの表面で反射するエネルギー(屈折率)を測定します。屈折率の変化率が高いスペクトル領域を分析することで、サンプルの反射スペクトルが得られます。鏡面反射法は非常に良好な定性情報を提供します。
次に反射吸収法は同じ原則に基づきますが、一部のエネルギーは表面層を透過してサンプルに吸収され、表面層の下の反射基板で反射します。鏡面反射法と反射吸収法を組み合わせることで、様々な分析に対応できます。透過スペクトルに対する定量的な評価が必要な場合は、Kramers-Kronigの関係式による補正をデータに適用して分散の影響を排除することができます。
分析可能なサンプルの種類
正反射法は、平坦で広い反射面をもつ有機物および無機物の両方によく使用されます。反射吸収法は、金属基盤上のサンプルの評価に対して汎用的です。一般的に次のようなサンプルに対して使用されます。
正反射法のメリット
FT-IRおよび赤外顕微鏡に関して、多く寄せられるご質問です。ご不明点などございましたら当社までお気軽にお問い合わせください。
スペクトルを透過率として表すと、小さいピークが強調されやすいので、サンプルを視覚的に評価しやすくなることがあります。吸光度スペクトルは、スペクトルが濃度に対して比例するので、あらゆる定量分析、スペクトル減算やその他の処理に使用できます。透過率は濃度と比例関係ではありません。定性分析のような一般的な用途の場合は、どちらも使用されます。古い文献では透過率がよく使用されていますが、詳細なピーク分析については常に吸光度が用いられます。これも濃度との比例関係のためです。
アポダイゼーション関数はインターフェログラムに適用されます。生データは、Thermo Scientific OMNICソフトウエアでチェックボックスをオンにするだけで取得できます。生データを残している場合は、測定後にアポダイゼーション関数の変更が可能です。インターフェログラムは通常、フーリエ変換された赤外スペクトルよりもはるかに大量のメモリ容量を必要とするため、古いソフトウエアパッケージではメモリを確保するためにインターフェログラムを捨てていました。インターフェログラムがない場合は、再処理計算はできません。
アポダイゼーション関数の影響は、軽い関数(Happ-Genzelなど)から重い関数(Blackman-Harrisなど)にかけて強くなります。関数が重くなるほど、波形への影響も大きくなります。分解能を4 cm-1以上であれば、重いアポダイゼーション関数を適用してもスペクトルが大きく歪むことはありません。ただし、ガス分析のようにピーク幅が狭まると、アポダイゼーション関数の影響が非常に大きくなります。幅広いピークに強いアポダイゼーション関数を適用すると、スペクトル線幅への影響を最小限に抑えながら、Boxcar(基本的にアポダイゼーションなし)よりもS/Nを大きく改善します。Happ-Genzelは、線幅への影響が「穏やか」でS/Nも適切なので、当社のシステムでよく利用されています。一般的にS/Nは、Happ-Genzel、Norton-Beer(NB)Weak、NB-Medium、NB-Strong、Blackman-Harrisの順に改善しますが、分解能が受ける影響も同じ順で増加します。
定量分析を行う場合、2つのアプローチのいずれかが必要です。まずは、その物質の吸光係数(ベールの法則のイプシロン)を知っているか、或いは計算できることが必要です。しかし、これはきわめて稀なケースです。より一般的なアプローチは、標準物質を用いて既知の濃度にサンプル調製を行い、検量線を作成する方法です。Thermo Scientific TQ Analystソフトウエアなどのケモメトリックスパッケージを使用して、ベールの法則や、またはより複雑なモデルで解析を自動化するか、ピーク高さまたはピーク面積を表計算に記録してから線形(または非線形)回帰を使用して定量評価を行います。これはクロマトグラフィーや原子分光法を行う場合と概ね同じ考え方です。
FT-IRは、有機物か無機物に関わらず、双極子モーメントの変化に反応します。金属酸化物、炭酸塩、カルボニルが良い例です。基本方程式では、分子の固有振動数は、ばね定数(結合強度)の平方根に比例します。簡単に言えば、結合にかかわる原子の質量が増えると低波数側にピークが生じます。フェロセン、アセチルフェロセン、酸化カドミウムなど多くの無機化合物のピークが400 cm-1未満に存在します。このため、「遠赤外」分光法の利用が必要となります。一例として、法科学においては、自動車塗膜片には無機物が含有されるため、その同定に遠赤外分光法が役立つことが認められています。遠赤外ATR測定を可能にするATRアクセサリーもいくつか入手可能です(そのほとんどは単結晶のダイヤモンドデバイスです)。Thermo Scientific Nicolet iS50 FT-IR分光光度計は、ビルトインされたATRアクセサリーによって遠赤外領域の分析を簡単に行えます。詳細情報をご希望の場合は、当社までお問い合わせください。
拡散反射法は中赤外と近赤外の両方で使用されます。中赤外での拡散反射測定は、サンプルをKBrなどで希釈して、一般的に3~10%程度の濃度に調整する必要があります。前処理によって適切な拡散反射スペクトルを得ることができます。触媒反応研究では粉末材料が高温、高圧、混合反応ガス下に置かれるため、拡散反射測定が用いられます。アクセサリメーカーの数社で触媒反応測定用のアクセサリーを供給しています。近赤外領域では、拡散反射は希釈を行わない直接測定手法として活躍しています。容器(ビニール袋、ガラス容器など)に入ったサンプルがそのまま測定できるため、サンプルに非接触で汚染することなく、安全に分析できます。一方で、ATR法ではサンプルを結晶に押し付けて接触させます。通常、ATR法では希釈が不要で、そのまま測定できるため、前処理することなく、固体成形品が測定できます。ATR法は特殊な例を除いて中赤外のほとんどのケースで拡散反射法に取って代わりましたが、近赤外分野では今も拡散反射法が主流です。
タンパク質分析の重要なポイントの1つとして、水の帯域の除去があります(ほとんどのタンパク質は緩衝液に含まれます)。分析には長光路透過セルまたはATRアクセサリーが必要です。一般的にBaF2または同等の窓材を使用した6~10 μmの光路長の透過セルが使用されます。分析領域はおよそ1,400~1,750 cm-1の間にあります。最近では、シリコン、ゲルマニウム、またはダイヤモンド製クリスタルを採用したATRアクセサリーが普及してきました。ZnSeクリスタルでは、表面電荷により、クリスタルへのタンパク質の反応や結合が起こることがあります。ほとんどの文献は透過セルを用いて実験されています。タンパク質分析は多少の熟練と経験が必要となるため、ほとんどのラボではユーザーへのトレーニングが必要です。
ランベルト・ベールの法則は、安定したサンプルと再現性のある条件が必須です。ATR測定には、2つの課題があります。1つ目は、サンプルをATRクリスタルに対して、均一に密着させなければならない点です。物質表面粗いまたは結晶質の場合、再現性を確保しなければなりません。そのために物質を細かい粉末に粉砕する必要があるかもしれません。2つ目は、ATR測定法は表面測定技術であり、測定する潜り込み深さがサンプル表面から1~4 μm程度という点です。添加剤やターゲット成分がそれ以上の深い位置に移動すると、捉えることができません。この場合、サンプル全体の情報が得られる透過測定が、実行可能な選択肢として考えられます(但し、サンプルの厚さによります)。また、ATR測定を行う場合は、加圧によってサンプル内のポリマー鎖の結晶度が変化し、信号が変化する可能性があることにご注意ください。さらに詳しい考察のためには、分析対象となるサンプルに関する深い理解が必要です。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.