原子吸光分析(AAS)データ解析は複数のステップから成るプロセスであり、最適な結果を得るためには適切なメソッドと波長を選択する必要があります。バックグラウンド補正も、AASデータ解析を成功させるための重要な要素です。AAS技術で広く使用されている一般的な補正方法には、重水素バックグラウンド補正およびゼーマンバックグラウンド補正の2つがあります。


重水素バックグラウンド補正

重水素バックグラウンド補正は最も古くから存在する手法で、現在においても特にフレームAASで最も広く使用されています。この手法では、幅広い波長幅を持つ別の光源(重水素ランプ)を使用し、分光計の出口スリットの幅全体にわたってバックグラウンド吸光を測定します。別のランプを使用すると、構造的なバックグラウンドを補正できないため、正確な手法にはなりません。また、重水素ランプは320 nmを超える波長では使用できません。重水素ランプではこの波長を超える発光強度が非常に微弱であるためです。


ゼーマンバックグラウンド補正

ゼーマンバックグラウンド補正では、アトマイザー(グラファイトファーネス)に交流磁場をかけ、吸収スペクトルを3つの成分に分裂させます。もとの吸収スペクトルと同じ位置にとどまるπ成分と、より高い波長およびより低い波長に移動する2つのσ成分です。

最初に、磁場をオフにして総全ての吸収を測定し、その後、磁場をオンにしてバックグラウンド吸収を測定します。この測定では、σ成分がランプの発光プロファイルと重複しないように、π成分を除去する必要があります。これにより、バックグラウンド吸収のみが測定されます。この手順は多くの場合、偏光器子を使用して実施されます。

このようなプロセスを使用する利点は、総全ての吸収とバックグラウンド吸収が同じランプの同じ発光プロファイル内で測定されるため、あらゆる種類のバックグラウンド(原子のスペクトル線に現れる微細な分裂のバックグラウンドを含む)が補正されることにあります。このプロセスは、バックグラウンドに関与する分子が磁場の影響を受ける場合には使用できません。このようなバックグラウンド補正には、独自の電源が備わった、より強力な分光計が必要です(吸収スペクトルを分裂させるマグネットを操作するため)。

AASデータの分析および最適化には、他にも内部標準法や標準添加法などの方法があります。


内部標準法

分析化学における内部標準物質とは、化学分析において、試料、ブランク、および検量線用標準液に一定の量で添加される化学物質のことです。内部標準物質のシグナルに対する分析種のシグナルの比率を、標準液内の分析種の濃度の関数としてプロットすることで、校正に使用できます。これを実施する目的は、試料前処理または導入過程の分析種の損失を補正することにあります。

内部標準物質は、試料中の測定対象化学種と同一ではありませんが、非常によく似た化合物です。そのため、試料前処理による影響は、内部標準物質と測定対象化学種のどちらにおいても(各化学種の濃度と相対的に)同じになるはずです。


標準添加法

標準添加法は、原子吸光分析などの装置による化学分析でよく使用されます。標準添加法は、分析試料に標準液を直接添加する定量分析アプローチです。この方法は、サンプルマトリックスが分析シグナルに寄与する場合(マトリックス効果と呼ばれる)に使用されます。この効果があるため、従来の検量線法では試料と標準液間の分析シグナル結果を比較することはできません。


原子吸光分析ソフトウェア

正確で精度の高いAAS測定には、適切な装置だけでなく、ソフトウェアも必要です。実際、適切なソフトウェアは装置の制御を容易にするだけでなく、データの取得、操作、解釈も可能にします。

ソフトウェアウィザードは多くの場合、装置やデータの処理作業を大幅に簡略化します。また、専門知識のレベルにかかわらず、あらゆるユーザーをサポートします。装置には、図3に示すThermo Scientific SOLAARウィザードなどの一部のソフトウェアウィザードが組み込まれています。

ほぼすべてのソフトウェアウィザードは、特定のタスクや手順を簡略化し、必要な操作の詳細な手順を段階的に提示するように設計されています。また、計算を実行し、次に実行するワークフローステップをユーザーに提示することができるウィザードもあります。