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細胞がレーザーの光路を通過する際に放出される光子は、光電子増倍管(PMD)あるいはフォトダイオード(PD)によって検出されます。 これらの光子は、細胞からの散乱光、もしくは細胞に標識された蛍光色素から放出されます。 検出器に入ると、光子は電子へと変換され、光子の数に比例してシグナルは増幅されます。 検出器からのシグナルは電流(光電流もいう)として電気系に入ります。 光子が電気系を移動する経路の概略図を図 1 に示します。 電流はアンプで増幅されて電圧パルスに変換されます。 この電圧パルスは、さらにアナログ・デジタル・コンバーター(ADC)を経由してデジタル値に変換されます。 デジタル値はコンピューターへ転送され、解析を行うためのデータとなります。 もちろんこれはプロセスを大幅に簡略化して説明したものですが、実験の結果を正確に解釈するために、データについて理解しておくべきいくつかの重要なポイントをこのセクションで説明しています。
図 1: 電気系における光子の経路
電圧パルス(電圧信号ともいう)は、細胞がレーザーの光路を横切るときに発生します。 図 2 のパターンで示されるとおり、細胞がレーザーを通過したあとに発生する蛍光に比例します。 これらの光子は検出器で電子に変換されます。そのため、電圧パルスとよばれています。 電圧パルスの大きさは、PMT 電圧やプリアンプゲインおよび増幅比率(アンプゲインともいう)によっても変わります。 シグナルは PMT に電圧を加えることで増幅することができ、それによってより強い電流が発生します。あるいはアンプゲインを増やすことで増幅できます。 増幅の設定にはリニア(Lin)、もしくは対数増幅(Log)の2種類があります。 Log 増幅はネガティブシグナルを弱いポジティブシグナルから分離するのにしばしば用いられるのに対し、Lin 増幅は側方散乱光や蛍光パラメータの増幅によく使用されます。
図 2: 細胞がレーザーの光路を横切るときに電圧パルスが発生 (A)粒子がレーザーの光路に到達する前は、ベースラインシグナルが表示されます。 曲線は、放出される光子のレベルを表します。(B)細胞がレーザーの光路に侵入を始めると、光子や散乱光が発生し、シグナルの増加が見られます。 (C)細胞がレーザーの光路を通過する中でもっとも強い光を発生すると、検出されるパルスシグナルの高さも最大になります。 (D)細胞がレーザーの光路から離れ始めると、シグナルは弱くなります。 (E)細胞がレーザーの光路を完全に通過すると、シグナルレベルはベースラインに戻ります。
電圧パルスは3つの要素で構成されています(図 3) パルスの高さは、検出された光の最大のピークに相当します。 パルスの幅は、パルスが生じた最初から最後までの時間です。 パルスの面積は高さと幅(時間)の積です。 これら 3 つの測定値は、細胞についてそれぞれ異なる情報を提供し、実験において具体的な質問への回答を提供してくれます。
図 3: 電圧パルスの構造
前方散乱光(FSC)は、低角度散乱光とも呼ばれ、レーザー光が細胞を照射したときに前方に散乱される光の量です。 前方散乱光の大きさは、細胞のサイズにほぼ比例します。つまり、前方散乱光の電圧パルスは細胞の相対的サイズを反映します。 図 4 に示されているとおり、小さな細胞の場合、より大きな細胞の場合よりも前方に散乱される光は弱く、電圧パルスもより小さくなります。
側方散乱光(SSC)、およびより広角で散乱する光は、細胞内部あるいは細胞表面の顆粒性や構造の複雑性によって生じます。 細胞の構造がより複雑になると、光の散乱が多くなり、電圧パルスも大きくなります。
図 4: 3つの異なるサイズの細胞における前方散乱光(FSC)の電圧パルス
FSC や SSC と同様に、細胞がレーザーの光路を通過するとき、標識された蛍光色素が発光して電圧パルスを生じます。 蛍光色素によって放出される蛍光量は、2つの要因によって変わってきます。 第一の要因は、細胞に結合した蛍光色素の数です。 たとえば、細胞の表面タンパク質の発現レベルが低く、表面に結合した蛍光抗体コンジュゲートがほとんどないような場合です。 別の例としては、細胞がすでに死んでいるために色素が大量に結合しているような場合です。 両方の例において、細胞の蛍光レベルは変わってきます。 同一の蛍光色素で、それぞれ異なる数が結合した3つの細胞の電圧パルスの例を図 5 で示します。
放出される蛍光量に影響を与える第二の要因は、蛍光色素の輝度です。 蛍光色素の種類によって放出する光の強さは異なります。 たとえば、蛍光色素の中には、はるかに強い蛍光を発する構造を有するものがあります。その一例が、紅藻類の大きなタンパク質であるフィコエリスリン(PE)です。 一方でフルオレセインは、大変小さな有機環状構造をしており、PE に比べて大幅に明るさが弱くなります。
図 5: 結合した蛍光色素の数によって、蛍光発光の強さが異なり得られる電圧パルスが異なります。
上述のとおり、ひとたび電圧パルスが発生すると、増幅およびデジタル化のプロセスを経ます。 こうしたプロセスの厳密な順序は、使用するフローサイトメーターによって異なりますが、それについては次の2つのセクションで取り上げます。 どのフローサイトメーターを使用しているかにかかわらず、電圧パルスデータの最終的な行先は同じです。 増幅およびデジタル化の後、電圧パルスデータはビニングというプロセスを経ます。 このプロセスで(図 6)、各細胞の電圧パルスデータ(高さ、パルス全幅、面積)は、その値によって1つのビンに割り振られます。 1つの細胞に対して検出される各パラメーター(FSC、SSC、各蛍光チャンネル)が有するそれぞれの電圧パルスを、ビンに割り振ることをビニングと言います。
図 6: ある1つの細胞に関連する各パラメーターの電圧パルスのビニング
このプロセスで、すべての細胞のデータが収集されビニングされると、データの分布は人口分布曲線あるいはヒストグラムにようになります(図 7)。 ビンの数は、サンプリングレートおよび ADC の分解能によります。
データがデジタル化され(アナログからデジタルへ変換され)、最終成果物として、標準的なフローサイトメトリーフォーマットである FSC デジタルデータファイルが出力され、解析が可能となります。 細胞がレーザーの光路を通過してからデータ生成までの全てのプロセスが完了すると、楽しみな(そしてときに大変な)データ解析の作業を開始することができます。
PMT を通過した時点のシグナルはとても弱いので、通常はプリアンプ回路を経てシグナルが増幅されます。 旧世代のフローサイトメーターでは、アナログのパルス処理回路を使用するものが依然としてありますが(図 8)、最新のフローサイトメーターは、デジタルのシグナル処理回路を用いています(図 8)。 プリアンプ回路で増幅されたシグナルパルスは、あるレートでサンプリングされ(市販のシステムで10 から 25 MHz の間)、サンプリングごとにパルスはアナログ・デジタル・コンバーター(ADC)の分解能(14 から 24 ビット)にもとづきデジタル化されます。
より新しいシステムは、より大きなデータセットを扱うことができ、より高いビットレート(例えば、旧システムが10ビットに対し、新しいシステムでは24ビットADC)で変換が可能です。 つまり、24ビットADCを有する機器で解析したときに、サンプルからより高いデータ分解能が得られます。 ADCの分解能は、データを入れることのできる個別の「ビン」あるいはレベルの数に相当します。 たとえば、18ビットADCでは、218 = 262,144 個のビンに電圧パルスデータは割り振られ、デジタル化されます。あるサンプリングポイントで あるサンプリングポイントで(図 7 で長方形で示されている)、ADC は値を測定し、これらのビンのひとつに入力します。 次のサンプリングポイントでは同じプロセスが繰り返され、経時的に全パルスを測定します。 ビンの数が多いということは、データの「解像度」がより高いということです。この高解像度の分布をよりよく反映するため、ログスケールでビンを割り当てています。
図 8: 旧世代のフローサイトメーターにおけるシグナルのデジタル化
図 9: 新世代のフローサイトメーターにおけるシグナルのデジタル化
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.