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解析プラットフォームとして、フローサイトメトリーはレーザー光を個々の細胞に照射し、その結果放出される蛍光と散乱光を収集します。 光学系は、機器内においてレーザー光の照射と光の収集を行います。
一般的にフローサイトメーターの光学系は、複数の異なる波長のレーザーを細胞に照射し、データ(側方散乱光(SSC)、前方散乱光(FSC)、および励起した蛍光色素分子からの光)を放出光子として収集、光子を電子シグナル - 光電流 - に変換し、電気系へ送ります。 光学系は、光を集め分離するのに使用される励起光源、レンズおよびフィルターと、光電流を生み出す検出系で構成されます。
細胞とレーザー光が交差するポイントが、インテロゲーションポイントです。 ここを細胞が通過する時、収束された励起光が細胞のフローストリームに照射されます。
フローサイトメトリーに用いられる、もっとも一般的な励起光源はレーザーです。 レーザー光は、コヒーレント(単一の周波数を有し、干渉性を持つ)、および単色性(単一波長)を有し、高エネルギーであるため、細胞に特定波長の均一な光を照射することができます。 一般的なフローサイトメーターは複数のレーザー光を搭載しています。表. 1 は一般的なフローサイトメーターに搭載されている一般的なレーザーの種類です。 図 1 で使用可能なレーザーを光スペクトル上で示しています。
レーザー | 波長 | 一般的に利用される蛍光色素 |
---|---|---|
紫外線(UV) | 355 nm | DAPI, Hoechst, LIVE/DEAD Blue, Brilliant Ultraviolet |
Violet | 405–407 nm | Pacific Blue, eFluor 450, Pacific Orange, eFluor 506, Super Bright 436, Super Bright 600, Brilliant Violet, LIVE/DEAD Yellow, LIVE/DEAD Aqua, LIVE/DEAD Violet, CFP |
Blue | 488 nm | FITC, Alexa Fluor 488, Dylight 488, PE, PE tandems, PerCP, PerCP tandems, PI, 7AAD, eGFP, YFP |
Green | 532 nm | PE, PE tandems, Alexa Fluor 532, PI, mCherry, dTomato, RFP |
Yellow | 561-568 nm | PE, PE tandems, PI, mCherry, dTomato, RFP |
Red | 633-647 nm | APC, Alexa Fluor 647, Alexa Fluor 700, APC tandems |
図 1: 紫外・可視スペクトル。 紫外・可視スペクトルにおいてそれぞれ異なる波長をもつレーザーが使用され、蛍光色素分子が励起されます。
励起光源の知識は、実験で使用する蛍光色素を決定するうえで大変重要です。 また、ご使用のフローサイトメーターにおいて、これらの光源がどのように構成されているかを理解することも重要です。 複数のレーザーを照射する方式には、並列に異なる光路で照射する方法と、光路を共有し照射する方法の2種類があります(図 2)。 並列で照射する場合、レーザーの光路が空間的に離れているので、インテロゲーションポイントも細胞のフローストリーム上に離れて存在します(図 3)。 共線で照射する場合、複数のレーザーが同じ光路を共有しているので、細胞は1カ所のインテロゲーションポイントで複数のレーザーによって同時に励起されます(図 4)。
これらの照射方式は、どちらか一方の方式を採用しているのではなく、1台の機器で並列と共線上の照射方式を選択することができます。
図 2: 並列と共線のレーザー照射方式の比較 (左)共線のレーザー照射方式では、複数のレーザーが同じ光路を共有しているので、インテロゲーションポイントを通過する細胞は、同時に複数のレーザーによって励起されます。 (右)並列のレーザー照射方式では、複数のレーザーは同じ光路を共有せず、それぞれのインテロゲーションポイントにおいて異なるタイミングで細胞を励起します。
図 3: 並列のレーザー照射方式 488 nm (blue) および 633 nm (red) の光路は並列に配置されており、それぞれのインテロゲーションポイントが異なります。細胞はそれぞれのレーザーのインテロゲーションポイントを異なるタイミングで通過します。 この例では、それぞれのレーザー光路に対応する発光フィルターと検出器が別々にあります。
図 4: 共線のレーザー照射方式 この共線上からレーザーを照射する方式では、2つのレーザー光がフローセル内の同じポイントを通過するので、細胞は2つのレーザーから同時に照射されます。 また、光路を共有するだけではなく、同じ蛍光フィルターと検出器を使用します。
上記のレーザー照射方式によって、最適な蛍光色素が異なることがあります。そのため、実験の計画を立てる前に、機器のセットアップを理解しておくことが重要です。 たとえば図 3 の並列のレーザー照射方式では、2種類のレーザーが異なるタイミングで蛍光色素分子を励起し、さらに検出器もレーザー毎に存在するので、励起光が異なれば、同じ蛍光スペクトルを持つ色素を組み合わせて利用することができます。 そのような組み合わせの一つが、フィコエリスリン–Alexa Fluor 647(PE-AF647)と アロフィコシアニン(APC)です(図 5)。 PE-AF647 は 488 nm で、APC は 633 nm で励起されます。 両方とも 680 nm 付近の光を発する蛍光色素です。 並列のレーザー照射方式では、最初に 488 nm レーザーによってPE-AF647 が励起され、レーザーと対になっている検出器でその蛍光が検出されます。 続いて異なる光路とタイミングで、APC 色素が 633 nm レーザーによって励起され、その蛍光はそのレーザー専用の検出器によって検出されます。 二本のレーザーの光路とその検出位置は空間的に離れているため、発する蛍光の波長が重複していても問題は起こりません。 一方、図 4 の共線のレーザー照射方式では、同じ光路とタイミングで 488 nm と 633 nm の両方のレーザーを細胞に照射します。同時に励起され同じ波長を発する2つの蛍光色素を区別することはできません。
図 5: PE-AF647 と APC の励起および蛍光スペクトル (A)左図の点線はPE-AF647(赤の点線)および APC(オレンジの点線)の励起スペクトルを示しています。 また、縦の実線はレーザーの励起波長 488 nm(青い縦の実線)と 633 nm(オレンジの縦の実線)を示しています。 (B)右図は、PE-AF647(オレンジの曲線)と APC(赤の曲線)の蛍光スペクトルの重複を示しています。
並列のレーザー照射方式では、システムに内在する時間差があります。 この時間差は、細胞が一つ目のレーザーから次のレーザーの光路に移動する時間(図2右図参照)と、インテロゲーションポイントでレーザー光によって励起された蛍光シグナルが電気系に送られる時間から生じています。
この時間差は通常、大半の機器では自動的に設定されますが、必要に応じてマニュアルでのモニタリング・調整することがあります。 時間差が正しく設定されないと、シグナルの消失、さらには2つの異なる細胞からのシグナルの混同が起こる可能性があります。 時間差の設定が正しい場合と正しくない場合の例を図6 に示します。 この例で使用されている粒子には、同量の2つの異なる蛍光色素を含んでいます。一つは488 nm で励起し緑色の蛍光を発し、もう一つは 561 nm で励起し赤色の蛍光を発します。 2つの蛍光色素は同じ粒子上にあるので、イベント数は同等になること、および時間差が適切に設定されていれば、放出する光のパターンも類似することが予測されます。 図 6A は、時間差が適切に設定されている場合の実験データを示しています。 図 6B は、 30 タイムポイントまでは図 6A と類似していますが、30 タイムポイントで時間差の設定を変更し、50 タイムポイントで再度変更しました。 設定を変更後、下流にある 561 nm レーザー(細胞が通過する二つ目の光路のレーザー)の蛍光が、上流の 488 nm レーザー(一つ目の光路のレーザー)より弱く、イベントの分布幅が広くなっていることがわかります。 並列のレーザー照射方式で機器を使用する場合は、この点を覚えておくことが重要です。
図 6: 並列のレーザー照射方式における時間差の問題: 並列のレーザー照射方式を用い 488 nm と 561 nm のレーザーを照射 (A)適切な時間差の設定により、蛍光強度および蛍光イベントの分布は、両方のレーザーで類似しています。 (B)最初は時間差が正しく設定されていましたが、ランの途中でパラメーターが変更されました。 見てわかるとおり、下流にある 561 nm レーザーと上流にある 488 nm レーザーを比較すると、蛍光イベント強度およびイベントの分布に違いがあります。 これは 30タイムポイントから時間差の設定が正しくないことを示しています。
光路(光子)を誘導する蛍光フィルターとミラーには、さまざまな種類があります。 フィルターの種類を図 7 に示します。 フィルターセットは特定の波長の光を、対応する検出器に誘導する役割を持っています(詳細は次のセクションをご覧ください)。 ミラーも同じく、特定の波長の光を分解して、検出器へ送ります。
蛍光色素の選択を含め実験デザインを行う時、さらにデータ解析を行う際にも、ご利用のフローサイトメーターのフィルター、ミラー、および検出器のセットがどうなっているかを理解しておくことが重要です。 一般的にフローサイトメーターの検出系の3つの構成要素(蛍光フィルター、ミラー、および検出器)をまとめて「検出器」と呼びます。 3つの構成要素は互いに密接に結びついており、正しく機能させるためには、適切な組み合わせで使用しなくてはなりません。
図 7: 蛍光フィルターの種類(A) ロングパス(LP)フィルターは、特定の波長よりも長い波長の光を透過させます。 カラーのラインは、どの波長の光が透過され、あるいはブロックされるのかを示しています。 下のグラフは、フィルターを透過する光を波長(横軸)に対してプロットしたものです。 (B) ショートパス(SP)フィルターは、特定の波長よりも短い波長の光のみを透過させます。 (C) バンドパスフィルター(BP)は、指定の範囲の波長の光のみを透過させます。特定の波長の下限を下回る、および上限を越える光をブロックします。
ロングパス(LP)フィルターは、特定の波長よりも長い波長の光をすべて透過させます。 図 7A で示す例は LP 500 フィルターで、 500 nm より長い波長の光をすべて透過します。 500 nm より短いUV およびバイオレットの光をブロックし、ブルー、グリーンおよびイエローの光を透過します。
ショートパス(SP)フィルターは、特定の波長よりも短い光をすべて透過します。 図 7B の例は SP 500 フィルターで、500 nm より短い波長の光をすべて透過します。 UV、バイオレットおよびブルーの光を透過するのに対し、500 nm より長い波長のグリーンとイエローの光をブロックします。
バンドパス(BP)フィルターは、LP と SP フィルターの中間と考えることができます。 これは、特定範囲内の波長の光のみを透過します。 図 7C の例は525/30 BP フィルターで、525 nm より 30 nm 短い波長から 525 nm より 30 nm 長い波長、つまり 495–555 nm の範囲の「波長帯」の光のみを透過します。 その波長帯以外の光はすべてブロックします。
ダイクロイックミラー(ビームスプリッター)は、ミラーコーティングを施した LP および SP フィルターの一種です。 波長に応じて光を透過、あるいは特定の方向に反射し、光をスペクトル的に分解します(図 8)。 たとえば、500LP ダイクロイックミラーは、500 nm より長い波長の光を透過し、500 nm より短い波長の光は反射して別の方向に分解します。 525SP は、525 nm より短い波長の光をすべて透過しますが、525 nm より長い波長の光は別の方向に反射します。 ダイクロイックミラーは、検出器へ特定の光を送り、検出器がその特定の光を取り込むうえで不可欠です。
図 8. ダイクロイックミラー: この例で示すダイクロイックミラー(ビームスプリッター)は、分解した光のスペクトルを検出するために、それぞれ別々の検出器と対になっています。 一番目のダイクロイックミラー(1)は、赤の光のみを分解して一つ目の検出器へ送ります。一方で、赤より短い波長の光はすべて透過します。 二番目のダイクロイックミラー(2)は、黄色の光を分解して二つ目の検出器へ送り、青と緑の光は透過します。 三番目のダイクロイックミラー(3)は、緑の光を分解して三つ目の検出器へ送り、青の光は透過します。
検出器は、レーザー光により励起された蛍光色素と細胞に当たり散乱した光の光子を取り込み、光電流 (光子から生成される電流)へ変換し、そのシグナルを電気系へ送ります。 フローサイトメーターで利用される検出器の中でもっとも一般的なのは、フォトダイオード(PD)と光電子増倍管(PMT)です。 受光感度と応答速度に優れたアバランシェフォトダイオード(APD)は、光ファイバー通信などで利用されているフォトダイオード(PD)の一種です。APD は長波長の光(>650 nm)の検出に優れているので、一部のフローサイトメーターにも採用されています。 一部の機器では、電荷結合素子(CCD)カメラを検出に使用している場合がありますが、一般的ではないため、本セクションでは取り上げません。
光子が PD に入射すると、検出器の原子がイオン化されPD の空乏層内に電子/正孔対が生成されます。(図 9A) 空乏層内の電子が陰極の陽電位へ引き付けられ、正孔が陽極の負電位へ引き付けられ、光電流を生成し、それが電気系へ送られます。 PD は比較的安価ですが、一般的に感度は低くなります。これは、PD は PMT ほど光電流を増幅しないためです。 PD は通常、前方散乱光などのより強り光やシグナルを扱うチャンネルに使用されます
図9. フローサイトメーターに使用される検出器: (A)フォトダイオード検出器の概略図 光子が PD の p 層に入射すると、PD内で電子が励起され、自由電子 (緑色のサークル) と正孔 (紫色のサークル) が生じます。 赤線でつながった紫と緑のサークルは電子/正孔対を表しています。 負の電荷を帯びた電子は負電極(カソード)に流れ、正孔は正電極(アノード)に流れます。 (B)光電子増倍管の概略図 光子は、PMT に入射すると陰極(カソード)で電子に変換されます。 そして PMT を移動しながら、二次電子増倍電極 (ダイノード)で増幅され、 集電極である陽極に到達します。
PMT は、弱いシグナルに対する感度が格段に高く、単一光子からのエネルギーを何百万倍にも増幅することができます。 PMTは通常、励起された蛍光色素や、側方散乱光を測定するのに使用されます。 光子が PMT に入射すると、陰極(カソード)に衝突し、電子を生成します(図 9B)。 生成された電子は、PMT内の二次電子増倍電極(ダイノード)を移動しながら二次電子を発生させ、その結果シグナルが増幅されます。 すべての PMT が同等に作られているわけではありません。光子によっても変化します。 ある波長の光に対する PMT の感度は、PMT がどのような材料で作られているかに大きく依存します。 また、光の波長によってエネルギーが異なるので、例えばエネルギーが少ない長波長の近赤外領域の光では、PMT に入射したときに光電流を発生させる光子がより少なくなります。
PMT の感度はまた、加えられた電圧量によっても制御されます。電圧量は、特定のコンフィギュレーション、機器および PMT に合わせて最適化する必要があります。 最適化のもっとも一般的な方法のひとつが「Peak 2」メソッドです(Maecker and Trotter (2006))。 この方法では、光の弱い蛍光粒子を一連の異なる電圧設定で流し(voltration)、シグナルの分布(変動係数(CV))を一連の電圧に対してプロットします。 最適な電圧設定はそれぞれ異なる可能性があるため、使用するすべての放出チャネルで実験することが重要です。
voltration 実験の例を図 10 に示します。 ここでは、単一の蛍光チャネル(この場合は蛍光標識した粒子を用いた緑色チャネル)のデータのみを示していますが、上述したとおり、実際に検出するすべてのチャネルに対してこの実験を行う必要があります。 図 10A は、PMT 電圧を200 mV から 400 mV の範囲で変化させ、経時的に検出した蛍光イベントをプロットしています。 データからわかるとおり、電圧がもっとも低い 200 mV では、イベントの分布の幅が大変広くなっています(つまり、電圧がより高い場合よりも、より低い場合のほうが、イベントのばらつきが格段に大きくなっています)。 また、電圧を増やしていくと、データのばらつきが次第に小さくなり、一定の電圧になるとその次の電圧設定時と違いがなくなることがわかります(350 mV と 400 mV のデータのばらつきはほとんど変わりありません)。 各データセットの CV のパーセンテージ(%CV)を、電圧設定に対してプロットすると、より明確です(図 10B)。 200 mV の設定では %CV が大きいですが、300–400 mV の範囲になってくると、%CV はほとんど変わりません。 最適な電圧設定は、%CV あるいはノイズが可能な限り小さくなるポイントで、CV が最小となるもっとも低い電圧設定です。 これは変曲点と呼ばれています。 この例では、それ以上に電圧を上げても CV の変化はないため、緑色チャネルの PMT の電圧を 350 mV に設定します。
図 10: PMT の感度の最適化: 蛍光標識した粒子を PMT 電圧を上げながら流しました。 (A) 緑色チャネルの蛍光イベントを異なる PMT 電圧で検出し(各データセットのプロットに表示)時間に対してプロットしました。 (B) パネル A の各データセットの CV 値を縦軸に、 PMT の電圧設定を横軸にプロットしました。 %CV が安定し始める、つまりより高い電圧でデータのばらつきが少なくなっていることを示すカーブ上のポイントは変曲点と呼ばれ、青い矢印で示されています。 赤い矢印は、この蛍光チャネルの最適な PMT 電圧範囲を示しています。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.